第64話 金鉱
「ホクト様、外に出る前に皆さんに」
フェスに言われた俺は大事な事をいくつか思い出した。
やはり俺も少々意気込み過ぎていたようだ。
「そうだな、魔法鍵を渡して余分な荷物を俺達で預かろう」
「魔法鍵? 荷物を預かる?」
アルデバランが首を傾げる。
「ここには俺と同じ魔力波を発する者しか入れないようになっている。だから俺がこれから渡す魔法鍵を付ければ入れるんだ。俺の対物理、対魔法の魔法障壁がかかっているこの亜空間は、何かあった時の待避所にもなるんだ」
俺が説明すると5人は驚嘆する。
こんな亜空間を維持するのは術者の魔力を著しく消費する事を常識として知っているからだ。
魔力量が少ない術者などあっと言う間に魔力切れを起こしてしまう。
「多人数の瞬間魔法に、この亜空間生成か。 ……それにこの前の剣の腕と魔法の数々、よし! 俺が約束しよう。この仕事が巧く片付いたら、すぐランクアップの手配をしよう」
アルデバランが納得したように宣言した。
「荷物を預かるとは、何をどうするんだい?」
今度はベリーニが俺に尋ねて来た。
「あんた等が持っている当座に必要な武器防具に携帯食料以外の物さ。俺達に預けるか、ここに置いて行くかどっちかだ。両方とも嫌だったら自分達で運んで貰おう」
それを聞いたベリーニは俺に馬鹿な事を言うなとばかりに言葉を返して来る。
「君達に頼んでもいいが、君以外は2人とも女性じゃあないか。僕には心苦しくて頼めないな。君1人に全て頼むのも悪いだろう」
そう来たか! だんだんこいつが分ってきたぞ。
フェミニストって奴なのか?
まあ、いい、俺には収納魔法の腕輪があるからな。
「心配してもらって心苦しいが、無用な心配だな。その量なら俺のこの収納魔法の腕輪に全て収納できるだろう」
「何!? 収納魔法の腕輪だと?」
俺の言葉を聞き、左腕の腕輪を見たベリーニが再度、驚く。
「そんな魔道具まで持っているのか!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は銅の指輪に付呪した魔法鍵を全員に渡し、ギルド専属冒険者達の荷物を預かると外界への扉を生成する。
前回と同様、俺の趣味で古風な扉にする。
索敵で危ない敵が居ないのはわかっているが、まずフェスが扉を開け様子を窺がう。
当然問題は無いので直ぐ外に出る。
クラリスが続き、シーフのアメデオ・バンフィは恐る恐る外に出る。
サブマスターのジュリアーノ・ベリーニは興味深げに扉に触ると、俊敏な動きで身を翻すように外に出た。
修道士のボリス・ファッハと僧侶のダニエル・ベンソンが続き、アルデバランは何故かひとつ頷くとのっしのっしと外に出る。
アルデバランが出たのを見届けて、俺は最後に亜空間を出た。
俺が外界に出ると少し前に来た事のある見覚えのある風景が広がる。
ネイビイス山中腹の【悪魔の口】入り口のすぐ近くの森である。
やはり|瞬間移動(この魔法)は1回訪れた事のある場所に対しては、イメージするだけで正確に転移する事が出来るようだ。
俺とフェス、クサナギには見覚えのある場所だが、クラリスを始めとして残りの連中は周りを見回している。
「確かにネイビイス山だな」
やがてアルデバランが目の前の山を見上げ、そう呟くと何人かがそれを聞いて黙って頷いた。
5分後、俺達は俺の魔法結界が掛かった【悪魔の口】の入り口の前に居る。
「以前、来た時は冒険者達が不死者になっていて、俺とフェスは対不死者魔法で撃退したんだ」
それを聞いたベリーニはまたも驚きの表情を見せる。
どうやらこの男は必要以上に俺を意識しているようだ。
逆にアルデバランとの最初のやりとりに咎めるような視線を送っていたベンソンは納得したように頷いている。
「気も悪く澱んでいた……あれは不死者達の出す瘴気だったのだろう」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「では……入り口の魔法結界を解くぞ。俺達が入った後はまた結界を掛けておくからな」
俺は魔法結界を一度解き、全員を中に入れてから
また結界魔法を掛け直そうとしたが、直前でクラリスに止められる
……それも念話でだ。
『風の精霊達がまたホクト様を助けたいみたい。……ここの見張りをしたいんですって。索敵でも充分、外の監視は出来ますけど、どうします?』
『……そうか。ならありがたく受けよう。直接、礼を言いたいが、どうすれば良い?』
『この前みたいに魔力波を合わせて念じればいいと思いますよ』
『よし、ああ、皆、また心配して来てくれたのか。ありがとう! ではよろしく頼むよ!』
『あはは、私達とまた遊んでくれそうだし、頑張るよ』
『悪い奴が来たら、す~ぐ教えるよ』
その瞬間、俺の体は爽やかな春の風に包まれた。
「何か不思議な気配を感じますが、フェスティラさん、お分かりになりますか?」
ベリーニがフェスに尋ねる。
「ふふふ、さあ……」
フェスはさも面白そうな顔をして俺ばかり見ている。
それがベリーニには気に入らないらしい。
「さあ……って」
「ベリーニさん、大丈夫ですよ」
考え込むベリーニにクラリスも笑顔で声を掛けた。
「クラリスさん、でもね……」
ベリーニは結局、納得がいかなかったようだ。
さて風の精霊達に外の見張りを頼み、魔法結界を張り直した俺は、全員に改めて声を掛けた。
中は暗いので皆が魔法灯の魔法をそれぞれ掛けると洞窟の中は昼間のような明るさに変わる。
やむを得ず暗視魔法を使った前回と違い、敵の襲撃が無い場所での使い勝手はとても良い魔法である。
「では、出発しよう」
俺達と4人と冒険者ギルド専属5人の計9人は【悪魔の口】の奥へと入って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「入り口だけでなく中も不死者で一杯でしたよ。この辺りでも大群に襲われました」
「ふむ、最初は自然の洞窟だが、この辺りは人の手が入った建造物であるな」
修道士のボリス・ファッハが唸るように呟いた。
「全く、我が会の考古学者が泣いて喜びそうな素材ですわい。アルデバラン公よ、金鉱が開かれれば、ここの遺跡は喪失する可能性もあるし、傷が付いたり破損する事は免れんだろう。学者共に調査する機会を与える事は出来んだろうか?」
僧侶のダニエル・ベンソンがアルデバランに頼み込む。
「俺にはこの遺跡の本当の価値はわからんが、貴重な物だとはわかる……保存の方向で考えてみよう」
アルデバランはベンソンの懇願に頷いて同意した。
「バーナード、俺からも頼むよ。この遺跡にもし価値が出れば学術的な意味だけでなく村も観光的に潤うと思うんだ」
俺がアルデバランに言うと、横で聞いていたベンソンも同意するように手を叩く。
「そうだ、そう。観光資源としても良いかもしれん。そうなるとアルデバラン公、あなたの為にも良い事になる」
もちろんアルデバランも満面の笑みを浮かべ、再び頷いていた。
俺達は遺跡の奥へと進み、ワイト化した王やグリフォンのルキアノスと戦った広大な空間に到着する。
「ここで不死者を生み出していたワイトやグリフォンと戦った。ワイトは倒したが、グリフォンは取り逃がしてしまったよ」
今回の報告でワイトの正体やグリフォンの顛末に関して、俺は伏せて置く事に決めている。
全てを正直に伝えても皆が幸せになるとは限らないのだ。
広大なホールの一画に金塊がうず高く積まれている。
金塊も新しい物では無く、時代を経た物と言う事がひと目で分る。
「こりゃ……凄いな」
思わずアルデバランが感嘆の声を上げる。
「この金塊と金鉱に目がくらんだ人間をワイトが不死者化していたのですね。グリフォンまで居れば……金が必ずある! と誰しも思いますからね」
サブマスターのジュリアーノ・ベリーニが納得したように頷いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「後は肝心の金鉱の鉱脈の具合だな……この奥が坑道だ」
俺はホールの片隅に空いた暗い通路へ全員を誘う。
「いよいよ僕の出番ですね」
シーフのアメデオ・バンフィが腕を撫している。
「何を言っとる、今までびびって震えておったものを」
修道士のボリス・ファッハにそう言われたバンフィは頭を掻いた。
「はは、僕は戦闘向きではありませんからね。ただ、こういう所では力を発揮させてもらいますよ」
「こりゃ凄い!凄いや!」
坑道を進むにつれてバンフィの感嘆の声は高くなって行く。
「凄い埋蔵量ですよ、これ……あそこなんか金脈が露出していますし! 純度は見本を取って調べないといけませんが、これで純度が高ければこの国でも1,2を争う金鉱と言えますね」
「バーナード……本当に良かったな」
「ああ……だが、これからが大変だな」
俺がアルデバランに告げると、アルデバランは【持つ者】としての厄介なしがらみを考えていたのか? 複雑な苦笑いを浮かべていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
30分後……
俺達は入り口に向かって戻っている。
成果は上々、俺達への報酬もそこそこ期待出来そうだ。
「マスター、想像以上の成果で本当によかったですね」
サブマスターのジュリアーノ・ベリーニがお祝いを言う。
「まあな、ただ、これからがいろいろと手間だ。しっかりとやらないと足元を掬われそうだよ」
「私でよろしければお手伝いさせていただきますよ」
アルデバランは少し憂鬱そうだが、流石にベリーニはサブマスターである。
決してフォローを忘れない。
……その時であった。
俺の頭の中に念話が飛び込んでくる。
『危ない奴等が来るよ~』『北の国から来るよ!』
風の精霊達からの緊急を知らせる念話である。
『フェスとクラリス……索敵に反応は?』
『あります。まだ3Km先ですが凄い速度でこちらに迫っています』
フェスがすかさず報告すると、クラリスが更に詳しい情報を追加する。
『追加情報です……人数は15名。……一見、人間風ですが……いいえ、魔力波が……人間の者では無く放つ量も桁違いです』
「どうした?」
勘のいいアルデバランがちょっとしたやりとりに気付き、俺に尋ねて来た。
「多分……敵だ。いまこちらに向かっている」
「何!?」
サブマスターのジュリアーノ・ベリーニを含めて、【敵】と言う俺の言葉に敏感に反応したのだった。
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