第63話 悪魔の口調査隊結成
翌朝……俺達は朝、8時30分の待ち合わせに合わせて支度をし屋敷を出た。
行き先は冒険者ギルド……そう【悪魔の口】の調査の同行の為である。
ギルドに着き職員に申し入れると今度は3階の会議室へ通される。
そこで暫く待つように言われ、10分程待機すると、アルデバランを筆頭に5人の男達が入ってきた。
これが今回の調査のギルド側のメンバーなのであろう。
特に目立つのはアルデバランの後に続いている金髪碧眼の長身痩躯の男。
長髪で目鼻立ちが整っており、僅かな笑みから漏れる口の中の白い歯が眩しい。
「おはよう! バーナード」「お早うございます、バーナード様」「お早うございま~す」
俺達は先に立ち上がって挨拶をしながら一礼した。
「おはよう! クラン黄金の旅の諸君。今日はよろしく頼むぞ」
アルデバランも笑顔を見せながら俺達に挨拶する。
俺がアルデバランに気安く挨拶するのを聞いて一瞬不快な顔をした奴もいたが、当のアルデバランが全く意に介していないので、慌ててその表情をしまい込む。
「俺以外はお互い初対面だろうな……では紹介しよう」
アルデバランは4人を順番に紹介して行く。
俺が一番気になっていた金髪碧眼、長身痩躯の男が挨拶する。
アルデバラン程ではないが体内の魔力量も残りの3人に比べれば突出している。
「ジュリアーノ・ベリーニです。アルデバラン公爵の下で冒険者ギルドのサブマスターを
務めさせていただいております。ランクはS、職業は魔法剣士、よろしくお願い致します」
ギルド所属、Sランクの魔法剣士か。
残りの3人も俺達に挨拶する。
「俺はボリス・ファッハだ。ランクはA、職業は修道士だ、よろしく頼まぁ」
修道士って、確か槍術や魔闘気で戦う職業だったかな。
「私はダニエル・ベンソン。ランクはB、職業は僧侶だ。よろしくな」
俺がアルデバランをファーストネームで呼んだ時、顔を顰めたのはこいつか。
まあ、真面目なんだろうな……
「僕はアメデオ・バンフィ。ランクはB、職業はシーフだよ、よろしくね」
敏捷そうな少年だな。
「俺を入れてこの5人のギルド専属の冒険者が今回の調査担当だ」
「じゃあ今度はこちらだな。今回組ませて貰うクラン黄金の旅だ、よろしくな。俺はジョー・ホクト、ランクはBで職業は魔法剣士だ」
「同じくフェスティラ・アルファン。ホクト様の従士でランクはB。職業は魔法剣士です」
「同じくクラリス・シルフィール。私もホクト様の従士でランクはA。職業は魔法剣士」
俺達の挨拶が終わるとサブマスターのジュリアーノ・ベリーニが詫びて来る。
「以前、君達には不快な思いをさせてしまってすまない。癖の悪い冒険者もいかんが、あのようなギルドの対応は、大変、不味い事なんだ。我々は基本、冒険者同士のトラブルには拘わらないが、ギルドの建物内や敷地内での違法行為は別だからね。あれを見逃していたら無法地帯を容認する事になる。あの職員もすぐに応援を呼べばよかったのだ」
「ベリーニ、もう済んだ事だし、バーナードがしっかり処理してくれた。ただ気に掛けてくれた事には感謝するよ、ありがとう」
俺は手を横に振って今更、気にするなと伝えたのだ
「ベリーニ様、お気遣い、いただきありがとうございます」
フェスはベリーニに礼を言う。
「い、いや―――当たり前の事を言ったまでさ」
噛んだのは、俺はともかくフェスのワインレッドの瞳に見つめられて、少しどぎまぎしたかららしい。
「じゃあ早速出発するか、……ジョーどこから行く?」
アルデバランが俺に問いかける。
「その前に方針を確認しておきたい。今回は俺達クランの方が勝手が分っている。つまりリーダーである俺の指示に従ってもらえると有り難いのだが」
「なっ! 何っ!」
不快感を示したのは、また、あいつ―――ベンソンか。
「さらに俺が魔法を使う所を見られてあまり目立ちたくないな。かと言ってこの部屋から消えるのもまずいかな? それにギルドの障壁魔法にも引っかかるだろうし」
本当はギルドの障壁魔法など俺には無効化してしまえるのだが。
「いやもう1人のサブマスターに全て話してあるから大丈夫だ」
そう言うとアルデバランは腕に着けた魔導時計を見た。
「あと10分後に一時的に障壁魔法を外すように指示をしよう。ジュリアーノ、悪いがゴライアスに今の件を伝えてくれ」
「了解しました、マスター」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
8分後、俺達、クラン黄金の旅とマスター以下ギルド専属の冒険者は部屋の片隅に集まった。
俺の瞬間移動で転移する為である。
「本当に……大丈夫なんでしょうな? マスター」
ダニエル・ベンソンが少し不安げに口を開く。
「はっははは! 俺も奴の魔法で移動するのは初めてだ」
細かい事を気にするなとばかりに豪快に笑い飛ばすアルデバラン。
「なっ! そんな!」
「尻尾を巻いて戻るか? ダニー?」
「貴方を置いて、そんな事出来るわけないでしょう!」
「そこの2人……しばらく静かにしてくれないか」
俺が告げるとアルデバランは片目を瞑り、ベンソンは俺を睨む。
「クランのメンバーで無い者は慣れていないだろうから、発動に合わせて10カウントを取ろう、良いな?」
「はい! かしこまりました」「了解です!」『かしこまりました、ホクト様』
クランの3人からは元気のいい返事が返り、ギルド専属組は黙って頷いた。
「じゃあ、いいか、行くぞ! 10・9・8・7・6・5・4・3……」
カウントが進むにつれてギルド組からの緊張が伝わってくる。
「2・1……発動する!」
その瞬間に眩い光が溢れ、俺達の身体は部屋から掻き消えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その1分後……
【悪魔の口】からすぐ側の亜空間に俺達は居る。
「ここはどこだ?」「何もない所……ですね?」「変な所だ」
「でも、ここは危険を全く感じないです」
一瞬何が起こったか理解出来ていないギルド側の冒険者が口々に囀るが、俺はその声を遮るように宣言した。
「皆、ここは俺が【悪魔の口】付近に造った単なる亜空間だ。ここから出て15m程の所がこれまた俺の魔法障壁で入り口を封鎖した場所となる。俺達が索敵をして危険が無ければ外に出るが問題無いか?」
『ホクト様、クラリスと共に周囲3kmの索敵を開始します』
フェスがすかさず索敵開始の連絡を念話で告げて来た。
俺もクランの全員に索敵の魔法を使用する事を告げる。
「さ、索敵だと!」
「こんな大技を使った上でですか!?」
俺が平然としていると痺れを切らしたらしい。
ダニエル・ベンソンが俺を再び、睨みつけて来た。
「つまりサブマスターは魔力容量の残存は、大丈夫なのか? と仰っているんだ」
俺は首を横に振る。
「心配は無用だ。俺も魔力容量は全く問題無い。今回は俺の従士達がもう始めてくれている。支度が出来たら、早速出発だ……良いか」
俺は再度、何かを言いたそうにしたダニエル・ベンソンを一瞥してから、他のギルド専属組を見回す。
「俺達は問題無いぞ」
鷹揚に頷くアルデバラン。
「フェスとクラリスはどうだ?」
『索敵も今、完了。今の所、危険は…無し…です』
「(異常無しですので)こちら側もいつでもです」
『フェス姉と同様に私の魔法陣にも危険は感知されていませんよ』
「即、対応OKです」
念話での報告と俺の問いに対して即座に対応する2人、流石だ。
俺はそれを集約して全員に宣言した。
「OK、索敵の結果、異常無し。……では外にでるぞ」
こうして俺達と冒険者ギルドマスターであるアルデバランを含めた、ギルド専属の冒険者との【悪魔の口】調査が始まったのであった。
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