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第59話 ルイ、再び

 俺は再びドヴェルグの鍛冶職人オルヴォ・ギルデンと話すべく向かい合っている。


「おめぇの実力はよ~くわかった。大層な戦斧バルディッシュまで貰っちまったしなぁ」


「あら……あれで一生分の給料を物納で全額前払いですよ!」


 ギルデンの言葉にまたカチンと来たのか、クラリスの言葉は辛らつだ。


「クラリス!」


「いいんですよ、フェス姉、この男、評判通りの失礼な奴だったんだから」


 怒りに燃えるクラリスに詰め寄られて、たじたじのオルヴォである。


「返す言葉もぇ……面目、ぇ」


「謝れば済むってもんじゃあ……」


 俺は更に何か言い掛けるクラリスを目で抑え、オルヴォに話し掛ける。


「もういいさ……さあ契約の話に戻ろうか」


「俺も男だ! この際、何でも言ってくれ」


 意気込むオルヴォに俺はもう1回、契約条件を説明する。


「じゃあもう1回復唱しようか。最初に話したようにオルヴォ・ギルデン、あんたに頼みたいのは、まず俺達の武器防具のメンテナンスだ。そしてこの屋敷に今ある物、俺達が迷宮やらでこれから見つけて来る物、そういった武器防具のメンテナンスだ。そうしたあんたの手が入った武器防具をこのバートランドのある店で売る、ちゃんとした店だ。契約は月給+出来高にするが、ギルデン……あんたの今までの給金はいくらだった?」


「一番待遇が良い時で月に白金貨2枚だ」


「じゃあウチはその倍の白金貨4枚出そう、後は品物による出来高だな。俺達は今の所、4名のクランだ」


「問題ねぇと思うぜ」


 頷くオルヴォに俺は念を押すように付け加える。


 次が一番、大事なことだ。


「最後に一番肝心なのは守秘義務だ。今日の俺の付呪魔法エンチャントと言い俺達には秘している事も多い。絶対、洩らさないようにしてくれ」


「う……わかった。俺はあんまり頭が回らないんだが話は受けよう。一生懸命やる―――ただいくつか聞いていいか?」


「何だ?」


 オルヴォが俺達に聞きたい事があると言うので質問を受けてやる。


「俺の腕で整備した品物にあんたの付呪魔法エンチャントを掛ければ、とんでもない価値の商品になる。何故儲け話をふいにするような考えなんだ?」


 確かにごもっともだ。


「俺の付呪魔法エンチャントが知られ過ぎて変に注目されるが嫌なのと作った武器が変な所に流れて悪用されるのが耐えられないんだ。どうしてもっていう場合も本人しか使えない様な魔法を掛ける」


「変な所って?」


「詳しくは言えないが戦争ばっかりやっている国とかな」


「成る程、分ったよ」


あとは何かあるか?」


「お前達クランは3人の筈だ……何故、4人だと?」


 何気によく聞いている。


 しかし、これはこいつと契約してからじゃないと、明かせない。


「ギルデン……いやオルヴォ、それはウチの仕事を引き受けてから話そう。ただ俺の魔法やそういった事を酒にでも酔ってぺらぺらと話したら……」 


「話したら?」


「俺は契約上、お前を処分する……命の保証も出来ない」


「う……」


「最初に会った時にお前から酒の匂いがした。酒を飲むなとは言わないが、こういう場合は不味いだろう。そして、今回、引き受けなければ……」


「ひ、引き受けなければ?」


「悪いがお前の付呪魔法エンチャントした武器を取り上げ、記憶を失くした上でどこかの酒場に放り出す。命だけは助けてやるさ」


「オルヴォ……ご主人様マスターの仰る通りだよ。我々と共に仕事をし、暮らしていくという事はお互いの事を深く知る間柄になるという事だ。そうなったら、外部からいろいろな接触や誘惑も増えるだろう」


「…………」


「お前をここへ引っ張って来たのは私だ。何かあったら、お前は私が責任を持って助けよう。逆に裏切りは決して許さない! ……ここで覚悟を決める事だな」


「爺さん……」


スピロフスは今まで俺達に見せたことも無い冷たい瞳をオルヴォに向けて淡々と語っていく。


「お前の評判は巷で鳴り響いている。良いも悪いもな……このお嬢様方には悪い方が有名のようだが」


「確かに腕はいいけど……行く先々で問題を起こして、鍛冶場を転々としている流れの黒ドヴェルグの話は知っていますわ」


「その問題の殆どが酒絡みやそれが原因の借金だって事もね」


「ご存知ないのはご主人様マスターくらいのものです。私は先入観無く、ご主人様マスターにはこいつを見て欲しかった。実はこいつにはもう行き場もありません」


 淡々と語るスピロフスにフェスが怪訝な表情を見せる。


「でも―――スピロフスさん、私には分りませんわ。ホクト様に迷惑を掛ける可能性がある人物を何故、仲間に引き入れるなどと」


「そうよ! いつものスピロフスさんだったら絶対やらない事だわ」


 クラリスも同様に叫ぶが、スピロフスはゆっくりと首を横に振った。


「ふふふ、私めは昔、こいつの父親に世話になった事がありましてね。父親譲りの腕を持ちながら、堕ちて行くこいつを見るのは忍びなくなったのですよ」


「そうだったのですね……この屋敷に派遣されて鍛冶工房がある時から考えていたのでは?」


「さすがはフェスティラ様、しかし、これは執事の立場を使ってこのオルヴォの雇い入れを行う越権行為。当然ルイ様の命令に反する行為です。知られれば只では済みますまい。いや、ルイ様はもうご存知の筈ですな」


 そう言うとスピロフスは大きく息を吐く。


「どちらにしても私めの命はもう無い物として考えた方がよいでしょう。これが私めに出来るこいつの父親への最後の恩返しでございますれば」


 スピロフスは遠い目をして呟いた。


 オルヴォは、そんなスピロフスの告白を聞いても、まだぼんやりと考えている。


「おいっ! オルヴォ・ギルデン! お前は自分が何者なのかよく考えろ! ウチのスピロフスが命を賭けてお前を救おうとしているんだ! 何をいつまで愚図愚図している! 四の五の言わないで男だったらしっかりしろ!」


 一気に喋る俺の大きな声にオルヴォはびくりと身体を震わせ、小さく頷くと声を振り絞って叫んだ。


「た、頼む! 俺は一生只働きでいい。ここのルールにも従う。裏切ったり使えない男だったら、俺を殺してもいい。だ、だから、だからこの、爺さんだけは助けてくれ!」


ギルデンはやっと自らのしっかりした言葉でスピロフスの心意気に応えることが出来たのだ。


「よく言った! オルヴォ・ギルデン!!! さ~て……ルイ、どうせ聞いているんだろ?」


『ふふふ……先手を取られましたね、流石は我が主です』


『俺からも頼む! スピロフスを助けてやってくれ!』


 飄々と答えるルイに俺はスピロフスへの処分を思いとどまってくれるよう頼む。


『ほう……それは我があるじのお願いとあれば、いかようにも。但し、けじめは、つけなくてはなりませんね』


『けじめ?』


 俺がルイの意図を考えている最中、ルイの意識はギルデンに向けられていた。


『そこな黒ドヴェルグ……オルヴォ・ギルデンと申したな』


『は、は、はい』


 いきなりの強制念話にオルヴォも戸惑っている。


『スピロフスもおるであろう。そして他の者達もよく聞きなさい……私はルイ・サロモン』


『!』『!』


 念話なのにここまで感じる圧倒的な魔力波オーラ


 魂に響き渡る声。


 やはりルイだけは俺が今まで会った者の中では別格だ。


 あの謎の神らしき存在を除いては……


『これは私が派遣した部下スピロフスの不始末です……私の責任で処罰をします』


 ルイの断固とした決意に誰も口を挟めない。


『まず、ここにいる問題児の黒ドヴェルグには私が皆の手を煩わせないよう、贈物として魔法を掛けてあげましょう。なあに面白い魔法ですよ、ドヴェルグなのに酒が嫌いになる魔法ですからね』


 それを聞いたオルヴォは雷撃に撃たれた様にびくりと身体を震わせた。


『おやおや……もう先程の決意が揺らいでいるのですか? 結構……それでは、まずスピロフスを殺して貴方も殺して差し上げましょう。本当はそれで問題は解決するのですがね』


『ルイ!』


『ふふふ、冗談ですよ、我が主。ただ気が変わりました。その気弱な黒ドヴェルグにはもうひとつ魔法を掛けましょう』


『ルイ様』


『スピロフス……この者の教育は貴方に任せます。この酒絶ちと寡黙の魔法はサービスです。こちらの魔法は話が禁じられた内容に及ぶと話をしなくなります。相手が無理やり聞き出そうとすると、自ら舌を噛み切ります。こちらも中々面白いでしょう』


それを聞いたオルヴォはまたびくりと身体を震わせた。


『何を怯えているのです。殺されないだけ、まし……と思ってください。それどころか頑張れば貴方が故郷に捨ててきた妻と息子も呼び寄せられますよ。良いですね? スピロフス、このオルヴォが再び我が主を煩わしたら、次は……殺します。貴方ともどもに……ね』


 ルイの声には凄みが加わり、いつも俺に話している雰囲気の欠片も無い。


『か、かしこまりました! ルイ様』


 ギルデンはその場に必死で土下座をしながら、あまりの怖ろしさにぶるぶると震えている。


『それからスピロフス、貴方自身への処罰です。本来なら厳罰を与えるべきですが、我が主のたっての希望ですので、私のもとから永久追放止まりにしておきます』


『…………』


『何を黙っているのです? ナタリア共々、ホクト様のもとへの永久追放としますが、良いですか? と聞いているのです、返事位はしてください』


『……ル、ルイ様』


『何を情けない声を出しているのです。普段の貴方らしくもない……貴方はその気弱な黒ドヴェルグの教育係だけが、仕事ではありませんよ、その屋敷をしっかり守る大事な役割があります。しっかりしてください!』


『か、かしこまりました』


『ルイ! ありがとう』


『おやおや……我が主からお礼を言われるなど何と光栄な。最後に今回の私の責任とお言葉のお礼を致しましょう』


『責任? お礼?』


『今回は私の部下が迷惑を掛けました。申し訳ない次第で』


『これからまた出直しすればいいさ』


『ふふふ、主は本当にお優しい……ありがとうございます。ところで主は明後日【悪魔の口】とやらへ行かれるそうで?』


『確かにそうだが……』


『実は、未だあの大公メフィストフェレスがいろいろ諦め切れてないらしく、悪戯いたずらを仕掛けて来るようでございます。一応、ご注意した方がよろしいかと。単に悪戯でございますからね、私が出るまでも無いと……この事はお伝えするかどうかさえ迷ったのですがね。主様と従士には全く影響はありません』


「ふ~ん、じゃあ心配は無用か?」


『ふふふ、ただ一緒に居る人間は死ぬ可能性もありますのでご注意を……もうひとつ、お言葉のお礼は、その【悪魔の口】にて奴からの贈物・・をお使いください、これですよ……では失礼!』


『ル、ルイ!?』


 俺はその時、ルイの去り際のその一言が気になって仕方がなかったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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