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第55話 押し掛け助っ人

「やあ、やっと呼んでくれたね」


 黄金の羽を持つ伝説のグリフォン。

 

 グリフォンの王の中の王、ラプロス。


「そりゃ記憶を消されりゃそうさ。こっちもやっと、思い出したぜ、押し掛け助っ人さん」


 俺は夢の中で呟いた台詞をもう一度、ラプロスに投げ掛けた。


「ふふ、その表現、言い得て妙と言うべきだな。そうだよ、恩を返すとかは二の次、私は旅に出たいのさ……但し」


「自分の主人に相応しい力を持つ奴に肩入れしたいと」


「そうそう……君とはとても気が合いそうだ。これで私の期待通りの実力があれば文句無しだな」


「成る程―――その台詞、そっくりそのまま返していいか?」


「ほう、私の実力を疑うのかい? ……いい度胸だ、身を以って知るがいいさ」


「それもそのまま返してやろう」


「はっはっはっは、面白い、面白いぞ」


 ラプロスの鋭い眼差しの双眼がらんらんと燃え、黄金の羽がせわしなく動いている。


 やはり【黄金の矜恃王】という2つ名の通り、プライドはとても高そうだ。


 俺は発動させている身体強化と加速の魔法を更に強化する。


 彼は俺のスペックが外見から分かるのか、値踏みするような視線で眺めた後に意外そうに呟く。


「ふむ、外見とは違い、その身体はとても頑丈そうだな。魔力容量オドも桁違いだ」


「まあな」


「だがそれくらいの身体強化魔法なら私にも出来るぞ」


 ラプロスはそう言うと魔力オドを練り、一気に強力な身体強化と加速の魔法を発動させる。


「行くぞ!」


 ラプロスの口から呟きが漏れると風属性の魔法が発動される。


 クラリスが先程使った風の矢ウインドアローの複数撃ちだ。


 俺は軽々とそれをかわすが、そこへ黄金の羽の羽ばたきから巻き起こった強力な風によって身体を吹き飛ばされる。


 しかし俺は錐揉みしながらも楽々と空中回転し着地する。


 その着地点を狙ったのだろう、ラプロスの口の中からとてつもなく強大な風属性魔法の衝撃波が放射される。


 凄まじい圧力波が俺を襲うが、魔力を練り、更に身体強化を高める事でそれにも耐える。


「さすがは【黄金の矜恃王】だ、容赦無い攻撃だな。だが今の衝撃波の魔法は覚えたい」


 俺は独りごちる。


 ラプロスが今度は鋭い眼光をまともにこちらに向けてくる。


 並みの人間や魔物なら、身体が硬直して動けなくなってしまう居竦いすくみの効果がある眼光だ。


 俺が平気な顔をしていると、流石に呆れたような顔をする。


「むう、久々の戦いで力が鈍っている? なわけは無いな―――ふふふ」


「お前はしっかり力を出しているよ」


「ただ私が攻撃しているだけでは詰まらない。君も攻撃してくれないとな、……それでこそ自分の誇りが保てる」


「我儘だな」


「だからこそ、皆から渾名で、こう呼ばれている」


「道理だ……はっははは」


 そんな俺とラプロスのやりとりをフェスとクラリスは呆れたように見つめている。


「じゃあ今度は俺から行かせて貰う」


「ぜひ、そうしてくれ。ただ私も見ているだけではな、当然反撃させて貰うよ」


「当たり前だ」


「本当に君は話がわかる、私が勝つのは間違い無いが、友としては認めよう。では、いつでも来い」


 俺はクラリスから教わったばかりの風属性魔法の飛翔魔法フライトで、ふわりと上昇する。


 続いてラプロスも黄金の翼を羽ばたき、あっという間に空中に舞い上がる。


「そう来るか!? 私を相手に空中戦を? ははははは」


 ラプロスは俺がわざわざ己を不利な状況に持ち込んだと思っているようだ。


 しかし、俺には分かる。


 こういう相手にはそんな舞台で勝てば、より一層の効果がある事を。


「ここで俺が勝てば、お前も納得だろう」


 俺は背中のクサナギに手を掛け、ラプロスに迫る。

 

 ラプロスはその爪で俺を引っ掛け、捕まえて、鋭いくちばしえぐろうとする。


 しかし、魔力波の動きでそんなものはお見通しだ。


 俺は楽にそれを避けると短い気合と共にクサナギを一閃させる。


 強力な魔法波の斬撃がラプロスの羽に叩きつけられると、ラプロスの身体が一瞬ぐらりと揺れるが、ものともせず風属性魔法の風弾ウインドブリットを何と一度に数十発も放ってくる。


 俺は高位の風の壁ウインドウォールを発動して何とか相殺した。


「ほう、そのヤマト刀での一撃は峰打ちかい、ふふ、情けを掛けられたか? 確かにまともなら私の羽は断ち切られていたが……それにしてもこの数の風弾ウインドブリットを無効化するとは……」


「この戦い、もう少し楽しみたい。……すぐ終わらせるのは詰まらんからな」


 俺は新たに魔力オドを練り、雷弾サンダーブリットの魔法を放つ。


「どうした? こんな子供騙しの魔法などこうだ!」


 ラプロスは何と黄金の羽を羽ばたかせると全て弾く。


「成る程な、……このレベルの魔法は抵抗レジストするか……じゃあ、これならどうだ?」


俺は更に魔力オドを練り、そして再び雷弾サンダーブリットの魔法を放つ。


 その放出される魔力波オーラの桁違いの大きさと量、そして圧力に対してラプロスが、そしてフェスとクラリスが息を飲む。


 今度はラプロスが慌てて雷弾サンダーブリットを避けるが、俺は放つ際に魔力波を指先から完全に切り離さず、1本の魔力波の糸を残しておく。


 その糸から俺の意思が伝わりホーミング仕様の雷弾サンダーブリットが追尾して、数発がラプロスの羽を貫く。


 これはかってあの大公メフィストフェレスが使った技だ。


 威力も最初の雷弾ものに比べると、桁違いの破壊力のある雷弾サンダーブリットであった。


「ぐっ!」


 羽を貫かれたラプロスの顔に苦痛が走る。


「これは序の口だ、これからやるのはこの前、遊んだ悪魔メフィストフェレスがやった事を更に派手にしてみたぞ」


「何!?」


 俺は一気に魔力オドを高め、……練りに練る。


 ラプロスが俺に魔法を発動させないように羽ばたくが、俺はその内なる声に従い暴風を全て受け流す…


 これはまた風の精霊の子達の助力だろう。


 羽ばたきが全く効かないと見るとラプロスはまた衝撃波を放つ溜めを見せたが、その発動は若干遅く、俺の魔法の発動の方が早い。


 俺は片手から高威力の爆炎、片手から先程と同様の雷弾を一度に放つ。


「!!!」


 ラプロスはまたも避けようとしたが、俺が例によって指先で操作するホーミング仕様の数十発の爆炎、雷弾が全てラプロスを襲う。


「があああああ」


 全身を、爆炎で焼かれ、雷撃で貫かれた、満身創痍で隙だらけのラプロスに、間髪入れず、俺が闇属性魔法の束縛魔法を発動させる。


「なっ! ……ぐっ! 身体が動かん……」


 そして俺はまたクサナギを静かに抜き放ち、ラプロスの喉元に突きつけたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふふふ……完膚無きまでにやられたよ。この私が……まさに完敗だな」


 俺の回復魔法で既に治癒されたラプロスはすっきりとした顔をしていた。


「納得したか? 俺の使役魔、いや従士になる事を」


「ああ納得した。それに君はまだまだ大きい魔法を隠しているな。それを使わずに勝つのだからな」


「ん? もしあの魔法の事を言っているのなら、あれは使う相手を選ぶ。少なくとも戦士には使いたくないからな」


「そうか! それは光栄だな。私を戦士と呼んでくれるのか、ふふふ。それにしても私の召喚で私の身体の実体化だけでも魔力オドを相当使っている筈だ。さらにこの魔法の連発でも魔力容量オドが全く減っていないとはね。本当に君は化け物だな」


「ラプロス様、それは違います。流石に化け物・・・は可哀想ですので、魔人じんがいでお願いします」


 クラリス、お前……それはフォローになっていない。


「はっはっは、私と同じ加護を受けた風の精霊よ。わかった。そなたの言う通りにしようか」


 そんなもん、せんでええわ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「では改めて、このラプロスはジョー・ホクト。ホクト様、貴方の従士として忠誠を誓おう」


「よろしくな! でもジョーと呼んでくれ」


「でもそこの3人は?」


「3人がそう呼ぶのは理由があるんだ、俺は、ジョーと呼んでくれて良いんだけど」


「分った、それでは火の精霊に、風の精霊、そしてそこな神剣よ。私はお前達に比べて新参者だが、彼に対する忠誠の気持ちは同じだ。それにそなたたちとも背中を任せ合い、戦いたいぞ、よろしく頼む」


「こちらこそ! ラプロス様。……私はフェスティラ・アルファン、フェスと呼んでください」


「同じくクラリス・シルフィール、クラリスと呼んで!」


『クサナギよ……よろしくね』


こうしていにしえのグリフォンの王、ラプロスは俺の従士になった。


 俺達はその後、ラプロスとケルベロスを交えて、模擬戦闘を行い、夜も更けてからバートランドの街へ戻ったのだった。

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