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第51話 謎の魔道具

「ただいま!」「今、帰った」「戻りました」


クラリスの元気な声がひときわ響く中、俺達は屋敷に帰って来た。


数時間後にはキングスレー商会へ行かねばならない。


実は先程のアルデバランとの話の最後にキングスレー会頭を今回の話に加えてはどうかと、打診してある。


金鉱の開発には商人の力が必要不可欠なのと昔のアルデバランの仲間で12人の執行官の1人でもあるキングスレーであれば申し分ないと思ったからだ。


ただ、これに関してアルデバランは一言


「検討する……」


たったこれだけである。


他の商人の手前もあり、只でさえ仲のいいキングスレーに、何の条件も無しにいきなりしょうばいを振るのは不公平になるのだそうだ。


確かに一定の商人と結びつくのは不味いかもしれない。


公平感を出す体裁の為の根回しが必要なのである。


しかし金鉱を開発するには余程大きな規模で商売をしている店じゃないと駄目なので、キングスレー商会になるのが妥当となるだろう。


とりあえず俺達の案内で【悪魔の口】の調査をして、現状把握をした上でないと始まらないのは確かだ。


その結果を踏まえてなのでまだ時間がかかるであろう。


ナタリアが用意してくれた昼食を取りながら、皆で今後の事を相談する。


順番としては前後しそうな可能性はあるが、まず、キングスレーとの話し合い。


クランとしてはクラリスが入っての連携の訓練。


俺としては仕切り直しでの使役魔の獲得。


そして【悪魔の口】のアルデバランとの同行調査。


こんな所であろう。


そうだ、メフィストフェレスが送ると言っていた魔道具を忘れていた。


「スピロフス、荷物が届いていないかな?」


「そうそう、ご報告しようと思っていたところなんです。確かに届いておりますよ。

強い魔力波オーラを放出していますが、危険を感じませんでしたので、私の部屋に保管してあります」


この世界には馬車便という郵便の代わりがある。


荷物はその馬車便で届いていた。


「あれはメフィストフェレスからの魔道具プレゼントさ」


「ほう、あれほどの強い魔力波を出す魔道具とは、いささか興味がございますな。

よろしければ私めも同席させていただいて構いませんか?」


「逆に頼む。開けてみて分らなかったらフォローしてくれ」


俺はメフィストからの荷物を開けた……が、中身は一振りの紐のみだった。


絹紐のような外見で、そう丈夫そうでも無い。


「こんな物からあの強い魔力波オーラが出ているのか……」

「ほう、何か意図がありそうですね。メフィストほどの悪魔が意味も無しにこんな事をするとは思えません。この紐はしばらく持ち歩くのがよろしゅうございます」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


しばらくして俺達は屋敷を後にする。


目指すは商業街区のキングスレー商会だ。


少し早めに屋敷を出たのでゆっくりと街中を歩いて行く。


まだまだやる事は山積しているが、久々にのどかな時間を過ごしている気がする。


中央広場に出ると昼食時間時の喧騒が一段落している。


まだ営業している屋台から呼び込みの声と肉を焼くいい香りがしてくる。


クラリスが何かを期待する小動物のような、うるうる目で俺を見る。


「食いたいのか?」


すかさず、ぶんぶんと首を縦にふるクラリス。


反応がわかりやすいのはいいが


……さっき昼飯食べたばかりだぞ。


俺の目の中にそんな色を感じ取ったのか。


「あれは別腹に……」


と小さく呟く。


俺が銀貨を渡すと、すかさずクラリスが屋台へすっ飛んで行った。


クラリスが買って来たのは銀貨を全て使い切った串焼き10本であった。

そして俺とフェスに1本ずつ渡すと残り8本の串を自分で掴む。


この串焼きは前世の焼き鳥のようなかわいいものではなく、肉の1個1個が人の拳ほどもある武骨な物がひと串に3個ほどささっており、当然、量も半端無い。


おいおい……いくら何でも多すぎるだろう。


果たして……クラリスは全く問題無くそれを平らげたのであった。


その後はいろいろな店や屋台を冷やかしながらキングスレー商会に向かう。


着いたのは約束の18時の15分程前である。


来訪の件を告げると店の人間が取り次いでくれ


まもなく例の秘書らしい金髪の中年男が現れる。


「おお……これは皆様よくおいでいただきました。会頭は既にお待ちでございます。どうぞこちらへ。あ、そうそう、私は会頭秘書のカルヴィン・ターナーでございます。どうぞお見知りおきを……」


「こちらこそ、よろしくな、ターナー」


「……そう言えばお約束の人数は2人だった筈ですが?」


「1人増えたんだ。こっちは新たなクランの仲間になったクラリスだ」


「クラリス・シルフィールです」


「成る程、かしこまりました」


俺達は今度は会頭室続きの応接室へ通された。


先日の商会の応接室より装飾も調度品も遥かに豪奢である。


しばらく待つとキングスレーの長身痩躯が現れる。

「おお約束通りの時間だ。何でも仲間が増えたそうだな」


「こちらのクラリスだ」


「クラリス・シルフィールです……あるじともどもよろしくお願い致します」


「ほほう、これはまた可愛い子だな、フェスといいクラリスといい美人揃いで羨ましい限りじゃ」


フェスは顔をあからめてうつむき、クラリスは花のようににっこりと微笑んだ。


「おいおいチャールズ、持ち上げるのもそれくらいにしてくれ。後が大変だ」


「はは、わかった、わかった。それで今日は何用かな?」


「屋敷の地下倉庫にある武器・防具他の件さ」


「あれは屋敷ごとジョーの物じゃ。契約書にもそう書いてあるぞ、今更どうした?」


「そうは言っても譲って貰った経緯が経緯だからな。物も全てチャールズの親友のお宝だ勝手に売り捌くのは不味いだろう?」


「ふ~む、本当に義理堅いな。しかし一旦決めて譲った以上、特に儂には、こだわりは無い。ジョーの好きにすればいいさ」


「じゃあそうさせて貰う。その上で提案なんだが」


「何じゃ? まだ有るのか?」


「お宝を売って捻出した資金の一部でマルコと商売をさせて欲しいんだ」


「何?」


フェスとクラリスも俺の思いがけない申し入れに吃驚びっくりしている。


「俺が金主となってマルコと商売をやる許可が欲しいって事さ。そして利益のいくばくかをキングスレー商会にバックすると言うのはどうだ? ただ利益を渡す代わりに期限を切らず商売の内容はこだわらずにして欲しい」


「成る程な、マルコへ機会チャンスを与えるのと、自らの商才を試してみたくなったか?」


「簡単に言えばそういう事だ。但し、マルコの通常の仕事ありきの前提だがな。本業がおろそかになっても困るだろう」


「はっはっは―――何を言っとる。内容が面白くて話題になり、より利益が出る話ならばそっちが本業じゃと儂は思っとるよ。ただマルコは才能はあるが駆け出し、ジョーも同様で商売経験無し。そんな2人が、この年寄りに何か聞いてくれれば、アドバイスはさせて貰うよ」


面白そうだから、キングスレーもかませろという事か……


俺は心の中でちょっと苦笑いをした。


「マルコ本人の同意は?」


「今日は出かけておってな……残念ながら不在なのじゃ。なので、ここは会頭特権を発動させてもらう。儂がOKを出そう。もし、あ奴に同意を求めてもNOとは言わんじゃろう」


「今日は助かった、チャールズ、忙しいところをありがとう」


「何を言っとる、おもしろい話を持ってきたのはジョーじゃ。こちらこそ……な」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


キングスレーのところを辞した俺達は屋敷に再び戻る事にした。


「ホクト様……私も商人ってやってみたいです」


「フェス姉と全く同じです」


「商人じゃあなく金主だぞ。まあいいか、2人とも商売に興味があるのか? よければ手伝ってくれ、頼むぞ」


「はいっ!かしこまりました!」


「フェス姉、気合入っていますね……私もです」


「後は、あいつだけだなぁ……」


「あいつ? ですか」「誰?」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「と言うわけだ、スピロフス、どうだろう?」


 屋敷に戻った俺はキングスレーとの話をスピロフスに告げ、助力を求めていた。


「……おもしろそうな話ですな。よろしいですよ、私めでよろしければぜひお使いくださいませ。魔道具関連はお任せ下さい。ただ武器防具の新規製作や調整自体は、腕の良いドヴェルグが1人要りますね。商会の方からご紹介はなかったので?」


「紹介は無かったかな。いやそこまで頭が回らなくて忘れていたよ。これから探すか? にしてもドヴェルグって? ……ドワーフの事かい?」


「ドワーフは俗称です。正確にはドヴェルグと言うのですよ。よろしければ私めに心当たりがございますので、いかがでしょうか?」


「任せるよ」


俺はこうして冒険者だけでなく新たな顔を持つようになりそうだ。

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