第49話 ぼっちじゃない!
俺達は悪魔の口(今や金鉱の入り口だが)に魔法障壁を掛けて結界とした。
これで、余程の事が無い限り中に侵入されないだろう。
明日、夕方にキングスレーに会う約束があり、時間が無い中、色々と事後処理をしなくてはならない。
まずはベイト村長に事の顛末を入れておいた方がいいだろう。
俺達は瞬間移動で村の入り口に転移すると、早速、ベイトの自宅に向かう。
幸い、彼は在宅しており俺達は報告を入れる事が出来た。
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「あの【悪魔の口】からよく無事で帰って来れたな」
ベイトは俺達を見て、ほっとしたような表情で呟いた。
俺は事の顛末を話す事にした。
当然、全ては話せないので、若干の創作もしないといけないが。
俺達が話したのは下記の通りである。
冒険者達は全て不死者と化しており、全て浄化した事。
伝説の王が実在していて、不死者と化しており、改心させて浄化した事。
流石に悪魔の事は、言えないので伏せておく。
……そして、グリフォンは倒せなかったが、しっかりと追い払った事。
そのグリフォンが金脈を守っていた事と王の秘宝(実はメフィストの私財)を発見した事も話す。
「ではグリフォンが村の牛を襲うことはもう無いのじゃな」
「そうだな、それに関しては安心していいだろう」
ベイトは俺の言葉を聞くと安堵の表情を見せる。
しかし次に起こる事を考えたのだろう、ふうと、ひとつ溜息を吐く。
「ただのう、冒険者が500人全員死亡していた事で、当然良い噂はたたんじゃろうし、金鉱とか、王の秘宝の発見の後始末とかが新たな厄介事じゃな」
ベイトは新たな懸案事項に眉をひそめている。
「それもとりあえず俺達が冒険者ギルドに報告して、判断を仰ごうと思っている。なるべく村にとって良いようになるよう頼んでみるよ」
「それは有り難いのう。よろしく頼むぞ」
これで村長への報告は済んだ。
次は冒険者ギルドか……
俺達に今回の依頼を出したギルドの職員=ハンス・ダウテにまず話をしないといけないだろう。
とは言え、いち職員の手には余るだろうから、そのままアルデバランと相談だろうな。
その後にキングスレーと会う事になるだろう。
今日はもう日が暮れるので動き出すのは明日の朝がいい。
俺達は、とりあえず瞬間移動でバートランドへ移動して屋敷に戻る事にした。
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街の門から少し離れた場所にテレポートした俺達は、門番役の衛兵に挨拶して街の中に入る。
クラリスはローレンス王国の冒険者ギルド登録の冒険者であったので、こちらも街に入るのは全く問題が無かった。
……それも何とAランクの冒険者であり、満面の笑みでギルドカードを衛兵に提示して顔パスである。
「凄いじゃないか、クラリス。俺達よりランクが上なんて」
「えっへん―――もっと褒めてください。私は褒められて伸びるタイプですから!」
「そうか! 俺もだ!」
「ホクト様もそうですか! 私達、気が合いますね!」
「コ、コホン……」
「あれ? フェス姉。どうしたんですか? 風邪?」
「違います! ……それとフェス姉はやめなさい!」
「ふ~ん……何か変? ……あ~、わかった!」
「な、何よ?」
「相変わらず、奥手な~んだ、フェス姉!」
「なっ、何が奥手よ!」
「まあまあ……2人とも」
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「これは、これは、ご無事のお戻りで大変喜ばしい事でございますな」
俺達はひとまず屋敷に戻って来た。
スピロフスがいつもと変わりなく慇懃に迎えてくれる。
「ナタリアが夕餉をお作りしております、しばしのお待ちを」
俺は夕食が出来るまで、屋敷の中を色々見たいと言うクラリスを案内する事にした。
「へ~、いいお家ですねぇ。お部屋も一杯ありますね」
「ああ、あるぞ。2階の部屋なら好きな部屋を選んでいいぞ」
「やった~! ……って、あれぇ? フェス姉の部屋は?」
「…………」
「ど・こ・で・す・か~?」
「…………」
「黙秘権は無しですよ~」
「…………」
「フェスの部屋は3階の俺の部屋の続き部屋だよ」
沈黙を続けるフェスだが、会話が終らないので俺がフォローする。
しかし、フェスは俺にその事を言って欲しくなかったようだ。
「ほっ、ホクト様! もう!」
フェスは頬を赧めて、顔を伏せてしまう。
「ふ~ん、フェス姉も結構、大胆! 見直しちゃった!」
「ななな! わわわ私はじ、従士として主のもとに控える為に……」
「成る程! じゃあ私はホクト様と同じベッドで寝ようかな!」
「クラリス!!!」
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「クラリス……」
「はい」
「ちょっと、いじり過ぎたんじゃあないか?」
フェスはむくれて自分の部屋に閉じこもってしまっている。
「そうですね……ちょっぴり反省ですね」
「ちょっぴり?」
「だってぇ、どうしてもいじりたくなる人って居ますよね?」
「居ても居なくても―――フェスに対しては少し控えるんだ」
「分りました、ホクト様がそう仰るなら」
「そういう事じゃない、俺達は今後クランとしてやって行くんだ。もしかしてクラリスはフェスが嫌いなのか?」
「そっ、そんなわけ無いじゃあないですか! 昔からの仲間ですよ!」
「俺より付き合いが長いなら尚更だ。俺より彼女の事を知っているお前がクランに入って、巧くやってくれれば、連携をより強力に出来るだろう」
「…………」
「俺はフェスもクラリスも頼りにしているんだ」
「わっかりました~! 私、フェス姉に謝って来ます!」
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クラリスがフェスに謝罪した事でとりあえず収まりがついたようである。
俺達は今、ナタリアが用意した夕飯の並んだテーブルに座っている。
俺はスピロフスに昼間の事を話してみた。
「成る程……メフィストフェレスでございますか。彼はルイ様に仕える悪魔の中でもかなりのトリックスターでございます。ただ、ああ見えて気象学や天文学、占星術にも長けておりますので、巧く使いこなせば、とても頼りになりましょう」
「例えば―――お前のように?」
「ふふ、そうです、私めのように……でございます」
ワインで乾杯した後、俺はフェスとクラリスに聞いてみる。
「大公が言っていたけど、お前達の事を聞いて良いか?」
「はい、構いません」「どんどん聞いてくださいね!」
「答えたくないところは答えなくてもいいけど、よかったら出来る限り教えてくれないかな。まず、2人のあの呼び方だ、え~と確かフェスが、戦姫、クラリスが……」
「翔姫です!」
「これは?」
「単にいわゆる2つ名ですわ、戦う姫なんて私はあまり好きではありませんが」
「私はとっても気に入っています」
2人ともそれぞれ違うんだ。
「補足させていただきますと我々はルイ様に付き従う戦乙女。
すなわち4人の姫騎士の名称なのです、もっとも今はホクト様の従士ですが」
「4人と言うと、後、もう2人居るんだな」
「そうです、今の時点では私達から詳しい事を申し上げるわけにはいきません。申し訳ありませんが」
フェスが俺の顔を見て静かに言う。
「次にクラリス、お前の得意な属性魔法は何かな?」
「はいっ! 私の得意なのは風属性の魔法です!」
風属性の魔法か……
鋼鉄の聖女のセシリャも使っていたな。
感じる魔力からすると全然桁違いだが。
「となると風刃は元より竜巻呪文までOKか」
「いえいえ、もっと上位の魔法も使えますし、お二人の火属性魔法に相乗した支援的な魔法も使えます」
成る程、支援魔法か。
確かに火と風は相性がよさそうだからな……
いろいろな連携が出来る可能性がある。
そうか!
2人は昔からの仲間なんだから。
「その通りです……いくつかの複合魔法の型があります」
昔、いくつか試したり、実戦で使いながらの物もあると俺の問いに対してフェスは答えてくれた。
これは俺も交えての複合魔法の連携も楽しみだ。
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「美味しかったですよ! ナタリア!」
「そんな、ありがとうございます……クラリス様」
いの一番に叫んだクラリスを筆頭に
「ナタリア……美味かったぞ!」「ご馳走様、ナタリア」
夕食を食べ終わった俺達は用意してくれたナタリアの労を労っていた。
何か、良い感じだな……
俺は多分、前世では孤独だったのだろう…いわゆる【ぼっち】という奴だ。
それがこうして拠り所が出来て頼れる仲間も出来た。
俺は改めてこの世界で生き始めているんだと言う事を実感するのだった。




