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第44話 哀しき伝説

 俺とフェスはウイアリア村の門番、ラリーから【悪魔の口】という洞窟についての位置やネイビイス山で跋扈ばっこする魔物など更に詳しい情報を得た。


【猛牛亭】で食事をしていくと言うラリーの分も含めて、店の給仕に代金を渡し、俺達は店を出た。


 他に情報を取れる相手はいるんだろうか?


 そうだ、この村の村長あたりに話を聞いてみようか?


「フェス、この村の村長から情報は取れそうかな」


「そうですね、もう少し【悪魔の口】に関して情報を集めるのも、いいかもしれませんね」


 俺は通りかかった村人に村長の家を聞き、向かうことにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 村人に教えられた通りの方角へしばらく歩いて行くと、他の家より一際大きな家が見えてくる。


 ウイアリア村の他の家が平屋及び屋根裏ロフト付きのものがせいぜいなのに、この家は3階立てである。


 ただ門の前には門番も立っていないし、魔導呼鈴ベルも見当たらないので、俺は大きな声で村長への取次ぎを頼む旨の言葉を発する。


「何じゃい……誰じゃ」


 俺の大声に対して答える声が上がり70代半ばの白髪の老人が出てきたので、俺は改めて俺達の身分を名乗り、用向きを伝えて村長への取次ぎを頼んだ。


 老人は俺達を興味深げに見るとゆっくりとうなずき、家に招き入れてくれる。


 俺達は1階の客間に通され、しばらく待つように言われた。


 この分だと巧く話が聞けそうだ。


 15分くらい待つと老人がお盆に紅茶のカップを3つ載せ、ドアを開けて入ってきた。

「まあ、茶でも飲みながら話そうか。生憎、わしは妻に先立たれて、今は1人で暮らしておるのでな。爺の入れたお茶で申し訳ない、はっははは」


「いきなりの訪問に快く迎えて貰って感謝するよ。俺はジョー・ホクト、Bランク冒険者。彼女はフェスティラ」


「フェスティラ・アルファンです。ホクト様と同じくBランク冒険者です」


わしはハンク・ベイト、この村の村長をしておる。先程、用件は聞いたが、もし差し支えなければ、ギルドからの依頼書を見せて貰えんかの。お前さん方の仕事ミッションの内容を改めてしっかりと知っておきたいのじゃ」


 俺は改めてベイト村長に依頼書を見せた。


【依頼書】

 

 ☆依頼ランク:ランクB

 ☆発注先:Bランククラン【黄金の旅ステイゴールド

 ☆依頼内容:【ウイアリア村での冒険者大量行方不明事件の調査及びグリフォン討伐】


 ☆依頼主:バートランド冒険者ギルドマスター

      バートランド公爵


      バーナード・サー・アルデバラン


 ☆報酬:調査報告書(要内容確認)提出にて王金貨3枚(=金貨300枚相当)

     グリフォン討伐の暁には別途王金貨10枚(=金貨1,000枚相当)


 ☆期限:3ヶ月以内


「う~む、成る程のう。冒険者が大勢行方不明になっておる事は、わしの耳にも入っておる。しばらく静観していたギルドが、とうとう動いたと言う事か。して何を聞きたいのじゃ。確かにこれを放置しておけば、儂等が出したグリフォン退治の解決も遠くなるからのう」


「俺が聞いた話では、冒険者は皆【悪魔の口】と言う洞窟に向かい、結果、行方不明となっている。そこには悪魔が住むと言われているそうだがな。村長、何か知っている事はあるか?」


「……ホクトよ。村にとってあの地は禁断の地、本来なら口にする事すらさえ、はばかれる事なのじゃ」


 俺は黙ってベイト村長が次の言葉を発するのをじっと見つめて待つ。


「ふう―――仕方が無いか。かって、この地は我が英雄バートクリード様が建国される前は、小さな王国がたくさんあった……これはとあるひとつの王国の話じゃ。若き王は勇ましくも寛容で誠実。国民に善政をしいていた。王妃はそれは美しく心優しい方で王を深く愛していた。2人は当然仲睦まじく、2人の間には見目麗みめうるわしい王子も生まれ、国民の誰もが祝福し、幸福の絶頂かに見えたのじゃ」


「しかし王の座を提示され、隣国と密かに結んだ宰相が裏切り、王国は崩壊。王妃と王子は処刑され、王は1人逃れて失意のうちにあの洞窟で悶死したのじゃ。悶死する寸前、王は自分の甘さを呪い、洞窟で自分を裏切った宰相と隣国の王族に復讐を誓い、自分の魂と引き換えに洞窟に悪魔を呼び出してそれを託したと言う。結局、隣国も間もなく滅び、元宰相と隣国の王族も悲惨な死を遂げた」


「…………」


「王の望みは叶ったが、まだ怨みは消えずにその怨念が残っているとも、その時に契約をした悪魔がまだ居るとも言われておる。これが【悪魔の口】由来じゃ。入り口には未だ瘴気ミアスマが漂い、化け物がうろついているとも噂されておるので村人は怖れて一切近づかんのじゃ」


「悲しい話ね……」

 

 フェスが遠い目をして呟く。


「そうじゃ、……人間の妬み、欲が招いた悲惨な話じゃ」


 それに応えるようにベイト村長も同意する。


「確かにな。ただ、このままには、しておけないぞ」


「ホクトよ……お前さん、こんな話を聞いてまだ行くのか?」


仕事ミッションを請けたからな。洞窟に行かないと話が進まないだろう。

それにあんたの村の問題、つまりグリフォンの件も残っている」


「……そうじゃったな。この村は決して豊かでは無い。これ以上、牛を盗られては死活問題じゃ。すまん、ホクト―――よろしく頼むぞ」


 グリフォン以外にも何者かが居る可能性があるのか。


 悪魔か? それとも……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 しばらくして俺とフェスは先程の村の門の前に居た。


「【悪魔の口】は、ここからだと丁度、ネイビイス山の反対側になるそうです


 村から少し離れたところで飛翔魔法フライトを使って回り込みますか」


「そうだな、さっきみたいに高度を取らずに行くか。でも低空で飛翔ぶと目立たないか?」


「いいんじゃあないですか、オーク1万匹撃破のクランですから」


「噂を逆手に取るって事だな、そんな事は出来て当たり前ってか」


 俺とフェスは顔を合わせて苦笑いした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『ホクト様には、またひとつ魔法を覚えていただきます』

村から少し離れた、飛翔魔法フライトを発動出来る場所まで、加速魔法で移動する際にフェスから新しい魔法習得の打診があった。移動中なので会話は当然、念話である。


『何かな?』


暗視魔法ナイトビジョンです。この魔法で野生動物のように夜目が利くようになります』


『洞窟の中は明かりも無く暗い可能性が高いものな』


『仰る通りですね、魔灯魔法マジックライトは半永久的な持続性があり便利ですが、敵にすぐ感知されてしまうので洞窟や迷宮探索には不向きなのです』


暗視魔法これ隠密魔法ステルスと索敵魔法さえあれば、そう簡単に先制攻撃を受けないという事か』


『仰る通りです』


 俺は早速、フェスに暗視魔法ナイトビジョンの発動の感覚イメージを教わり、飛翔ぶ前に試して、問題無く発動する事が出来た。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 暗視魔法ナイトビジョンの発動の訓練が終わり、俺とフェスは飛翔魔法フライトの発動の準備に入る。


「コントロールは徐々に出来るようになります。これからはただ飛翔ぶだけでなく、空を飛ぶ相手とは、戦いながら、飛翔ぶ事になりますので。では今度はホクト様が私を導いてください」


 先程は身体強化、軽量化そして加速と魔力オドの加減を確かめながら、慎重に発動していた魔法を俺は一連の流れにして短時間でスムーズに発動する。


「天に舞え、天を駆けろ、我が身よ! 解き放たれし時は今―――飛翔フライト!」


 俺とフェスは高度300mほどの所まで上昇し、移動速度も80Km程に抑えて

 高原の上空を過ぎ、ネイビイス山の裏側に回り込む。


 先程より飛翔魔法フライトの肝であるコントロールも巧くなって来ており、俺は手応えを感じていた。


 つまり車で言えばアクセルとブレーキを踏み分けつつ、うまくハンドリングが出来てきていると言ったら分り易いだろう。


 索敵と隠密ステルスの魔法も展開させているのは着地地点の安全確保の為だ。


「探知しました、山の中腹に洞窟があります。結構、大きいですね。ホクト様も探知されましたか?」


 フェスが探知したのと同じ洞窟を俺も探知していた。

 

 入り口の大きさは幅20m、高さ15mほどでかなり大きい。洞窟の中も結構、広そうだ。


 これは!


「ホクト様、村長の言っていたのは本当の事のようですね。洞窟の入り口からかなりの瘴気ミアスマが溢れ出して来ているのが分ります。そして―――これは不死者アンデッド魔力波オーラの反応です」


「俺もその魔力波は捉えている。う~ん、嫌な予感がするな。入り口から500m程離れた所に降下して慎重に入り口に近づこう」


「かしこまりました!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うわぁ、これは!?」


 隠密ステルスを掛けながら慎重に近づいた俺とフェスが、【悪魔の口】の入り口で見たものは行方不明になった冒険者達の成れの果てであった。

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