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第41話 新たな依頼

 スピロフスが冷たい微笑を浮かべている。


 満足して微笑んでいるんだろうが、ルイみたいな笑い方だ―――俺は少しそう思ってしまった。


 やはり主従って似るものなのか?


「ではご主人様マスター、早速ですが、夕餉ゆうげはナタリアに任せて構いませんか」


「いいけど、食材は?」


「アルファン殿と地下倉庫にいらっしゃっている時に、買いに行かせておきました」


「助かるよ―――任せる」


「お口に合うかどうかわかりませんが、精一杯お作りさせていただきます」


 ナタリアはちょこんとお辞儀をして、厨房に消えて行く。


 スピロフスはまだ、何か頼み事があるようだ


「後は少々お願いがございます」


「何?」


「別棟に錬金術の工房がございますな」


「ああ」


「もちろん、その都度つど、許可をいただきますし、日常の仕事の差し障りのないように致しますが、その……ですな」


「はは、使わせて欲しいって事?」


 わざわざ、断るくらいだ、余程錬金術が好きなのだろう。

 彼にとっては、ライフワークと言えるレベルかもしれない。


「左様で……」


「別にいいけど―――何を作るのかだけは事前に教えて欲しいな」


極力きょくりょく……努力させていただきます」


 スピロフスは珍しく歯切れが悪い。


「何? 極力って?」


「錬金術とは偶然から違う物が生まれる事が、これまた真理とも言えますので」


 偶然の発見が素晴らしい進歩に繋がるのは俺の居た前世での科学と変わらないようだ。

 しかし、昔の漫画みたいないきなりの爆発は勘弁だ。


「まあ、いいや。でもいきなり爆発ボンとかは勘弁だぜ、後、地下の素材関係は元の持ち主と話をつけてからな」


「爆発? それも素晴らしい発展のいしずえの為にはと。いえ―――何でもありません。わかりました―――決してそうならないように致します。ふふ、アルファン殿、そんな怖い眼差まなざしは淑女レディには似合いませぬぞ」


 スピロフスはフェスの厳しい眼差しを軽く躱す。


「で、ご主人様マスター、その代わりと言っては何ですが、私が今まで自身に修めてきたものを―――まあ魔術、薬学などですが、お望みと有ればご教授させていただきましょう」


 何、それは凄い!

 いろいろな事を教えて貰えそうだ。


 ルイ、こいつは良いも悪いも流石にお前の人選だけの事はあるよ……


『ふふふ、褒め言葉と受け取っておきましょう』


 ああ、びっくりした! いきなり頭の中に声を響かせるのは勘弁してくれ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その晩の夕飯はナタリア特製のバラエティに富んだ料理だった。

 しかもすこぶる美味である。


 地中海料理のドルマ風の肉詰め。

 羊の足、胃、腸などを煮込んだスープ。

 薄切りのトマトを皿にたっぷりと盛り合わせて、

 オリーブオイルをかけたサラダ

 これに焼きたての黒パンにワインいうラインナップ。


「美味いな!」「ええ、新鮮な味です」『これはいいですね』


 俺達が褒めちぎると、ナタリアは嬉しそうではあったが、まだ不十分だと表情が曇る。


「お褒めにあずかり光栄です。もっと食材があれば、もういくつかお出し出来たのですが」


「これ、私も覚えたいわ。ぜひ教えてちょうだい」


「はい! 喜んで―――フェス様」


「スピロフスにナタリア、立っていないでお前達も座れ、一緒に食べるぞ、ほら!」


「よろしいのですか? ご主人様マスターと同じ席で食事とは、まだどうにも慣れませんので……」

「慣れませんので……」


「これがウチのやり方だって―――さあさあ、座ってくれ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 食事が終った後は、部屋割りである。

 一応、俺は最上階の主の部屋を貰った。


 が!


 フェスは自分の自室を俺の続き部屋にすると言って聞かなかったのだ。


「私の部屋はホクト様の続き部屋でお願いします」


「2階に部屋が一杯あるのに……フェスだってたまには1人になりたいだろう」


「ホクト様! 従士たるもの、主の側を離れては!」


「わかった!わかった!」


「本当は一緒に……」


「ん?」


「いえ、何でもありません!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 明朝……


 俺達は早起きして、ナタリアお手製の朝食を済ませる、急いでキングスレー商会に向かった。

 

 キングスレー会頭に会う目的は、屋敷を譲って貰ったお礼を伝えるのと地下の物資の譲渡の断りを入れる為だ。


 ただ彼も忙しいだろうから、俺は後日のアポイントが取れれば良いと考えていた。

 今日行って、今日会ってくれというのは流石にずうずうしいであろう。


 会頭が不在でも正式な契約書の締結の手配だけはマルコに頼むつもりである。


 仮契約書にも記載されているし、もう俺達の屋敷なのだからそういった物も自由にしても良いという考えもあるだろうが、俺もフェスもキングスレー会頭と前の屋敷の持ち主との関係やこの屋敷を譲り受けた経緯を考えると無断で好きにするわけには、いかなかったのだ。


 キングスレー商会に着いた俺達は店の入り口にいた社員に冒険者カードを見せ、自分の名前と身分を名乗るとキングスレー会頭とマルコの所在を確認する。


 幸いにも会頭は今日は普通に出社するとの事である。

 マルコは既に出勤しているとの事だ。


 社員が奥にマルコを呼びに行き、5分ほどで彼を伴って戻ってくる。


 マルコから、ここで一緒に待ちましょうと言われたので3人一緒にそのまま待つ。


 30分程待っていると、表に普通と違う特徴のある馬車の車輪の音が響き、馬のいななききが聞こえてきた。


 馬車が止まった気配がして間もなく、細身のスーツを着た金髪の中年の秘書らしい人族の男とボディガードらしい皮鎧を着込んだ屈強な体格のこれも人族の男の戦士を従え、馬車に乗ってきたであろう人物が入り口から中に入ってくる。


 やはりキングスレー会頭であった。


 キングスレーはすぐに俺達を認め、「おお」と声をかけてくる。


 見慣れぬ俺達を見て一瞬、身を硬くした戦士ボディガードであったが、気軽に声を掛けた会頭の方を見て、表情を緩ませる。


「今日はどんな用向きかな?」


「立ち話も何なので」


「そうか―――悪いが、今日は予定が一杯でな―――ええと」


 キングスレーは秘書の方に振り向くと自分の予定を確認するように促す。


「会頭、最短で明後日の18時から30分限りならお時間が取れます」


「と―――言う事だ。悪いが都合は合うかな?」


「こちらは問題ない、よろしく頼む」


「では、また明後日の18時にな」


 会頭が去ると俺はマルコに頼んで正式な契約書を締結して貰った。


 契約書を受け取ると、俺とフェスはキングスレー商会をあとにした。


 この後の予定をフェスと相談する。


「会頭とは明後日夕方ののアポイントが取れましたね。今日はどうしましょうか?」


「冒険者ギルドに行って、何か良い依頼があれば受けたい。無ければ、この前ケルベロスを召喚した草原でスキルアップをしたい」


「スキルアップ……ですか? 具体的には?」


「飛翔魔法と召喚魔法だな。飛翔魔法を習得できれば戦闘の際にも役立つだろうし、瞬間移動テレポートとの合わせ技で行動範囲も広まる。召喚魔法はケルベロスとは違うタイプの使役魔を確保しておくのが目的だ」


「いいご選択です。ただ飛翔魔法は魔力型の物になりますね。風属性の飛翔魔法は私は使えませんのでお教えできません。あと、新たに召喚する使役魔の候補はお考えですか?」


「ん―――候補はいるよ」


「かしこまりました、ではとりあえず冒険者ギルドに向かいましょう」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キングスレー商会から冒険者ギルドに着いたのは午前8時30分過ぎであった。


 やはり朝の冒険者ギルドは依頼を探す冒険者達でごった返している。


 そういえば初日に馬鹿に絡まれたっけ?


 あいつら、あれから、どうしているかな?


 俺達がギルドの入り口から中に入ると前回好奇の眼差しとはとは違い、一斉に畏怖いふの視線が向けられる。


 例のオークキングをはじめとした3,000匹討伐の件が知れ渡っているからだろう。


 声をひそめた話し声が飛び交う中、俺とフェスは受付カウンターに進む。


 お約束通り、若い女性職員が居る受付カウンターは混んでいるので、俺は40歳くらいのおっさんがいるカウンターへ進む。


 俺達の前に2人程並んでいたが、おっさんの手際はいいらしく、あっという間に俺達の番になる。


 俺はギルドカードを提示するとおっさんの職員に尋ねた。


「依頼を受けたいんだが―――何か良いのはあるかい?」


「良いのじゃあ、わからんな」


「……そりゃ、そうだな。悪い、初日に色々あったんで手順に慣れていないんだ。

教えてもらえるか」


「ほう―――いきなりBランクになった割には礼儀正しいな」


「そりゃ、当たり前だろ、俺だって目上は敬うさ、普通はな」


「はっははは。確かにあの馬鹿どもは普通じゃあなかったな。成る程、道理だ。お前達はあのオーク共の件でちょっとした有名人さ。さらにギルドマスターのお気に入りって事だしな。かといって俺はあんた等の機嫌を取って、取り入ろうとは思わんが」


「はっきり言うな、おっさん。でも逆に安心できる。で、いろいろ教えてもらえないか」


「おう! 俺はハンスだ、ハンス・ダウテ―――よろしくな」


「俺はジョー、ジョー・ホクトだ」

「私はフェスティラ・アルファン、フェスと呼んでね」

「よし、じゃあ改めて教えておこうか。ランク別の色って知っているか?」


 俺が首を横に振るとダウテは軽く、頷いて話し始めた。


「冒険者ギルドでランクを象徴する色ってのがある。Sが金、Aが銀、Bが銅、Cが赤、Dが青、Eが黄、Fが緑、Gが紫だ。お前達の立っている後ろに枠が色別になった掲示板があるだろう。そこに貼ってある依頼書がそれぞれのランクに対応した依頼だ。Sランクの依頼は滅多に出ない。ジョーとフェスはBランクだから、ギルドの規約から2つ上の依頼まで受けられる。つまり金と銀と銅の枠の掲示板に貼ってある依頼が受けられるっていう事だな。もちろん下位ランクの依頼を受けても構わんよ。あと依頼は早いもの勝ちさ。依頼を申し込むには、依頼書を剥がして持ってくるんだ。ただカウンターで受けられるかどうかの可否は確認させてもらうがな」


 俺達が後ろを振り向くとダウテの言った通り、金から紫の枠の掲示板が並んでいる。


 それらにはいくつもの依頼書が貼り出され、食い入るように値踏みする者。


 剥がしてカウンターに持ち込もうとする者。


 中には依頼書をとりあおうとしている者達さえ居た。


「あと貼り出されない依頼もあるぞ。ギルドマスターから聞いたかもしれんが―――指名依頼とかな。あとはカウンターの職員の判断で出す依頼もたまにある」


「成る程、で、ハンス。俺達は討伐系の依頼が希望なんだが」


「討伐系か……うん、あるぞ」


「ああ、そうだ。忘れていた。あと明後日の夕方に人に会う約束があるから

時間に猶予があるか、期限無しの物がいいんだが」


「よし、じゃあ……尚更だな。いきなりだが掲示板に張っていない俺の判断で出す依頼を頼んでもいいか?」


 含みのある言い方だ。


「話の内容次第―――そして報酬次第だな」


「はっははは。道理だ。……実はな」


 俺とフェスはギルドの職員=ハンス・ダウテが話し始める討伐依頼の内容をじっくりと聞こうと姿勢を正したのだった。

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