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第40話 地下倉庫で

 俺とフェスは今、屋敷の地下の武器倉庫の中だ。


 俺の魔力波オーラによって点灯けられた魔導灯が、淡くぼんやりと倉庫全体を照らしている。


 そこには整然と置かれたいろいろな武器や防具。


 そして魔道具マジックアイテム、その他素材が多々置かれている。


「おお、思ったより、いろいろ置いてあるんだな」


「そうですね、ちゃんと整理されていますしね」


「この分だと、書斎のどこかに目録と言うか記録が残っているかもな」


「とりあえず―――今日はさくっと見るだけですね」


「そうだな」


 まず一角を見ると銅、鉄、鋼鉄そして銀、ミスリルいろいろな素材の武器がある。


 中でも剣はロングソード、ブロードソード、レイピア、バスタードソード、クレイモアなど


 大振りの物からショートソードやグラディウス、ダガーなどの小ぶりの物まで多数ある。


 付呪エンチャントされた物も多い。


 鍛冶の工房にあった魔力波オーラの残滓に近い魔力が感じられる物もあるので、持ち込まれてから付呪された物もありそうだ。


 付呪エンチャントか―――いつか俺もやってみたいものだ。


 流石に鍛冶までする気は無いが、工房もあるので興味が無い訳では無い。


 俺は一振りのミスリル製のロングソードを手に取ると軽く振ってみる。


 魔法剣士である俺の武器は出来れば魔力波オーラを通しやすい素材が良い。


 クサナギは古一文字刀と呼ばれる鋼製の日本刀、こちらの世界で言うヤマトがたなである。


 鋼はミスリルの伝魔力には劣るが、俺と刀の精霊であるクサナギの魔力融合の相性の良さでそれを補って余りある。


 俺はミスリル剣を有った所に戻す。


 剣自体、使えなくはないが、クサナギの方が身体に馴染んでいるせいもあってずっと使い易いのだ。


 武器は他にカルメンの使っていたハルバードや 戦鎚ウォーハンマー、いろいろな形のメイス。


 他にスピアーなどもある。


 他の武器の適性も試してみたいけど、またクサナギが焼餅を焼きそうだ。


「フェスはどうだ? 今使っている武器と比べて?」


「ホクト様、皆、そこそこ使えるレベルでしょうが、今、使っているフランベルジュより、ぴったりくるのは、ありませんわ」


 フェスのフランベルジュレイピアも魔剣といっていい。

 フェスの意に沿って炎をまとったり、飛ばしたりする。

 彼女との相性の良いあれほどの武器もなかなか無いだろう。


 次は防具か……


 まず鎧は、こちらもいろいろな皮革を使用した革鎧レザーアーマー、チェーンメイル、クロスアーマー、スケイルメイル、薄片鎧ラメラーーアーマー、そしてごついプレートメイルといろいろあったが、俺がピンと来るものは無かった。


 フェスも微妙な表情だ。


「そう言えば……」


「どうしました?」


「俺とフェスの革鎧レザーアーマーって型も材質も似ているけど、これって一体?」


「お揃いですよね、ふふふ。見た目は地味ですけど―――ルイ様の所のものが普通の物であるわけはありません」


「だよなぁ、明らかに俺のサイズと違っていたのに。着ると、ぴったりって―――これは?」


「ふふふ、答えは、竜皮ドラゴンスキン製の鋲付革鎧スタデッドレザーアーマーです。しかもホクト様がおっしゃったように装着の付呪エンチャント以外にも竜皮特有の対物理・対魔法が発生する優れ物です。―――ただ唯一の欠点は」


「欠点って?」


「この世界には竜の国がありますが、そこには装着して行けませんね、目の仇にされますから」


「そりゃ、確かに納得だな」


 次に盾を見てみようか?


「フェス、盾はどうだい?」


「盾ですか?」


「フェスはバックラーを使っていたよな」


 バックラーとは白兵戦などにおいて威力を発揮する小型の盾である。

身軽に振舞うために直径が30㎝程の物が多く、手に持ったり肩から下げて、敵の攻撃を直接受けるのを想定している。


「確かに今使っている物をそろそろ代えたいとは思っていましたが」


「いいのがあるかな? ―――そのミスリル製とか、どう?」


「う~ん、……やっぱりやめときます。今、使っている物を修理して付呪エンチャントを掛け直します。結構、愛着もありますので」


 フェスも俺と同様、物に対して愛着が湧くタイプなのであろう。


 ちなみに俺は盾はパス。

 イメージ的に盾を持っているサムライは居ないものなぁ……


 次に兜だが、俺は今、被っていないので、良いのがあればと思い、様々な兜を物色してみる。


 古の都市国家スパルタのピロス型、同じくマケドニアのトラキア型の物、造りが簡易ながら実用的なノルマン型、そしてイタリア発祥のバルビュータ型くらいまでは古風で厳しい感じの物も多いが基本、嫌いではない。


 ただし顔を全部隠す、グレートヘルム型は安全面では優れているが、圧迫感が有り過ぎて勘弁。


 俺が気に入ったのはサーリット型と言われるバイザー付きの物。

 バイザーを下げると鼻部分までカバー出来る程良さが良い。


 でも、今着ている、この革鎧に質感が合わなくて、全体のバランスが悪くなるから却下かな。


 俺もずぼらに見えて、実はこだわりがうるさいね。


「ホクト様―――拘りがあるのは私もですよね」


 えっ~とフェスは?


 見るとフェスが微妙に微笑んでいる。

 ここは同意していた方が良いか?


「え、えっと、そうだよね」


「でもホクト様みたいに【ず・ぼ・ら】ではありませんが」


 はいはい、分りました!


 ―――もう! 部分的に、強調しなくてもいいよ。


 最後に道具アイテム関係か……


 これも付呪エンチャントされた物が目を引く。


 ただし俺は鑑定のスキルを持っていないので正確な所は分らない。

 発生する魔力波からの、なんとなくの判断ではある。


 魔道具は特に指輪リングが多く、タリスマンやアミュレットも様々なタイプの物があった。


 身体強化・加速・膂力強化、属性別の耐性はわかるぞ。


 この魔力波は分らない。

 フェスに聞くと軽量化ではとの事。


 軽量化? 


 ああ、成る程、身に着けた鎧などの装備を軽くして、戦う時の身軽さの補完や遺跡や迷宮でお宝を獲った時や魔石などを少しでも多く運べる為の魔法だな。


「それ以上に―――軽量化の魔法は飛翔魔法の基礎にもなりますね」

 とフェス。

 

 身を軽くするかを突き詰めると―――成る程ね。


 宝石ジェムも多い。

 こっちも僅かながら魔力マナを感じるな。


 おびただしい数の何種類もの金属のインゴットもある。

 この屋敷の元の主人って鍛冶と錬金を両方やったって聞いたが本当なんだな。

 得たいの知れない錬金術用の素材とポーションもたくさんあった。


 ポーションって……


 だいぶ古そうだけど、賞味期限とか有るのかな、これ?


 鍛冶と錬金の工房の物をとりあえずここに仕舞ったって事か。


 俺がふと目をやると一角にひとつの宝箱が置いてある。


「何だろう? フェス」


「わかりませんが、鍵は当然として、罠もかかっているようですよ」


「罠?」


 確かに宝箱には罠も付き物だ。

 そしてフェスが首を傾げている。


 罠に関してはお手上げのようだ。


「残念ながら私には解除できません。今度本職を呼びましょう」


「え、本職って?」


「ビッキーですよ」


「成る程な―――じゃあいずれ来てもらおうかな」


「そうですね」


「結局、収穫は無しか」


「まあ私達に合う武器防具は限られますからね、仕方がありません」


「あの変な宝箱だけ気になるな。なるべく早めにビッキーに来てもらおう」


 フェスは愛弟子? のビッキーのシーフとしての能力を随分、買っているようだ。


 更に契約書はかっての親友の私財だったこれらの物を一切譲るとしてあるが、フェスは筋を通しておこうと主張する。


 

「あとはキングスレー会頭に一応、この地下の武器防具や資材の事を報告しておきましょう。そして問題なければ、使用・売却の了解を取りましょう」


 確かに!


 流石、フェスは思慮深く、義理堅い女の子だ。


「そうだな、契約書には譲ると記載されていたが正直、ここまでとは思っていなかった。会頭チャールズには筋を通しておこうか」


 地下の武器庫から戻った俺とフェスはまずスピロフス、ナタリアの魔力波を、魔法鍵マジックキーとして門、扉、地下室2つ、別棟2つに対して登録する。


 そして俺は1階の部屋を個室としてそれぞれ1つずつ使うよう2人に伝えたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「大事な事を忘れておりました」「忘れておりました」


 スピロフスとナタリアが最上階の主人用の部屋でくつろいでいる、俺とフェスの所にやって来た。


「ホクト様の事を普段どうお呼びするかです」「お呼びするかです」


 俺は今まで通り、ファーストネームで呼ぶ事を勧める。


「いいよジョーで、皆、大体そうしているし」


「私めとナタリアは使用人です。断固、却下ですな」「断固、却下ですな」


 スピロフスとナタリアにきっぱりと断られてしまう。

 

 何だ、これ? 俺が命令されていて、立場が逆のような気がするが。


「じゃあ、今、呼んだように名前でどうだ?」


「同じく断固却下ですな」「断固、却下ですな」


「何だよ―――理由は?」


「お名前の響きは別にして、【美しくない】からですな」


「美しくないって失礼な! 何か希望があるのだろう? いいよ、じゃあ、そっちから提案してくれ」


「お名前の響きではございませんのに……ではよろしいですか? 私めにお任せいただけると言う事で」


「……いいよ」


「ではご主人様マスターとお呼びさせていただきます」


ご主人様マスター? 何だか偉そうだな、俺」


「お偉くおなりいただきたく、いやなっていただかないと困りますな。あのルイ様が見込まれた方ですから」


「方ですから」


「そこまで言われると、何かプレッシャーを感じるな」


「感じてください。そしてプレッシャーなど跳ね飛ばしてお偉くおなりください」


「お偉くおなりください」


 最後に俺はナタリアに言葉でとどめを刺されてしまったのだった。

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