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第35話 打上げ会と告白会

「行ってしまったな……」


 カリーネ達、バウケット村の女達を見送り終わるとカルメンが寂しそうに呟いた。


「そうだな。また気にかけてやろう。同じ街に居る限り会う事もあるだろうから」


「…………」


「そう落ち込むな。それより、今夜晩飯を一緒に食わないか? 俺のおごりで」


「!」


「情緒の無い店で悪いが【大飯食らいの英雄亭】に予約を入れてある。普段は予約を受けない店なんだが、何とか店主に頼み込んでな。もし、お前がよかったらだが」


「…………」


「どうした? 嫌なのか? 俺もこの街へ来たばっかりで他に美味い店を知らなくてな。次に食う機会があれば、もっと違う店の選択肢もあるんだけどな」


「…………」


 返事が無いのでカルメンの方を見ると彼女は真っ赤になって俯いている。


「おい?」


「……じゃあない」


「ん?」


「俺は嫌じゃあない! と言ったんだ」


「よし! じゃあ今夜7時に【大飯食らいの英雄亭】でな」


「ま、待て……俺にも覚悟が」


「ん、覚悟? 何だそれ? それよりこっちはフェスには了解を取ってあるから、お前も他の3人に伝えておいてくれよ」


「なっ!? ふ、ふ、ふ、2人ふたりきり……じゃあないのか?」


「は? これは今回の依頼ミッション慰労会うちあげだぜ。皆でやらなきゃ、意味が……ぶっ!」


 俺が全てを言い終わる前にカルメンのぐーぱんちが飛んで来た。


「馬鹿!!!!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それでどうなったんですか?」


「あいつらの泊まっている宿方面に走って一目散だよ……それっきりさ」


「全く……ホクト様は女心を全然わかってらっしゃいませんね」『そうですよ』


 ホテルバートクリードに戻った俺は、またフェスとクサナギに叱られていた。


「いいですか、絶体絶命の危機ピンチに現れて自分を助けてくれた。しかもお姫様抱っこまでした男性ひとに対して女性がどう思うかって、少しはお考えになった方がよろしいですわ」


『全くです……お姫様抱っこは我々の憧れです』


 フェスの突っ込みに対するクサナギの合いの手が絶妙になって来ている。


 一時のあの険悪さは何だったんだろう?


 まあ仲が良いに越したことはないけど。


「そうですよ、お姫様抱っこは…… い、いやコホン。とにかく司祭見習いの子といい、ギルドマスターの姪といい、ホクト様は簡単に女性の心をかき乱し過ぎです!」


 そんな事を言ってもなぁ……


 俺は大事な仲間を助け、力づけたつもりだったんだけど。


 ん? ジュディ? 何でここに彼女が出てくるの???


「ま、まあ……そういう所がホクト様の良い所なんですけどね。今回みたいな時は先に慰労会うちあげを開く趣旨を伝えるべきでしたから」


「以後……気を付けます」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「全く……よく考えたら、何故? 私が恋敵ライバルのフォローを。クサナギさんだけで手一杯だというのに」


 フェスが何故かぶつぶつ呟いている。


「ん? 恋敵ライバル???」


「なっ、何でもありませんわ。さあ、もうまもなく時間です。支度したくをして出かけましょう」


「でも来るかどうか、分らないぜ」


「来ますよ、絶対。それが【恋する女】ってものですから。それにどちらにしろ予約を入れていますからね。私達も行かないわけにはいかないです。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 30分後……


 きっかり午後7時に俺達は全員フルメンバー揃って、【大飯食らいの英雄亭】に集まっていた。


 テーブルの上には、なみなみとエールが注がれている大きな陶製のジョッキが人数分、並んでいた。


 俺が簡単な挨拶と乾杯の音頭を取る。


「今回、初めての組み合わせの2つのクランが、各自が持てる力を出してしっかり依頼を達成できた。メンバーには大事も無く無事に生還できた。いろいろ思う所はあるかもしれないが……今はそれを素直に喜ぼう。そして、この素晴らしい出会いに……乾杯!」


「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」

『乾杯!』


 カッチーン、ガチン!カチャ!


 ジョッキが合わされ、皆美味そうにエールに口を付ける。

 もちろん俺はクサナギにも意識を繋げてある。


「おう、お前達、今回は大手柄だったな! 俺も腕にりを掛けて美味い料理を作ったからな、今日は存分に楽しんでくれ」


 俺達が乾杯しているとこの店の料理人シェフであり、経営者オーナーでもあるダレンが満面の笑みを見せて近付いてきた。


「あの筋肉達磨アルデバランに俺の推薦って言ったかい?」


「ぷっ!」


 ビッキーが飲んでいたエールを吹き出した。


「どうした? 嬢ちゃん?」


「すみません……ビッキーです。でも筋肉達磨同士そう言い合うのも……」


「何ぃ!」


「ば、馬鹿、ビッキー、あの何でもないんです、気のせいです」


 焦ったセシリャが一生懸命フォローする。


「がははははは! まあいい、あいつも俺の事をそう呼んでいるんだろ」


 そこに熱々の料理が可愛いメイドコスチュームの給仕さん達の手で運ばれてくる。


 この前俺がマルコと一緒に食べたヴァレンタイン王国産の料理はもちろん

 ※ちなみにこんな感じでした


 ヴァレンタイン王国産の小麦を使った焼きたて熱々の黒パン

 ヴァレンタイン王国産豚の塩辛い腸詰

 ヴァレンタイン王国産の色鮮やかな野菜のサラダ

 ヴァレンタイン王国産のコンソメスープ

 ヴァレンタイン王国産鶏の香草包み焼き

 ヴァレンタイン(シーメリアン)王国産の干魚の網焼き

 ヴァレンタイン王国産牛の脂身をたっぷり纏った熱々のステーキ


 こういった物に加えて今日は……


 北部大森林地区から取り寄せたワイルドエルクの薄切り肉料理エスカロープ


 アルトリア王国産の兎の赤ワイン煮


 ……そしてヤマト皇国産の米を使ったヴァレンタイン風パエリアである。


 普通に炊いた米が好きな俺もこの世界の米の存在にまず喜び、肉と野菜、魚を独特の味付けで炊き込んだパエリアに舌鼓を打った。


「ホクト様、嬉しそうですね、でも焦げた所を好んで食べるとは?」


「おいおい、フェス、ここが特においしいのに……」


 本家のパエリアもソカラ・・・と言われるこの部分が、一番美味いと俺は思うがね。


「ま、試しに食べてみたら?」


「?………!!!!」


 怪訝な表情でおこげの部分を口に運ぶ、フェス。

 

 しかし、口に入れて咀嚼し、舌に料理の旨みを感じた瞬間、フェスの反応が一変した。


「な! 美味いだろう?」


 俺が同意を求めると、何とフェスは鍋の焦げた部分の殆どをこそいで、自分の皿に移してしまう。


「あ~!!!!!」


「……ホクト様、私は戦士、気持ちは常在戦場ですので!」


「は!? ……何じゃそりゃ」


 俺がフェスにパエリア風料理を横からゲットされるの見ていたブランカ・ギゼがおずおずと話しかけて来た。


「ジョー……」


「お、ブランカ、お疲れだったな」


「今回、私は全然役に立っていませんわ」


「何、言っているんだ。お前の回復魔法が無ければ皆の怪我も悪化していた筈だ。お前は鋼鉄の聖女アイアンメイデンのメンバーに無くてはならない人間だ」


鋼鉄の聖女アイアンメイデンの……ですか? あ、あの……」


「ん?」


「ジ、ジョーに無くてはならない女性ひとになるには、どうしたらいいんですの?」


「ぶっ!」


 俺は思わず飲んでいたエールを吹き出す。


「なっ!」「!」


 俺の脇でパエリアのおこげを食べていたフェスと端で珍しく静かに飲んでいたカルメンがぴくりと反応する。


「ブランカ……お前?」


「ジョー、私はいつも引っ込み思案ですので……今、お酒の力を借りています。正直、フェスさんや姉御カルメンに今はかないませんが……いずれ……いずれ絶対に勝ちます……だ、から……」


 ブランカはそう言うと、へなへなと俺の胸に倒れこむ。


 それを見たビッキーとセシリャがすっ飛んでくる。


「ジョー、御免ね、彼女ブランカ、お酒が弱いのに珍しくピッチが早いと思ったら」


「でも……あの大人しいブランカがあんな事言うなんて、相当だよ」


 俺はダレンに頼んで店の3階の宿泊用の部屋を取り、ベッドにブランカを寝かせてやった。


 給仕さんの1人(もちろん女性)が見ててくれるそうだ。


 俺は彼女が気が付いたら呼んでくれるように頼んで席に戻った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ブランカさん、真剣ですね。今まで男性恐怖症だったんで、その反動もあるのでしょうが、でも、私も頑張りますよ、負けません絶対に!」


 フェスのワインレッドの瞳が強く真っ直ぐに俺に向けられている。


 そして俺のこころに声が響く……クサナギだ。


『私もですよ……ホクト様。私が一番ハンデ背負ってますけど……頑張ります』


 リア充爆発しろってか?

 

 実際、皆いい子達だし、こんな娘達にここまで想われるのは男としては嬉しいし、誇らしい事だ。


 ただ俺の前世の恋愛経験を考えると現実感は全く無いけど……


「もう一人、も~っと不器用な女性ひとが居ますので……ホクト様からお声を掛けてあげた方がよろしいですわ」


 フェスが悪戯っぽく笑う。


「私達は常にホクト様のお側に居ますからそのくらいは……ホクト様のお国の言葉で【敵に塩を送る】って事ですわ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おう、カルメン―――お疲れさん!」


「…………」


 俺は何事も無かったかのように呼びかけるがカルメンは無言だ。


「あの、さっきは悪かったな」


「……ジョー!」


 しかし俺の謝罪の言葉は耳に届いてい無いようだ。

 

 それ以上に気になる事を一心不乱に考えていたのであろう。


「何だ!?」


「お、お前は、やっぱりさ。せ、世間の男と同じで……おしとやかで可愛い女が好きなのか?」


「…………」


 その質問はカルメンが自分と対比しているのとは明らかで俺は答えに困ってしまった。


「ブ、ブランカは、同じ女の俺からみ、見ても……そ、そんな女だ。それに比べて俺は、こんなにがさつな女だ。と、到底勝てないよ、……だから」


「!?」


「ブランカを幸せにし「待て!!!」てや……」


「カルメン!」


「?」


「お前は俺を誤解している」


「???」


「俺はまだまだ未熟だ、精神的にももろい餓鬼だ……お前に最初、呼ばれていた通りにな」


「…………あれは…悪かった」


「いや、実際そうだ。今回の仕事ミッションでよくわかった。俺はもっともっと強くなりたいんだ、心技体全てにな」


「…………」


「お前を助け出せた時、俺は嬉しかった! お前は大地の女神のような美しさと逞しさを持った優しい素晴らしい女だ。そんな女を助けられて男冥利に尽きる」


「!!!」


「だからだ!」


「?」


「俺はもっと皆に相応しい男になるよう頑張る。いつまでかかるか分らん、分らんが、その時にそんな俺でも良いと思ってくれたら……な」


「ジョー……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 給仕のお姉さんが、ブランカが気が付いたと知らせてくれたので、俺は部屋に様子を見に行った。 


「気が付いたか?」


「私……ここは?」


「ブランカ…お前はエールを飲み過ぎて眠ってしまったので、俺がダレンに頼んでこの部屋を取った。宿泊所になっている部屋だ。隣の部屋も含めて押さえておいたから、よかったら他のメンバーと今夜は、ここに泊まっていけ」


「……私、何か……凄い事を言った記憶があります。ああ……思い出しました……は、恥ずかしい」


「いや……ありがとうな、ブランカ。……俺は嬉しかったよ」


「え?」


「ただ、俺はまだまだ半人前だ。今回の事でよくわかった。さっきカルメンにも言ったが俺はもっと強くなる。心技体を鍛えて、皆に相応しい大人の男にな。いつになるかわからんが、その時にお互いがそういう気持ちだったら」


「ジョー……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 こちらは師弟コンビとなった? フェスとビッキー。


「今回は本当にありがとうございました。何度も言っていますけど私、フェスの姉御が目標ですから」


「その呼び方は少し抵抗があるけれど、まあいいわ。貴女は素質があるし、でも無理は禁物よ。私達、冒険者はまず生き残る事が肝心なの。あなたとセシリャでクランの平常心を巧くコントロールしてね」


「……何気に凄い観察力ですね」


「だって皆、キャラ立ち過ぎでまるわかりですもの」

「あはははは……確かにそうですね」


「ふふふ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ずっとエールを飲みながら考え込んでいたセシリャがカルメンに話しかける。


姉御カルメン!」


「どうした? セシリャ?」


「私の課題がはっきりしたぞ! 脱・砲台だ!」


「そうか……」


「反応が薄いな? 私が加速の魔法をもっとレベルアップすれば、クランの戦闘力が格段に上がるぞ」


「……おセシリャ……」


「何だ?」


「この前、飲んだ時も…全く同じ事言ってたぞ」


「…………」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時間も店の閉店に近づいた。


 ブランカも先程から席に戻っている。


「そろそろお開きだ…… ダレン、今日も最高の料理だった」


「おう、また来てくれよ!」


「じゃあ、カルメンに締めて貰う……カルメン!」


 俺はダレンに料理の礼を言い、カルメンを促す。

 

 俺に促されてカルメンが席から立ち上がる。


 さっきから彼女がたまに独り言を呟いていたのは、この中締めの為の練習だったらしい。


「今日は皆、お疲れ様だったな。いい仕事ミッションをして、いい酒を飲み、いい料理を食べる。冒険者である我々は常に、こうありたい!」


 少しエールが入ったカルメンは肌が上気して、いつになく饒舌だ。


「今回は素晴らしいクラン黄金の旅ステイゴールドに巡り会い、いい仕事ミッションが出来た。特に我々の男性への嫌悪感をやわらげ、尊敬の念を持たせてくれたジョー・ホクトに感謝したい」


 カルメンはそう言うと俺に対して意味ありげに微笑んだ。


「我々鋼鉄の聖女アイアンメイデンは男に負けないと言う方針スタンスでやって来た。それは今後も変わらないだろう。ただ今までのような矮小わいしょうな視野で仕事ミッションをせず、クラン黄金の旅ステイゴールドに追いつき、追い越せで頑張ろうと思う。ありがとう、黄金の旅ステイゴールド……そして乾杯!」


「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」

『乾杯!』


 こうして俺への初依頼ファーストミッションは完了した。


 この世界の非情な現実に触れる事にもなったが、俺にとっては素晴らしい経験になったのだった。

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