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第28話(閑話)ビッキーの気持ち

 ビッキーは心地よい緊張感に身を任せながら森の中を駆けていた。


 初めてだった……こんな出会いは。


 常に冷静でいて度胸もあり、底が知れない魔法剣士。


 魔法剣士なのに自分がシーフとしてつちかって来た能力ものを簡単に超えてしまう人。


 一見、男勝りでも笑顔が素敵な女性としての魅力に溢れた人。


 違うクランの人間にも気さくに接してくれる人、それがフェスティラ・アルファンだ。


 自分に語らせてくれれば、もっと彼女フェスの魅力を語れる自信がある。


 そんな冷静なあの人が我を忘れた時があった。


 私があの人が信じ、愛する人を【男性】と言うだけで確たる根拠も無く、信頼に値しない人間として蔑み、罵倒してしまったのだ。


『後ろから矢は飛んで来ないだろうね?』


『ビッキー!?』


『何を言ってるんだい?』


『はっ、安心して背中を任せられるかって聞いているんだよ』


 他のメンバーからは咎められたが関係ない。


 単に男と言う事だけでは無く、私はジョーが何となく嫌いだった。


 だから物言いがいちいち反抗的になるのだ。


 ジョーは私の感情に任せた物言いにも、冷静に返してくれる。


『信じてもらえないなら、それでもいいが、俺がお前等を後ろから撃って何のメリットがある』


『…………』


『別に俺とフェスで先行してもいいが?』


 私は何も言い返せなかった。

 正論だからだ……


『今回の状況から後方へ攻撃を受けた時に我々だけでは戦力的に辛くなる、ホクトの判断は賢明だ』


 姉御カルメンまでもが、あいつの肩を持つのか?

 

 あの男嫌いな姉御が……


 『はっ! たかがオーク如きに』


 私の感情的な発言は自分でも止められなかった。


『いつものビッキーじゃあないよ』


『無鉄砲は身の危険だって―――貴女あんたが言っている事でしょ』


 結局、冷静さを欠いた私は他のクランメンバー全員からなじられてしまう。


 私にとっては凄いショックだった、あんなに信じあった仲間達に苦楽を共にして来た仲間たちに……


 絶望的な孤独感を覚えた私は苦し紛れに暴言を吐いて、あのフェスの逆鱗に触れてしまったのだ。


『わ、わかったわよ…。みんなもう丸め込まれたのかよ。こんなヤローにさ!』


 その瞬間、私の頬に鈍痛が走り、私の体は後方に吹っ飛んでいた。


『先ほど念を押した筈です。これ以上、ホクトへの侮辱は許さないと!』


 あの人は私の子供のように感情的な無礼さを叱り、女から見ても魅力的な深いワインレッドカラーの瞳を憎悪に燃え上がらせて、私を睨みつけていたのだ。


 私は吃驚びっくりした。

 

 頬を張られた痛みよりも、いつもあんなに冷静な彼女が見せた激しい怒りに。


『済まなかったわ!いつものビッキーじゃあないの、許してあげて!』


『お願い、姉御フェス!』


 ブランカとセシリャも同様に吃驚びっくりしていた。


 だが彼女達はこんな私の為に懸命に執り成してくれたのだ。


『こいつの失態は俺の責任だ……この通り、俺が悪かった』


 へ!? 姉御カルメンまでが!?


 私の為に……?

 

 私の失策はまるで自分の失策だと言う様に……


 姉御カルメンの謝罪に呆然としている私は彼女フェスが冷静に姉御カルメンに言い放つのを聞く。


『謝るのは私へではなくホクトへよ』


『そうだな……わかった。本当に済まなかった、ホクト』


 謝罪した……自分の失策でも無いのに。


 あのプライドの高い姉御カルメンが……


 自分が悪くても男だけには決して謝ろうとしないウチのリーダーが!?


 私は姉御カルメンジョーに頭を下げているのを見て、頭の中が真っ白になってしまった。


 でもその次のジョーの言葉はもっと信じられない物だった。


『ジョーでいい、こちらこそだ。いきなり俺がリーダーづらしているんだ、ビッキーの気持ちも判るさ』


 私の面子めんつを立てて恥をかかせないように気遣ってくれた。


 クランの皆に支えて貰って冷静さを失っていた私もやっと素直に謝罪の言葉が出せたのだ。


『ご、ご免よ……あたいが悪かった』


 さらにジョーは私が立場を挽回できる嬉しい事を言ってくれた。


『いいさ、期待してるぜ。ビッキー、お前の索敵に俺達の命運・・がかかっているんだ』


『えっ!?』


『当然だろう……勝手のわからない敵の真っ只中に行くんだ。フェスとお前の役割は重要だ』


『そ、そうか! あたい達の命がかかっているんだものね。……ん、頑張るよ、絶対!』


 ジョーはこんな私に仲間としてやり直せるチャンスをくれた。


 私の仕事にクランの命運がかかっていると言ってくれたのだ。


 フェスには偵察の仕事ミッションの際、よくしてもらった。

 私に足りない、いろいろな事を教えてもらった。

 頑張ればクランの役に立てると力づけてくれた。


 素直に嬉しい!

 

 もっと頑張りたい!

 

 生きている事にこんなに充実感を覚えるのは初めてだ!!!


 ただ不思議なのはクラン黄金の旅ステイゴールドとは碌に話した事も無いのに、何故、お互いをこんなに理解し合えるのかと言う事だ。


 これは私だけではない。


 あの男嫌いなリーダーのカルメンでさえジョーに仄かな想いを寄せているのだ。


 まあいい……今、私はいい師匠に出会え、いいクランと仕事が出来ている。

 

 ジョーのお陰で男性恐怖症も治ったようだ。


 さあ後は仕事ミッションをこなすだけだ。


 オークの気配が迫ってくる。


 震える……オークでも50匹もの群れを1人で相手にするのは流石に恐ろしい。

 

 今までの私だったら適当に理由を付けて逃げているに違いない。


 でも私は認められたい!あのクラン【黄金ステイゴールドの旅】に!


 あのフェスを目標として……いずれ超えたい!


 そして私を庇ってくれた素晴らしい仲間達に報いたい!


 オークの群れが私を見つけたようだ!

 殆どのオークが目の色を変えて私を追ってくる。


 怖い!


 ……おぞましい波動が伝わってくる。


 あんなのには、もてたくないが今は我慢だ。


 はは……私は囮。


 このまま、連れてってあげる、あんたたちを黄泉路へね。


 私はオークの群れの前に狼煙弾を投げ込む。


 軽い音と共に白い煙が空高く立ち昇る。


 これがクランへの戦闘の合図だ。


 さあ悪鬼オーク共よ……ついておいで!

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