第26話 心変わり
ここは亜空間……俺が作り上げた異質な場所。
逆に俺が入場を許した者以外は入れない強固な城でもある。
かってキングスレー商会の商隊が襲われ、商会と護衛の計3人が死んだ場所の調査をするために俺達、クラン黄金の旅とカルメン率いるクラン鋼鉄の聖女が合同の依頼に取り掛かるべくスタンバイしていた。
「俺の索敵では亜空間のすぐ外には危険は無いようだ。現場はわかっているだろうが、ローレンスとヴァレンタインの国境沿いの街道だ。フェス、早速だが索敵と偵察を頼む。ビッキーは身体強化、加速ともども魔法発動してすぐ行けるな?」
「オッケー! ジョー!」
「フェスに先導してもらえ、無理に突出するなよ、索敵でのオークの識別は大丈夫か」
「多分……」
『フェス、移動はビッキーのペースで、索敵もフォローを頼む』
『かしこまりました、ホクト様』
「OK、フェス、ビッキーは索敵しながら、オークの位置を探りつつ前進。現場の街道沿いを途中まで進み、周辺の森を索敵し偵察してくれ。時間差で俺達も出撃する。打合せ通りに番手はカルメン、中盤はブランカ、セシリャ、後衛は俺だ。そうそう魔力切れには気を付けろよ、やばくなったら申告してくれ」
俺は全員に指示を出しながら、念話でフェスにも話をする。
『ボルハ渓谷はここから距離はあるが、相手の数が数だ……気をつけてくれ』
『かしこまりました! 今回はこの子達が居ますものね』
俺は亜空間の一角に手をかざし、魔力波を送る。
あの夢の魔法の時のような古めかしい移動先への扉が現れる。
本来は変哲も無い穴のような出入り口なのだが、今回は俺の趣味である。
「オークの気配はホクト様が仰るとおり、3km圏内にはありません」
「他の魔物も居る。注意しながら行ってくれ」
「かしこまりました! ビッキー準備はいい?「いいよぉ!」行きます!」
フェスは扉を開け、現空間に出ると発動していた身体強化と加速の魔法を駆使し、流れるような身の動きでビッキーと共に先発した。
「よし、俺達も出るぞ、街道沿いに奴等の気配を探ってから、周囲の森へ入る」
「ね、ねえ?」
「ん? 何だ? カルメン?」
「ジョー、あんた―――周囲3km以内に奴等が居ないって」
「ああ、そうさ」
「ああって―――熟練の索敵魔法の使い手だって1km圏内の索敵が出来れば、凄いのに」
「俺とフェスの索敵はもっと有効範囲が広い、まだまだ行けるぞ」
「はぁ、さっきは味方で頼もしいって言ったけど、 本当にあんたら規格外なんだねぇ」
「だから、言ったじゃない、姉御。この人凄いよって……」
「…………」
「さあ、出撃するぞ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方……フェスとビッキー。
ビッキーはフェスの移動、索敵の能力に驚嘆していた。
あまりにも自分とは桁が違うのだ。
いろいろ自分に対して気を遣われているのがわかる……
「この街道付近で上位種3匹を含むオークの群れ20匹が商隊を襲撃したのよ。ここからは特に注意してね。ビッキー……私について来れますか?」
「だ、大丈夫! ……で……す」
「よろしい! そうそうオークは我々、女性に性的な興奮を感じて、一層、凶暴になって襲って来るわ。その分、隙が出来やすいけど、そのおぞましい波動を受けると体が硬直する場合が稀にあるから……気を付けてね」
「は、はい!」
「ふふふ……ちゃんと返事が出来るようになったわね。貴女も皆も頑張ればもっといい女になれるわよ」
「フェスの姉御のように?」
「ビッキー、姉御はもうやめてね」
「は、はい!」
「私なんかより、ずっといい女にねって事。じゃあ、ここから周辺の森に入るわ。貴女も索敵を開始して! 私の方は、まだまだオークの気配を感じないけど」
「はっ……はい!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方……俺達。
「カルメン、充分注意してくれよ。2人の索敵だって絶対じゃあない。ブランカとセシリャも基本、自分の身は自分で守る気でいてくれ。そうでないと、気が緩みがちになる」
「わかった」「わかりました」「注意するよ」
「それとオークは知っている通り、女性に性的な興奮を感じて襲ってくる。そうなると隙が出来やすいが、その波動を受けると体が硬直する場合が稀にあるからな……気を付けろよ」
これは元々、フェスの知識だ……
今頃、ビッキーにも同じ事を言っているだろうな。
俺達は更に街道を進む。
フェスとビッキーの反応は遥か先だ。
カルメンが俺に言われた通り慎重に進んでいるのとブランカとセシリャの2人があまり加速の魔法に長けておらず俺達、残りのメンバーの進行が遅い為だ。
「すっ……すみません」「加速の魔法は苦手なんだ」
「全然、問題無い。気にするな。逆に魔力を無駄使いせず温存しておけよ」
俺はカルメンにこの附近をどれくらい知っているか尋ねてみた。
「カルメン、ここらの地理には詳しいか?」
「いやそんなには―――ただいくつかの村があった筈だ」
村か、奴等の襲撃を受けていなければいいが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方……フェスとビッキー。
「だいぶ先行してしまったわね、ここらで後続を待ちましょう」
「はい!」
「なかなかの腕前ね。索敵も、もう少し精度を上げれば、格段に貴女達のクランの戦力アップになるわ」
「あっ、ありがとうございます! それにしても不思議です」
「何が?」
「ここに来るまでにいくつか魔物やワイルドボアなどの動物の気配がありましたけど」
「ふふ、低級な魔物や野生動物は私達を避けていたから」
「え?」
「そんなのと戦って魔力を無駄に出来ないわ。ホクト様も多分同様だから後続の皆も大丈夫、安心して」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、俺達。
「なあ、ジョー……」
「ん?何だ、カルメン」
「何か、おかしいんだが」
「何が?」
「ここに来るまでに魔物や動物が結構居る筈だが、襲われるどころか、遭遇さえしないのは異常だ」
「ん…オークの影響もあるかもしれないが、原因は多分俺だよ」
「え?」
「奴等は俺を避けているからな」
「???」
「まあ、詳しい事は内緒だ」
「何だ、何だ。一緒に組んで仕事をしているのに、俺に秘密を持つなんて酷いぞ」
「まあまあ、俺はミステリアスな男という事で……」
「ふふふ、お前がそんなタマか!」
索敵の魔法の高度化で気配を消せば、基本俺やフェスは、察知されないのでそんな奴等に襲われる事は無い。
しかしそれだとカルメン達の気配だけ奴等が捉え、彼女達が襲われるので俺は今回、わざと微量の魔力を出しながら進んでいる。
確かにいろいろな魔物や動物の気配はあった。
しかし、どれもが俺が近づいていくと避けていく。
この世界には誰もが体内に魔力を持つ事は周知の事実である。
そしてその魔力には【格】というものがある。
俺がかって感じた俺を転生させた大いなる存在の意識こそ、その最たるものであろう。
俺、そしてフェスもそうだろうが、格上とも言える魔力から発せられる魔力波……
それが多分、低級な魔物共が避けていく原因なのだろう。
「……ねぇセシリャ」
「なんだ、ブランカ?」
「姉御って、極度の男嫌いだったよね」
「まあな」
「あれは何?」
ブランカが指差した先には男と楽しそうに話すリーダーの姿があった。
「男に媚びる可愛い女の姿だな」
「…………」
「まあ私達も男性に対すると言うか、彼には全然、平気になったが、あれはなぁ……」
「ううううう……」
「どうした? ブランカ?」
「……私が先にいいと思ったのに…先を越されちゃった」
「…………」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
間もなく俺達は先行したフェス達偵察隊と合流していた。
「よし、皆異常無しだな。このパターンでしばらく進むぞ、とりあえず、30分休憩だ」
カルメンがビッキーの変貌に驚いている。
「ビッキー、お前……何かあったのか?」
「はい!私、凄い目標が出来たんです」
「はっ? 口調まで変わりやがって、どうしたんだ?」
「姉御!」
「は、はい!?」
「変わりやがって……何て言葉は不味いです」
「な、何だと」
「特にジョーさんの前では不味いです」
「ななな、何をい、言っている!」
「まるわかりです、さっきから!」
「ななななな」
そのカルメンの反応を見て強く頷くブランカ。
「やっぱりですわ、セシリャ」
「やっぱりだな、ブランカ」
「私、負けませんわ。カルメンといえども」
「は? お、お前本気!?」
「当然ですわ!」
「ホ、ホクト様。今は仕事中ですのでクラン間の風紀を乱すのは」
気がつくとフェスが鬼のような形相で立っていた。
「えっ、俺は何も……」
俺の前世と今を通じて初めてのモ○期か?
何か嬉しいけど…嬉しいけど…俺のせいじゃあ無いよな、これ。
え、何、そのリア充爆発しろって声は……




