第25話 驚愕
翌日早朝5時……
バートランドの正門を出た衛兵詰め所前。
俺達、クラン黄金の旅とカルメン以下4人組のクラン鋼鉄の聖女がクラン合同の依頼に取り掛かるべく集まっていた。
「お早う、カルメン!」
「お、お早う、ジョー。いやホクト」
「どうした、ジョーで構わないんだぜ」
「い、いや、何で俺はお前に対してこんなに気安いんだ?」
「お前達も名の通ったCランククランだ。大事な依頼を完遂するためにプロとしての割り切りじゃあないのか?」
「…………」
「まあ、いいじゃあないか。ビッキー、ブランカ、セシリャ……お早う」
「ウス」「お早うございます」「お早うっす」
それを聞いたカルメンが目を見張る。
「その反応!? ……お、お前達までもか!?」
「何か、私……これから命かけての仕事やるのに女だ、男だって、こだわるのがちっさく思えてさ」
「私が今まで出会った男性とはどこか違うので……とっても気になりますわ」
「単純にこんな実力派のクランと仕事が出来るって楽しみじゃん」
「お前等何故!? と、特にブ、ブランカ、お前……どうして、何故、赧くなっているんだい」
カルメンはクランの他のメンバーの変貌に驚いていた。
俺達、黄金の旅の2人に対して完全に心を開いており、特に男性の俺に対しては昨日までの嫌われようが嘘みたいにフレンドリーになっている。
しかし、当のカルメンだって俺達や他のメンバーから見れば険が取れたと思われるくらいに柔らかくなっている。
「コホン……ブランカさんの態度は大いに気になりますが、とりあえず全員揃いましたし、出発しましょう」
「で、現地への移動はどうするんだい。フェスから移動に関しては問題無しと聞いていたから、クランの馬も置いてきたし、馬車の手配もしていないんだ。仮に徒歩だとしたら日数がかかって食料含めて不具合が生じるよ」
カルメンが訝しげに尋ねると、フェスは手を横に振り、心配無用ですと全員に向けて微笑んだ。
「とりあえず少し街から離れます」
俺達は町の門から南に向かって歩き出す。
俺は鋼鉄の聖女のメンバーの装備を改めてチェックした。
実はRPG好きから来る好奇心で他人の装備が、とっても気になってしまう癖があるのだ。
魔法戦士のカルメン・コンタドールは先日、冒険者ギルドで、試合をした時の板金鎧に身を固めている。
いわゆる薄片鎧という奴だ。
薄板と紐または金属のリベットで組み上げられた鎧である。
防御力はプレストアーマーには敵わないが、比較的、動き易くメンテナンスも楽である。
カルメンの鎧は鋼鉄片を使い、紐は赤の丈夫な魔物製の物を使っている。
防御力を重視した造りになっている…が、眩く映える姿は凛々(りり)しい。
頭にはバーブートタイプの兜を被り、手には赤い柄のハルバードを抱えている。
シーフのビッキー・チャバリは俺やフェスと同じ革鎧。
ただ俺達の鎧がスタデッドレザーアーマーと言われるような付呪されたらしい金属鋲を打って魔法強化した革鎧なのに比べると造りは至極シンプルである。
同じ革色の兜を被り、手には一双の短剣。
先ほどから俺をちらちら見てくるクレリックのブランカ・ギゼは、金属の輪を編んで作ったチェーンメイルを着込み、頭にはフードを被って、その上に鎧同様のコイフを着用している。
腰には魔を払うと言う純銀のレイピアが光っている。
ちなみにGAMEではよく僧侶が非力で剣を装備出来ず鈍器を装備したりするが、本当はメイスなどの鈍器の方が中型剣などよりよっぽど膂力が必要ではある。
この世界では日本の僧兵が槍などの刃物を使うように、僧侶も鈍器だけではなく、よく剣も使用しているのだ。
ウイザードのセシリャ・ベィティアは萌黄色のクロスアーマー。
クロスアーマーには弱めの物理防護の魔法がかかっているようだ。
同素材同色の帽子を被り、手には魔力発動に適したミスリルの杖を持っている。
「ふふふ。皆、可愛いですよね……気になりますか?」
「い、いや……俺、装備マニアなんで装備が気になっただけだよ」
実は少し可愛いと思っちゃったけどな……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「周りには誰も居ませんし、魔物の反応もありませんね。さあ、ここら辺でいいでしょう」
街から20分ほど歩いたところでフェスが全員に声を掛ける。
「こんな所で、どうするのかい?」
カルメンが首を傾げている。
まあ至極当然の反応だな……
「皆、ホクト様の周りに集まってください。凄~く近くに一団となってください」
全員が俺が手を伸ばせば触れるくらいの所まで集まる。
「ふふふ、そう言えば皆さん……男性恐怖症はどうなりました?」
「…………」
「私……平気だ」
「私もですわ……ジョーさんだからかもしれませんが」
「私も全然OKだよ」
「おい、カルメン?大丈夫か?」
「…………」
「おいおい、ぼーっとして、これから仕事だぜ」
「おい、ジョー……」
「何だよ?」
「以前、俺に会った事は無いか?」
「どうした? いきなり」
「何だか……凄くお前が懐かしい気がするんだよ」
あの夢の中の記憶に俺達が触れたせいだな……
「う~ん、俺には身に覚えが無いなあ。きっと気のせいだろ」
「そうか……そうだよな」
「ふふふ……これからの仕事の為には、いい事です。ではこれから、現場へ移動します」
俺とカルメンが親しそうに話をしていてもフェスやクサナギは経緯が分かっているので余裕である。
更にフェスはクランの移動宣言もしたが、皆、キョトンとしている。
これもまあ至極当然の反応だな……
「???」
「???」
「???」
「???」
『そうか! 空間魔法を使う気だな』
俺の問いかけにフェスが念話で答えて来た。
『そうです、ホクト様が使うのですよ』
『え、俺?』
『この前の訓練でばっちりでしたから、この応用が成功すれば免許皆伝です』
『……凄い言い方知ってるね』
俺は改めて鋼鉄の聖女達に宣言する。
「空間魔法の瞬間移動を使う。エリア仕様だから皆、一度に移動できる」
「!!!」
「!!!」
「!!!」
「!!!」
皆、驚愕の反応だ。
これも……まあ至極当然の反応だな。
今日はカルメン達がいるのでこの前とは違うやり方だ。
「まず移動先に俺が亜空間を作る。そこにまず飛ぶ形になる。いきなり現場でオークに鉢合わせは嫌だからな。亜空間が出来たら、そこと現場を結びつける扉を作る。危険が無ければ扉から現場に出て仕事開始だ」
皆、まだ口をパクパクさせて驚愕の表情だ。
空間魔法の大量輸送など世界でも限られた高位の魔法使いしか発動出来ないらしいし、ギルドマスターのアルデバランでも使えないらしいからな。
「じゃあ……行くぞ。皆、俺の周りに固まって居ろよ」
俺は魔力を練り、まず転移先に亜空間を作り上げて行く。
これは収納魔法の応用だ。
感覚を巡らせ魔力波を放出すると、いきなり周りの風景が遮断される。
大空が消え、森が歪み俺達の周りが眩い白色に満たされ、亜空間が形成されていく。
今、俺達は俺の作り出した亜空間に居る。
かってルイの屋敷があったあの空間と同じ異質の世界だ。
「なっ! ジョ、ジョーさんっ! 今、呪文は? 魔法陣はっ!?」
ウイザードのセシリャ・ベィティアが慌てふためいて、俺に迫ってきた。
「無い!」
「は?」
「俺、殆ど魔法―――無詠唱だから」
「ええええええええ~っ」
セシリャはまだ納得が行かない様で俺に食い下がっている。
「ずるいです……」
「そんな事言ったって、俺イメージだけで発動できるから」
「ジョーさん……貴方、人間ですか?」
「失礼な! 俺は正真正銘の人間だよ」
「ふふふ……そういう人はかって存在していたではないですか」
「でもフェスの姉御。そういうのは伝説級の人ばかりで……」
「まあいいじゃあないか。彼が味方なのは心強いし」
とカルメン。
「私も同意見!」
とビッキー。
「あまり細かい事を気にしては駄目ですわ。ジョーさんは何でも出来る方ですからね。ジョーさん素晴らしいです」
とブランカ。
「ふう……皆これって凄すぎる事なのよ。……もう」
魔法に関しての常識人であるセシリャは、大きな溜息をつくしかなかったのであった。




