第24話 合同クラン結成
今回俺達のBランククラン黄金の旅と組むCランククラン鋼鉄の聖女のメンバー達は、不貞腐れたような複雑な表情だ。
『フェスの姉御は良いとしても、この男は何?』
『私もお断りですわ』
『依頼なんて……パスパス!』
3人がそう叫ぶ、しかしカルメンは、何故か黙っている。
『フェスの姉御、お願いですからその男なんて捨ててください!』
『フェスの姉御みたいな、美い女にそんな奴は似合いませんわ!』
『ポイしちゃってよ!、フェスの姉御!』
罵詈雑言の嵐炸裂。
おいおい……ひでぇ言われようだ、俺。
しかしカルメンは相変わらず黙っていた。
『貴女達、言った筈ですよ。このお方は私の主です。それにそれ以上……彼を侮辱すると只じゃあ置きませんよ』
フェスの精神体から立ち昇る光の揺らめきに怒りの波動を感じたのであろうか、燕雀のように五月蝿く囀っていた彼女達は、一斉に黙り込んだ。
『それに依頼をそんな理由で放棄したら、貴女方はもちろん、ギルドの全冒険者の信用失墜となりますよ』
『…………』
『…………』
『…………』
『返事は?』
『わ、わかった』
『我慢しますわ…』
『フェスの姉御の言う事なら……仕方がない』
『で、私はいつから姉御になったのかしら? 身に覚えがないけれど、貴女達の姉御はカルメンでしょう?』
いつもならその言葉に食ってかかるカルメンはフェスの方を睨むだけである。
相変わらず言葉は発しない。
『男に負けないってのがウチのクランそしてリーダーの売りなんだ。彼女はあんな無様な負け方をしたからさ』
『そうですわ』
『それにあれから黙っちゃって、私達が何言っても、ぜ~んぶ無視なんだもん』
『貴女達も試合を見たでしょう……男だの女だの実力には関係ないわ。じゃあ、貴女達は彼に勝てる? 現に私も彼には敵わないの』
フェスがそんな彼女達を諭すように言う…
実力には男女は関係無いか……確かに正論だな。
『…………』
『…………』
『…………』
『わかったよ……俺達はホクトの言う事に従うさ。この仕事の間だけだがね。……契約……だからさ』
カルメンは、やっと言葉を発するとそう答えた。
『流石、鋼鉄の聖女のリーダーね。では今回のミッションのおさらいと状況確認をするわ。最後に改めての自己紹介と戦術の策定。では、ウチのリーダー……お願いね』
おお……そうか、俺がクラン【黄金の旅】のリーダーだった。
よく出来た2人の嫁を持つ旦那気分だったから、すっかり忘れていたぞ……
2人から嬉しさの波動が俺に伝わって来たのは内緒だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『では依頼の再確認だ』
全員の前に出た俺はアルデバランからの依頼書を見て改めて読み上げる。
念じればこういう契約書も取り出せるのか。
……便利だ、この異界
【依頼書】
☆依頼ランク:ランクC
☆発注先:Bランククラン【黄金の旅】
☆依頼内容:【キングスレー商会オーク襲撃事件の追加調査及び残オーク討伐】
※キングスレー商会から依頼受注のCランククラン【鋼鉄の聖女】との合同調査
☆依頼主:バートランド公爵
冒険者ギルドマスター
バーナード・サー・アルデバラン
☆報酬:報告書(要内容確認)提出にて白金貨2枚(=金貨20枚相当)
オーク討伐1匹につき銀貨3枚、同上位種は査定の上別途報酬
俺が内容を読み上げると【鋼鉄の聖女】の連中は黙って頷いた。
依頼主がキングスレー商会、発注先が【鋼鉄の聖女】の所が違うだけで、依頼内容と報酬などの条件は同じと言う事らしい。
『じゃあ次は状況確認だ。キングスレー商会及び同商会のマルコ・フォンティ氏から話は聞いているだろうが、最初から話すぞ』
俺は淡々と話をして行く。
問題はここからだな……例の渓谷の所だ。
『衛兵隊には報告したが、捕らえた上位種から新たな情報があった。死ぬ間際のうわ言で【大きな群れ】を形成していると――――正確な数は不明だ。そこを調べて確認し、なるべく多くのオーク共を討伐するのが、俺達合同クランの仕事だ』
【大きな群れ】と言う言葉にリーダーのカルメン以下、鋼鉄の聖女の連中に緊張が走る。
どうやら衛兵隊は俺達の報告を伏せていたらしい。
不明確な情報だし、混乱の元になるからな。
だから、この依頼が出たとも言えるが……
『念のため、オークに関してはわかっていると思うが、もう一度説明する』
オークとはエルフが退化したと言われる、容姿が醜悪な豚のような魔物である。
背丈は人間とほぼ同じくらいだが個体により差がある。
最低限の知能はあるが、暴力的で野蛮な本能を持つ。
種として雄しか生まれないせいか、他種の雌を浚い繁殖を行う。
繁殖力は強い……
オークジェネラルとはオークキングの下位種。
通常のオークの能力の約3倍。
人語も話す個体も確認されている。
オークキングほどではないが群れを統率する指揮能力を持つ。
オークキングとはオークの王とも言われるオークの突然変異種。
人語を操り、オークの大群を統率する。
通常のオークの約10倍以上の能力を持ち、魔法を使う個体も確認されている。
『最悪の場合、オークキングが誕生している場合もある。その場合、深入りはしない。いち早く戻って冒険者ギルドに報告する。多分そうなるとヴァレンタイン王国軍に出動が要請されると思う』
鋼鉄の聖女達も息を呑んで聞いている。
事の大きさに気後れしているようだ。
『最後に改めての自己紹介と戦術の策定だ。俺はジョー・ホクト。クラン黄金の旅のリーダー。魔法剣士だ―――得意な魔法は火属性と雷属性かな。一応無属性の索敵及び身体強化と加速、光属性魔法の回復も使えるぞ。タイプは一応、アタッカーだな』
隠しすぎるのもよくないが、最初から全ての手の内を見せる必要は無いだろう。
「私はフェスティラ・アルファン。同じくクラン【黄金の旅】のメンバー。ホクト様と同様魔法剣士でタイプも同じくアタッカーね。得意なのは火属性の魔法……一応無属性の索敵及び身体強化と加速、光属性魔法の回復もそこそこ使えますわ』
俺とフェスはタイプ的には被るところが多い。
ただ、基本的には万能タイプと言えるだろう。
『俺はカルメン・コンタドール。クラン【鋼鉄の聖女】のリーダー。
魔法戦士で無属性魔法の身体強化と加速を使った槍術が得意だ。タイプはタンクだ』
『私はビッキー・チャバリ。クラン【鋼鉄の聖女】のメンバー。シーフで鍵や罠の解除は任せて。無属性魔法の索敵を使った偵察が主な役割で身体強化と加速を使った速攻が得意かな……タイプはアタッカーだよ』
『私はブランカ・ギゼ。クラン【鋼鉄の聖女】のメンバー。司祭見習い(プリースト)で得意なのは光属性魔法全般。タイプはヒーラー乃至、バファーよ』
『私はセシリャ・ベィティア。クラン【鋼鉄の聖女】のメンバー。ウイザードで得意なのは風属性魔法。タイプはバファー乃至はアタッカーね』
さあ、この6人をどう振り分けるかだが……
索敵能力を持つのは俺とフェス、そしてビッキーだ。
偵察は先行して2人での行動となるな。
『さて最後は戦術だ。まず配置を決めたぞ。先行しての偵察・索敵はフェスとビッキー。
番手はカルメン。中盤でブランカとセシリャ。そして後衛は俺だ』
『後ろから矢は飛んで来ないだろうね?』
『ビッキー!?』
『何を言ってるんだい?』
『はっ……安心して背中を任せられるかって聞いているんだよ』
シーフのビッキー・チャバリが俺に挑発的な物言いをして来た。
彼女は常々俺に敵意を向けてくる。
『信じてもらえないなら、それでもいいが、俺がお前等を後ろから撃って何のメリットがある』
『…………』
『別に俺とフェスで先行してもいいが?』
『今回の状況から後方へ攻撃を受けた時に、我々だけでは戦力的に辛くなるよ。ホクトの判断は賢明だ』
カルメンが静かに言う。
あの試合の時からは想像もつかないくらい冷静だ。
もう彼女は大丈夫だろう。
『はっ! たかがオーク如きに』
なおも食い下がるビッキーに今度はブランカとセシリャが諭した。
『いつものビッキーじゃあないよ』
『無鉄砲は身の危険だって……貴女が言っている事でしょ』
他のクランメンバー3人全てから言われたのが、流石のビッキーも堪えたようだ。
『わ、わかったわよ。皆もう丸め込まれたのかよ。こんな男にさ!』
その瞬間、ビシッとビッキーの頬が鳴り、彼女の小柄な体は、あっけなく後方に吹っ飛んでいた。
『先ほど念を押した筈です。これ以上、彼への侮辱は許さないと!』
フェスがワインレッドの瞳を更に燃えるようにして立っていた。
『済まなかったわ! いつものビッキーじゃあないの、許してあげて!』
『お願い、フェスの姉御!』
あまりにも激しい剣幕のフェスにブランカとセシリャがおろおろしている。
『こいつの失態は俺の責任だ……この通り、俺が悪かった』
『謝るのは私へではなく彼へよ』
『そうだな、わかった……本当に済まなかった、ホクト』
『ジョーでいい。こちらこそだ。いきなり俺がリーダー面しているんだ、ビッキーの気持ちも判るさ』
カルメンが俺に頭を下げているのを見て流石のビッキーも真っ青になる。
『ご、ご免よ。私が悪かった』
『いいさ、期待してるぜ。ビッキー。お前の索敵に俺達の命運がかかっているんだ』
『えっ!?』
『当然だろう。勝手のわからない敵の真っ只中に行くんだ。フェスとお前の役割は重要だ』
『そ、そうか! 私達の命がかかっているんだものね。……ん、頑張るよ、絶対!』
『改めて戦術の確認だ。フェスとビッキーはまずあくまでも偵察に徹してくれ……無理はするな。一番の目的はオークの巣の発見、特定とその状況把握だ。そして次の目的が出来る限りの殲滅』
俺は更に話を続ける。
『もし戦闘になったら……攻撃はフェスとビッキーが直接攻撃。俺とカルメンはブランカとセシリャの護衛と随時敵への攻撃を。ブランカはクランへの回復中心の支援魔法を。
セシリャは風魔法での攻撃……』
『フェスとビッキーが居ない場合は俺とカルメンが前衛だが、相手次第で臨機応変に戦い、無理はしない。6人でバランスよく戦う事。各自の状況で配置は入れ替えるが、これが基本だ。そして大事なのは俺達の方が相手より圧倒的に数が少ない。多分何重にも囲まれたら不味いし、退路を断たれたらお終いだ。万が一、囲まれたら俺とフェスが魔法で一角を崩しつつ囲みを破る。そこから全員一気に脱出だ……いいな』
俺の指示に全員が頷く。
『個人行動は危険だ、戦う時も皆、出来るだけ一緒にな。あと、冷たいようだがまず俺達の安全が優先だ。囚われている人が居ても無理はしない……いいな! 当然、相手の魔石にもこだわるな。念の為、魔法の発動の際の誤爆は気をつけろよ。仲間の位置も把握して魔法を撃つんだ。最後に―――魔力切れは致命的だ、充分気をつけてくれ』
俺とフェスはそれからカルメンの異界での訓練で連携を徹底し、初めて組むクラン同士とは思えない相性を発揮したのであった。




