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第21話 ケルベロス

 ケルベロスは辺りを睥睨へいげいし、俺からフェスに視線を移す。


「ミオボエノアル、オドダトオモッタラ、オマエカ、ホノオノセイレイ」


「ふふ……相変わらずね、ケルベロス」


「オレヲヨビダストハナ―――シエキシタイノカ?」


「残念だけど貴方を呼んだのは私のあるじ……ホクト様よ」


「ナニ! オマエノシュジンハ、ルイサマデハナイノカ?」


「確かにね、以前はそうだったわ―――だけど今はルイ様も私もホクトの従士よ」


「ナンダト!? アノ、ルイサマガ、コイツノ? アリエン―――ナニカノマチガイダロウ」


「まあ彼と戦ってみればすぐわかる事だわ」


「ム! タシカニワレヲヨビダスオドガ、トチュウデカワッタ。アレハ、コイツノオドダナ」


『ホクト様、ここで契約の言霊ことだまとその取り交しのやり方をお教え致します。よろしいですか?』


 フェスからの念話で召喚した悪魔や魔獣と契約をする手順を教わる。

今の俺なら1回聞けば、ばっちりだ。


 俺とケルベロスは改めて向き合う。


「我はジョー・ホクト。異界に生きるものよ。異界の鎖から我がそなたを解き放つ。

我に従い、我に仕えよ……そして我と共に歩まん!」


 俺はそう契約の言霊を唱えると、魔力オドを練り、言霊として投げ掛ける。

 

 常人が召喚魔法を使う場合、もっともっと長い言霊の詠唱が必要らしいが、俺にはこれだけで充分だそうだ……簡単でいいね。


「グググググ、ガアアアアアア……ナントイウ、アットウテキナオドダ! カラダガ……タマシイガ、シバラレル……」


 俺の言霊を受けたケルベロスが言霊の呪縛を受け、身悶えしている。


 こういうの―――ドS、例えばルイなんかには、たまらんのだろうな。


 俺がそんなしょーもない事を考えた瞬間、ぞくりと悪寒が走る。


『私はSではありませんよ、ホクト様』


 飄々とした声が聞こえてくる。

 いきなりチェック細か~って言うか。


 俺の魂の最後の鍵はどうしたの?


『ふふ、合鍵を作っておきましたので』


はあ……そんなのってありかよ!?


『ルイ様、ぜひ私にもその合鍵を!』


 すぐ合いの手を入れるフェス。

 しょーもない上司と部下……


「ハア、ハア…オ、オマエノコトダマハ、マダフカンゼンダッタヨウダナ。ワレノタマシイハ、シバレナイ…ヨッテ、オマエトノタタカイヲキボウスル!ワレハ、オマエヲコロシテ、ジユウニナル」


 どうやら初めての召喚魔法だったので言霊の魔力オドの練りが不完全でケルベロスの魂を屈服させる事が出来なかったようだ。


 まあ回数こなせば何とかなるだろう。


 とりあえずこいつとの契約だ!


言霊ことだまで魂を縛れず、契約が失敗した場合は戦って屈服させます』


 フェスのナイスフォローだ!


『了解!』


 ケルベロスは体勢を整えなおすと素晴らしい跳躍力でこちらに向かって来た。


 三つ首の頭が交互に攻撃を仕掛けて嚙み殺そうと牙をガチガチと鳴らし


その尾の蛇が毒を吐き、俺の動きを封じ込めようと襲ってくる。


 俺はその攻撃を見切りながら、わずかずつかわし、クサナギに魔力を込める。


 ぴいいいいいいいいいいん!!!


 俺とクサナギの魔力波オーラが共鳴し、クサナギが鞘ごと眩く光っている。


 これは!


 クサナギの降魔の力だ!


「グワアアアアアアア!!!クルシイッ!クルシイ!!!」


 俺に火炎ファイアブレスを吐こうとした、ケルベロスの動きが鈍っている。


『私の力が発動したようです。一気に片をつけましょう』


 クサナギもやる気まんまんだ。


「バ、バカナ、ソノヤマトガタナト……ソノオド……オマエハ、アレスサ……ブ……」


 俺は何かを言いかけるケルベロスに踏み込む!


「たっ!!」


 跳躍し鋭い気合と共に神速の居合いを発動し首筋に叩き込む。


 チン!


 眩い魔力の光が一閃しクサナギの刀身が、瞬時に鞘に収まった時にはケルベロスはその首3つと尾の蛇頭、全てを切り落とされていた。


 ごぼごぼごぼっ……


 頭を失ったケルベロスの胴は踏鞴たたらを踏むと、首の切り口から大量の血を撒き散らし、どうっと倒れたのだった。


『この後はこう言霊ことだまつむぐのです……』


 フェスの念話を俺は復唱する。


「我に倒されし、さ迷える魂よ! これで汝の足枷は完全に外れ、汝は解き放たれる。

解き放ち恩を我に返す時は今! 我に従い、我に仕えよ……そして我と共に歩まん!」


 俺が再度、魔力オドを練った言霊ことだまを投げ放つと、その魔力がケルベロスのしかばねを包み、混ざり合って黒い霧のようになって行く。


「出でよ、我が従士たるケルベロスよ!」


 俺が更に言霊を投げ掛けると、黒い魔力の粒子は徐々に実体化していき、やがてそれは、先ほどのケルベロスとして現れた。


「ワタシハ、ケルベロス。ワガイノチハ、アルジノモノ。アナタニチュウセイヲチカイ、ジュウシノハシトナル」


 ケルベロスはこう宣言し、俺は使役魔としてケルベロスを従える事に成功したのだった。


「何か気になる事を言っていましたね、ケルベロス?」


 フェスが使役魔となったケルベロスに尋ねている。


「ワレガ、ナニカイッタカ?」


「あれすさ……とか、何とか」


「ソウカ? ワレニハワカラナイ……」


「まあいいさ、フェス。さあ時間も無いし街へ戻ろう。でもケルベロスは、このままじゃあなぁ……不味いよな」


「確かに……尾の蛇が吐いた毒も浄化しておかないと。では一旦、冥界に戻して簡易版の魔力通路経由で呼び出すとしましょう。それはこのように……」


「従士ケルベロスよ!汝、異界にて我の声を待て!いづれ、汝の助けを求むとす!」


 俺の言霊を受けたケルベロスはまた魔力の粒子となって、冥界に帰っていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふう……今日はいろいろあった1日でしたね」


「確かになぁ。でも明日のこと考えるとまた頭が痛くなって来たぞ」


 明日からの依頼ミッションに関して、Cランククラン鋼鉄の聖女アイアンメイデンのメンバーとの刷合わせの件である。


 このようなお互い見知らぬクラン同士が組む時は、まず情報交換が必要だ。


 だが彼女達アイアンメイデンはその【男嫌い】と言う性癖から俺を拒絶した。


 フェスだけは彼女達のこりのさんにんと簡単な打合せはしたようだが、俺がフェスから間接的に聞くだけでは、あまり彼女達のタイプもわからない。


 また、普段クランの指揮をとるリーダーであるカルメンがその場に居なかった打合せもあまり意味が有る物とは思えないのだ。


 出来れば打合せした上で実際に手合わせして、簡単でもいいので連携の訓練をしたかった所だ。


 これからの状況も極めて危険だ。

 連携が取れないまま、悪戯に相手オーク縄張テリトリーに侵入して囲まれでもしたら……


 俺達の関知しない所でそうなったら、俺とフェスはいざ知らず、3千匹のオークの前では

彼女達アイアンメイデンの死は、確実と言えるだろう。


 そんな事になったら寝覚めが悪い。


「いい事を思いつきましたわ!」


 どうした、フェス……目がきらきらしているぞ。


「ホクト様の魔法の訓練にもなります」


 俺の……魔法の訓練?


 今日の訓練はもう終わりだろ?

 街中じゃあ目立つし……


「無属性魔法の読心魔法、つまり彼女達の夢に入って、明日からの依頼ミッションに備えた訓練をしてしまおうと言う事です」


「読心魔法って……心を読んで見切りを行うもうひとつの【見切りの魔眼】の事は聞いているけど。夢に入るって……?」


「数ある読心魔法のひとつである【真夏の夜の夢】ですわ!」


「夏って……今は、この世界では春だろう?」


「あの…今の季節は関係ありませんわ。単に魔法の名前ですから」


「…………ご免」


 フェスさん…ちょっと怒っていました。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 宿=ホテル バートクリードに戻り、軽い夕食を摂る。


 今日は朝食を取ってから昼抜きだった……

 しかしこの体は実は食事を取らなければ取らないでも済む微妙な体なのだ。


 食べ物のおいしさは充分に感じるんだけど。


「腹が減って飯を食う本能が、ほぼ無いのが悲しいかもなぁ」

「私も……実は精霊は最悪食事を取らなくても平気ですので」

『私も……でも2人は食べる、飲むの楽しみはあって羨ましいですよ』


 3人で変なところをお互い嘆きながら、俺は今夜の新たな魔法の訓練に備えるのであった。

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