第20話 瞬間移動
Cランククラン【鋼鉄の聖女】のリーダーであるカルメン・コンタドールを退けた俺だったが、結局、当初の予定の登録だけじゃあなく、馬鹿に絡まれたり、模擬試合でえらい時間を食ってしまった。
冒険者ギルドを出たら、もう時間は、午後の2時……朝からギルドへ来ておいてこの始末である。
だいぶ時間は無駄にしたけど、ギルドマスターと知り合えたし、それで藁しべ長者的にBランクになったからいいか……
以前の俺より悩まない性格になっている事には感謝だな。
※藁しべ長者……ご存知無い方はお調べください。
よくよく考えてみたら依頼を受けるにあたって、俺自身の能力アップもしたいところだ。
どうせ3千匹のオークとの戦闘になるんだろうから、もっと効率よく戦いたいしね。
フェスにそう伝えると時間も無い事なので、街の外から適当な場所に移動して、以前みたいに魔法の訓練を行いましょうと言う。
まさに願ったり叶ったりである。
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街に入った門からまた外に出る。
冒険者ギルドカードを衛兵詰め所の通行用の水晶にかざすと問題なく街の外に出れた。
ただ街の近くで派手な魔法を使ったり、召喚で魔物を呼ぶといろいろ不味いので、少し離れてからフェスの空間魔法で瞬間移動する。
この瞬間移動はいわゆる某超有名GAMEの移動魔法とほぼ一緒だ。
今までに来た事のある場所のイメージを思い浮かべて、魔力を練り、魔力波で体を包むような感覚で発動すると、あっという間に移動する事が出来る。
あのGAMEと違うのは、体が浮き上がるのではなく、消えるようにして移動する事。
また術者の技量で魔力を大きくし、広範囲に発動すれば、大勢の人を一度に移動させるエリア魔法として使う事ができるのだ。
この瞬間移動を闘技の奥の手に取り入れる術者も居る。
奥の手と言うのは、この魔法は一回の魔力の消費量が大きいので、よほどの魔力量でなければ連発が効かないのだ。
まあ俺には全然、問題ないが。
フェスの瞬間移動で移動した先は、バートランドから、だいぶ離れた、とある草原。
ただ魔物の乱入と人の目を遮断するためにフェスが障壁魔法をかける。
障壁魔法か……それも俺、欲しい!
まるで【くれくれ君】だ……
まずは瞬間移動を完全に習得するための訓練である。
広い魔法結界の中を近距離の移動から試みる。
魔力を練るのは問題ないがイメージした移動先にコントロールするのが難しい。
思った所になかなか移動出来ない。
ただ何回もやっているうちに、だんだん位置のズレが修正されてくる。
よしよし……だんだんコツが掴めて来たぞ!
我が身を神速の速さで彼方に運ばんとす、瞬間移動!
本来ならもっと長~い呪文が必要なこの魔法もたったこれだけ。
頭の中でイメージすればいいのだから便利、便利。
その後、10回ほど繰り返して発動した俺は、完全に瞬間移動を習得した。
後は長距離と広範囲の実地だな。
帰りは俺の呪文で帰るとしよう。
空間魔法は収納と引き寄せも教えてもらう。
収納は既に左腕に付けている魔道具であるミスリルの腕輪の魔力に近い物を作り出していく。
以前、このミスリルの腕輪の収納魔力を起動していたので、魔力の波長を作るのは容易であった。
引き寄せは自分にとって大事な物を引き戻すイメージをするのが、習得への近道との事なのでクサナギに協力してもらう。
クサナギを何度も遠くに投げて手元に戻るように念じる。
思い切り投げても草原だし、クサナギ自身に守護の魔法がかかっているので
それくらいじゃ鞘に傷も付かない。
【大事な物】というところでフェスが縋る様な目で見ていたが……
そういうところに食いつかれてもなぁ。
これも何度も繰り返して発動しているうちに完全に習得し、瞬時にクサナギが俺の手に戻ってくるようになった。
『これぞ、愛の力ですね!』
あのな……
最近、平和が訪れていたのにまた元に戻さないでよ。
しかしその様子をフェスが羨ましそうに見ていたのは言うまでもない。
時間も無くなって来たので今日は召喚魔法か
飛翔魔法のどちらか1択の教授となる。
迷ったがやはりここは……【召喚魔法】でしょう。
……いよいよか。憧れていたんだよ、俺!
あのドーンと出現する瞬間に言うセリフは?
コン○トモヨロ○クって言うのか!
ぐちゃぐちゃの合体をする○教の○は?
俺もデ○ルサ○ナーって言われるの?
「何か変な期待をお持ちのようですが、この世界の召喚魔法は普通、命懸けですよ」
「命懸け?」
「失礼……普通の方の場合でした。ホクト様は普通じゃあなかったですものね」
「……」
「失礼、褒め言葉です」
……不毛な会話はやめよう……
そろそろ説明してね、フェス。
「コホン……まず召喚して悪魔や魔物を使役魔とする場合は相手より力量が上では無いと、基本は従ってくれません」
「ふんふん、成るほど」
「稀に知性を持った使役魔が言葉で説得されたり、こちらが圧倒的な力を持ってる場合に戦わずして従う場合もありますが……大体は戦闘になります。また、この戦いですが―――どちらかが負けるまでやります。そういう意味で命懸けなんです。こちらの負けは即、死……ですから」
「ふ~ん。で、使役魔は何体まで持てるんだ?」
「ふふ、全然、動じていませんね、流石です。……基本は魔力量によります。
使役魔を使う際には術者の魔力を大量に消費します。強い使役魔になればなるほど魔力の消費が激しいのです。そうなると総魔力量により使える使役魔の数が決まるという事になります。ホクト様は、その点は心配しないでいいですからね」
「どうせ、俺は普通じゃあないし……」
「そういう意味で規格外だと申し上げたんですよ。リスペクトの意味ですから」
リスペクトってものは言いようだ。
……まあフェスが言う通り、褒め言葉と受け取っておこう……ふん。
「ほら、拗ねないで……魔物の候補はお有りですか?」
「ルイも門番で使っていたけど、ケルベロスがいいかな」
「ケルベロスですか……なかなかのパワーと魔力、そして素晴らしい俊敏さを持っています。麻痺の効果がある咆哮と火炎持ちなので、私との連携の相性も抜群です」
「まあ俺は前世での遊び=GAMEで一番、愛着があるからなんだけどね」
「ちょっと、羨ましいですね、ケルベロスが……では念のため魔法陣の周りを強度の魔法障壁で囲った上で、彼を呼び出します。ただ今回は私の言う通りにお願いします」
「了解」
「まず私が魔法陣を作ります。ホクト様は先ほどの空間魔法の応用で魔法陣の下から冥界に繋がる魔力の通路の作成をお願いします」
俺は魔力を練っていく。
フェスも魔力を練り、呪文を唱え始めている。
「我が問いかけに応え、冥界よりその姿を見せよ」
金色の魔法陣が出現し、回り始める。
俺は魔力を集中すると魔法陣の下に長い長い暗渠のような通路を作り始める。
俺の魔力で出来た黒い影のような通路はじわじわ、真っ直ぐ伸びていく
「はい、ここで私は魔力の放出を段階的にやめて行きます。その私の魔力の代わりにホクト様の魔力で魔法陣を回して行って下さい」
「了解!」
フェスによって作られた魔法陣は俺の魔力を引き継ぐと、どんどん回転の速さを増し、魔法の通路も地中に向かって伸びに伸びていく。
そして…地下に伸びた魔力の通路が何かを突き抜け、貫通する。
同時に何かおぞましい感覚が俺を襲う。
「それは冥界の瘴気です。あと少しでケルベロスが、出現します、最初の召喚ですので魔法が発動し易いように強く言霊を唱えてください」
俺はフェスの言葉を受け、朗々と言霊を念じる。
「その強き姿を現せ! 冥界の門番たる強者よ!」
魔法陣に黒い霧のような魔力の渦が立ち昇り、一際それが高まったかと思うと、桁外れの魔力量を持つ何かが、実体化しその巨体を表した。
あのルイの亜空間で見た三つ首の雄牛ほどもある巨体の魔獣。
冥界の番犬ケルベロスがジェット機の爆音のような声で咆哮し、俺をじろりと一瞥したのであった。




