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第1話 授業①

 俺は翌日から謎めいた赤毛の美少女フェスティラ・アルファン、つまりフェスに色々と教えて貰うようになった。

 

 前世とは全く違うこのとんでもな体に慣れて使いこなせるようになる事。

 そして少しでも早く魔法を行使できるようになる為だ。

 剣でも体術でも魔法でも教授する順番は問わないと言われたので俺はどうしたかというと……

 

 ……当然、魔法を選んだ。

 

 GAMEなら何でもかんでも見境無く興味があるわけではないが、俺は古典的な迷宮RPGロープレから最近のおしゃれ系RPGまでそこそこやり込んでいる。

 

 中でも中二病的な空想の世界で行使される魔法の数々にはこのような年齢になっても大変な憧れがあったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今、俺とフェスはルイの屋敷の裏庭にある広大な訓練場にいる。

 

 まずこの屋敷というものが普通ではなかった。

 屋敷自体はごくごく一般の建物なのだが問題は敷地とその外である。

 日本の狭い住宅事情では考えられないほど広い敷地。

 それ以上に不思議な事は屋敷の周りには何も無い真っ白な空間が広がっていたのだ。

 

 俺は訓練を行う前にフェスに聞いてみる。


「特に不思議な事はありませんよ。ここはルイ様がお作りになった亜空間ですから」


 フェスは俺の質問に平然と答えた。


「亜、空間?」


「はい、亜空間です。空間魔法を極めた上級魔法で作り出すことが出来ます。生成時とその維持には大変な魔力を消費しますので普通の人間には到底無理ですが」


 平然と言いながらもフェスの言葉の端々にはルイへの尊敬の念が見て取れる。


「た、大変なものなんだね」


「はい、大変です」


 何とかフランクに話したいと試みても、きっぱりと答えるフェスの態度はあくまで事務的で俺は取り付く島もなかった。


 仕方無いな……


 俺は気を取り直して今居る訓練場を見渡した。

 訓練場と言っても広さは東京ドームのグラウンド1個分くらいある広大なものだ。

 そんな俺の魔法訓練用の的はルイが持つ鋼製はがね製の魔導ゴーレム兵達だ。


「それでは……」

 

 フェスが声を掛けてくる。

 いよいよ授業開始だ。


「私は火属性の魔法が得意ですのでそれを基にあるじ様……ホクト様とお呼びしてよろしいでしょうか」


「様づけって、何だか違和感があるけど……」


 そんな俺の言葉を無視してフェスは授業の開始を宣言した。

 彼女の口調には全く抑揚が無い。


「……ではホクト様の魔法の教授を開始させていただきます。まずは魔力オドを体内で集中します。最初は大まかに、だんだんと一点に集中するイメージです」


「う、うん」


「具体的なイメージが湧かないようですね。 では私がまずやってみましょうか」


 フェスはそう俺に告げると何か小さい声で呟く。

 

 すると彼女の身体から気のような物が見え、それが手に集中して波動のように立ち昇る。


魔力オドの動きが見えるようですね。これが体内で魔力を練って発動する際に手から波動になって立ち昇る、いわゆる魔力波オーラにして出した状態です。では私の様にやってみていただけますか」


 でも本当に俺は魔力があって魔法なんて使えるんだろうか?

 まあ、良い。

 ようは感覚イメージを持てばいいんだな。

 俺は彼女の気に近いイメージを持って、魔力を集中する事を試してみる。

 

 すると俺の身体にふつふつと熱く流れるモノが流れ始めた。

 

 これが……魔力か!?


「ちゃんと魔力オドの流れを感じられているようですね。それを最後には手の中の一点にまとめる感覚に……行けそうですか?」


 俺が頷くとフェスは更に言葉を続ける。


「その魔力を小さな火球に変換するように思い浮かべて……そうです。では手を開いて指先から火球を具現化するよう念じてみてください」

 

 火球よ……

 すると指先に直径10cmほどの小さな火球がポッと出現したのである。

 

 おおっ、出来た……俺は思わず感動してしまった。

 拍手してやりたい、こんな自分を褒めてやりたい!

 使い尽くされた台詞セリフだがこんな時に言いたいな。

 

 そんなわけで俺は暫く初めて具現化した魔法につい見惚れてしまう。


「それが炎弾ファイアブリットです。火球を敵にぶつけてダメージを与える魔法です。ふふ、まあ初めての発動なんでお気持ちは分りますよ。ではその火球を早速、あの鋼のゴーレムに向けて飛ばしてみてください」


 苦笑という奴だが、やっとフェスが笑ってくれた。

 まあ生徒が初めての課題をこなせた先生としての満足感だろう。


 火球よ、あのゴーレムを撃て!

 

 俺はゴーレムに向かって投げつけるような感覚で短い気合とともに火球を飛ばす。シュバッという音とともに一直線に糸を引くように放たれた火球はゴーレムに命中し、力無く四散する。

 

 この程度の火球では見た目も強力そうな鋼製のゴーレムにはあまり効いていないようだ。


「最初としてはまずまずですね。では同じ呪文で今度は威力を上げてみましょう。魔力をさらにたくさん、そして濃く固く集めるイメージで行ってください。後は同じ要領です」

 

 フェスに言われた通りにやってみると今度は同じ大きさでも魔力の質に何となく違いを感じる……

 

 これは高温とか高威力って事かな?


 再度、打ち出すと今度はゴーレムに当たった瞬間、ドッという音とともに炎の塊があっさりとゴーレムを貫通した。

 

 見ると鋼製のゴーレムの上半身が溶けかかってしまっている。

 それを見ていたフェスが呆れたように首を傾げる。


「ちょっと魔力を上げただけでそれですか……羨ましい限りです」


 それは皮肉とも諦めとも言える表情。

 どうしてだろう?

 彼女の表情には「貴方はずるい」とはっきり書いてあったのだ。

 そして俺はその後も訓練を続け、同じ火球を一度に10個飛ばす事に成功したのである。


「さあ今度は広域対応の爆炎呪文を試してみましょう」

 

 爆炎? ……火球が広域で爆発すればいいのか?

 

 俺は先ほどと同じ要領で魔力を練ると以前遊んだ事のあるRPGの呪文をイメージする。

 

 ……爆炎の火球よ、わが前に現れよ。

 

 念じると同じような火球でやや大型のものが現れるが、魔力の質から先程の物とは火球の中身が全く違うのがわかる。


 フェスが小さく納得したように頷いている。

 

 爆炎の火球よ! 敵を滅せよ!

 

 俺が短い気合とともに火球を打ち出すと、軌道を描いてゴーレム兵達の足元に命中した火球が爆発し、ゴーレム3体ほどが上空10mくらいに舞い上がり、吹っ飛ぶ。

 

 落ちてきて訓練場の地面に突っ込んだゴーレム兵達は下が土のため致命的なダメージは受けていないようだがあちこち損傷しており、戦闘力は格段に落としているようだ。

 

 気がつくとフェスの反応が無いのでそっと見ると、訝しげな、じと目の無言状態になっている。

 

 まあ彼女が俺に何を言いたいか、分ってしまう事は内緒だ。 

 拗ねた様な態度も何か可愛い。

 不謹慎な事を考えつつ、そんな彼女の刺すような視線を躱しながら俺は訓練を続けた。


 この他に火の矢ファイアアローや防御にも使える炎の壁ファイアウォールなどを教えて貰う。

 

 魔力を練って魔法に適した物にするには逆算してフェスの魔力波に近い物をイメージすれば習得し易い事を知ってしまう。

 

 ただそうは言っても言葉で言うほど簡単では無いことは明白だ。

 しかし一旦コツを掴んだ俺は次々と新たな呪文を習得していった。


「想像はしていましたが……火属性の魔法習得はもう大丈夫ですね、威力を増すには練度ひたすら訓練と実戦を重ねてください。では次は体術です。まずは素手で私と戦ってください。但し、無属性魔法の身体強化の魔法と加速の魔法も発動しながらの組み手となります」

 

 身体強化とは肉体を強化する無属性魔法であるが今回教えてもらうのはそれの究極版である。膂力と身体の頑丈さを上げるのだが効果をずっと持続したり瞬間的に強化したりも自由自在らしい。

 

 勿論、その間ずっと魔力の消費は続くので並の人間にはあまりの長時間の使用は無理だそうだ。

 

 ド○ク○でいうア○トロ○より凶悪だよ……それ。


 加速の魔法はその名のとおり、動きのスピードを上げる。

 そんな人間離れした身体の上、加速の魔法で常人の何倍ものスピードで戦うなんて凄すぎるな。

 

 相手が止まって見える所に余裕で技を打ち込むのか?

 かっての某人気漫画も真っ青だ。


 素手の組手は最初、全く心得が無い俺が散々叩きのめされていた。

 フェスの指導はそれほど容赦が無かったのだ。

 俺は血を流し、痣だらけになりながら、倒れこみ地に伏した。


「どうしたのです? それでもルイ様が見込んだ方の力ですか?」


 まるで挑発するように叱咤するフェス。

 そんな事を言われても流れ流されて今ここに居る俺にはどう返す事も出来なかったが。


 そもそも身体魔法を発動していても完全に肉体へのダメージは防げないし魔法のレベルも違う。あまっさえ格闘技なんて喧嘩も碌にした事のない俺が戦士として百戦錬磨であるフェスにかなう訳がないのだ。


「ま、まだやるの?」


 思わず弱音が出た俺にフェスはワインレッドの瞳を激しく燃やし、目を吊り上げて、厳しい視線を向け、鞭打つように射竦いすくめる。


「当然です、体術は全ての基本、そんな恵まれた肉体を授かりながら、勿体無いでしょう? 魔法だけ出来れば良いと言う物ではありませんよ」


 俺は渋々と傷つき疲れ切った身体を起こすとフェスと正対し意味も無く構えた。

 もう半ばやけになっている。

 やるならやってくれ……殺してくれと言う気持ちであった。

 

 その時、俺の脳裏には前世で散々見た記憶のあるボクシングの試合のジャブ、ストレート、そしてアッパーのコンビネーションが浮かんできたのだ。

 

 俺は苦し紛れにその本能の閃きに従った。


「○×△?α☆□◆」


「?」


 俺はその古典的某漫画の有名な台詞を呟きながらフェスに向かって鋭く踏み込み、ジャブを放つ。


「!!」


 今迄の拳と段違いな的確さと速度……

 何とかそれをかわしたフェスは今までと比べ物にならない俺の動きにちょっと驚いたようだ。

 

 しかし、すぐに美しい切れ長の目が怒りで細くなり、力の籠もった拳や蹴りが飛んでくる。


「え?」


 そんな俺の中に突如、不思議な感覚が生まれたのだ。

 何とフェスの拳や蹴りの軌道が事前に分かるような予感が生じている。

 その証拠にフェスの攻撃を全て躱すという訳には行かなかったが、5発に1発は躱す事が出来るようになって来たのだ。

 

 そんな変化が生じた俺に対して明らかにフェスは焦っていた。

 

 俺は攻撃を何発も喰らいながらも地味なボクシングのワンツーでフェスを追い詰めて行く。


 そして! 

 とうとうその時はやって来た。

 

 俺の放ったワンツーをようやく避けたフェスだったが、その際無防備な顎を晒した瞬間、アッパーカットが決まり、見事に10mほども吹っ飛んでしまったのだ。


「だ、大丈夫か!?」


 俺は自分の拳の思わぬ威力に狼狽した。

 そしてすぐさま駆け寄り、フェスを抱き起こす。

 目を閉じた彼女の顔は普段と同様、目を見張るほど美しかった。

 まさか人工呼吸にかこつけてチューとか、チューとか、チューとか……以下略

 そんな下手な事をするわけにもいかないので俺はフェスの頬っぺたを軽く叩いてみた。


 何度か叩くとフェスは顔を軽く左右にふり、瞼を開いて行く。

 どうやら意識を取り戻したようだ。


「フェス、大丈夫か?」


 俺を見て更に自分が抱き起こされている事を知ったフェスは 俺を軽く睨むと身体を支えていた俺の手を外し、素早く立ち上がった。


「不覚を取りましたね、今一度!」


「ええっ?」


「今のがホクト様の本当の実力かどうか確認しなくてはなりません」


 そのきっぱりとした口調は俺に何かを言わせる余地など無かった。


 もうやけだ!

 

 俺は更に調子に乗り、空手やカンフー映画の型を見よう見まねで応用したら、楽にフェスを圧倒してしまう。

 

 悔しそうなフェスに言わせると今まで経験した事の無い体術の組み合わせで

全く見切りと対処が出来ないそうだ。 

 

 つまり我流の良いとこ取りの出鱈目な戦法って事。

 

 この世界では我流の戦法って事か……

 読んでいた漫画で結構強い我流の拳なんてのも有ったしな。

 

 でも、あまり先生に自信を無くさせるのは不味いか。


 最後に俺は剣の手ほどきを受ける。

 

 彼女はフランベルジュレイピアという炎の形をしたレイピアと小さめのバックラーを装備し素晴らしいスピードを活かして戦う優秀な魔法剣士だ。


 クランを組めばアタッカーとして素晴らしい腕を見せるだろう。

 彼女が剣を構えた姿は本当に凜として美しかった。

 俺が感じたままにそう言うと、彼女は何故か顔をあからめている。

 まあ良い。 

 少しフェスと戦っただけだが、俺自身もいわゆるアタッカーを目指したいと思っている。

 え、古竜エンシェントドラゴン頑健肉体からだなら、打たれ強いタンクがバリバリ行けるって?

 

 この出鱈目な肉体ならOKって事?……う~ん。


 改めてレイピアを振るって凄まじい突きを連発してくるフェスと戦う。

 最初は剣一本と盾、次に剣二本の二刀流、そして大剣クレイモア

武器をいろいろ変更して戦っていく。

 

 最初はフェスに圧倒されていた俺もさっきの体術と同様に時代劇の殺陣をイメージ出来てくると次第に盛り返して行くようになった。

 

 日本と西洋の剣の振り方は全く違うが、体の動きに応用が利いたからだ。

 相変わらず出鱈目な能力だと思う。

 

 そして最後は炎を纏わせたフェスのフランベルジュを巻き上げて弾き飛ばし、彼女の喉元に剣を突きつけ、参ったと言わせたのであった。

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