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第18話 クラン黄金の旅

 これで俺達は正式にこの世界アトランティアルの冒険者ギルド所属冒険者になった。

 この俺の旅の大きなふたつめの節目である。


「カードにかかっている魔法で討伐した魔物は、自動的にカウントされる。いわゆる虚偽申請対策だな。ああ、カードは失くすなよ。失くしたら再発行に金貨1枚かかるぞ」


 アルデバランはそう注意をすると更に続けてこう言った。


「クランの登録はするかい? まだ2人だが、お前等なら他のクランに入るとかより、自分達のクランを作っちまった方がいい気がするが」

 

 クランか―――俺がフェスを見ると彼女はゆっくりと頷いた。


「そうだな、クランの結成と登録をしようか」 


「名前は考えてあるか、ジョー」


 俺が了解するとアルデバランがクラン名の候補を出すように求めて来た。

 俺はフェスとクサナギの意見も求める。


『名前か? フェスとクサナギは何かあるかい』


『私はホクト様が好きな名前が良いです』

『私も同じです』


『う~ん……ひとつあるんだけど』


「仰ってください、ホクト様」


「……ステイゴールド」


「ステイゴールド? どんな意味ですか」


 馴染みの無い言葉だったらしくフェスが微笑みながら俺に問う。


「意訳で【黄金の旅】って言うんだ。これから俺達の旅は長い長いものになるだろう。良い事、悪い事、いろいろな出会いと別れに彩られるだろう。俺たちの旅が素晴らしい黄金の旅ステイゴールドであれという願いを込めてね」


黄金の旅ステイゴールド―――ですか。良い響きですね」


 それを聞いたフェスは何故か遠い目をしている。

 それは何か俺の知らない過去に思いを馳せているようであった。


「【輝き続ける】ってのが本来の意味だけど、俺と仲間が、ずっと輝き続けて欲しいという意味もあるんだ。元はそんな歌があったり、馬の名前なんだけど俺は気に入っていてね」


「馬かよ? ―――ジョーらしいな、はっはっは!」


「何だよ、馬の名前じゃあ悪いかよ」


 アルデバランに豪快に笑われてしまうが、それは概ね好意的な気持ちからだったようだ。


「いや、逆だよ。俺だって若かったら、ぜひお前のクランに入れて欲しいと思うぜ」


黄金の旅ステイゴールド輝き続けるステイゴールド―――ホクト様、私は大好きです、凄く良いと思います」


 アルデバランの言葉を継ぐかのようにフェスが力強く後押しをしてくれた。

 クサナギの意見はどうだろうか?


『クサナギは?』


『私も大賛成です』


 よかった! 全員OKだな!


「バーナード、決めたよ、俺達のクランの名はステイゴールドだ」


「了解した。それで登録しておくぜ」


 こうしてクラン黄金の旅ステイゴールドは結成されたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺達がクランの名前で盛り上がり、アルデバランがクランの名前を正式登録してくれた直後―――


 俺達が居る部屋、すなわちギルドマスターであるアルデバランの応接室のドアがリズミカルにノックされた。


「マスター……ちょっと宜しいでしょうか?」

 

 ギルドの職員だろうか? 声からすると若い女性のようだ。


「今、取り込み中だ、後にしろ」


「あの、そちらにいらっしゃる方にも関係がありそうな話なんですが」


 アルデバランが重々しく答えても彼女は何故か臆するところがない。

 言葉からして俺達にも関係があると言う事でアルデバランは入室の許可を出したのだ。


「うむ、わかった。入れ」

 

 応接室に入って来たは20歳くらいの若い女性職員。

 

 人形のように愛らしい顔立ちに肌の色は抜けるように白い。

 金髪の巻き毛が肩でカールしている。

 瞳はブルー


「紹介しよう。彼女はジュディ・モリスン、俺の秘書・・・・をしてもらっている」


 秘書?

 

 このアルデバランおっさんのか?

 

 ―――役得だ。


 そんな俺の感情など露知らず、ジュディ・モリスンは、朗らかに挨拶する。


「ジュディ・モリスンです。ジュディと呼んでください」


「俺はジョー・ホクトだ、よろしく」

「フェスティラ・アルファンです」


 俺達は簡単に自己紹介をするとアルデバランとジュディの話に耳を傾ける。


「ジュディ、それで話と言うのは? 彼等にも関係があると言っていたが」


「はい、実は今朝ほど、キングスレー商会から依頼がありまして……」


「キングスレー商会?」

 

 アルデバランは怪訝な顔をする。


「昨日、キングスレー商会の馬車がオークの上位種3匹と群れに襲われて被害を受けたという話です」


「その件は俺も衛兵隊長から報告を受けて知っておる」


「実はキングスレー商会から現地の調査と討伐依頼が出ているのですが、同商会のマルコ・フォンティ氏からこの方々が有益な情報を持っているとの話がありました」


「なるほど―――で彼等にその依頼でもするのか?」


「とんでもない! 伯父様……いえマスターが直々に試験テストをしていたとしても、この方々は、よくてもFランクの方々でしょう」


 伯父様?

 成る程、この娘はアルデバランの姪なんだ。


「ん? ランク? 彼等のランクか?」


「そうです、ランク指定が出ているのですよ、マスター。商会によるとEランクのクランに護衛を依頼してこの結果ですから、Dランクどころか、今度は最低でもCランク以上のクランに依頼して欲しいそうです」



「ふふふ、残念だったな、ジュディ」


「え?」


「彼等はBランククラン黄金の旅ステイゴールドだ。依頼は充分可能だよ」


「ええええっ! 新規登録の冒険者がいきなりBランクですか? あ、ありえません!」


「ありえませんったってなぁ、現にここにる。俺が、ちょっと前に彼等の実力を確認して文句無く許可を出した。それに彼等は当事者だ、これ以上の適任者は居ないだろうが」


 それを聞いたジュディは大きく溜息をついた。


「どうした、ジュディ。溜息をつくと、ついた分だけ幸せが逃げて行くというぞ」


「冗談を仰っている場合ではありませんわ。もうこの件はCランククラン鋼鉄の聖女アイアンメイデンが、名乗りを上げて商会と契約を結んでいますもの」


「そんなの俺が言っ「いいよ、俺達は」て」


 どうやらアルデバランは俺達が当事者である事とマスターの特権でその依頼は俺達が適任だと判断したようだ。

 しかし、俺はその言葉を途中で遮った。


「バーナード、先に依頼を受けたのはあっちだろう。俺達はあの時の証言をするとか協力だけさせてもらうよ」

 

 ここで先に依頼を受けたクランの邪魔をする気は俺には毛頭無い。


 俺がアルデバランをファースト・ネームで呼ぶ事にジュディが吃驚びっくりする。


「バーナードって!? ……貴方あなた、とても無礼ではないかしら。仮にもギルドマスターで、その上バートランドの公爵様ですよ。マスターかアルデバラン公と呼んでください」


 ジュディはやはり、貴族の娘だ。

 平民の俺が身分の差を越えて馴れ馴れしくしているように思えたのだろう。

 その碧眼の眼差しは俺をきつく睨んでいた。


「ジュディ……俺がそう呼べと言ったんだ」


「え? お、伯父様」


「聞こえなかったか? 俺がそう呼べと言ったんだ。それにお前こそ、俺を伯父様と呼んでおるぞ」


「……わかりました、申し訳ありませんでした」


 ジュディはアルデバランに止められた上に姪としての呼び方を注意され、俯いてしまった。


「彼等はBランクに相応しい。いやそれ以上の実力があると俺は確信している。その前に俺は彼等が気に入った、とても気に入ったのだ。ほれ、お前がよく知っているダレンも、同じらしいぞ」


「ええっ! あのダレンおじ様までがですか!?」


 どうやらアルデバランのみならず、ジュディも、あの【大飯くらいの英雄亭】の店主オーナーのダレンを知っているようだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「じゃあ、その依頼を受けたっていう、クランの奴等メンバーに話をしようか。まあ大概の事は衛兵隊に言った通りだし、マルコからも話が行っているなら、新しい情報はそうは無いがな」

 

 俺はそう話を切り出した。

 

 ボルハ渓谷の情報はまだ伏せておくつもりだ。

 常人レベルのクラン、それも少人数では、オークキングを含む3千の軍勢には対処できないだろう。

 

 これって普通、国レベルの討伐案件だろうしな。

 

 マスターが居るとはいえ、ここで公開バラしても大変な騒ぎになるのは間違いない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「そいつらが、その時に現場に居たっていう餓鬼共かい」

 

 俺とフェスはアルデバラン、ジュディと共に3階の会議室に移り、依頼を受けたクランのメンバー達と向き合っていた。

 

 う~ん、さっきの馬鹿共といい、このバートランドの冒険者は、礼儀知らずばっかりだ。

 まあ年上にため口きいている俺もあまり人の事は言えなくも無いが、俺はちゃんとTPO使い分けているとは思う。


 Cランククラン鋼鉄の聖女アイアンメイデンは名前通り、人族の女性ばかりのクランである。

 

 メンバーは4人。

 戦士、シーフ、僧侶、魔法使いというオーソドックスな構成である。 


 リーダーは板金鎧に身を固め、女性と言えない程、たくましい体格をした戦士だ。

 

 肌は小麦色に日焼けし、髪は赤毛のショートカット。

 茶色の瞳は意思が強そうな性格を表すかのように俺に向けて強い視線を放っている。 

 年齢は20代半ばであろうか。

 

 口調や性格からして姉御あねごって呼ばれていそうだな。


「……そこの餓鬼。失礼な事を考えてるんじゃないよ!」

 

 また、俺の心のうちを突っ込まれたか?

 この世界アトランティアルやつって本当に勘がいいよな。 


「おい、鋼鉄の聖女アイアンメイデンの姉さんよ」 


「マスター、俺はカルメン・コンタドールって名前がある」


 アルデバランがカルメンにクラン名で声を掛けると彼女は自分を名前で呼ぶように促した。


「じゃあな、カルメン。お前が餓鬼と呼んでいる彼等にも名前がある。それもお前等より格上のBランクの魔法剣士達だ。そうと知ったら、少しは敬意を払うとよかろう」


「なっ!? この餓鬼共がBランク!?」


「そうだ、俺が認めたな」


「マスター……こいつら、あんたの身内か?」

 

 おいおいいきなり凄い失礼な突っ込みだな

 

 縁故こねで優遇しているって事かよ?

 

 ああ、ジュディがまた俯いてしまっている。


 俺はあまりのカルメンの物言いに憤慨した。 


「おいおい、俺はこのおっさんとは一切関係無いぜ。それに仮にそうであれ、あれこれ言われたって、そのあとで人の何倍ででも努力してちゃんと仕事をこなせれば問題無いだろ」

 

「ふん―――お前、マスターをおっさん呼ばわりとはいい度胸だな」

 

 女戦士、カルメンは鋭い目付きで俺を睥睨へいげいした。

 

 アルデバランはというと、にやにや笑っている。

 この場のやりとりを面白がっているようだ。


「俺はジョー・ホクト、彼女はフェス。俺は自分から、あえて喧嘩は売らないが、あまりくだらない挑発をされすぎると黙っちゃいないぜ。あかがねカルメンさんよ」


「私達の名前を侮辱するの?」「この糞餓鬼が!!!」「風の魔法で切り裂いてやるよ」

 

 カルメンの後ろにいた3人のクランメンバーが俺の言葉を聞いていきり立つ。


「本当にいい度胸だね…… だけど、そういうのを蛮勇ばかって言うんだよ」


蛮勇ばかはどっちかな?」

 

 フェスは平然としている。

 最初から鋼鉄の聖女アイアンメイデン達など全く眼中に無いかのようだ。

 

 そこに俺とカルメンを見ていたアルデバランが唐突に宣言する。


「よし、俺も依頼を出そう。キングスレー商会の依頼と同内容だ」


「何だよ!それ!」

 

 カルメンが呆気に取られる。


「同じ依頼を出しても意味ねえだろ!」


「そんな事は無いぞ。俺が見るにはこの案件はそう簡単なものじゃあない。人数は少しでも多い方がいい」


「しょうがないね。じゃあこっちは勝手にやらせてもらう、みんな行くよ」

 

「ちょっと、待った」


 カルメンは腰を上げて他のクランを促し、部屋を出て行こうとしたが、アルデバランがそれを制止した。


「何だい、まだ用かい。マスターさんよ」


 カルメンと対峙したアルデバランは心底面白そうに笑っている。


「ははは、人数は少しでも多い方がいいというのは、お互い組んで仕事をして欲しいと言う意味だぞ」


「なっ! そんなの飲める訳ないだろ」


「さんざん喧嘩を売ったのはお前だぞ、カルメン。ギルドマスターの俺の判断としてけじめはつけてもらう。それにまだ彼等から話も聞いておらんじゃないか。彼等から話を聞くのが商会の依頼条件に入っているだろう」


「うっ……!」


 言葉に詰まったカルメンを見て、アルデバランは高笑いをする。


「はっははは、俺に感謝しろよ、カルメン。契約不履行になるところだったからな。まあ、お前達はお互いに認め合う事が大事だ。という事でリーダー同士の試合で決めてもらう。負けたクランが勝ったクランの指揮下に入ってもらうと言う事でな」


「……」


「どうするんだ? 戦わないんならランクからいってもジョーの指揮下に入って貰うが」

 

 にやにやしながら問いかけるアルデバランにカルメンが叩きつけるような声で返答する。


「わかった! ―――やるよ! まあこんな餓鬼に、この俺が負けるわけないしな」


「そうだ、姉御カルメンが負けるわけねぇ!」


「こらぁ! 姉御って呼ぶなって言ってんだろ!」

 

 やっぱり呼ばれてるじゃん。


 こうして俺は、Cランククラン鋼鉄の聖女アイアンメイデンのリーダーである女戦士のカルメン・コンタドールとクランの指揮権を賭けて模擬試合をする事になったのであった。

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