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第16話 ギルドマスター

 俺は馬鹿カロンの首を掴んだまま、その50代半ばの鷲のような男の視線を堂々と受け止めた。


「何があったか知らんが、まずその男を放して貰おう。一応、このギルドの職員なのでな」


「順番が違うだろうぜ。あんたが誰かは知らんが、こういう場合は、まずこいつが何をやったのか、事情を聞くべきだろう」


「……小僧、ワシの言う事が聞けんのか」

 

 男の表情が険しくなり、真正面から強い肉食獣のような闘気が放たれる。

 それは体から洩れる強力な魔力波オーラだ。


 しかし何故か俺は全く動じなかった。

 

 不思議だ。

 

 品は良いが、こんな極道のような男に睨まれてよく平気なものだ。


 オークとの凄惨な戦いをこなした事も含めて、俺にはやはり身体だけではなく精神にも補正が、かかっているに違いない。


「あんたは、こいつの上司らしいが、下が下なら上も上だ。余りにも一方的過ぎて、話にならん」


「……わかった、そこまで貴様が言うのなら、まず理由を聞こう。その男、カロンに関しては話の中身次第でしっかりと対処する。申し訳ないが、一旦、手を放してもらえないか」


「え!」「マスター!、こんな生意気な若造に従うのですか?」「どうして?」

 

 一緒に部屋に居たギルドの職員達が驚いたように目を見張る。

 

 この男がギルドマスターだったのか……成る程な。

 

 俺はフェスを振り返ると頷いて、カロンの首を持つ手を緩め、放してやる。

 カロンは床に崩れ落ち、青白い顔の怯えた視線で俺の方を見てくる。


「感謝する。では話を聞こうか―――ん、その前に挨拶がまだだったな。貴様の名は?」


「そういう場合は、まず自分から名乗るものだ」


「貴様!」「マスターに失礼だぞ!」「分をわきまえろ」

 

 ギルドの職員達が俺の物怖じしない態度にわめき散らして怒りをぶつけて来る。


「はっはっは! そういう度胸の良さは嫌いじゃあないが、蛮勇と言えなくもない。程々にな―――まあ良いだろう。ワシはこのバートランド冒険者ギルド、ギルドマスターにして、バートランド公爵でもあるバーナード・サー・アルデバランだ」


「俺はジョー・ホクトだ」

「私はフェスティラ・アルファンと申します」


「ジョー・ホクトにフェスティラ・アルファンか。よろしくな、……では話を聞こうか」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺とフェスが一連の事情を話し終わると、アルデバランは獲物を捕らえる鷲の様な視線をカロンに移した。


「なるほどな。確かにそれはウチの不手際だ、そうだなカロン!」


「は、しかし当ギルドは冒険者同士の諍いには徹底して不干渉の筈では?」


 カロンは必死になって抵抗する。 


「一般的な冒険者同士の諍いにはな。だが、これはギルド内で起きたれっきとした暴行及び強盗未遂事件だろう。お前はギルドの保安を何だと考えておるのだ」


「は、はあ」


「何か起こったらまず、確認。もしお前の手に負えなかったら、すぐにギルドの保安隊か衛兵を呼ばんといかん。更に当事者と周辺からから話を聞いて公平な処理をするのがギルド職員の務めだ」


「は、しかし……」


「分からんか? いくら冒険者同士の諍いに不干渉の方針とはいえ、俺の管轄するギルドの中が無法地帯で良いわけがない。諍いと犯罪の区別ぐらいきちんと確認せんか!」


「しかしですね、マスター。奴の私への暴力は言語道断です」


「話を掏り替えるな。……もういい、貴様は明日からギルドに来なくていい」


「へ、……?」


「お前には退職して貰う」


「はい~?」


「確かにギルド職員への暴力はいかん。しかしそれ以前に事の判断を冷静に出来ず、間違った事をしたらそれを認めず、臨機応変に処理できぬ職員など、このギルドには不要なのだ」


「そんな!」


「おい、お前達は全員、カロンを連れて出て行け。俺は彼等とさしで話をするからな」


「そんな、護衛も付けずにですか? 危険です」


 職員の1人がつい漏らした言葉にアルデバランが猛り狂う獣のように怒りを吐き出す。 


「馬鹿者!【危険】だと!? は! ワシを誰だと思っている、早く行け!」


「はっ!」「はい!」「了解です!」


 震え上がったギルド職員達は茫然自失のカロンを抱えると逃げるように去って行った。


「行ったか……では改めて謝罪をしよう、済まなかったな。ウチの不手際で迷惑を掛けた」


 アルデバランは改めて俺とフェスに頭を下げる。

 高位貴族とは思えない身分の差を越えた実直な対応であった。

 

 俺はそんなアルデバランの態度に感動した。

 自然と詫びの言葉が口について出る。


「謝罪を受け容れよう、アルデバラン公爵。こちらこそ、ギルド内で暴れて済まなかった」


「ほう! 今までと全然、口調が違うじゃあないか、はっはっは!」


「これから世話になる立場だからな……最低限の礼儀くらいは心得ているさ」


「世話になる? ……そうか、元々ギルドの登録に来たのだったな」


「さっき説明した筈だろう」


「すまん、すまん。あまりにも堂々としていて、新人ルーキーとは思えんかったんでな。お前の事はジョーと呼んでいいか? 俺の事は、バーナードでいい」


「私もフェスでお願いします」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「そうか、ジョーとフェスはローレンス王国出身か」


「そうだ」

「そうです」


「あの国もいい国だな、わが国の国王同様、名君だ。ルイ皇帝はお元気だろうか?」

 

 は、皇帝? ルイって王様だったの?

 

 すかさずフェスがフォローする。


「はい、ルイ様のご威光は隅々にまで及び、国民は皆、幸せに暮らしております」


 俺はすかさず念話でフェスに問い質した。


『おいおい、フェス、顔に出るところだったぞ』

『申し訳ありません、ルイ様から口止めされていましたので』


「それは何よりだ。それで2人は幼馴染で、生まれたアダム村で修行したのか」


「はい。村長に武術の心得があったのと村の長老でもある魔術師に魔法を習いました。私は従士としてホクトに付き従う約束で、村を出て来ました」

 

 こっちの筋書きは打合せ通りだな……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「今度こそ話は終わりだな。では登録は1階でやってくれ。俺もこう見えて結構忙しいのだ」

 

 あれ、何か忘れているような気がする……あ、そうだ!


「……ちょっと待ってくれ」


 俺は腰を上げようとするアルデバランに待ったをかけた。


「何だ? まだ何かあるのか?」


昨日きのう、【大飯食らいの英雄亭】のダレンっておっさんに飯を奢ってもらって、その時に言われたのさ。ギルドに行ったらマスターそう、バーナードにダレンの推薦だって伝えろってさ」


「ダレンだと! おお、あの筋肉達磨か! はっはっは! お前達、あいつの推薦か……こりゃおもしろい。よ~し、気が変わった。俺自ら登録の手続きをしてやろう! おい、話は終わった、誰か? 誰かいないか!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 30分後、準備をした俺とフェスは、冒険者ギルドの訓練場でバーナードと対峙していた。

 

 立会いの職員達は目を見張って驚いている。

 マスターじきじきに登録手続きをやる事が前代未聞なのであろう。

 

 それにこのような場合の武器は刃をつぶした練習用の武器なのに、俺達の武器は真剣である。

 これはいわゆるハンデと言う奴だ。

 

 アルデバランは身長は俺より少し大きいくらいである。

 身長は190cmというところだろうか?


 しかし俺と違って見た目凶悪な程の分厚い筋肉の鎧をまとっている。

 これじゃあ……あんた、筋肉達磨ダレンの事、言えないだろう。

 

 ちなみにアルデバランが使うのは練習用の刃を潰したクレイモアだ。


「どちらからでもいいが……まずレディファーストだな。フェスから来い!」


『ホクト様、私がまず行って彼の力量を測ります。アルデバラン公爵は【剛腕】のふたつ名を持つ魔法戦士ですから』


『フェスなら大丈夫、怪我するなよ、気をつけてな』


『ありがとうございます』「では行きます!」


 アルデバランが大剣クレイモアを軽々と振り回しながら、軽口を叩く。


「おい、2人ともよ~く聞けよ。基本、俺は受けるだけにして、攻撃はしない。どこからでも来い!」

 

 フェスが体内の魔力を練り、剣に炎を纏わせて行く。


「ほう、魔剣フランベルジュのレイピアタイプか。良いものを使う……だが腕はどうかな?」

 

 アルデバランは振り回していた大剣を掲げると、肘を上げ、切っ先を斜め下に構える。


 それを見たフェスが一瞬の間を置いて、彼女の間合いに踏み込みこんで行く。


 鳩尾や喉を狙っての鋭い突き、さらに足を狙っての切り下げ、裏小手を狙っての切上げと多彩な攻撃が繰り出されていく。


「くっ!なかなかだな」


「そこっ!」

 

 フェスの鋭い気合がほとばしった!


 カィーン!!!

 首を狙ったフェスのフランベルジュレイピアタイプがアルデバランのクレイモアで防がれる。


「チッ」

 

 フェスが舌打ちし、すかさず左手から火球が放たれる。


「ウォッ!?」

 

 アルデバランが何と至近距離での火球を躱すが、連続で2発目、3発目の火球が襲う。


「ウォオオオオオッ!!!」


 アルデバランの魔力波が一気に放出され、瞬間的に魔力の障壁が生まれ、火球を弾く。


「参りました!」


 それを見たフェスが片膝をつき、降参を宣言する。


「何?」


「今のが私の最後の攻撃です。あれ以上はありませんので…」


「そんな事はないだろう……い、いや、わかった」


 戦い終わったフェスが俺に視線を走らせる。

 

 俺はお疲れ様のアイコンタクトを送ってやった。

 それを受けたフェスは心から嬉しそうだ。


『ホクト様』


『うん…お疲れさん、フェス』


『ご参考になりましたでしょうか?』


『充分だよ……多分、アルデバランは見切りの魔眼持ちだな』


『そうです……でなければ、あんな近距離で私の攻撃をあれだけさばける訳はありません』


『対策は?』


『まあ何とかなるだろう』


 見切りの魔眼とは魔力波オーラを読み取って相手の行動を読む、いわゆる無属性魔法予見の一種である。

 相手の攻撃が前以て予測できれば大変な優位アドバンテージが取れるのは当然である。


 他にも相手の心を読み取り相手の行動の先を読む、読心魔法の【見切りの魔眼】があるらしい。


「で、では……次はジョーか」


「お手柔らかにな……」


「どっちの台詞だ、さっさと来い」

 

 俺はクサナギを背負い、アルデバランに向く。


「ほう、ヤマト刀か……珍しい物を使うな」


「俺にとってはこれが唯一、一番なんだ」

 

 ピイイイイイイイイン!!!

 

 俺がそう言った瞬間、鞘の中の刀身が振動し、クサナギの歓喜に震える波動が伝わってくる。


 やはり予見魔法の見切りか……

 

 俺は魔力オドを練りながら、アルデバランの方を見る。

 

 アルデバランが微量ながら相手の魔力波を探知する異質の魔力波を放出しているのが分かる。

 

 今の俺には相手が放出した魔力波で次にどんな行動をするかが、ほぼ分かる。

 アルデバランの魔眼はそれと同じ物だろう。


 俺は自分の魔力を放出しクサナギの魔力と合わせ練っていく。


『クサナギ!』


『ホクト様のお考え、了解です』

 

 もし俺の考え通りだとしたら……


 俺はクサナギの柄に手を掛け、アルデバランに対して、鋭い踏み込みで斬撃を振るったのだった。

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