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第15話 冒険者ギルドへ

 翌朝……俺はミサを告げる鐘のせいで、夜明け前に目が覚めてしまった。

 

 まだまだ外は暗いがこの世界の、朝は早い。

 

 いろいろな人が動く気配と声がする。

  

 街はもう眠りから起き出しているのだ。


 このアトランティアルの人々の暮らしは太陽とともにある。

 信仰されている主神は国ごとに異なるとは言え、基本的に太陽神であるからだ。

 

 王族・貴族は主神の太陽神を敬うミサを毎日行い、その時刻に鐘を鳴らす。

 時刻など知る由も無い庶民層はその鐘の音を元に、生活のリズムを作っていた。

 

 大体、日の出とともに起き、1日を開始し、日の入りとともに1日を終了する。

 これが、この世界の主な生活のリズムであった。


 俺のいるバートランドは魔法もある程度発達している。

 魔導自動鐘で時間を知らせたり、上流階級や富裕層の連中は魔導時計を所持している。

 夜は魔導灯の働きで薄暗い通路を照らしていたりする。

 これだけでも他の地方都市とは雲泥の差である。

 生活時間の幅も他の都市に比べれば格段に長いだろう。


 俺は隣にフェスがあどけない顔で眠っている事を確かめると、クサナギを掴んでホテル:バートクリードの裏庭に出ることにした。

 

 体を軽く動かす程度の単なる朝の鍛錬なんだが。


 ホテルの裏庭なので流石に訓練所ではないが、充分な広さがあり、少し体を動かす程度であれば差し支えない。

 

 元々は馬車を駐機したりやテイムされた魔物を待機させる場所らしく、今は馬車が2台のみ止まっている。 

 馬は奥の厩舎で休んでいるようで馬車から外されていた。

 

 俺はテイムされたモンスターは居るかと、好奇心からキョロキョロ見回してしまったが、今は待機所には見当たらないようだ。

 

 幸い人は俺以外、誰もいない。


 俺はクサナギに軽く魔力を流し、居合いや高速の突きの訓練をする。


 居合いはこの前と同様、背中で溜めておいて、高速で抜刀、一閃し、瞬時に納刀する。

 

 背中の鞘への納刀もクサナギが、自らやってくれるので楽である。


 突きは、かの天然理心流の沖田総司のイメージ。

 

 抜刀したクサナギを平正眼に構え、1歩踏み込むのと同時に空気が裂かれるような神速での3段突き。

 

 いわゆる彼の秘剣、無明である。


 両方とも本来の型とは違うだろうが、見よう見まねのいわゆる俺流。


 下級の身体強化魔法と加速魔法での鍛錬であるが、それだけでも恐ろしいほど体の切れがいい。

 

 朝の軽い運動にぴったりである。

 

 鈍るという事は絶対ありえないチートな肉体からだのおかげであろう。

 

 しかし前世の俺では到底考えられないのは、肉体からだを動かすのがとても好きになっている事である。

 

 やがて朝日が昇ってくる。

 

 日の光を受けて、クサナギの刃紋が眩しく光っている。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こちらでしたか?」

 

 フェスが俺に声を掛けて来る。


「ごめん、ごめん。よく寝ていたから」


「ふふ、お陰様でぐっすりと眠れましたよ」

 

 フェスは憑き物が落ちたように、にこやかだ。


「朝風呂入って、飯食べてから、とりあえず冒険者ギルドで登録だな」


「はい」


「後で例の渓谷の始末に関しても考えよう」


「かしこまりました」


「フェス、ここに来て思い出したけど今後の事を考えて、何か召喚魔法を覚えたい」


「かしこまりました。使役するモンスターの候補を考えておきましょう」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺達はホテルのレストランで朝食を取っている。

 何とビュッフェ方式の朝食で好きなものを好きなだけ食べられるのはありがたい。


「風呂上りのこんな朝食ってのも優雅でいいな。クサナギも楽しんでくれ」


『ありがとうございます』


「そう言えばこちらの宿……どうします」


「マルコの財布事情か」


「はい」


「う~ん、奴の面子メンツもあるし、予約した1週間は居ようと思っているよ。借りにして後からケアしてやろう。ちなみにここって1人1泊いくらなんだろう」


「支配人さんに確認済みです。ちなみに宿泊費は1人1泊金貨3枚だそうです」

 ※金貨1枚1万円です 


「……2人で金貨42枚か、張り込んだなぁ。まあ命の値段に比べれば安いけどな。ちなみに俺達の所持金は?」


「ルイ様からいただいた金貨20枚ですね」


「他に買わなくちゃいけないものも出てくるだろうし、そろそろ稼がないと不味いな」

 

 俺達は早速、冒険者ギルドに出向いて登録することにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺はフロントでエルフのイケメン支配人を掴まえて冒険者ギルドへの道を尋ねることにする。


「支配人さん、支配人さん」


「はい! 何でございましょう、お客様!」


 打てば響くってこの事か、流石にキングスレー商会特選のホテルだ。


「冒険者ギルドに行きたいんだけど、どこらへんかな?」


「このホテルから中央広場に出て、左奥ですね。ウチの馬車で送らせますよ」


「馬車の使用料……宿泊費と別料金だよな」


「何をおっしゃいます、サービスです、サービス」


「本当に! じゃあ、お言葉に甘えようか、帰りは市場を冷やかしてくるから歩いて帰るよ」


「かしこまりました」


 ホテルの支配人に教えられた通り、冒険者ギルドは中央広場から左に入った行政庁舎区画の一角にあった。

 

 隣が行政庁舎なのはこの街の成り立ちを考えると、自然な事なのかもしれない。

 

 実際に王都セントヘレナから派遣された事務官は税務関係の人間に限られるらしい。

 

 行政の長は王家の一族でもあるギルドマスターが兼ねている。

 

 また12人の円卓騎士の伝統からなのか、同人数のいろいろな職業の執政官達が統治者でもあるマスターを補佐している

 

 いわゆる他の都や街とは違う特殊な行政形態なのである。


 ホテルの馬車で送って貰った俺達は御者に礼を言って冒険者ギルドの前に降り立つ。

 ギルドは3mほどの壁に囲まれた広い敷地を持つ、やはり他の建物同様白壁の5階建ての造りである。

 

 建物の内部は……


 1階が冒険者の依頼と報告用カウンター

 そして新規登録者受付カウンター

 

 2階が依頼主クライアント用カウンター及びその個室

 

 3階がギルド幹部用の応接室及び会議室

 

 4階が幹部室及び資料室

 

 5階がギルドマスター室とマスター専用の応接室

 

 裏庭が討伐部位及び資材の受取作業所及び換金所

 

 B1が回収した資材の倉庫


 1フロア毎の広さも、中々広くなっている。

 

 1階の受付・報告カウンターは各20ずつあるが、朝の事でもあり依頼受付の方が圧倒的に多いので報告カウンターの方も10ほど依頼用に回しているようだ。

 

 多分、夕方はその逆になるのだろう。


「凄い混雑ぶりだな」


「ギルドの総本山で世界一の規模ですからね。依頼の種類も数の多さも一番でしょう」


「登録の受付はあっちのようだな」


 俺達がカウンターに向かおうとするといきなり野太い声がかかる。


「そこの赤髪の別嬪べっぴんちゃんよ。魔法が使えそうだな。俺達のクランに入ってよ、依頼を一緒に受けてくれや」

 

 どうやら魔法使いが必要な依頼を受けたクランらしい。


 ギルドではクランに参加していないフリーのソロ冒険者も多く居る。

 このようなイレギュラーの臨時契約もよくある事なのだ。

 

 声の方を見ると薄汚れたスケイルアーマーを着込んだ髭面の人族の中年男である。

 背中に鉄製らしいメイスを背負っている。


生憎あいにく、まだ冒険者じゃないんですよ。これから登録をするものですから」


 フェスがやんわりと断るが男はあきらめようとしない。


「何だ、新人ルーキーか? でもい女だ、俺達が磨いてやるから、こっちに来いや」


あるじがいますので、お断りします」


 しつこい男である。

 フェスのこめかみがぴくぴくと動いている。

 

 不味い!

 

 彼女は、もう切れる寸前だ。


「何だ、俺様の誘いを断わるのかよ!」


 男がいきり立って怒鳴る。

 どうやら俺の事は全く眼中に無い。

 

 埒が明かないので、俺は男とフェスの間に立ちふさがった。


「何だ、てめぇは!」


「この子の連れだよ、俺達はこれから冒険者登録をするんだ。悪いが、他を当たってくれ」


「餓鬼が舐めてんじゃあねぇぞ、黙って女を渡して――そうだな、へへへ、それとついでに有り金を残して消えな!」


 ギルドの中で人攫いに強盗か。

 ……どうしようもない屑野郎だ。

 

 男の息から酒の臭いが漂ってくる。

 昨夜の酒が抜けていないのか、朝から軽く引っ掛けて来たのであろう。

 

 これから仕事なのに酒かい、まあ結果が全てだからどうとは言えないがな。

 

 ただ強盗紛いなのはとんでもねぇ。

 周りの冒険者が何人もこちらを見ているが、誰も止めようとしない。

 ギルド職員も駆けつけて来る気配も無い。


「この糞餓鬼が!」

 

 男は拳を振り上げて俺の顔面を殴って来た。

 

 俺はあえてそれを正面から受ける。

 

 こんなの身体強化魔法を発動するまでも無い。

 今の俺の身体は、ちょっと気合を入れれば全然痛く無いのだ。


 ゴッ!


 鈍い音がして俺の頬に男の拳が食い込んだ。

 一応、殴った音だけは派手になるように受けてやる。

 

 2発、3発……何だよ、まるでオークジェネラルの時と同じだ。

 男の拳は力に任せた打撃である。

 ……本当に芸が無い。

 

 男が俺を殴る音に気付いた冒険者達が更に集まって来た。

 でも止めるどころか面白がっている奴等も居る始末だ。


 俺はだんだん馬鹿らしくなって来る。


 また1発、2発計……よし計5発……

 

 仲間らしい男2人も混ざって、にやにやしながら、こっちを見ている。

 

 俺は痛そうな振りをしながら、殴られたのを見た人間が、複数いるのを確かめた。


 俺はそのまま後ろを振り向いてフェスにウインクする。


「姉ちゃん、てめぇの色男はボコボコだぜ。これ以上やられたくなかったら、俺達と一緒に来い。仲間と一緒に可愛がってやるぜ」

 

 おお、こいついい気になって、悪役モード全開だな。

 

 さあ、もう良いだろう。

 

 俺はもう一発殴ろうとする男の右拳を掴む。

 男は暴れて左拳で殴ろうとするがそれも掴む。

 足で俺の腹を蹴ろうとするが、俺はそれを避けて拳を離さない。


 めきょっ!


 ……男の拳を掴んだ俺の手の中から嫌な音が響く。


「ぐぎゃあああああ」

 

 男の絶叫が響く、指や手の甲の骨がゆがみ、ひびが入ったようである。

 

 俺は男を突き飛ばした。

 

 男は無様に床に転がると両手を押さえて転げまわる。

 

 にやにや見ていた男の仲間2人が血相を変えて飛び込んできた。


「よくも兄貴を!」

「やっちまえ」


「おいおい、いいがかりをつけられて、先に殴られたのはこっちなんだがな」

 

 いつの間にか俺達の周りには沢山の人だかりができていた。

 何人かが俺の言葉にうなずいている。


「う、うるせぇ」

「問答無用だ!」

 何とこいつらナイフを抜いてきた。


 俺は2人の攻撃を軽くかわして、手加減したパンチを顔面に叩き込んでやった。

 

 ガッ!ギッ!

 

 それでも2人の鼻骨が折れ、顔面が陥没し、男達は昏倒した。

 

 フェスが目で合図をしてきたので俺は後ろに気を集中する。

 

 最初に因縁をつけてきた痛みを堪えてメイスを振りかぶり、背後から俺を殴り倒そうとするところであった。

 

 俺は軽く体を横にしてかわし、相手の首元に手刀を叩き込む。

 

 喉がつぶれる音がし、最初の男も昏倒した。


「何の騒ぎだね」

 

 今頃になってやっとギルドの職員が来たようである。

 

 30歳過ぎくらいのシルバーブロンドの男だ。


「登録の受付に来たんだが俺の連れが、この馬鹿共に因縁をつけられたんで、守っただけさ。手を先に出したのもあっちだし、刃物を使ったのもあっちだけさ」

 

 見ていた人だかりからも「そうだ」「間違いない」との声が上がっている。

 

 こいつら普段から、評判が悪かったんだろうな。


「とりあえずこっちに来てくれ」

 

 俺が倒した奴等はどこかに運ばれ、俺とフェスは3階の会議室に通される。

 

 20分ほど待たされ、ドアがノックされると、先ほどのシルバーブロンドの男があらわれた。


「待たせてしまって申し訳ないね。さて君が、のした男達は一応Dランクの冒険者だったんだけど、普段から評判が悪くてね。今、裏も取れた。君達は無罪放免だよ、もう行ってもいいそうだ」

 

 俺はこの職員バカの言葉に思わず言葉を返してしまったのだった。


「それだけか?」


「それだけとは?」


「俺達は一方的にいいがかりをつけられて最初に暴力を振るわれた。しかも刃物まで出されて強盗紛いの事もされたんだ。ただ無罪放免なんてふざけた事言うんじゃねぇよ」


「なっ!?」


「ギルドの責任はどうなるんだよ。俺があいつらをのしたからいいものの

 もし俺が金むしられて彼女が攫われ、乱暴されていたら、ギルドは責任取れるのか」


「でもね、ギルドは基本冒険者同士の諍いには不干渉だし、相手も重傷なんだ。相手にも一応人権はあるし、喧嘩両成敗とも言うだろう」


「ほう……てめぇ、本気で言ってるのか? 野外じゃない、ギルドの中で起きた傷害事件だぞ。そして俺達は被害者なのに何が人権だ、何が喧嘩両成敗だ!」


「な、何だ。僕に暴力を振るうつもりかい。そんな事をしたら、き、君は世界中のギルドから追われるよ」


「寝言、言ってるなよ」

 

 俺は職員の首に手をかけてぐいぐいと締め付けた。


「た、助けて~、ぎゃぐぐぐぐ、だ、誰か~」


「何の騒ぎだ!」

「おい、やめろ」

「何をしている」

「カロンを放せ」

 

 ギルドの職員らしい男達がなだれ込んで来た。

 カロンって言うのか、この馬鹿は……


「騒がしいな、何の騒ぎだ!」

 

 突然、重々しい声が響き、部屋に鷲のような威厳のある風貌の長身の人族の男が入ってくる。

男は俺を刺すように、睨んだのであった。

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