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第13話(閑話)フェスの気持ち【前編】

【フェス視点】


 いつからこんな気持ちになったのだろう。

 少なくともルイ様のお屋敷で初めてお会いした日は決してそんなではなかった。


 私は強い女と言われて生きてきた。

 いわゆるふたつ名も持っている。

 

 ルイ様には流石に敵わないが、それ以外の者には簡単に負ける気がしない。

 

 それゆえまともに女扱いされる事もまれだ。

 

 私だって大概の男には全く興味が無い。

 はっきり言って心も身体も弱い男、いわゆるへたれは大嫌いだ。

 

 彼、ホクト様も最初はただの少年という存在だった。


 従士を引き受けたのもルイ様の命令は絶対だったからだ。


 彼の転生の経緯は聞いていた。


 しかし私は不満だった。


 たかが人間だ。

 

 何故ルイ様の部下の中でも指折りの戦士の私が人間風情の従士などと。


 でも引き受けたものは仕方が無い。

 私はあくまでも粛々と任務を遂行しようと考えた。

 

 いくらあのお方から規格外の力を与えられても、体術や魔法は感覚イメージも、ものをいう。

 さらにいうとそれは感性センスと言ってもよい。

 

 実戦経験も無い彼に余裕を持ってあしらうように教えていればいいと思っていた。


 だが訓練を始めてから驚愕の連続だった。

 

 初めての魔法でも難無く1回で発動させ、私の魔法など比べ物にならない質の高い魔法をいとも簡単に使いこなすのだ。


 剣や体術もそうだ。

 

 私が本気を出して魔剣で攻撃してもすぐに動きを見切って、逆に私に見切れない得体の知れない技を使い喉元に剣を突きつけられてしまう。

 手加減されているのは明らかだった。


 これはあの方やルイ様の加護のせいだけではない。

 彼が元々持っていた魂の感性という才能のおかげだ。


 はじめは嫉妬した。

 そういうタイプはすぐ尊大になる者も多いので尚更だった。

 

 だけどそんな事は杞憂きゆうだった。

 

 彼は変わらなかった。

 

 最初と同様に私を尊敬して、指導に素直に従ってくれた。

 優しくしてくれた。

 美しいとも言ってくれた。

 本当だろうか?

 彼が前世でも軽々しくいろいろなひとにそんな事を言っていたのではないだろうか?


 初めて私が彼の魂にしっかりと触れたのは、知識模写の魔法を使ってこの世界の知識を教えたときだった。

 

 この魔法は肉体接触により発動させ、1番効果があるのは、男女の交わりである。

 愛は無くとも肉体の交わりを行えば本能的な魂同士の高揚には繋がるのだ

 

 ルイ様からは彼が望むなら応じるようにと言われていた。

 

 当然、私自身も割り切っていたので全く異存はなかった。

 

 だけど、彼は最初その事を提案しておきながら却下した。

 

 あれは冗談だったと笑われた……冗談? ……私は傷ついた。

 

 私にはやはり女として魅力がないのかと。


 手を合わせて発動した知識模写の魔法の際に私は彼の魂に触れた。

 

 具体的な事象はわからなかったが、彼がどうして死んだのかという事もわかった。

 他人の命を救うために自らの命を投げ出した純粋な魂。

 

 魂の中には私への好意もあった。

 

 しかし尊敬と慈しみに近い……肉親で言えば姉に近い感情……

 私はほっとしつつも複雑な感情にならざるをえなかった。


 出発の前日、彼が私の革鎧スタデッドレザーアーマーに近い物を選んでくれた時は素直に嬉しかった。

 

 子供みたいな感情になった。

 

 しかしあの場でルイ様と私の手に負えなかったクサナギさんが簡単に彼により解放され、さらに彼と旅を共にすると聞いて私の感情は乱れに乱れた。

 その場にいた私は私と彼の魂の絆より、遥かに強い魂の邂逅かいこうを肌で感じてしまっていたのだ。


 出発してからも私は平常心でいられなかった。

 彼には平常心を装っていても辛かった。

 

 この感情は何? いったい何だろうか?

 

 彼の事を考えると胸が一杯になる。

 彼が居なくなると考えると喪失感で一杯になる。


 彼に背負われているクサナギさんが羨ましかった。

 彼とあんなに近くに居る。

 いつでも一緒だ。

 

 彼女も私の気持ちに敏感なんだろうか?

 私に対しては、いつも挑発的だ。

 だから不毛なやりとりが続いてしまう。

 

 彼が仲裁しようとするが、私も彼女も譲ろうと言う気持ちは一切無い。


 出発して間もなくオークの群れが人間を襲っているのに遭遇した。

 私は彼に判断を任せたが、当然助ける選択をしてくれて、予想通り圧倒的な力で殲滅した。

 

 そんな中でも私は女として心配される。

 

 今までだったら戦場でのそんな気遣いなど笑うかして、一蹴していたのに……何故か……とても嬉しい。

 囮に出ていた私が無事なのを知ると、彼の安心したこころの波動がしっかりと伝わって来たのだ。


 人間達を助けた私達だったが、相変わらず、彼女とのいさかいは続いており、彼からするとどうにも限界まで来ていたらしい。


 そんな中、クサナギさんが私を人間ではないと口走ってしまった。


 ルイ様の部下ということで私が常人ではないと認識されているのは仕方が無い。

 しかし正面切って彼女に言われたのは正直ショックだった。


 その日、助けた商人から歓待を受けた。

 

 とても楽しかったが、宿に戻ってから自分の部屋に居ると、彼から念話で呼び出しがあった。


『俺はこれからクサナギと話す。 念話を繋げるからフェスにも聞いていて欲しい』


『…………』


 不味いと思った。

 クサナギさんと話すという事は、やはり私と彼女のいさかいの事だろうか……

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