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第12話 フェスとクサナギ

 ホテルに戻った俺達はマルコに言われた通り、部屋付きの風呂に入って疲れを取る。

 残念なのは、やはり西洋風の湯舟なので体を湯舟の中で洗う仕様だ。

 思い切り身体を伸ばす事も出来ない。

 他は構わないが、これだけは不満だ。

 いつか、俺の好みの風呂を作ろう、絶対。

 

 その給湯であるが、魔道具マジックアイテムが備えられており、魔力で自分が出したいと思う温度の湯を自由に出す事が出来る。

 俺はそんなに熱い風呂が好きではない。

 年寄りが熱湯レベルの風呂に嬉しそうに我慢? して入っているのを俺は理解は出来ない。


 ちなみに俺は水属性の水流の初歩の魔法をルイに教えてもらって、少量の水を指先から噴出させる事は出来る。

 これは当然、飲み水にも使えるので魔力オドに制限の無い俺は、いわゆる水筒要らずである。

 もしやと思い、お湯に関しては、この魔道具に触れてから、感覚イメージを共有して、水流のお湯版を試すと簡単に発動できた。

 これで、後は湯舟さえあれば野外での風呂……いわゆる露天風呂もOKだ。


 さてまだ今夜はやる事がある。

 フェスに夜這い!? ……いや、そんな事はしない!


 先にフェスと念話で話す。

『俺はこれからクサナギと話す。念話を繋げるからフェスにも聞いていて欲しい』


『…………』


『クサナギ……』


『はい、ホクト様。本日はありがとうございました。私はあの埃臭い倉庫から解放されて毎日が楽しいんです』


『今日は悪かったな。俺とフェスばっかり食事を楽しんでしまった』


『私は刀の精霊です。実体化できればいざしらず、この状態では 当然、食事など摂る事が出来ません。ホクト様が気に病む事ではないですよ』

『実体化? そうすればクサナギも俺達と食事をしたり、いろいろな事が出来るのか?』


『多分……でもいかなホクト様でも簡単には参りません』


『何故?』


『記憶を消されているので、理由は定かではありませんが、 私にはある【呪】がかけられているのです。ホクト様と念話で話したり魔力共有して戦う事は出来ますが、 この身を実体化したりする事などは何故か出来ないのです』


 呪とはいわゆる呪いの一種である。

 この世界では強力な魔力を持った言霊ことだまにより、能力に制限がかけられたり最悪封じ込められる事を指す。

 対象者が術者より魔力オドが強いときは、抵抗レジスト出来る場合もある。

 呪を解くには同じ言霊を術者と同等以上の呪を以って消すか、術者を倒す必要がある。


『私は彼女フェスが言う通り、呪われた精霊かもしれません。 誰がいかなる理由で【呪】をかけたかはわかりませんが、悪しき存在だったかもしれません』

 

 俺は引き続き、クサナギの告白に耳を傾ける。


『でも滅せられず、生かされた私がホクト様と出会った。先ほどの商人ではありませんが、これも縁です。 いや大袈裟かもしれませんが、ホクト様の温かい手が私の鞘に触れた時、間違いなく確信しました……これは運命だと! 私はこの方と出会うべくして出会ったのだと!』

 

 クサナギのあの時の喜びが再び俺の魂に伝わってくる。

 そう言えば……念話のこころの鍵も開けずに、俺はどうして話が出来たのだろうか?


『先ほども申しましたが、私は今幸せです。ホクト様がこれからどのような道を歩まれるか、わかりませんが、私が滅する事がない限りお側におります』


『わかった、ありがとう、クサナギ』


『あとひとつお願いが……』


『何?』


『食事に関しては甘えついでに……』


『?』


『ホクト様の心の一部を食事の際に私につないでいただければ、料理そのものとはいきませんが私も味をわずかながら感じる事が出来ます』


『わかったよ、それでクサナギが少しでも俺達と一緒に楽しめるなら、そうしておくよ……それに』


『?』


『いつとは約束できないが、お前にかけられた【呪】を探り出し、絶対に術を解く。どうしても術者を倒すのが必要ならば、俺はそれもやるよ』


『……あ、ありがとうございます、私は幸せです。ホクト様に会えて本当によかった!!!』


『後、言いにくいがもうひとつあるんだ……』


『フェスティラ様の事ですね……』


『そう……だな』


『フェスティラ様はこの世界の知識も豊富で凄まじい炎の魔法を使いこなし、剣技も卓越した優れた魔法剣士です。ホクト様にとっては絶対必要ですし、素晴らしい従士だと思います』


『そんなに認めているのか……』


『当然です。私が……彼女に突っかかるのは実は単なる妬みですから。戦いの時にしかホクト様と時間を共有できない私と違って、いつでもホクト様のお側に居られて甘えられる彼女が本当に本当に羨ましかった……』


『クサナギ……』


『ただ私は彼女が人間では無い事をホクト様に明かしてしまいました。そんな私を彼女は許してくれるでしょうか?』


『……よし、その事はお前が悪いと思っているのなら俺から執り成そう。俺はお前とも、もっと話したいし分かり合いたい。その上でお前に頼みたい。俺は三人で仲良くやりたいのさ』


『はい! 私も素直になります! 3人で仲良くやりましょう!』


『これから俺はフェスを説得する。今後クサナギと仲良くして欲しいとな。……ちょっとした喧嘩くらいなら、一緒に旅をする仲間としてはガス抜きとして、たまにあってもいいけどな』


『わかりました…ホクト様、今日は心の内の話もする事が出来ました。私は元々あの方を認めていますし、彼女フェスが私を許してくださるならば、全然異存はありません』


『わかった! ありがとうクサナギ!』


『はいっ!』


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 30分後、俺は隣のフェスの部屋に居た。


『いろいろとホクト様にご心配をかけまして申し訳ありません。 今の段階では申し上げられる事と申し上げられない事がございます。心苦しいですが…。も、もしそんな私がお、お嫌であれば従士の任を……と、解いていただいても……か、構いません……』


『そんな事、出来るわけないだろう。フェスの事を俺は大好きだし、この世界の事を教えてくれた素敵な先生だ。そして、忠実な従士……いや、かけがえの無い大事な大事な仲間じゃあないか!』


『あああ、ありがとうございます。そして御免なさい! わあああああああ!!!』

 

 フェスは大きなワインレッドの瞳に涙を一杯溜め、俺の胸に飛び込んでくると大声で泣きじゃくった。


『御免なさ~い、御免なさい!!!』

 

 色々言ったけど……俺の彼女フェスに対する気持ちって、本当はどれなんだろう。

 

俺は彼女をしっかりとを抱きしめて、その震える背中をそっと優しくなで続けていた。


『この前の彼女との喧嘩で露見してしまいましたが、ホクト様がご想像されている通り、私は人間ではありません。精霊、それも……火の精霊です』


『フェス……』


『私はクサナギさんが、かけられた呪と同様ある【業】を背負って生きている女です。今は……それ以上の事は申し上げられません。本当に…本当に御免なさい』


『いいよ、いいよ精霊だと俺が知ったからってフェスが明日から変わるのか、そうじゃあないだろう。それに業というのがどういうものか、わからないがそれを払い、無くす事でフェスが幸せになれるのなら俺はそうする……必ずな!』

 

 俺がそう言うと、またフェスは瞳を涙で一杯にしている。


『…………あ、ありがとうございます

 

私もクサナギさんと同様、私が滅ぶまで側に置いてください。お願い致します』


『フェスは案外、泣き虫だな。火の精霊がそれじゃあ、涙で火が消えちゃうじゃあないか』


『いつもは、こうじゃあありません……ホクト様がお優し過ぎるから、いけないのです』


『俺は優しくなんかないぞ』


『私にとっては充分です。ありがとうございます』


『後は……クサナギさんとの事ですね。私も彼女を認めています。私も彼女と同じく……単なる妬みです。ホクト様が肌身離さず、ずっと一緒に居られる彼女が羨ましくて、羨ましくてたまらなかったのです……御免なさい……後で彼女に謝ります』

 

 上目遣いに俺を見上げるフェス……何だ、凄く可愛いじゃあないか。


『ふふ、今、凄く上から目線じゃありませんでした?』

 

 フェスは泣き腫らした目で俺を軽く睨む。

 

 あれ、よかった!いつものフェスだな。


 フェスはぐすんと鼻を鳴らすと真っ直ぐに俺を見詰めた。


『彼女が自覚しているかわかりませんが、彼女は単なる刀の精霊ではありません。多分、神剣の精霊でしょう』


『し、神剣?』


『そうです。彼女が言う通りホクト様は彼女に出会うべくして出会ったのです。その先どうなるかは私に予知の魔法の素養が無いので何となくしかイメージ出来ませんが。それに彼女の事を私がこれ以上どうこう言う事ではありませんので』


 その晩、俺達は3人で一緒に寝た。

 より深まった絆をそれぞれが自覚しながら……

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