表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/114

第11話 マルコの夢

「いかがでしょうか?」

 

 こいつは本気だな……

 

 自分の夢を語り終わったマルコは相変わらず熱っぽい視線で俺とフェスを見つめてくる。


 俺は一呼吸おいてから言葉を返す。


「わかった。【あかつきの地】のリーダーにも言ったが、俺達はまだ冒険者ギルドに登録もしていない。 明日にでも登録して、しばらくはこの街を拠点にするつもりだ。 ここにいる限りはお互い協力し合っていこう」


「ありがとうございます。この街にいる間だけっていうのが気にはなりますが、先の事を考えてばかりいても仕方が無いですしね。逆に僕が手放せないくらいの人材に成長すればいいんですものね」

 

 こいつ、相変わらず前向きな男だ。

 ここから俺達は念話モードに入る。


『熱いな~』と俺


『そうですね』と俺に同意するフェス


『表裏が無くて、真っ直ぐですね。それが商人にしては、致命的な不器用さになりそうですけど』


 と毒を吐くクサナギ。

 でも言っている事は真実だ。


『でも、そういう誠実さは俺、嫌いじゃあないし、だから協力をOKしたんだけど』


『私も彼のような商人と結びつきを持つのは、とても良い事だと思いますよ……ホクト様』


 フェスが俺に同意してくれた。


『出来が悪いけど、かわいい弟みたいに思えます、私』


 弟?

 成る程、クサナギから見れば俺もそうかもしれないな。


『うん、良い奴なのは間違いないし、放っておくと危なっかしいしな』


『そうですわ』


『このままじゃ、本当に自分で言っている通り遠くない未来に魔物の餌になりますものね』


 魔物の餌……クサナギは相変わらず凄い毒舌だったが、俺達は基本的にはマルコに好意的だったのだ。


「それにしても俺、マルコの自己紹介を、ちゃんと聞いていないぞ」


「そう言えば、僕もお2人の名前だけしか伺っていませんでした」

 

 そうか、俺もだったか……

 しかし俺も大概だが、相手の名前も聞かないなんて、こいつも商人にしてはなんだな。

 良いのか、悪いのか……


「では改めまして、自己紹介を――マルコ・フォンティと申します。

 キングスレー商会の主任をしております」


『フェス、キングスレー商会がどれくらいの規模か知らんが、 あいつの給料で俺達の宿代に、ここの飲み食いって楽勝なの?』

 

 マルコの勤務先を聞いた俺は念話でフェスに何気に聞いてみた。


『ホクト様の感覚イメージで言えば商会の主任は【手代】と言ったところでしょうか』


『手代って……どんなイメージだよ。確かに俺は前世の時代劇っていう特別仕様のドラマが好きだけどさ』


『彼は本当に私達に感謝した上で可能性を見込んで無理して身銭を切ったようですよ』

 

 何気にフェスが毒舌になっている、誰の影響だよ。

 それはさておき凄い見込まれようだよ、本当に。

 まあ、今後いろいろ協力してやればいいよな、うん。


「俺はジョー・ホクト。ジョーと呼んでいい。冒険者になるために、この街へ来た。ローレンス王国の出身だ」


「フェスティラ・アルファンです。フェスと呼んでいただいて構いません。同じくローレンス王国出身です。ホクト様の従士をさせていただいています。」

 

 ローレンス王国云々は旅立つ前に出身地を尋ねられたり、公的な届けを出す時にそう口裏を合わせようとルイとフェスと3人で決めた。

 

 万が一調べられてもルイが裏で工作をしておいてくれるらしい。

 

 もともとルイの屋敷はローレンス王国に存在するルイの亜空間の中にあるのだ。


「ジョー様、フェス様、改めて宜しくお願いします」


さまはいらないよ」


「そういう訳には行きません。これだけは僕の商人としてのこだわりですから」

 

 もっと気安くても良いんだが。

 

 そのこだわりは、良くわからないが俺は無理強いはしない。

 

 他にもマルコの普段の仕事とか、独身で相手がどうとか、当たり障りの無い話が続く。


「ウチの飯はどうだったかい?」

 

 食事が一段落ついたと見るやダレンが声をかけてきた。


「ごちそうさん、凄く美味かったよ」「おいしかったです」


「ありがとう、親爺オヤッさん。お2人とも凄く喜んでくれました」


 そうだろうと頷くダレン。

 彼は自分の店の料理には絶対の自信を持っているようだ。


「マルコはガキの頃から仕事一筋でやって来たんで友人が少ないんだ。こいつの力になってやってくれ、宜しく頼む、ついでに彼女でも紹介してやってくれればなお、良いんだがよ」


「はあ、な、何言っているんですか? 親爺オヤッさん!」

 

 友人が居ない……つまり『ボッチ』という事を暴露されたマルコは慌てて手を横に振るが、ダレンはそれを無視して笑いながら俺達に深く頭を下げた。

 

 へ~、この人、見かけはごついけど案外いい人なんだな。

 一見、怖そうな筋肉達磨だけど……


「おいジョー、何か失礼な事を考えていなかったか」


「……いや考えてない」

 

 この世界の人って皆、勘がいいのは何故だろう?……


「それより俺達も今後は冒険者として、この街で暮らす事になりそうなんだ。また飯、食いに来ていいか」


「おお良いぞ、良いぞ。どんどん来てくれ。ただ冒険者は危険な仕事だ。身の丈に合った仕事をまず受ける事を心がけるんだ。絶対、無理はするなよ。そう、お前も同じだマルコ」

 

 そう言えばこの親爺ダレンは元冒険者だったな。


「ダレン、実はまだ俺達、冒険者ギルドに未登録なんだ」


「そうか、マルコよ。もしよければ、お前がこの方達にどうタマを救ってもらったか、教えて貰っていいか?」


「ジョー様、宜しいですか?」


「構わないが、あまり大袈裟に言わないでくれよ」

 

 俺はやんわりとマルコに釘を刺しながらOKしたのだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――30分後


 俺達の話を聞いたダレンは腕組みをしながらしきりに感心していた。


「なるほどな。オークの上位種と率いられた群れを容易たやすく倒したか、たいしたもんだな」


「たまたまだ……」


 ダレンに褒められた俺だが、首を横に振った。


「ははは、謙遜するな。確かにお前達はマルコが入れ込むだけの事はある。登録もしていない新人ルーキーとは思えん」


「…………」


 俺が黙っているとダレンは何か決めたようでポンと手を叩いた。


「よし、マルコを助けて、その上で一番にこの街を選んでくれた。お前達に俺からもささやかながら2つプレゼントだ。まず今日の飯代は俺の奢りだ」


「そんな! 親爺オヤッさん」


 マルコが取り縋るが、例によって全くスルーされてしまう。


「いいから、いいから。どうせ義理堅いお前の事だ。他にもだいぶ無理しているんだろう」


「うっ」

 

 鋭いダレンの指摘に蒼ざめるマルコである。


 ……やっぱりこいつ、宿代、無理しているのか、そうだろうなあ。


「もうひとつはジョーとフェスにだ。明日あたりにギルドの登録に行った時に受付の|奴(職員)経由でギルドマスター宛てに伝言をしてくれ。お前達は、このダレンの推薦だとな」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その後、また話が弾みダレンに礼を言い、俺達が【大飯食らいの英雄亭】から

【ホテル:バートクリード】に戻った時にはもう夜も更けていた。


「今日は何から何まで世話になったな」


 俺がマルコに礼を言うと彼はとんでもないと謙遜する。


「いえいえ、ご覧の通り僕はまだまだ半人前です。今日も親爺オヤッさんに助けて貰ったし」


「そういうのがマルコの人徳だ、商人には絶対に必要なものだよ」


「人徳……ホクト様って良いこと仰いますね。そうか、そうですよね」


「そうさ……」


 俺が同意するとマルコは余計、嬉しかったようだ。

 満面の笑みを浮かべている。


「今日はありがとうございました、今夜はゆっくりお休みください」


「そっちこそ気をつけてな」


「こちらこそ、ご馳走になりましたわ、ありがとうございました」

 

 フェスも頭を下げてマルコに礼を言う。


「では僕は帰ります。今後ともよろしくお願いしますね」


 マルコは馬車に乗り込むと俺とフェスに手を振りながら、魔導灯マジックライトが灯る薄暗い車道にその車体をぼんやりとにじませながらゆっくりと去っていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ