第106話 警護メンバー揃う
「ああ、オデットの事か。彼女はお前と仕事をした後で知り合った魔法剣士さ。縁あって俺の従士になった」
オデットはカルメンとビッキーが俺の知り合いだと直ぐ認識したらしい。
即座に立ち上がると礼儀正しく挨拶をしたのである。
「オデット・カルパンティエだ。今、主が仰ったように新参だが、こちらからお願いして従士にして頂いた。冒険者ランクはAだ」
おいおい!
オデットの口調が変わっている。
それに従士になった経緯も違う―――これは一体?
その時リューディアとイェレミアスの主従が戻って来た。
どうやら冒険者ギルドの登録が終わったらしい。
リューディアは俺を見つけると一目散に駆け寄って来て俺に言い放った。
「ねぇ、ホクト様。私達Cランクだって! これって結構いけているでしょう?」
「よかったな、リューディア」
「私、役に立つわよね。ホクト様……」
ひゅ~
いきなり鋭く口笛が鳴った。
ビッキーの仕業だ。
「ふふふ、どうする、姉御。美貌の魔法剣士に、アールヴの貴族令嬢なんて、こんなに競争者が多いけど?」
ビッキーが意味ありげに笑った。
「…………」
カルメンは唇を噛み締めるといきなり黙り込んでしまう。
「もう姉御ったら……ジョーの前ではまるっきり小娘みたいなんだから、折角会えたんだし、はっきり用件を言いなよ」
「…………」
ビッキーが促してもカルメンは黙って俯いたままである。
肩を竦めたビッキーは俺に向かって苦笑した。
「ジョー、御免ね。私達が貴方を探していたのは例のロドニアに行く依頼の件さ」
ビッキーはそう言うと手を合わせてお願いのポーズをとった。
「最近、鋼鉄の聖女が4人全員揃わなくてね。ブランカは見習いが取れて司祭に昇格した途端、神殿に引っ張りだこ。セシリャには何と彼氏が出来て結婚秒読み……そうなりゃ冒険者引退がほぼ確定。残ったあたしたち2人は他のクランに行って仕事をしたんだけども何か折り合いが悪くてさ」
「仕事にもよるけど2人だけじゃ確かにきついな。それで俺達に頼みに来たというわけか」
漸く話が見えて俺が頷くとビッキーは合わせた手に力を入れる。
「お願い、今度大きい依頼を完遂すればあたしたちBランクに上がれるんだ、頼むよ。ほらぁ、あたしだけじゃなくて姉御からもお願いしてよ」
「ジ、ジョー……俺、お願いして良いの……かな」
カルメンが口篭って頼むのを俺はじっと見詰めた。
「良いよ」
俺はあっさりOKを出した。
「軽っ!」「良いのか、そんなに簡単に?」
あっさりOkしたので拍子抜けして驚くビッキーとカルメンであったが、俺は軽く手を横に振った。
「今回の仕事に関して護衛の数はいくら居ても良いんだ。じゃあ正式に契約しようか」
俺は2人にそう言うとダウテを呼んで個室の用意をして貰ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カルメン達を今回の依頼のメンバーに入れてから出発の日までは慌しい日々であった。
陣容が固まってからは警護の段取りに関して、俺は全メンバーを集めて打合せをする。
フェス達従士、リューディア達アールヴ主従、冒険者ギルドのサブマスターであるジュリアーノ・ベリーニ、そしてクラン鋼鉄の聖女の2人の適性を考えて配置を決めたのだ。
その結果、最先頭と最後方の警護用馬車の先頭は俺とクラリス、リューディア。後方の馬車にはフェスとカルメン。騎馬で脇を固めるのはオデット、ベリー、イェレミアス、そしてビッキーとなった。
こんな時、1番役立つ能力は当然の事ながら索敵魔法である。
クラリスとオデットによりルートの下見も既に済んでいる。この情報と俺と従士達の索敵を合わせてより安全な道中を確保するのだ。
ちなみに前から2台めの馬車はこのキングスレー商会商隊の旗艦ともいう馬車であり、マルコ・フォンティがこれに乗り込む事になった。
道中の食糧と水に関しては護衛用の馬車と10台のうちのいくつかに分散した。
これは1台の馬車が破壊されたり奪われた場合の危険を避ける為でもある。
中でもこの数日で1番大変だったのがマルコであろう。
ロドニアへ持ち込む荷の確認と梱包、馬車への積み込み。
俺達警護役との最終打合せ。
そして自身の剣術訓練と、ひとつしかない身体では足りないくらいであった。
「さすがに少ししんどいですね」
弱音を吐くマルコに対してフェスが優しく回復魔法をかけてやる。
「ああ、助かります」
嫉妬?
いやぁ、これくらいで嫉妬していたら俺も身がもちません。
そして何やかんやでとうとう出発の当日朝になったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
出発当日の集合時間はキングスレー商会前に午前6時……
俺達は少し早目の到着を考えて午前5時30分に自分の屋敷を出る事となった。
屋敷の入り口には俺以下6名が勢揃いし、いつも通りスピロフスとナタリアが見送ってくれる。
「行ってらっしゃいませ、ご主人様。私が心配するのはいつも同じ事でございます。ご理解頂いていますよね?」
そう……彼が心配しているのは俺と従士以外の人間。
俺自身はプラナリアと揶揄される身体だから良いとして、従士達もスピロフスからは俺に準じる評価がくだされているらしい。
フェスはスタイルは良いし、綺麗ですべすべの肌なんだから俺なんかと一緒にされるのは嫌だろうな。
俺がそう考えると勘の良いフェスはこちらを見て「何か?」と聞いて来る。
「何でも無い」
俺が慌てて手を振るとフェスは、じと目で暫く俺を凝視していたのだ。
話を元に戻そう。
というわけでスピロフスが心配しているのは俺達以外の人間なのである。
「アールヴの王女様を守ってさしあげてくださいね」
彼女がこの屋敷に来てから未だ日は浅いが、どうやらスピロフスはリューディアを気に入ったようだ。
「分かっているさ」
俺は大きく返事をすると見送る2人に手を振って歩き出したのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!