第104話 意外な助っ人
翌日午前10時30分……
俺はマスターであるバーナード・サー・アルデバラン公爵に呼ばれて久々に冒険者ギルドに顔を出した。
フェスがマルコ・フォンティに護身の為に稽古をつけるのと、旅立ちの支度に数人を残す必要もあって今日の俺のお供はクサナギは勿論としても、他には新参のオデット、そしてリューディアとイェレミアスの主従である。
フェスはその3人に対して最初は不安視したが、オデットとイェレミアスはともかくリューディアには人間社会に慣れさせないといけない。
そんな俺の意見に納得してこの面子で渋々送り出したのだ。
屋敷を出ると早速リューディアは俺の右手に自分の左手を繋いで来た。
その様子を見たオデットが珍しく空いていた左手に自分の右手を繋ぐ。
1人の男が2人の女と手を繋いで歩く……そんな俺達を後ろからイェレミアスが無言で付いて行くといった様相を呈していた。
暫く歩いて冒険者ギルドに着くと朝のピークの時間を過ぎた1階は既に閑散としており、カウンター内のギルド職員も朝夕の半分程度である。
俺はいつもの通り、待っていたハンス・ダウテに声を掛けると5階のギルドマスター室に直ぐに通された。
フェスやクラリスと違ってオデットとリューディアはギルドマスターのような偉いさんに会うのが慣れていないせいか、借りてきた猫のように大人しい。
俺がノックをするとアルデバランの重々しい声が入室するように促したので普通に部屋の中に入ろうとした。
しかし両脇から何者かが俺の革鎧を思い切り引っ張っている。
予想はしていたが……やはりオデットとリューディアが俯きながら鎧の端を掴んでいたのだ。
「おいおい、大丈夫だ。相手は無害なおじさんなんだから」
俺が2人に声を掛けると掴む力は弱まったが、相変わらず鎧を掴んでいる手は離さない。
「がはははは! おいっ、ジョー。聞こえたぞ!」
アルデバランの大きな笑い声がドア越しに掛かると2人共また鎧を掴む手に力が入ったのであった。
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俺達がギルドマスター室に入ると見覚えのある顔があった。
サブマスターのジュリアーノ・ベリーニが待っていたのである。
「やあ久し振りだね、ホクトさん。って……あれ? そちらのお嬢さん2人は私の知らない方ですね。ご紹介いただけますか? 私はジュリアーノ・ベリーニ、冒険者ギルド専属の冒険者でサブマスターです。冒険者ランクはSです」
俺はジュリアーノが食い入るように2人を見詰めて来るのに苦笑すると彼女達に自己紹介するように促した。
「オデット・カルパンティエ――冒険者――Aランク、黄金の旅所属……以上」
「リューディア・エイルトヴァーラ……アールヴです。ホクト様の……彼女希望……以上」
リューディアの自己紹介の最後に何気ないひと言が入れられるとオデットがいきり立つ。
「こらっ、リューディア! 抜け駆けは! ……いや、何でもない!」
怒るオデットに明後日の方を向くリューディア……
そんな2人の様子を見たベリーニは目を丸くするが、直ぐに首を横に振って苦笑した。
「相変わらず美人に囲まれた生活ですね、リア充って奴ですか? 羨ましい限りです。だけど今回は私もその中にお邪魔させて頂きますよ」
ベリーニは面白そうに笑っている。
私も、ってどのような意味だろう?
「ベリーニ、それってどんな意味だい?」
「ああ、今回、このアルデバラン公爵とキングスレー会頭の友情を改めて感じる事になったって事かな」
ベリーニは肩を竦めると話を続けた。
「簡単に言えば今回のロドニア行きのミッションに冒険者ギルドから無報酬で私が参加するという事さ」
……ベリーニが? そりゃ急な話だ。
って、おいっ!
俺は今度はアルデバランに問い質す。
「ははは、お前に相談無しで決めたのは悪かったが最終決定権はチャールズにあるのでな。無報酬でサブマスターのこいつを同行させると言ったら2つ返事でOKだったよ」
悪戯っぽく笑うアルデバランの表情の裏には様々な思惑があるのが魔眼持ちの俺には見て取れる。
今回のミッションの成功に万全を期すというのは当然だが、それに次いでの大きな目的は俺に対しての人脈つくりであろう。
アルデバランやベリーニは以前のミッションの際に俺やフェス達の力を目の当たりにした。
ローレンス王国という他国の民ではあるが、敵対するのが1番不味い事や巧く取り込んで出来るだけ味方につける事を考えているに違いない。
その上で国益が得られればいう事は無いのだ。
しかし無報酬でベリーニのような超一流の魔法剣士が加わるのは今回のミッション成功の確度が上がる事なので俺に異存は無い。
10台の馬車を警護するにはもう数人必要かなと内心考えていたくらいだからだ。
1時間後――俺達は今回のミッションの刷合わせをするとギルドマスター室を辞去する。
来た時と同様にハンス・ダウテに案内して貰う時にリューディアがぽつんと呟く。
「私も冒険者ギルドに登録したい」
「分った、じゃあ未だ時間もあるし、イェレミアスと一緒に登録したらどうだ?」
嬉しそうにこくんと頷くリューディア。
続いてイェレミアスに視線を移すとこちらも了解したという意味なのであろう、鷹揚に頷いたのである。
俺は職員のダウテに新規の登録の旨を申し入れ、リューディアとイェレミアスを預けるとオデットと共に1階の長椅子に座る。
手を繋いで来た癖に今度は椅子の端に座るオデット。
俺が苦笑して傍に来るように呼ぶと恥ずかしそうにくっついたのである。
その時であった。
「あらぁ! お久です!」
「……ジョーか? 俺、お前の事を探していたんだ……で、でもその娘は?」
明るい声と躊躇いがちな特徴のある声……
今、俺の目の前には鋼鉄の聖女のメンバーであるビッキー・チャバリ、そしてリーダーであるカルメン・コンタドールが唇を噛み締めながら立っていたのであった。
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