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第101話 謀る者達

 アールヴの情報屋ルナー・ハルメトヤを確保し、奴の背後に何があるか探るのが今回の目的だ。

 イェレミアスはもしルナーがアールヴの誇りを貶めていたら、落とし前をつける積りらしいが。

 ルナーの自宅はかつてリューディアとイェレミアスが住んでいた家の近所にあった。

 俺の索敵には自宅に反応がある。

 やはりアールヴの男性だ。

 多分、ルナーであろう。

 イェレミアスがドアを叩こうとしたのを俺は止める。


「これからの事もある。お前の雇い主マスターは俺だ、指示に従ってもらうぞ」


 不満そうな顔をするイェレミアスに対して、では今迄の約束を反故にすると伝えると漸く頷いたのだ。


「ここでお前がドアなど叩いて声を掛けたら奴は何をするか分らない。ここは俺に任せてくれ、クラリス頼む」


 面識の無い可憐な少女のクラリスならルナーに警戒されないと判断し、俺は彼女を行かせたのである。


「ルナーさん、開けて下さい。私、ある人から伝言を託されて来ました」


 暫く応答は無かった。

 やはり失敗ではという顔をするイェレミアスに俺は微かに笑う。

 家の中で人が動いた気配がしたからだ。

 やがてドアの小さな覗き窓が開き、険しい目だけがクラリスを値踏みするように見詰める。


「誰だぁ? てめぇは」


 クラリスは微笑したまま答えない。

 黙ったままのクラリスにルナーは苛立って来たようだ。

 とりあえず家に連れ込んでしまおうと思ったようだ。


「良く見りゃ中々、可愛い女じゃねぇか。まあ入れ」


 ルナーがドアを開いた瞬間である。


「たあっ!」


 短い気合と共にクラリスの小柄な身体が動くとルナーの腹に当て身を入れていたのだ。

 不意を突かれたルナーはあっけなく気絶したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ううう……」


 クラリスに当て身を喰らったルナーが目を覚ます。


「気がついたか? ここは俺の造った亜空間の中だ」


 何も無い真っ白な世界……

 その現世とは違和感のある異常な世界に自分が置かれた状況を知るにつれてルナーの表情から希望の色が消えて、絶望の表情が浮かんで来た。


「て、てめぇは!?」


 震える声で俺の名を聞くルナーだが、当然俺は答える気などない。


「お前に名乗る名など無い。さあ、こちらの質問に答えて貰おうか?」


 俺はルナーに冷たく言い放つ。


「順番に聞いて行く、良いか?」


「な、何故――てめえなんかに!?」


 いきり立つルナー。


「ああ、言い忘れたが……お前には麻痺パラライズ苦痛ペインの魔法をかけてある。嘘をついたり黙っているとお前の身体はねじれて最後には引き千切られる」


 俺が抑揚の無い声で告げるとルナーの顔から血の気が引きみるみるうちに真っ青になって行く。


「お前が死んだら鎮魂歌レクイエムの魔法を掛けてやる。お前の身体は塵になって終わりだ。跡形も残らないから、手間がかからなくていいかもな」


 ルナーは一瞬のうちに我が身を想像したのだろう。

 ぶるぶると震えると分ったと頷いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お前の雇い主は?」


「に、人間の男だ……ダ、ダンカンとか言ったな」


「ダンカンだと!」


 イェレミアスが思わず大きな声をあげる。

 ダンカンとはイェレミアスから聞いた名……確かアンティガ商会のマネージャー、ダンカン・モルダーか?


 俺が聞きなおすとルナーはその名で間違い無いと言う。


「お前、他に何か指示を受けているな」


 先程からルナーは俺以上にイェレミアスに対して怯えていた。

 何か理由がありそうだ。

 俺の質問に対しても黙って震えながら首を振るのである。


「質問に答えないと身体が捩れて死ぬぞ、ほら」


 皆の目の前でルナーの身体が僅かだが雑巾のようにぎゅっと絞られる。


「ぎゃううううう」


「ほら見ろ、言わんこっちゃない。さっさと言わないとこのまま死ぬぞ」


 俺は全く表情を変えずに言う。


「わ、分った! 言うよ、言うから!」


 ルナーは悲痛な叫びをあげる。

 どうやら覚悟を決めたようである。


「そ、そこのイェレミアスが犯人だと!」


「何!」


 俺はイェレミアスを抑えながら続きを話すように促した。


「イェレミアスが警護した事のある商会ばかり狙わせたんだ。その都度、山賊の首領達に彼の名を使い、更に人を何人か介して連絡した。カモが来るってな」


 つまりイェレミアスの名を使って彼を陥れるつもりだったのか?

 俺がそう問い質すとルナーは喚き散らした。


「そうだ! アンティガ商会からの指示でライバルである他の商会をどんどん襲わせたんだよ」


ルナーは更に喋り続けた。


「俺は直接会わないから、首領等は俺の顔を知らずに自然に『情報屋イェレミアス』の名が通るという寸法だ。ある程度被害が拡大した時点で俺はイェレミアスの名を衛兵隊に密告する、するとこの国から指名手配がかかり、多勢に無勢……いずれは討ち取られるって事になる。そうなればしめたも……ひ!」


 俺は夢中になって喋り続けるルナーの額に指をさして喋るのをやめさせた。


「ど、どうした? 俺は素直に……ぎゃうっ!」


「お前のいう事には嘘が混ざっている。だから身体が捻られるのさ」


 俺は怯えるルナーを再度問い質した。


「襲われた商会の警護の仕事をお前に仲介させたのはどこだ?」


「アア、アンティガ商会だ……ぎゃああああああ!」


 ルナーは未だ嘘をついている。

 アンティガ商会が傭兵の仕事の紹介先であれば毎回その商会が襲われる事に対して、衛兵隊が調べていくうちにその不自然さにおいて絶対に足がついてしまう筈だからだ。


「正直に言わないと死ぬぞ」


「い、言う、言う! ぼ、冒険者ギルドだぁ! この王都セントヘレナ支部の幹部であるサブマスター、ギャリー・エイミスがダンカンと組んでいるんだぁ!」


「成る程、冒険者ギルドにどんなに警護の申し込みがあっても誰も不自然に思わない。それもこんなに頻繁に襲撃があればどこも冒険者や傭兵を雇わないわけにはいかない。その手配や斡旋を一手に引き受け、自由に仕切っているのは冒険者ギルドだからな」


 俺はルナーの吐いた事実を知り、状況が見えて来た。

 だんだんと点が線になりつつある。

 この王都に潜む陰謀があらわになりつつあるのだ。

 しかし冒険者ギルドの幹部が何故そんな事をするのか、謎はまだある。

 俺はここで他の事を聞いてみた。


「イェレミアスを始末したら……そうか、お前の狙いはリューディアか?」


 ここまで言ったらもうやけくそだという気持ちなのだろう。


「ああ、そうさ。1人ぼっちになって不安になったあの女に近付いて優しくして騙し、俺の女にする! あの通りあんなに良い女だからなぁ、俺が抱いて、ひいひい言わせてやるつもりだったのによ! ひゃははははは」


 本性を現して狂ったように笑うルナー。

 そんなルナーを殺気の篭った目で見詰めるイェレミアス。

 怒りで全身が震えているが、俺の命令の為にじっと耐えているのが分る。


「この下司め! アールヴの面汚しめ! 貴様などソウェルの裁きにより、地獄に落ちるが良い」

 

 イェレミアスは、やがて口を開いた。

 この同胞を裏切った男に対して呪詛の言葉を、彼は声を振り絞るようにしてやっと言い放ったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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