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海賊と歌姫の挽歌

作者: 戦部 十間

 見渡せばそこは夜、星々はきらめき月もその姿を時折雲に光を遮られながらその丸い姿を惜しげもなくさらしている。聞こえてくる音は潮騒。

 それは今あたし、しがない盗賊少女のシール・オルフェリムスが海にいるという証拠。

 音とともに浮かんだ船を、マストを、それに自分の体を縛り付けた縄を波は揺らし……って。

「ちょっとまてーーーーい!!??」

 いきなりすぎる状況に対してあたしの抗議の叫びが出る。っていうかさっきまであたし宿屋にいたよ!?

 騒ぎすぎで宿の親父さんの鉄拳【親父爆砕渇】受けた後、さっきまで大鎌持った川渡しとこの世の無常を語りあっていたんだよ!?

 それが何でいきなり海の上で縛られていんの!?

「シール、やかましい……」

 そんなあたしの魂の叫びに対してめんどくさそうな声が聞こえた。

 声の主の名はエスティス。夜の中でも映えるカラフルさと、それに合わないと思うのに落ち着いた装飾が不思議と合った服を着た一見無表情な吟遊詩人である。そしてどうしたわけかあたしの旅の相棒である。

 だがいくらあたしが求める目的のために組んだとはいえこんな状況の時にまでのんきな相棒にはやはり怒りを覚えずにはいられない。

「やかましくするわよ!なんでいきなりあたしは縛られているわけ!?」

「……生け贄……?」

「疑問系で聞くなぁ!しかも内容デンジャラスだし!!」

「……ソレは冗談……多分、きっと、想えばかなう」

「冗談をかなえてどうするのよ!」

 駄目だ、話が飛躍しすぎだ……

 とにかくまずは情報を整理しよう。まずはあたしを縛り付けた犯人は何者なのか……

「それは私……」

「は?」

「……犯人、私……」

 いや、何無表情なのに『いたずら大成功いぇーい』な雰囲気醸し出していますかエスティスさん。

 というかいつの間に心を読まれた?

 それ以前に……

「自白するのかい!というかなぜに縛る!?」

 そんな私の至極当たり前の突っ込みに当たり前のようにエスティスはこう返した。

「いたずらだいせーこー、いぇーい……」

「無表情でうれしそうにかたるなぁ!?」

 そんないたずらいきなりされても訳分からんわ!?

「実は今のは建前……」

「じゃあなにさ!?」

「幽霊船鎮魂の依頼解決作業中いぇーい……」

「いつの間にそんな依頼受けたー!?というかあたしは役にたたんから帰らせろー!?盗賊に幽霊の暗殺はできないっつうの!」

「シール、あなた航海術知っていないのにどうやって帰る……?」

「しまった、それが目的で縛ったのかー!?くっそお、籠の中の鳥か、あたしの人権どこいったぁ!?

 ぜぇはぁ、ぜぇはぁ……」

 やば、叫びすぎで疲れた。喉痛い……

「お茶……」

「あ、ありがと……」

 とりあえず差し出されたお茶を受け取り飲む。うん、いい感じの紅茶だ。

 できればレモン水がよかったけど。

 って今どうやってお茶を受け取った?

「あ……良く考えたらあたし、縄抜けできるんだった」

 いつの間に縄抜けしていたとは、自然体恐るべし。

「クックック、逃げ場は、ないけどね……」

「よけいなこと思い出させるな!!ったく、まあここまで来ちゃったからには逃げるわけには……」

 そこで私は気がついた。いつの間にか周りを青白い光を放つ炎が囲っていた事に。

 自慢じゃないが私は耳が人より良いらしい。

 1km先の針の落ちた音が聞こえると知り合いに言ったときは『お前は光の巨人か』と変なあきれ方をされたっけ。

 だというのに……ここまで近いというのに気配は微塵も感じない、という事は。

「出た!?」

「……クックック、そのようね……」

 変な笑い声に突っ込みたいがそんな暇のある状況じゃないのでスルー。

 火の玉を警戒しているとこちらの小船に併走するかのようにおどろおどろしい気配を纏った巨大な船が近づいてきた。

 たぶんコレが幽霊船だろう、船底に穴開いてる部分あるのに浮いてるという突っ込みは後回しにして言う。

「一応聞いておくけど、あんた鎮魂歌とか歌えるよね!」

 そう、今することはこっちの手札に対しての確認。私は幽霊に対して有効になる手札は一枚しかない。

 なら必然的にその手の手札を持っていそうなエスティスをメインに戦ったほうが良いと言う事は自然なことだろう。

「……般若心経を少々……」

「よしソレで……って今なんて言った??」

 なんか果てしなく鎮魂歌とかけ離れた言葉を聞いたような気が……

「……だから、東辺境言語で東辺教の般若心経を少々……」

「別の大陸の別の言語で別の宗教がはびこっている場所の霊の鎮魂ができるかぁ!

 しかも宗教信じていないような奴らが相手だし!!」

 少なくとも北聖教会派じゃないだろうし……ってあれ?それならもしかして通じる?

「……大丈夫……多分、きっと、想えばかなう」

「途中から願望になっているじゃないのよぉ!とにかく、こんな小舟じゃすぐに沈没させられるのが落ちだから、乗り移るよ!」

 とにかく有言実行!懐から神速の速さで鍵爪ロープを取り出し牽制のために針と同時に投げ……!

「……あれ?」

 壮絶にすり抜けた。水しぶきの音が勢いと対照的なむなしさを演出して。

 呆然としてるあたしの横であきれた感じでエスティスはこう言った。

「……ああいう現れ方だから、多分あの船も精神体、物理的な干渉は、無駄……」

 先に言えそういう重要な事は。あと、そんなこと言っているうちに船に備え付けられている大砲がこっち向いたんですが。

 次の瞬間、火薬の炸裂音がし、小船が大量の水しぶきとともに波に翻弄された。

「おああああああ!?」

 あたしはものすごい勢いで揺れる船体に必死にしがみつくが……

 エスティスはなぜかマストの横で落ち着いて座ってる、つうかなぜそんなに安定してるんだ。

 ともかくいきなりの自体に対しての疑問を投げかけた。

「ねぇ、なんであっちの砲弾はちゃんと物理的な干渉になってんのよ!?」

「……アストラルサイドの法則その24……集中すれば精神体は物理的な力を持てる……」

「なんじゃそのこっちにひたすら不利な法則うううう!!!???」

 精神攻撃だけならまだしも物理もありですか!?くそやっぱ切り札切るしかないの!?

『打ち方やめい、小船相手に全力出してどうすんだ!』

 なおも大砲がこちらを狙うかのように動いてきたときは少し肝が冷えたがそんな声とともに大砲の動きが止まる。

『だが船長、先に仕掛けてきたのはあいつらですぜ!』

『あんな貧相な船にやられる俺らの船じゃねえだろばかやろうが!』

 なんだかちょっぴり腹立つけど船事態は貧相なのは認める。

 というかなんでこんな船でここまできたし。

 そんなことを考えていると幽霊船のふちからこちらを覗き込むように人影……いや、骨影が見えた。

「あのちょっぴり失礼なことをいった奴、あれが幽霊船の船長みたいね。」

 それはパイレーツハットを被った一体のスケルトンだった。

 元は良い素材だったのだろうが年月でかなり擦り切れてしまった衣服を纏っている。

 そのスケルトンはこちらを一瞥したあと残念そうな声でこんなことをほざきやがった。

『ほらみろ、貧相なガキしかいねぇ』

「どやかましい、刺されてろ」

 有言実行の神適速投、その侮辱に対し即座に懐から袋を投げる!

 相手は流石に船長というだけあってか反応して腰にさしてた剣で切り払うが、

『ぶ、塩!?』

 投げたのは保存用の塩であって清め塩じゃないから幽霊を即座に払うような効果は無いもの目くらましには十分。

 二の腕で急所にとどめの針を投げてチェックメイトだよ!

「……」

 しかし、針はむなしく服と骨の隙間を通っていった。なんでだ。

「……大馬鹿者……」

 考えて見りゃ急所を縫うような投げ方って基本は骨の間を潜る投げ方だからスケルトンにやっても意味は無いね。

『ち、ガキだと思っていたが一流の暗殺者って所か!?』

「暗殺者違う、盗賊よ!」

 一応殺し前提の仕事は請けたことはない。討伐依頼なら結構受けたことあるけど。

『盗賊だろうがなんだろうがなんの用だ、俺らの溜め込んだ金銀財宝でも狙っているのか?』

「目的なんてあたしが知りたいわ!?」

『なんでお前が聞く!?』

 いやもう幽霊船鎮魂の依頼とか聞いていたけど目的がなんか不明瞭なのである。

 と、そこでさっきまで静寂決め込んでいたエスティスが立ち上がった。

「待たれよ!我らがあなた達に捧げるのは金銀財宝ではない!」

『ほう、そこのガキよりゃ話が通じそうだな。何のようだ?』

 いや、多分もっと話が通じない相手だと思うんだが。

 そんなことを考えている間にエスティスははっきりとした声でこう答えた。

「あなた達を讃えし、歌よ」


 そこから先はエスティスの、吟遊詩人の時間だった。

 この海賊たちが結成された日の話に始まり宝探しに励んだ日々、

 海の悪魔に立ち向かった戦、討伐しここを縄張りとした際の宴、

 そして、嵐に乗じて攻め込んできた他の地域の海賊たちとの戦い、

 その中での船が沈没しながらも最後まで戦ったその勇士を。


 歌い終えたときには、喝采の拍手が幽霊船から聞こえてきた。

 つうか途中途中で合いの手まで入れていた。ノリいいな幽霊たち。

『ああ……堪能させてもらったよ、感謝するよ。歌い手殿』

「感謝するならこの話を聞かせてもらった人に言うといい」

 ひたっていたのか柔らかい言葉と雰囲気(スケルトンの表情は流石に分からん)で握手するためか骨の手を差し出した船長に対し、エスティスはこう答えた。

 というか最後の場面まで聞いたところで私にも疑問があった。

「ねえ、最後まで戦っていたってどうして歌ったの?その話をした人がそう話したの?」

 そう、敵もろとも沈んだのならその場面を知るものはいないはずだ。

 なのにエスティスはそう歌いきった。脚色でそう歌ったとは思えないほどにリアルなその情景を。

「簡単なことよ。その最後の戦いで船から落ちた人が生き延びて、今回の依頼をしたのだから」


 それからは近くの港町にいた依頼人に会った。

 ……幽霊船にいた幽霊や船長たちと一緒に。

 どうやら船が沈んだのはずいぶん前のことだったらしく初老の依頼人に対して船長が『老けたなぁ、お前さん!』とか言ったり。

 敬愛すべき人だったらしい船長に対してひたすら涙を流して「すまねえ船長、俺だけ生き残っちまって!」と依頼人さんが謝ったのを『いいっていいって、それよりも久しぶりに飲もう!』と軽く流しちゃって。

 ちょうど近くにあった酒場にそのままなだれ込んじゃいました。

 なんというか食器が空飛んだり火の玉が酒に漬かっていたり骸骨たちがラインダンス踊ったりとかで酒場が一気にお化け屋敷状態です。

「ところで、私を無理矢理連れて行った意味は?」

「……鮫とかの追い払い要員……?」

「盗賊にそんなの頼むなあ!ちゅうかその前に縛った意味全然無いでしょうがあああ!!!」

 まじであたしを何で連れて行ったのか。よく分からない一件であったとさ。


 ちなみに今回一番の被害者は

「ユーレイコワイ、カイゾクコワイ、ユーレイコワイ、カイゾクコワイ……(ガクガクブルブル)」

 幽霊達に占拠された酒場のコワイモノ嫌いな主人だったらしい。

 ごめん、どう考えてもあたしではどうにもできません。

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