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兄貴との距離

42人の勇者よ! 私はあなた達を誇りに思う!

〔リツ〕


ハルが……


最近、ハルとの距離がどんどんと縮まってきている気がする…… いや、事実縮まっている。


「ねえねぇ! 兄貴はあっちの敵を倒してよ!」


「ああ…… 任せとけ!」


今もソファに座る俺の股の間に座りながら、ハルは背中を俺に預けて座り、ゲームに興じている。



はじめは一人分の距離だった。


まだ、ハルが女性化して三日目の位のころ、一緒に朝食をとったハルは、他のテーブルでもテーブルの向かいでもなく、俺と同じ長椅子の右隣に座り、一人分の距離を開けて座っていた。


すぐ近くで、時おり俺の顔を見上げては恥ずかしそうに微笑んでいた。


俺が、そんなちらちらと見上げてくるハルに目を合わせて「どうした?」と聞くと、ハルはパァっとした花が咲くような笑顔をして、そのあとに「なんでもないよ」とニコニコしながら笑っていた。


はじめはそんな距離だった。



その、数日後……


変化は既に起きていた。


それに気づいたのは、ハルが女性化して5日目くらいの頃だろうか?


夜、二人でテレビを見ていた時の事だ。


ハルが俺の真横に…… 触れるか触れないかの位置まで近づいていたのだ。


いつの間にこんなに近い距離になっていたのだろうか?


だが、それをもちろん不快に感じるわけはない。


なぜなら俺達は血を分けた兄弟なのだから。


家族なのだから。


だから……


こんなに近くにいるのだとしても、一緒の家に住む家族であるのなら不思議ではないはずである。


もちろん…… これ以上近づくのなら話は別なのであるが……


しかし…… その別の話。


俺は、その別の話しへと、話を持っていこうとする予兆を…… 実の「弟」から感じていた。


「弟」は…… ハルは、その時…… 明らかに緊張をしていた。


それ以前にもこの位近くにまで寄ってきたことは多々あった。


と言うか、俺がハルに対して昔のように優しく接するようになってから、割とすぐにこの距離までには来ていた。


しかし……


その日、その時のハルは明らかに雰囲気が違っていた。


どこか緊張し、顔を少しだけ赤くしながらも、自然をよそおいつつ、いつものように俺へと近寄ってきていた。


そして……


「ぅ~~」


と言う、聞こえるか聞こえないかの小さい唸り声を出したかと思うと……


ぴとり。


触れるか触れないかの一線を越え、ハルは自らの肌を俺の肌に触れ合わせたのだ。


「……………っ!」


俺はその瞬間に、まるでハルの緊張感が移ったかのように緊張をした。


ハルが、わずかに体を傾け、俺ぴたりと寄り添ってきたのだから。


それは…… 兄弟の距離ではないのだから。


家族の中でも、親と幼い子供ならありえる距離。


家族の中でも、姉妹ならあるいはありえる距離。


しかし…… 兄弟では基本はありえない距離。


触れ合う距離。



俺はこの時…… 「あんまりくっつくなよ」とか「どうかしたか?」とか「気分でも悪いのか?」とかでも言えば良かったのかもしれない。


しかし……


「…………ぅ…」


少しだけ苦しげに息を漏らし、体を強張らせ、顔を真っ赤にしたまま、目をつぶったままぷるぷるとしているハルの顔を見てしまったら……


そんな事をいうつもりにはなれなかった。


だから俺は……


「…………ふぇ?」


そんなハルの頭を、優しくなでてやったのだ。


何となく気恥ずかしいから、テレビに目線をやってだが。


「ぅぁ…………!!」


その直後にハルの弾むような声が小さく聞こえる。


顔を見なくても分かる…… ハルはきっと今、笑顔なのだろう。


「おにいちゃん……」


ハルはなでる俺の手に、すりすりと頭をこすりつけるのであった。


こうして…… 俺はその時初めて、ハルを「妹」として本当に受け入れたんだと思う。



そして……


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか…… その時を境にハルのスキンシップはどんどんとエスカレートした行く。



俺がソファに座っていれば、どこからか漫画の本を持ってきて、俺に寄りかかって本を読み始める。


普通にソファにもたれかかれば良いのに。


俺が絨毯に寝そべって本を読んでいると、わざわざお茶を持ってきて俺に手渡し、そして俺の横にぴったりと触れ合いながら寝そべり、俺の読んでいる本を横から一緒に見ている。


普通に別の本を読めば良いのに。


俺がテレビを見ていれば、クッションを手元に持ち、それを抱えながら俺の真横に座り、頭を俺の肩に預けて一緒にテレビを見る。


普通に離れてみれば良いのに。


ハルは毎回、ピトリとくっついては俺の顔を伺い、そして俺が拒否の反応を見せずにそのままにしていると、この上なく幸せそうな顔をしてすりすりと擦り寄るのだ。


なんというか…… ほんとに……



そして…


そして、それが巡って経過したのが今のこの状況だ。


今…… 俺の股の間にハルが座っている。


俺の体にはハルの軽い体重がかけられ、柔らかい体の感触と、暖かな体温、そして…… いい香りがする。


完全に密着した距離。


ゼロ距離。


それは最早、兄と弟だけでなく、兄と妹と定義したところでも、いささか仲が良すぎる光景。


本当ならば、もっと早い段階にある程度の距離は置いておくべきだったのだろう。


しかし……


「ああ!! やられちゃったぁ!!」


そう叫んで、ゲームのコントローラーを投げ出し、ポスリと俺に完全に体重を預けるハル。


「うぅ…… このゲームはやっぱり僕にはハードル高いよ」


そう言いながら、体を反転させ、俺と向かい合うようにして俺に寄りかかるハル。


「ははは、ハルは本当にゲームへただなぁ」


平然として返す俺をじぃっと見つめてから、満足そうに一度微笑み、俺の胸元に頬を寄せるハル。


「へへ…… でも兄貴と一緒にやるゲームは楽しいよ?」


ハルは幸せそうにごろごろと俺に甘えるのであった。


しかし……


なんというか…… ほんとうに……


「嬉しそうだなぁ…… お前は」


そう言ってハルの頭をなでてやる。


「…………………………うん!」


ハルはそんな俺のなでる手にふるふると目を細め…… ゆっくりと顔を上げた後、俺の目を見つめながら微笑み…… 幸せそうにそう言ったのだった。



距離を置こうとすればいつでも出来た。


兄弟だからと……


だけど……


弱点を突かれ過ぎてて…… そんな事は…… 「拒否する」と言う行動が全く実行に移せない。


まずい……


このままでは…… 俺はいつか…… 間違いを犯してしまやも…… しれない。


――――


〔ハル〕


最初は…… ただの思い付きだった。


ただ、兄貴を見ていたら、「もっと近くに寄りたい」と、そう思ってしまったのだ。


そして……


そう、一度思ってしまったら…… 何故か頭の中がそれで一杯になってしまって……


気が付いたら触れるか触れないかの距離にまで近づいていた。


僕は、すぐ近くに兄貴の体温を感じながら…… 「兄貴にもっと触れてみたいなぁ」と思ってしまった。


触れる……


別にそれ自体は何てことないはずなのに…… こうして改まって触れようと考えたら、なんだかとても緊張した。


胸がどきどきして、顔が熱くなった。


拒否られたら悲しいかも、とかも考えつつとにかく何だか緊張した。


だけど、なんだか触れ合いたいという欲求には勝てず、僕は意を決して兄貴に寄りかかった。


ピトリと触れた兄貴の体温。


それは温かくて、逞しくて…… なんかすごく嬉しかった。


でも…… それと同じくらいに後悔した。


なにか…… えっと…… 上手く説明できないけど、なにかとんでもないことをしてしまった気分になった。


でも……


そんな気分は一瞬で吹き飛んだ。


「ぅあ…………」


兄貴が僕の頭を優しくなでてくれたのだ。


僕は……


僕はなんだかそれが、涙が出るくらい嬉しかった。


なんというか…… 受け入れてもらえたって感じがして…… 本当に嬉しくなってしまった。



そして僕はその後、それが癖になってしまった。


僕は兄貴に触れ合っているのが大好きになってしまった。


兄貴に触れ合っていると、とても幸せで、温かい気分になった。


今なら…… なんであんなに兄貴に触れ合いたかったのかが分かる。


僕は…… 僕はきっと、兄貴に甘えたかったんだ。


兄貴にもっともっと甘えたかったんだ。



僕が擦り寄ると、チラリと一度こっちを見て、そして僕が寄り添いやすいようにしてくれる兄貴。


寄りかかったときは肩の位置を調整してくれて、寝そべって兄貴の読んでいる本を覗き込んだときは本が見やすいように傾けてくれて、肩に頭を預けたときは体を少し下げて寄りかかり易くしてくれた。


それが…… そんな兄貴の気遣いが……


受け入れてくれているみたいで……… 僕はすごく嬉しい。



「眠くなったのか?」


「うん………」


今だって、兄貴に正面から寄りかかる僕の後頭部を優しくなでてくれている。


大きな手が…… 暖かくて…… 優しい。


「寝ていいぞ……」


「うん…… おにいちゃん……」


僕はお兄ちゃんの胴体に手を回して…… そのまま意識を手放したのだった。



10話完結は無理かもw

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