兄貴との朝食
勇者が23人もおる。 この国もまだまだすてたもんじゃねぇぜぇ!!
こんにちは、私はユキ…… 上之原由紀子といいます
篠崎家に戦国の頃より仕えし上之原一族の末裔にして、次代の篠崎家当主とされる篠崎立様に仕えるメイドです。
私の役目は、やがて篠崎家を背負って立つであろう、リツ様を生涯に渡ってサポートをすること。
そして……
「ハル様、今日はどんな髪型にいたしますか?」
「ぅえ? う~ん…… て、適当で?」
「ほぉ… では適当に、この寝癖の髪型のままリツ様と朝食をとられてはいかがですか?」
「え? えぇ…… ご、ごめんなさい、えっと… いい感じにして下さい……」
「うふふふふ……… わかりました、では(私にとって最高に)いい感じにさせていただきます」
リツ様の妹であるハル様のお世話をすることです。
――――
ハル様がお嬢様になられてからはや三日が経ちました。
この三日間は本当に大変…… という事はなく割りとさっくりと経過いたしました。
と、言いましても私の個人的な感覚としては劇的の三日間といった感じでしたがね。
それがどのように劇的であったかといいますと…… それは正に筆舌に尽くしがたいといったものでした。
しかしそれをあえて言葉に、そして一言で表すとしたら「可愛い」の一言です。
ええ、その一言に尽きます。
それを一言で表さないとすれば、それはそれだけで途方もない情報量となってしまうので割愛させて頂きます。
ですので詳しくは語らず、あらすじ程度にこの三日間を振り返りましょう。
まず一日目。
私は記念すべきあの日を生涯忘れることはないでしょう。
私がハル様を探しに行かれた、リツ様を見送って二時間ほど経過したあと、リツ様の車が唸るような音を立てて、勢い良くご帰宅なされました。
そして、リツ様が車から現れるのを確認した私は、その後ろに一人の女性がいらっしゃるのにも気が付きました。
私は「おい、弟を探してる緊急事態に女連れ込んで帰宅とはどういうつもりだ?」と思い(まぁ、実際には口に出しましたが)リツ様を睨み付けました。
すると、リツ様は少し困った様な顔をして、そっと自らの後ろにいた女性の肩を押したのです。
するとその女性は……
「えっと…… ゆき… ただいま」
と、言いながら困った様な顔をして、私に微笑んだのでした。
その女性は篠崎家の奥方様である奏様にどこか似た少女で……
ふわふわとしていて、緩いウェーブのかかった長い髪も。
優しい色合いをした、明るい茶色の髪色も。
本気で怒ってもおそらく可愛いだけだろうと思われる、たれ目の瞳も。
ぷりっとしてみずみずしい、なめ回したくなるような唇も。
三時間くらい指先で楽しみたくなるような、ぷにぷにとした頬も。
背はそんなに高くないのに出るところは出ていてる、柔らかそうで抱き心地がよさそうな体も。
そのすべてが愛らしいと思える…… 美少女だったのです。
そして何より……
「えっと…… 僕、その…… ハルです」
その美少女はハルさまにそっくりでした。
「ええ、お帰りなさいハル様、ご無事で何よりです、さあお風呂の準備は至極万全、整ってります! ハル様は女性としてのご入浴は初めてでらっしゃいますね? 僭越ながら私めがご指導をさせていただきます、さぁでは早速参りましょう、行きましょう さぁ!!」
「ぅえ? え!?」
うふふふふ、私がハル様を見間違えるはずはありません。
この方はハル様で間違いはないです。
ちなみに、多少百合を嗜んでいる私は、かねてより「お嬢様」にお使えしたいと、心の中で思っておりました。
そして私は、そんな密かな願望を女顔のリツ様をお世話することで満たしていたのです。
しかし!
それが!
リアルで!
お嬢様になられたのであれば!!
この、不肖上之原由紀子は全力を持ってお使えする次第でございます!!
「お、おい! ユキ……!! え? お前? なに? 驚かないの?」
む? ご主人様(上辺)が怪訝な顔をなされています。
「リツ様…… 一流のメイドたるもの、主人のトランスセクシャル位は想定していてしかるべきなのですよ?」
私はドヤ顔でそう言ってやりました。
「えっと…… ゆ、ユキ? な、なんか目が怖いんですけど……」
「うふふふ…… ハル様はとても可愛くていらっしゃいますわ」
私はそう言って、少し怯えたご主人様(本命)をお風呂場に連れ込み、それはもう堪能させて頂いたのでした。
その際の状況を言葉で表すとそれこそそれだけで超大作になってしまうため省略させて頂きますが、私がその中で一番素晴らしく、「最高にハイって奴だ!!」と叫びたくなるようなシーンがあるとしたらそれは、「っあ! ちょ…… んぅ……ぁ!! な… なんで胸ばっかりあらうのぉっ……!!」と、ハル様が胸を洗う私の腕を力なく掴み、健気に抵抗しながらも羞恥に震え、泣きそうになりながら私を見上げた時ですかね?
私はあの時もうだめだと思いました。
もう、全てをすてて食べてしまおうと。
……しかし私は鋼の精神でそれを押さえ、何とか事なきを得て、その後もハル様のお世話を致しました。
体を拭くのも、ベットの添い寝も完璧にこなさせて頂きました。
満足でございます。
まぁ、そんな感じで一日目の夜はふけました。
そして二日目。
二日目はまぁ色々と大変でした。
私的にはむしろ至福であったと言えますがね。
二日目はまず、旦那様と奥方様への報告を、リツ様が致しました。
テレビ電話で「えー、ハルがかくかくしかじかでこうなりました」と旦那様達にハル様の姿を見せつつ事の経緯を説明したのです。
ちなみにその際のハル様は「えっと…… お父さん、お母さん…… は、はるです……!!」
と、もじもじしながらおっしゃっておられました。
そして、それに対しての旦那様たちの反応は……
「うおおおおおお!! 娘だぁぁ!! 娘だぁぁぁ!! よぉし!! 問題ないぞ!! 全部パパに任せなさい!! なに? 大学落ちた? いい、いい!! 一生ニートで家にいなさい! 嫁になんて行くな!!」
と、旦那様。
「きゃぁああああああ!! 娘よ!! 娘よぉぉぉおおお!! ああ可愛い!! 私の若いころそっくり!! 今すぐ抱きしめたい!! え? 大学? そんなのどうでもいいわよ!! 一生リツにでも面倒みてもらいなさい? あの子は無駄に出来る子なんだから」
と奥方様。
まぁそんな感じで、速やかにハル様の今後の方針は決定なさいました。
ハル様は…… 大学に落ち…… 女性になり…… 家族公認のニートになられたのです。
その後は、念のため篠崎家御用達の病院へ赴き、ハル様の体の状態を確かめたり、ハル様の服を買いに言ったりと色々しました。
ちなみに、ハル様の体は主治医によると、最早完全に女性のそれらしく、子宮も存在し、子供も生めるとの事です。
そしてその後は先ほど述べたように、私にとっての至福の時間。
ハル様の洋服着せ替えタイムです。
ハル様は大変可愛らしく、どんな服でも可愛く着こなしておられました。
最初の方は抵抗があり「お、女の子の服なんて恥ずかしいよぉ……」と、言っておられたハル様も、リツ様が「ほぉ… 似合うなぁ」と、ポツリと漏らし、「ふぇ!?」と顔赤くした辺りから、意外と協力的になり、最後の方には「えと…… 兄貴……? これ、とか…… えっと…… どぉ……? いい?」と、自分で選んでお披露目するほどにまでなっていました。
ふぅむ…… もじもじして、胸元に手を置きながらリツ様を見上げ、遠慮がちに服をアピールするハル様…… 可愛いです!
二日目はそうして過ぎて行きました。
そして、今は三日目と言う訳です。
今、ハル様は、サイドアップでまとめた髪を可愛く揺らしながらリツ様のすぐ隣の席に座り、一緒に朝食をとられています。
ずっとニコニコして、幸せそうにリツ様の隣でご飯を食べるハル様。
「兄貴は…… 春休みどこも行かないの? 家にいるの?」
「ああ…… 特に予定はないな…… 免許をとる位かな?」
「ほ、ほんと!? じゃ、じゃあ…… えっと僕とたくさん遊ぼう? 大学始まるまで…… その…… ぼ、僕とたくさん遊んでください!」
「お、おう……」
うーむ、やはりハル様は可愛い。
しかし…… このハル様の視線。
これは…… 明らかに…… 実の兄を見る視線ではないような……
ハル様自身は……それに気付いておられるのでしょうか?
むぅ…… まあいいです、私は私で、ハル様が幸せになれるよう全力を尽くすのみ。
いかな物をハル様がお望みでも…… 私がそれを叶えさせて見せる。
それだけの話です。
幸せなご主人様の姿を見て、そしてたまに触らせてもらう…… そのためなら私は何でもしましょう!!