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兄貴と僕の思い

二話連続投稿してます。

「俺は車で探しに行ってくる! ユキは警察に連絡して、家で待機をしていてくれ!!」


「かしこまりましたリツ様、どうぞ気をつけて行ってらっしゃいませ」


俺は激しく焦りながらも、必死に自分を落ち着け、同い年のメイドであるユキにそう言って家を出る。


「リツ様、もし発見なされたら、すぐに私にも連絡をください」


「ああ!! もちろんだ!!」


俺はユキにそう声をかけ、家にある名前も知らない高級車に乗り込む。


「ユキの方も頼むぞ!!」


ユキの家計は代々、うちに使えるメイドである。


ユキの母は、世界を股にかける、家の両親について周り、彼女の祖母は、幼い頃の俺たち兄弟とユキを一緒に面倒を見て育ててくれた。


そんな彼女は、高校の時から彼女の祖母の引退に合わせ、俺たち兄弟の世話を一手にするようになっている。


彼女は小さい頃から冷静で、加えて一緒に育ってきたこともあり、もっとも信頼できる人間と言えよう。


「はい、お任せを」


力強く答えるユキに、頼もしさを覚えつつ、俺は車を走らせる。


試験を受けに行ったまま帰ってこない、ハルの行方を捜すために。


「ハル…… どこ行きやがった」


俺は不安に身を焦がしながら、高速で東宮大学の方へと車を走らせる。


「無事で…… いろよ!!」


ハルから泣きながらの電話が掛かってきたのはその一時間後だった。


――――


――――



〔ハル〕



「ハル!! 無事か!!」


けたたましい車の音がしたと思ったらその直後に兄貴がすごい勢いで教会の中に入ってきた。


「うぁ…ぅ あにきぃ」


僕は兄貴を見ながら、自分のどこにそんな声があったんだと思うくらいのなさけない声をだした。


さっきまで、あんなに兄貴に対して腹を立てていたのに。


兄貴を視界に入れた途端にそれが一気に霧散した。


それどころか……


「あにきぃ……!!」


勝手に、兄貴の方に足が向いていく、寒くて体が震えて、体がまだ痛いから足元がふらふらだけど。


体が心が、兄貴を求めていた。


兄貴に慰めて欲しがっていた。


「お前!! ち、血だらけじゃないか!?」


僕が兄貴に抱きつこうとした瞬間に、兄貴が真っ青な顔をして僕にそう言う。


あ…… しまった…… このまま抱きついたら兄貴が汚れちゃうじゃないか。


「怪我は!! 怪我はどこだ!?」


兄貴が僕に怒鳴るように言う。


「ぅえ!? け、怪我はないよ…… これは、えっと、別の血で……」


「ほ、本当か!?」


「えっ??」


「お前は怪我してないのか!!??」


「う、うん」


「……………はぁ」


兄貴が途端に安堵の表情を浮かべて、深いため息をつく。


「良かった…… 心臓が止まるかと思った……」


「ふぇ………!?」


兄貴はそう言いながら僕を思い切り抱きしめた。


「あ…… あにき… ふ、服がよごれちゃうよぉ」


僕はそう言いながら、兄貴の顔を見上げる。


「…………ぅ」


僕はその瞬間、激しく息がつまり、心臓がどきどきするのを感じた。


「心配かけやがって……」


兄貴が僕の目を見ながら、どこか安心したように苦笑する。


綺麗で、だけど力強い兄貴の瞳と顔つき、それが薄い微笑と共に僕へと向けられている。


「はぅ……」


あれ? あれ……?


な、なんだろう!?


すごく…… 胸が…… え……!?


あ、あれ? 兄貴の顔って…… あれ? こんなにカッコよかったっけ………?


かっこいいとは元から思ってたけど…… 


「本当によかった……」


あ…… 兄貴が僕をもっと強く抱きしめてき…… て……!?


ぅえ!? な、なにこれ!?


うぁ、うぁ…… なんだろう…… なんか… なんか僕おかしい!! 


か、顔が…… 熱い!?


「あ、あにきぃ…… 苦しいよぉ、はなしてぇ……」


ううう…… なんだこれ! なんだんだこれ!?


――――


〔リツ〕


「ハル!! 無事か!?」


俺がハルのいる場所へと到着すると、そこには血まみれのハルが、地面にうずくまってないていた。


「お前!! ち、血だらけじゃないか!?」


俺はそんなハルの姿を見て、一瞬倒れるかと思うほどに血の気が引いた。


もしこれだけの血が出るほどの怪我をハルが負っているのだとすれば、相当な重症だ。


「怪我は!! 怪我はどこだ!?」


俺はハルの肩に触れて、ハルの目を見ながら聞いた。


「ぅえ!? け、怪我はないよ…… これは、えっと、別の血で……」


「ほ、本当か!?」


「えっ??」


「お前は怪我してないのか!!??」


「う、うん」


………どうやら、嘘はついてはいないようだ。


体は冷たいし、顔色もよくないが、怪我をしているような表情や身振りではない。


別の血と言うのが何なのか気にかかるところではあるが、そこは一旦おいて置こう。


とにかく……


「……………はぁ」


無事でよかった、本当に良かった……


「心配かけやがって……」


俺はそう言ってハルを抱きしめてやる。


ハルは昔から寒がりで、小さい頃はよくこうして冷えた体を温めてやったもんだ。


しかし…… 本当に無事でよかった。


正直、生きた心地がしなかった……


改めて思うけど、こいつはやっぱり俺の大事な家族なんだな…… 本当に大事にしないといけない、大事なものだ。


とりあえず、今日は色々疲れてるだろうから、このまま家につれて帰って、暖かい風呂に入れてやろう。


そして、ゆっくり落ち着いてから、俺がどれだけ心配したかも含めて、思いっきり怒ってやろう。


そして、それが終わったら、しばらくはまた昔みたいに優しくしてやろう。


ふぅ……


とにかく…… 本当に無事でよかった。


「あ、あにきぃ…… 苦しいよぉ、はなしてぇ……」


おっと…… ついついきつく抱きしめちまったな。


「ああ…… すまない、今離すよ……………… へ?」


あれ…… ハルって…… こんな顔してたっけ?


「うぅぅ……!」


俺の腕に収まりながら、上目遣いに見上げる、潤んだ瞳。


子犬のよう小さい唸り声を上げながら、ふるふると震える小さな唇。


真っ白な肌に、赤く彩りを見せる、ぷにぷにとしていそうな頬。


なんというか…… 愛らしい顔つきをしている……


元々、可愛い系であったハルは、女顔といえば女顔であったが……


これではまるで完全に女子だ。


それもかなり…… いや、多分芸能界デビューは楽勝くらいのレベルで可愛い。


「あにき?」


ハルが、硬直した俺を見上げながら、首をかしげる。


さらりと流れた髪と、その甘えるような目線が何とも女性的で愛らしい。


…………なぜだ?


なぜこんなにもハルが女の子に見えるのだ?


確かに、よく見ればところどころのパーツが前より何となく柔らかい形になっている気がしないでもないが、基本的には今朝とさほど変化はないはずなのに……


なのになぜ、こんなにもハルに「女の子」を感じるんだ!?


おかしい……


大きく変わったところといえば、この長くなった髪くらいな物なのに………








ん?







髪くらいのものなのに………?







「はぁ!?」


「きゃ……!? な、なに??」


俺はハルの背中に流れる、綺麗な髪に触れる。


「お、お… お前、この髪…… どうしたんだよ!!」


「え!? えっと…… これはその……」


ハルが口をきゅっと結んで、困った様に目を背ける。


その時の顔の動きに合わせて、さらりと俺の指を通ってゆく髪の毛。


そして、横顔だからこそ見える、どこか色気あるまつげの長さ。


「どうしよう」とばかりに口もとに添えられた右手。


そのすべてが…… やはり「女の子」だ。


しかも…… よく見れば……


「それ…… 胸か?」


「え………… ぅ……」


胸がある。


俺の「弟」に胸があって、長い髪がある。


今朝の弟にはなかったものが…… 今の弟にはある。


つまり…… どういうことだ!?


「えっと…… その」


俺が混乱しながら、ハルを見ていると、やがて、ハルは意を決したようにして小さく息を呑み、、そしてゆっくりと俺に視線を向ける。


「お、怒らないで…… 聞いて?」


ハルはゆっくりと語りだした。


――――


〔ハル〕


僕は、兄貴にそのまま、ありのままのあったことを話した。


試験で居眠りをしてしまった話、茫然自失のまま、ここに来てしまった話、そして……


僕が兄貴を見返したいと思っていて、そしてそれが上手く行かないからと言って、悪魔に頼んで兄貴の弱点を突く方法を授けてもらおうとしたことも……


包み隠さず、全てを話した。


なんで、誤魔化さずに離したのかというと、余りにも突拍子のない事態だから、変に嘘つくよりいっそ本当の事を言ってしまったほうが良いと思ったからだ。


それと……


兄貴に嘘を突きたくなかったからだ。


さっきまではあんなに、兄貴の事を憎んでいたんだけど、なんか心配して駆けつけてくれた兄貴の姿を見たら、その気持ちは一瞬で消えてなくなってしまった。


兄貴が本気で僕の心配をしてくれてたのが、抱きしめてくれた兄貴の体温と一緒に…… 僕に伝ってきたからだ。


そしたら……


兄貴に嘘つきたくない、兄貴に不誠実なことはしたくないって思ったんだ。


だから、全部正直に話した。


だけど……


「あにき…… ごめんね?」


だけどそれで、兄貴は僕のことをどう思うだろうか?


それに…… 厳しくしてたのも、僕のことを思っての事だったらしいし……!!


うぅ…… 


どうしよう… 僕、完全な逆恨みじゃないか!!


さいていだよぉ……!!


――――


〔リツ〕


なんと言う突拍子もない話だ…… とてもじゃないが信じられない。


が……


現に信じられないようなことが起こっている以上、十分にありえる話と言えなくもない。


それに……


ハルの目を見れば分かる、伊達に双子の兄貴をやってるわけじゃないからな。


ハルは嘘をついていない。


ハルは本当に、悪魔に女の子にされてしまったんだ。


「あにき…… ごめんね?」


ハルが目に涙を溜めながらこっちを見ている。


弱弱しい視線と、俺の胸元に縋るように少しだけ触れた指先。


きゅっと不安に絶えるように結ばれた唇が何ともいじらしい。


………………………なるほど、流石は悪魔だ。


ハルは「悪魔に騙された」と言っていたが…… そんな事は無い。


これは……


「あ、あの…… あのね…… もう、もう絶対にしないから、僕を嫌いにならないで……?」


完 全 に 俺 の 弱 点 だ !!


「いや、俺のほうこそごめん、確かにいきなり厳しくしたら、そう思うかも知れないよな? 俺の考えが足りなかったよ…… 

まさかハルがそう思っていたなんて知らなかった…… 本当にごめん」


「え?え? や、なんで兄貴が謝るのさ!! あ、あにきは…… 僕のことを心配してそうしてくれたんでしょ?」


「いや…… それでも、それでお前がそんなにも追い詰められていたとは知らなかった…… ごめんなハル」


「はぅ…… あにきぃ……」


ハルが、自分の胸を押さえて、頬を染めながら俺を見つめる。


今度は、安心したように、そして嬉しそうに瞳を潤ませ俺を見つめる。


「兄貴…… 僕… うぁ… うれしいよぉ… 僕、兄貴に嫌われてたわけじゃなかったんだね……?」


ハルは嬉しそうに口をわやわやとさせながらほろりと涙を流す。


「お、おい…… 泣くことないだろう? ………俺は一度もハルを嫌ったことなんてないよ」


「うぁ…… うわぁ……!!」


ハルが感極まったような顔をしたあと、笑顔のままふるふると振るえ、自分の腕を抱いた。。


「あの…… えっと、あの……」


ハルは顔を上気させながら、再び上目遣いに俺を見上げる。


「あにき…… 僕… 僕、今兄貴に思いっきり抱きつきたいんだけど…… だ、抱きついてもいいですか!?」


ハルはそう言いきった後に、恥ずかしそうにして目を付してふるふると震える。



…………なんだこれは。


なんで、こうも的確に俺の弱点を突いて来るんだこいつは。


これが…… これが悪魔の力か!?


こ、こんな妹…… 俺の部屋の隠し金庫にある、秘蔵の妹系同人誌コレクションにも存在しなかったぞ!?


やばい…… こんな妹が…… リアルで現れるなんて……!!


「あ…… の…… やっぱり…… だめ… だよね?」


俺が呆然としていると、ハルがそう言ってシュンとする。


長いまつげが、悲しげに細められた瞳にかかり、そしてその瞳にはジワリと涙が溜まる。


眉も情けなく垂れ下がり、唇は自らを嘲笑するように、悲しく微笑みを作った。


「…………っ!」


「ふぇ!?」


俺の腕は、そんなハルを見るや否や、まるで勝手に動き出したかのように、ハルを思い切り抱きしめる。


「え? え!?」


ハルは、顔を耳まで真っ赤にし、そして瞳をぐるぐると回して混乱する。


「だめな訳ないだろ……」


俺はそんなハルを、より強くぎゅっと抱きしめながら、小さくそう呟く。


「あぅ…………」


ハルはそんな俺の言葉を聴くと、こつんと額を俺の胸もとへとぶつける。


「あ… ありがとう… ございます」


そう言ったあと俺の「妹」は……


「おにいちゃん……」


そう言って恥ずかしそうに微笑むのであった。






…………やばい、俺はもう色々やばいかもしれない。





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