兄貴の考えなんて僕はしらない
あのあらすじでお気に入りを押した9人の勇者に親愛を込めて。
「街の外れか……!! あいつ、なんだってそんなとこに居やがるんだ!?」
俺は車を走らせながら、GPSを起動し、ハルが居る場所へと全速力で向かう。
免許はまだ仮免だが、交通ルールと運転技術は既に網羅している。
もし、捕まったら無免許運転になってしまうが、緊急事態だ、仕方ない。
「くそ…… おとなしくしてろよ!! ハルッ!!」
俺は深夜の街を、思い切り飛ばしながらそう叫んだ。
――――
俺の話をしよう。
俺、篠崎立には双子の弟が居る。
二卵性で、双子と言えども俺とは全く似ていない弟、篠崎春だ。
俺たちは本当に似ていない。
ハルは小さい頃から背が低く、肌が白く、女子のような奴だった。
親父に似て背が高く、割と筋肉質な俺とは真逆の存在といえよう。
顔つきも違っていて、きつめの顔立ちの俺に対し、ハルは可愛い系の顔立ちだ。
性格も、俺が自他共に認めるおせっかい焼きであるのに対し、ハルは生粋の甘えん坊であった。
そんな感じで、余りにも似ていない双子である俺らは、周りの人間からも、「双子なのににてないのね?」とよく言われる。
まぁ、そのたびにハルが「そうなんです! 僕と違ってお兄ちゃんは凄いんですよ!」とよく誇らしげに言っていたものなのだが。
うちは両親が共に海外を股に駆けて仕事をしている家庭で、基本的に、家には俺たち兄弟と同い年のメイドであるユキしか居ない。
それも手伝ってか、ハルは俺にとても懐いており、おれ自身も純粋に俺のこと信頼し慕ってくれるハルを可愛く思い、それに満更でもなかった。
双子であり、同い年ではあるものの、俺より小さく、甘えん坊のハルは本当に弟という感じで、俺はついついハルを甘やかした。
そのせいで、「これでハルが妹だったらもっと可愛がっただろうなぁ」と言うふとした考えから、俺は妹萌に目覚めてしまったが、まあ男たるもの歪んだ性癖の一つや二つはある物だ、しょうがないだろう。
とにかく、そんな感じでハルに接していたら、ある日俺は当時付き合っていた彼女にこう言われたのだ。
「ハル君って、ちょっとリツに依存しすぎじゃない? ハル君だっていずれは自立しないといけないんだからさ、甘やかしてたらハル君のためにならないよ?」……と。
俺は、その言葉に衝撃を受けた。
そのとおり過ぎる正論だった。
俺は確かにハルを甘やかしすぎていた。
自分の人並み以上にある、おせっかい焼きの性分と言うか、保護欲というか…… そのせいで、ハルに甘えられるだけ甘やかしていたのだ。
これではハルの人生を俺がだめにしてしまう。
ハルの兄として、保護者として、そんな事をするわけにはいかない。
今ならまだ間に合う…… これからはハルに厳しく接しよう。
中三の夏、俺はそう決めたのだ。
そして、月日が少しだけ経ち、俺がハルに厳しく接し続けると、ハルに大きな変化が起きた。
ハルが勉強に、一心不乱に打ち込む様になったのだ。
あんなに真面目にやるなんて、きっと将来なりたい夢でも出来たのだろう。
やはり、ハルに厳しく接したのは正解だったようだ。
まぁ、そのせいで、反抗期なのか俺をやたらと睨んだり、呼び方が兄貴に代わったりと驚きの変化もあったが、それもきっと兄離れには必要なことなのだろう。
ちょっと勉強に根を詰め過ぎなのが心配だが、これでいいのだろう。
こうしてハルは男として自立していくのだ。
少し寂しいけど、まぁそう言うものだろうな……
と……
俺はハルの受験があったその日まで。
そう思って居たのだった。