兄貴なんて嫌いだ!
「うぅ………ん」
僕は再び目を覚ます。
そして、ゆっくりと起き上がり、戸惑いながらもじっくりと自分の体をまさぐる。
「………………………………夢じゃ、無かった」
余りにも現実離れしているのに、実際に起きてしまっている事実に僕は凄まじく恐怖した。
「うぅ………」
服にべったりとこびり付いた自分の血、そして血で濡れた服が、僕の体温を奪い、体をガタガタと震わせる。
「はぁ……… さ…むい」
気絶している間に、完全に冷え切ってしまったのだろう。
一回り小さくなってしまったその体に、凍てつく様な寒さが染み入る。
そしてその寒さが、これが夢でなく現実であると明確に示していた。
「ぅ………… うぅ…… ひっく…」
冷え切った体から、熱い涙が滲んで、そして流れる。
「なんで…… こんなことに……」
僕は体を震わせながら、一人で泣いた。
「騙さ……ぅ…れたぁ…………」
兄貴は………… モテる。
そして、兄貴には彼女もいる。
つまり……
「女の子になったって…… う……ぅ」
兄貴にとって女の子であることは……
「意味…… ないじゃんかぁ…… ひぐっ……」
弱点にはなりえない。
「どおしよぉ…… ぅぁ…… さむいよぉ」
僕は涙を流しながらも、今後どうしたらいいのか必死で考えようとする。
「もぉやだぁ…… 試験はダメだし、だまされるしぃ…… ぅぐ」
だけど考えがまとまらない。
体が寒くて、頭もいたくて、色々ありすぎ…… 一切考えがまとまらないのだ。
「なんでぇ……? 僕… なにも悪いことしてないのにぃ…… ひっく……」
それに、頭がガンガンしてボーっとする。
熱でもあるのかなぁ……
「兄貴… 兄貴…………… おにいちゃん」
兄貴に…… おにいちゃんに…… 会いたい。
きっと…… もう、おにいちゃんは僕のことなんて相手してくれないだろう。
ただでさえ嫌われてるのに… 試験にも落ちて… 突然性別まで変わっちゃって…
もしかしたら、気持ち悪がられるかもしれない……
やだな…… おにいちゃんに面と向かって嫌いとか、気持ち悪いとか言われたらきっと、死にたくなる。
でも……
会いたい…
会いたいよぉ。
もう…… やだ。
つかれたよ……
なんでもいい、もう何でもいいから、おにいちゃんに昔みたいになでて欲しい。
おにいちゃんに優しくしてほしいよ……
土下座して頼めば…… 頭なでてくれるかなぁ。
「さびしい………… ぅぅ」
携帯…… 携帯は…… あった。
「電源…… ついてない…… ぐす……」
試験前に電源きったままだった。
電源… 電源…
よし、これで…
ルルルルルルルルルルルルッ!!!
「ぅえ!? でんわ!? お…… おにいちゃんからだ!?」
な…!? なんで!?
う……あ… で、でなきゃ!!
「は……い……」
「バカヤロォォオォオオオオオオオッッ!!!!!!!」
「ひぅッ!!??」
え? え!?
「ハルぅっ!! お前今どこに居る!? 今何時だと思ってんだ!!」
「ふぇっ!?」
!?
ぅあ……! もう、12時なんだ!!
「なんで電話にでなかった!! なんかあったのか!? とにかく、今いる場所を教えろ!! 話はそれからだ!!」
「うぁ……」
うぇ!? す…… すごい怒ってる!?
「おい!! ハル!! なんで黙ってるんだ!! 何とか言え、このバカ!!」
「ば………っ」
ば…… バカっていわれたぁ……!!
「ハル!? おい!! ハル??」
「う…… ぐす…… バカじゃないもん……」
な… なんでそんなに怒ってるんだよぉ……
僕は慰めて欲しいのに… 頭なでで欲しいだけなのに……
なんで怒鳴るんだよぉ……!!
「は!? 何言ってんだお前っ!! いいから今の場所を言え!!」
「ううううううう!! もぉっ!怒鳴らないでよぉ!! 兄貴のバカぁ!!」
や、やっぱり兄貴は僕のこときらいなんだぁ!!
「な……!? ハル?? お、お前泣いてるのか!?」
「バカぁ!! 兄貴の… バカァ!!! ぐす… な なんで僕ばっか… ぼくいっぱい頑張ったのに… 頑張って勉強したのにぃ… なんでこんな… ひっぐ… 体…痛いよぉ… うぇ… あにきぃ… ばかぁ!! なんでぼくを嫌うんだよぉ!! うぐ… なんでぼくばっかりこんな…!!」
ばがぁあ! 兄貴なんてきらいだ!!
「お、落ち着けよハル! てか、お前今体痛いって言わなかったか!!??」
「うええええええええええ!! ばかぁ!! 兄貴のばかあああああ!! ぼく… なんも悪いことしてないのにぃ!!」
兄貴が全部わるいんだぁ!! 兄貴がぁ…… 僕は兄貴の為にこんなに頑張ったのにぃ!!
「わ、わかった!! も、もう泣くな!! 怒鳴って悪かったから!! これからGPSで検索するから!! とにかくそこを動くなよ!! わかったな!! ブツン」
「うああああああああん!! お、女の子にまでなったのにぃぃ!」