兄貴と僕の答え
200を超えた勇者達に乾杯。
〔ハル〕
「うぅ………」
僕があの気持ち悪い人に襲われた翌日。
僕はリビングで一人、膝を抱えて考えごとをした。
「はぁ……」
僕が今考えていること…… それは、自分の気持ちについて。
なぜ…… 自分の気持ちに思いを巡らせているのか。
それは……
自分の気持ちが分からないから。
なんてことは… 無くて……
自分の気持ちが分かりすぎる程に分かってしまったから。
いや…
本当はもっと前から分かっていた。
それこそ……
最初から分かっていた。
だけど、それを昨日僕は… 初めて認めた。
その気持ちがどんなものであるかを認めたのだ。
そう……
つまり僕は……
「女の子」としての僕を認めた。
今の自分を認めた。
今の僕は…… 兄貴の弟である前に、兄貴の妹であり…… 兄貴の妹である前に……
一人の、女の子なのだ。
そうだ…
「僕は… 兄貴が…… 好きだ」
異性として…… そうなのだ。
「ふふふ…… ようやくそこまでイカれましたか、ハル様」
「うぇ!?」
な……!!
ユキ!? い、いつの間に背後に!?
「うふふ、私ユキ…… 今、ハル様の背後にいますよ?」
メリーさん!?
しかも事後報告だよ!?
「ハル様…… お悩みですか?」
ユキが後ろから僕の肩に手を回し、優しく抱きしめてくる。
「ぅえ……? わ、わかるの?」
「はい、他ならぬハル様の事ですからね」
僕が肩越しにユキを見上げると、ユキは嬉しそうに微笑んでくれた。
「…………誰かに相談すると、悩みは解決することもありますよ?」
ユキは僕の頭の匂いをくんくんと嗅ぎながらそう呟く。
「…………誰にも、いわない?」
「天地神明とハル様への愛おしさにかけて」
………後半の台詞の意味が良く分からないけど、真剣なのは伝わってくる。
ユキは小さい頃からの幼馴染で…… 家族で…… 僕の一番信頼できる人だ。
「ユキ……」
「はい」
「僕ね……」
「はい」
「兄貴が…… 好きなんだ」
「私はハル様が好きですよ?」
「……………それでね?
その好きていうのがさ、その…… 異性としての…… 好きなんだよ」
「はい」
「でもね…… 兄妹が…… そんなこと言ってきたら、きっと迷惑だと思うし…… それに気持ち悪いと思うんだよ」
「はい」
「だからさ…… 僕はどうすればいいのかなって…… 思って」
「はい」
「ユキはさ…… どう思う? 僕は…… どうしたらいいと思う?」
「私の意見は、あまり参考にはならないと思いますが…… それでもよろしいですか?」
「え……? う、うん」
「私は…… 細かいことは気にせず告ってしまえば良いと思います」
「え!?」
「いいですか? ハル様? 人と言うのは理屈があるから人なのであって、つまりは屁理屈をこねてるだけの唯の動物な訳なのです」
「へ?」
「貴方は動物です…… いいですか?」
「えぇ?!」
「貴方は唯の雌なのです…… いいですか?」
「は…… はい」
「ただの人と言う動物として…… ただのメスとして…… 理屈を抜きにして…… 貴方はどうなのですか? リツ様とどうなりたいのですか?」
「どうって……」
「つがいとなりたいのですか? リツ様の子供を生みたいと思いますか?」
「ぅえ!! え!? ぇぇ……」
「どうなのですか?」
「ぇ………」
「これは真剣な質問ですよ? 答えて…… 正直に、自分の気持ちに素直に、真摯になって…… 答えてください」
ユキがスッと目を細めて、僕に真剣な目を向けた。
「………………」
「………………」
「………………たぃ」
「え?」
「その………… えっと… 許されるなら……」
「許されるなら?」
「ほしいです…… 兄貴の…… 子供…… ぼ、僕との…… 許されるのなら……」
僕は…… そういってユキを見上げる。
するとユキは……
「許す!!」
「ぅえ!!??」
「許します! 生みなさい!! 私が責任を持って取り上げます」
「え! えぇ!?」
「そして…… ハル様…… 私が思うにあなたの思いは本物です」
「え………」
「知ってますか? 出産と言うのはメスにとって最もリスクの高い行為なのですよ?
身重の時期はろくに動けないし、出産だって命の危険を伴う…… 野生だろうと、人間だろうと、女性にとってそれはとても大変な行いなのです」
「うん…………」
「この人の子供を生んであげたい……」
「ぇ………?」
「それは、あなたが動物の女としてリツ様を愛している何よりも明確な証拠なのです、だから………
貴方は自身を持ってよいのですよ? そして、兄妹と言うのを言い訳にしなくていいのですよ?」
「ゆ……き……?」
「好きなのでしょう? なら…… それで良いではありませんか」
「………………」
「貴方はリツ様が好き、それだけです……」
「ゆき……」
「どうです? 参考にはならなかったでしょう?」
「うん… そうだね」
ユキは僕にニコリと笑いかけ、僕もそれに顔を微笑ませる。
「それはそうでしょう…… だってそんな答えははなから出ているのですから」
ユキはそう言って僕の頭を優しく撫でるのであった。
◇
僕はユキの言うとおりだと思った。
もちろん、それが色んな都合をふっとばした虫のいい考えだって事は分かっている。
でも……
だめなのだ…… 抑えられないのだ……
そう…
本当にユキに言われるまでもなかった。
僕は…
僕は兄貴が好きだ。
◇
ある日…… 僕はクッキーを作って、それを兄貴にプレゼントした。
兄貴は、それを喜んでくれて、僕もそれがすごく嬉しかった。
僕をほめてくれる、兄貴に、僕はすごくときめいてしまって……
僕は兄貴の腕に抱きついて甘えた。
そして……
「ふぇ…………!?」
兄貴が突然……
「ぇ………ぁぅ………」
僕の腰を撫でてきた。
「ぅ……ぅぅ………」
兄貴の…… 手が……
うぅ…… ぞくぞく…… する。
「お…にいちゃ……」
ど、どうしたんだろう?
突然に……
僕に…… こんな…… うぅ。
でも……
お、おにいちゃんが望むなら…
「…………え?」
僕は……
「ぁ………ぅ…」
いい……よ?
――――
〔リツ〕
俺は…… あの後…
ハルをそっと引き離して、そして無言でその場を去った。
その時のハルの「ぁっ…………………」と言う切ない声と悲しそうな表情が…… 頭から離れない。
「はぁ……… まじか」
まさか……
ハルが俺を異性として見ていたとは思わなかった。
俺はてっきり、ハルは俺の事を…… あくまで兄貴として好きなんだと…… ブラコンの多少行き過ぎた番だと……
そう思っていたのだ。
「ハルは…… おにいちゃんのものです」
あれは……
場の勢いでも、俺に怯えてたからでも…… なんでもなかったんだなぁ。
まさか…… まさかハルが、俺に対して「女の顔」をするとは思ってなかった。
まさか…… ハルが俺に抱かれる覚悟があるだなんて…… 露ほど思わなかった。
あのときのハルは…… そう言う顔だった。
まずいなぁ…… まずい。
俺はハルを女としてみてしまっていて、ハルはそんな俺に抱かれても良いと思っている。
つまりは…… そう言う事だ。
一線を越えたら、俺は止められなくなるだろう。
「はぁ……」
だめだ…… この道の先にはハルの不幸しか待ってない。
兄妹でなんて……
俺はハルの保護者として…… それを良しとするわけにはいかないのだ。
だから……
「終わりにしようか……」
俺は携帯を手に取り、彼女へと電話をかけた。
――――
〔ハル〕
昨夜の兄貴は、僕をゆっくりと引き離した後、ずっと部屋にこもってしまった。
僕を引き離したときの、兄貴の辛そうな顔が忘れられない。
そんなことを考えながらリビングでボーっとしていると、不意に兄貴が玄関へと向かっていくのが見えた。
「あ……」
僕はそんな兄貴を追って玄関へと足を運ぶ。
すると……
「行って来ます」
「え!?」
兄貴は…… 朝ごはんも食べずに家を出て行こうとしたのだ。
「あ、あにき! ご、ご飯は?」
「向こうで食べるからいいよ」
「そ、そう…」
兄貴が僕に微笑みながらそう言う。
僕は……
その、兄貴の作ったような微笑に言い知れない不安を覚えた。
「あ、あにき!! 今日は… 何時に迎えに行けばいい!?」
僕はそんな兄貴を見て、焦ったように話してしまう。
だから、僕はすがる様に、待ち合わせの時間を聞いた。
「いや…… 今日は夜に彼女と泊まるから迎えはいいよ、ごめんな?」
兄貴は、そう言って…… 僕にニコリと微笑んだ。
「え………?」
僕はその兄貴の言葉を聞いて、思わず体が固まってしまう。
兄貴が…… 今日…… 彼女と泊まる?
兄貴が…… 僕以外の女の人と……
する……の……?
「じゃあ行くな?」
そう言って、兄貴は僕を見つめながら、突き放すように微笑むと、扉に手をかけて出て行こうとする。
え……
ちょ………ぇ?
まっ…… あにき…… まって!
いやだ…… 兄貴が僕以外の人と仲良くするなんて…… いやだ……!!
そんなの…… 悲しすぎて…… 嫌過ぎて…… 死んじゃう……よぉ……!!
でも……
僕に兄貴を止める資格があるの?
こんな半端物の女でしかない僕が……
しかも妹である自分が……
本物の女性で、しかも正式な彼女の元へと行く兄貴を……
止める資格があるの?
もし……
もし、このまま兄貴とうまく付き合えたとしても…… 僕は……
こんなでたらめな存在でしかない僕は…… 兄貴を不幸にするだけなんじゃないかな。
兄貴は…… このまま彼女のところに行ったほうが…… 幸せに…… なれるんだ。
きっと… そうなんだ。
なんて……
思いながらも……
「好きぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
気が付いたら僕は……
「ぼくぅ…… えぐっ…… おにいちゃ…… 好き……ぅ なのぉ………!!」
兄貴に泣きながら抱きついていた。
――――
〔リツ〕
「ハル……」
「おにいちゃ……ぇぅう…っ」
ハルが… 俺の胸元にすがるように抱きつき、涙で濡れた可愛い顔を俺へと向ける。
「えぅ…… あ…のねぇ…! っ…… きいて……ぇ? ぐす……」
ハルは…… ふるふると震えて、ぽろぽろと涙をこぼす。
しかし……
「ぼく…… ぐすっ…… おにいちゃ……んが…… だ……ぃ…すきな…れす……ッ」
その瞳は火傷してしまうほどに熱くて……
「すき…なんですっ…!!」
その声は悲しくなるほど精一杯で……
「ハルは…… お兄ちゃんが……ぅ 大好きです!!」
そして切なくなるほど真剣に……
「ハルと…… ハルといっしょにいてくださぃ………」
ハルは俺に告白をしたのであった。
「あ……」
真剣に…… 泣きながら俺を見つめるハル。
俺は…… それに…… それを見入って固まってしまう。
プルルルルルルルル!!
俺はおもむろに電話をかける。
「おにい… ちゃん?」
そんな俺に不安げな視線を送るハル。
「おう…… 頼子か?」
俺はそんなハルの唇に人差し指を添えて、黙らせながら彼女へと電話をかける。
「突然で悪いけど、別れよう…… じゃあな」
そして電話を切った。
「ぁ…………………」
意味を理解したハルは…… 胸元に手を置いて、ふるふると感動に打ち震えるような仕草をする。
「後悔してもしらねえぞ……」
「ぅぅ……しません!!」
苦笑いをうかべながらハルを見やる俺と、そんな俺を見ながら、心外だと言わんばかりに怒りながら微笑むハル。
「じゃあ…… さっそく後悔をさせてやるよ」
「ぇ………? きゃ!?」
俺はそうハルに呟いたあと、ハルをお姫様抱っこで持ち上げる。
「この前から… お前を押し倒したいのを我慢してたんだよ…… もう、後悔しても遅いぞ?」
俺はハルを抱きしめながら、ハルの耳元でそう呟く。
「俺は、今、ハルが欲しいんだ」
「っぅ………!!」
ハルはそんな俺の言葉に、体をゾクゾクとさせながら、熱い息を吐き出す。
そして……
「いったでしょ……」
幸せそうに微笑むハル。
「僕は後悔なんて…… しないよ?」
ハルはそう言いながら、俺の首元をギュッと抱きしめた。
「ね…… おにいちゃん?」
そして…… ぞくりとするような、どこか艶やかで愛らしい笑顔を浮かべたのだった。
ユキの気配がいつの間にか屋敷内にいない。
………さすが出来るメイドは違うな!!
次回はノクターンで書きます。
ノクタっている人は、ユウシャ・アイウエオン@で検索。
18歳以下はダメ絶対。
ちなみにエロはあくまで二人の愛の形の一つとして書くため、結構甘甘展開になる予定。
そのため、耐性の無い人は注意が必要。
合言葉はメイプルシロップ濃縮還元一気飲みですw
その後、エロシーンを飛ばしてこちらで本編を更新します。
ちなみにあと3話で終了のご予定。
もうすぐ終わるこの話を、どうか最後まで愛してあげて下さい。
※追記事項
ノクターンにて続きを掲載完了。