焼かれたら伸びた(戦闘力)
おはよう。
只今絶賛逃亡中なう。
エリザベスさんが武器買って、ちょろっと村の畑を荒らす猪やら鹿を倒して、周囲に一目置かれるようになって、暫く安泰かと思ったら、以前に言ってたエリザベスさんの粗相か、知ってはいけない事辺りが原因か、追手らしき怪しい連中に、村の宿を燃やされたで御座る。
幸いにして、なんとか事なきを得たが。
「あうああ(こいつぁ)、あうぁあ(まいった)」
ガックンガックン揺さぶられつつ、疾走するエリザベスさんの胸元に抱かれているが、状況は良くない。
あんな手を使う連中が、そんな簡単に逃がしてくれる筈無いもんなぁ。
「タイチ様、挟まれたようです」
エリザベスさんが立ち止まり、木立が淡く繁る里山の道の先を見据えている。
案の定、逃げる先にも人を伏せられていたか。
「ふ、エリザベス、命冥加な女ね。
力尽きて魚の餌にでもなったかと思っていたけど」
「リズリット……」
エリザベスさんの知己という事は、コイツもメイド人形か?
リズリットと呼ばれた女の脇には、黒尽くめの小柄な影が二人。
尚更低く見えるように前傾姿勢で、手には黒く塗った小刀が握られている。
やっぱしなぁ、戦闘能力持ってるメイドが、この世界のデフォルトなのかと思ったら、そう言う風な組織に関わってたメイドだから、戦闘力持ってたんだよなぁ。
あんまり考えたくなかったから、頭から外してたんだけど、やっぱし甘くない世界だよなぁ。
しかもこの連中、どう見ても真っ当な連中じゃないよねー。
良くて盗賊か間諜、下手すりゃ暗殺者か。
「タイチ様、少々無茶をします。
気をしっかりと、お持ち下さい」
言い置いて、俺を背中に回し、おぶり紐を固く縛り直し、両手をフリーにして鉈とエストックの二刀流。
その攻め気に当てられたのか、影の一人がすいっと飛び出した。
そして、エリザベスさんと交差。
影の刃はエリザベスさんの腹へ。
エリザベスさんの鉈は影の首を刈り、エストックは胸を貫いていた。
完全な相打ち狙いに、残りの影とリズリットが一歩引く。
「あうぁあううあ(ちょっとまたんか)」
イキナリやらかしてくれたエリザベスさんに、慌てて機械補修スキルを三連発。
必要魔力減少のお陰で五発打てるようになってから、ダメージ大分回復してたのが、今ので又ゴッソリと削れたわ。
何とか傷は皮一枚塞がったにしろ、内部ダメージは大して消えてないし、残り二人の相手は随分と分が悪いな。
どうしたものかと考えていると、何やら雰囲気がおかしい。
「その魔力!! まさか、その子供が!? 一体なんだ!?」
愕然とした様子のリズリットとやらの声が聞こえる。
流石に、この年のガキが、意識して魔術使うとか、この世界でもありえないのか。
それで、少しでも攻撃を躊躇ってくれればとも思うが……。
「ふん、まあいい。 先ずはエリザベス!!
貴様を片付けてから考えるとしよう」
ですよねー。
そうこうして、膠着した事態が動き出そうとした所で、例のアナウンスが聞こえてきた。
――ある一定期間を過ごした住居を焼かれ脱出、後に追手を逆襲により殺害。
特典の開放条件を満たしました。
作品名「迷宮包囲網」のスキル体系が開放されました。
近接攻撃熟練度、及びスキルレベル1
遠隔攻撃熟練度、及びスキルレベル1
戦闘魔法熟練度、及びスキルレベル1
自然魔法熟練度、及びスキルレベル1
マナ(メイズ・シージ)
ライフ(メイズ・シージ)
総合レベル
強靭
敏捷
知力
――以上の各数値・スキルが追加されました。
毎度の事ながら、開放条件がおかしいぞ!!
うぉぉおおおおおおおおおお!!
力が漲る―!!!!
そして、存在を書き換えられる違和感と、頭に激痛が!!
名前:ジャン・ポール・タイチ
所持金:86432
所持ポイント:46582
総合レベル1(メイズ・シージ)
強靭 1+4 ライフへ x20
敏捷 1+4 ライフへ x15 マナへ x5
知力 1+6 マナへ x20
ライフ 175/175
マナ 165/165
術士レベル1(メイデン・コンセプト)
魔力:2/5
体力:10/10
疲労:25%/100%
スキル:基本
無限財布
両替
スキル:パズルゲー
脳内遊戯
ポイント変換
スキル:(メイズ・シージ)
近接攻撃:1(0) 強靭度へ レベルx3 敏捷度へ レベルx1
遠隔攻撃:1(0) 敏捷度へ レベルx3 強靭度へ レベルx1
戦闘魔術:1(0) 知性へ レベルx3
自然魔術:1(0) 知性へ レベルx3
スキル:(メイデン・コンセプト)
機械補修(2) 魔力2ポイント
魔力注入(1) 魔力3ポイント
装備:木の枝 近接攻撃力0 魔法攻撃力1(スキル消費魔力減少1)
ステータスが長いよ。
ふむ、魔力とライフがアホみたいに増えたな。
今までの苦労は何だったんだ?
とりあえず、機械補修を五十発。
さっきの時点で、スキルのレベル上がってたらしいのも併せて、エリザベスさんが全快した。
まあ、疲労耐久というか、パーツ交換じゃないと治らない、マックスの削れてる部分は直せないんだけど。
「な、何だと!? やはり貴様を生かしたのは、その子供か」
「ふ、タイチ様には指一本、触れさせはしない」
熱く語ってる所悪いけど、また壊れるの勘弁なんで。
「あうぅ(リーチ)あうぅう(マインド)」
目標をリズリットに向けて、対象からマナを強奪する呪文を放つ。
戦闘魔術レベル1から使える割に、昆虫だろうがゴーレムだろうがアンデッドからだろうが、見境なく効果を発揮する呪文で、強そうに見えるが、序盤の相手の魔力というか精神力の上限が低くて元が取れず、高レベルになっても、抵抗抜く為にマナを注ぎこむとやはり元が取れないという、ネタ呪文であるが。
「う…そ、こんな……ご主人……さま」
崩れ落ちるように倒れ伏すリズリット。
ふむ、やっぱしか。
メイズ・シージでは秒間で回復しやがるし、精神力削っても平気で行動できるので、本当にネタ呪文だったが、メイデン・コンセプトでは、魔力は寝ないと回復しないし尽きると昏倒する、更に言うとメイド人形の保有魔力って、思う以上に少ない。
大体、10-20くらいで、駆動に問題がない。
効率がいいのか、この世界での保有魔力量が、そんなもんなのか。
ともかく、それだけ奪えれば行動不能になってくれるので、ちょろすぎるぜ。
まあ、この世界に、この手の呪文がないのか、防御もされなかったし。
おっと、油断できないな。
「ぅあう(ちょっと)、あうぅ(まてい)、うぁう(ザップ)」
此方も同じく自然魔術1レベルから使え、瞬着必中と素晴らしいように思えるが、実は武器で殴った方が強いという悲しい呪文である。
虫の群れなんていうような状態異常と回避が高くて、触りたくない相手用の呪文であったが、攻撃力皆無の幼児であれば、充分に意味のある代物だ。
明後日の方向へ向けた手先から、雷光が伸びて急激に曲がり、こっそりと離脱しようとしていた黒い影に命中し、それと併せたように、エリザベスさんの投げた鉈が、その背中に突き立った。
流石にそれだけ食らうと、黒い影はパタリと倒れ動かなくなった。
「タイチ様、どうしましょう」
鉈を回収しながら、黒い影の死体をバラしているエリザベスさんが、問いかけてくる。
というか、コイツらが何者かを知りたいんですが。
「はい、私も記憶が上手く関連付けできず、思い出せなかったのですが、これらは「人形遣い」と呼ばれる、ある種の諜報機関です」
まんまやな、じゃなくて、機関とか組織とかやめて。
という事は、死体かと思ったら、黒い影も人形か。
なんか人形むき出しで、エリザベスさんみたいに、見た目や感触も人間と判別付かないようなのとは一線を画すな。
まんま、暗殺人形で御座い、みたいなやつなら、剥ぎ取りで材料扱いしても構わんか。
材料は、エリザベスさんの修理に使おう、物自体は良さ気だし、フレームくらいは使えるだろう。
後は、リズリットか……材料にするには……勿体無いかな?
とりあえず、材料はメイデン・コンセプト由来のアイテムボックスへ。
リズリットは、メイズ・シージのアイテムボックスへ。
ややこしいなぁ……なんでこんな事するかといえば。
メイデンコンセプトのアイテムは、パーツ材料のスタック制で、完成品みたいなものは持てないようなのだ。
そんで、メイズ・シージはアイテム体積由来の枠消費型……人形は大剣二本分の枠消費か。
共に重量の制限なくてよかったぜ。
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