拾ったら伸びた(パーティ人数と厄介事の根)
おはよう。
只今、拾ったメイドさんを改造中なう。
字面だけを見ると、なんだか凄まじい犯罪臭がするな。
スキル知識によると、人形のフレーム自体は、組み合わせの仕方で雄型・雌型に分かれるので、パーツレベルに一旦バラせば、再構成・最利用は可能である。
ただ、この作業中は、魔力と体力を大量に消耗するため、素早く正確に行わねばならない。
というのがスキルから読み取れる知識で、作品中ではミニゲームやらされる場面ではあるのだが。
魔力・体力おまけに疲労が、メイズ・シージ及びドラゴンズ・ハー卜由来のパラメーターで代用できる上に、秒間で一定値回復していくので、制限に為らない。
御蔭で慣れない作業を、落ち着いて行なえている。
「うえぅうあうおう(フレーム完了)」
組み上げたフレームをは、元々使われていた最低レベルの素材からは、二つ上の代物である。
これは、エリザベスさんの物から見ると三つ下、リズリットさんの物から見ると二つ下のグレードに当たるが、雄型の戦闘用以外では、通常は使わない素材であるようだ。
耐久性・強靭さは高いが重く、雑魚いコアだと出力が足りない為だ。
小柄にして戦闘オンリーに絞ってなんとかバランスをとっているって所らしい。
メイドとしてだけならば、耐久が落ちても最低限の強さで、軽く安くで間に合うということだろう。
だからこれだけ入れ替えると、酷くバランスの悪い事になってしまい、まともに動けないような人形になってしまう。
ドジっ娘メイドも遠慮したいが、置物も意味が無い。
なので、屑コアをカットしなおして、サブとして増設する。
本当なら、増設後に再構成出来れば、効率も上がるんだが、其処まではスキルが届かない為、今回は見送る。
これで充分の出力が出る。
併せて燃費が馬鹿になるが、俺なら問題はない。
以上のように用意したフレームと増設用のサブコアを、ボロボロになってる人形の隣に置き、スキルを発動すると、謎効果によって瞬く間に、フレームの入れ替えが完了する。
片腕を損壊し、脚部も破損していた姿が、五体満足に復帰しているのは、本当に謎効果としか言えない、理解を超えた現象である。
そして当たり前のように、入れ替わった破損フレームが、元のフレームのあった場所に並んでいる。
しかし、もう一つ謎がある。
元々は、人見知りしそうな、赤毛のソバカス系文学少女ぽい姿だったのに、フレームとコアを弄った後の姿は、面影こそ残っているものの、なんだか世話好きそうな、赤毛のソバカス系姐御に化けてしまった。
どういう事だ?
身長で20センチ近く伸びて、十代半ばの少女から、二十代の妙齢の女性に変化している。
これはアレか? 未熟者が触ると好みが漏れるとかってネタか?
やっぱしコアかねえ? フレームの修理とかはエリザベスさんにやってたけど、こういう変化はなかったしな。
まあいい、悪くなったって訳じゃない。
普通が好みに変身したんだし。
さて、起動させて、契約の手順なんだけど……脳改ぞ、いや、契約前に反抗されて、脱走とかが怖いので、エリザベスさんとリズリットさんに、押さえ込む準備をして貰っておく。
魔力注入は最低限。
コアの出力はでかいが、アホみたいに燃費のこと考えてないので、何かあっても直ぐ止まる程度にしておく。
「リンデルロット、起動します」
なんだか、蓮っ葉なハスキーボイス。
こう、何となくメイド人形って、メイドっぽさを無理矢理にでも感じさせてくるのに、なんかこの人形、なんか雰囲気違うなぁ。
レインさんに、リンデルロットさんの胸元に、俺を降ろして貰う。
メイド服がボロボロになっていた上に、サイズが変化したんで、あちこち素肌を顕にさせているのが、目に嬉しい。
「私は? 捨てられて、拾われた?」
失くした筈の右手を目の前に持ち上げて、不思議そうに呟くリンデルロットさん。
そこから視線を、胸の上に乗ってる俺に向け。
「私はどうなるの?」
と、何か諦めを感じさせる声で問い掛けてきた。
一度、迷宮なんかで捨てられたりすると、何かしらのトラウマっぽいものでも残るのかね?
俺は答えの代わりに、そのまま胸に手を当て、契約を実行した。
「私でいいの?」
「あう(おう)」
今回、初めてフレームを組んだしな、コア自体は、有り物を使ったとはいえ、ここまで手を掛けたのを、使わないって事はないわ。
「畏まりました。リンデルロット、お仕えいたします」
そういった、リンデルロットさんは、ちょっと嬉しそうだった。
で、魔力注入しなおして、動けるようにしてから、若い兄ちゃんの工房へ見せに行く。
どんな反応が帰ってくるかと思えば……。
なんというか「うわぁ」って感じの顔で、主の使いと見られているレインさんを眺めている。
「はじめまして、リンデルロットと申します」
一礼するリンデルロットさんから、なんとも言えない視線が外れない。
「コスト度外視の高スペックといえば、聞こえはいいけどね。
何に使うかという目的がなければ、それは意味が無いものだよ。
戦闘スキルのない侍女型人形に、こんなフレームと出力を持たせて、どうするんだい?」
いや、迷宮での超荷物持ちなんですが。
「それはともかく、コアの再構成くらいはしておいた方がいい。
出力が大きい分、効率が稼働時間に直結するからね」
「お願いしますわ」
手間賃払って、スキルを行使して貰った。
で、日を跨いで、再び迷宮へ。
と、思ったら登録所で「死んでも文句は言いません」的な書類にサインしてたら、事務の人に止められた。
「責任者の方は?」
俺が「はい」とも言えないので、俺を抱いたレインさんが前に出る。
「何か?」
「いえ、此方の皆様が、昨日の探索で人形を回収され、完品として売却されたと聞きましたので、人形を紛失したと仰る方々が、お話を聞きたいと」
うわぁい、面倒な。
「どういった事でしょうか?」
もしかして「売却した人形は、元来我々の物であり、その売却益は我々に還元されるべき○ダ」的なこと言われるんかね?
暫くすると、なんか偉そうな役人っぽいのと商人っぽいのと、えらくキンキラしたガキが来た。
「ふむ、こいつらが……してくれる……と……だな。
だったら、さっさと……させろよ!!」
いきなり内緒話から、癇癪を爆発させるガキ……こいつ一体、何もんなんだ!!
なんか、話で聞いた王族の連中とかだと面倒だなぁ。
「少々お待ち下さい、ボンクラン様。
お前達が、人形を無傷で回収したという話に、間違いはないか?」
役人が話を引き継いで問い掛けてきたが……なぜ、そんな事を知っている!?
「はい、間違いございません。
確かに雄型の戦闘人形を買い取りました工房から、この者達から買い取ったとの、言質を取っております」
隣のデップリした如何にもな商人がニヤニヤと嬉しげに、報償ゲットだぜと言わんばかりの満面の笑み。
つか、なぜお前が答える。
うん、一寸待てよ? 無傷でとか、どっから話が湧いてでた?
怪しい赤子が呪文で人形を機能停止させたとかな話ではなくて、単にニコイチ・サンコイチで直した人形を持ち込んだから、無傷の人形を捕まえた的な話になってるのか?
レインさんに、以心伝心中……。
「失礼ですが、何か勘違いされておられるのでは?」
いつの間にやら出来上がっていた、なにやら「問題は解決した、これで全てが上手く行くぜ」的な空気の中、レインさんが言葉を挟むと、一転して凄まじい形相で此方を睨んでくる商人と、同じく凄い目付きで商人を睨む役人、そしてイライラと爆発寸前のガキ。
「何が勘違いだ!! お前らが持ち込んだ人形は、私が買い取ったんだぞ。
普通に動いとったわ!! ワシの目は騙されんぞ!!
さっさと白状せんか!! 何か秘密の手段で人形を捕まえられるのだろうが!!」
「こう言っておるが、どうなのだ? 勘違いとはどういう意味なのだね?」
……面倒な。
「いいえ、何も秘密等はありません。
まず、勘違いされておられるといったのは、無事な人形を捕まえたのではなく。
二十数体の人形を倒し、無事なパーツを繋いで、四体の人形を組み上げたという事です。
それも人形を組み上げる腕を上げる為の事、修行の為でなければ、あれだけの苦労で5万C程度の稼ぎしか出ないような狩り等はしません。
もし、襲い掛かってくる人形を、大人しくさせる事が出来るのでしたら、私共も楽ができるのですが」
レインさん、すげー棒読みです。
それでも、役人には話が伝わったようで、商人への視線の温度が随分と低下している。
「こう、言っておるが?」
「嘘を言っております!! こいつらは嘘を!!」
問い詰める役人と、此方へ詰め寄ろうとする商人……どうでもいいんだけど、キンキラボーイが、限界っぽいぞ。。
「ええい、うるさいうるさいうるさい!! 嘘でもどうでもいい!!
もし、お前らボクの人形を無事に連れてこれなかったら、し「あぅうあう」……」
「公子!? ボンクランさま?」
突然電池切れたように、意識を失って昏倒するキンキラボーイ。
やべぇ、絶対あのあと「死刑!!」とか言い出すに違いなかったぜ。
咄嗟に呪文使ったけど、感づかれてないよな。
「どうやら興奮されたせいで、気絶されたようですね。
お疲れが溜まっていたのでしょうか?」
フォローするようにレインさんが口を出す。
でも、棒読みっぽいよ。 心配してる風情じゃねーな。
まあ、ともかく爆弾の火種が消えてる間に、退散するのがいいだろう。
「商人殿、とりあえずは此処迄にいたしませんか?
我々も思う所はありますが、これ以上の問答を続けた所で、公子様に死を賭した難題を突きつけられるのが関の山でしょう。
損得や理屈の通じる方でも無いようですし、できるだけ関わりたくはないのですが。
我々を巻き込んだ件については忘れますので、ここで手を引きませんか?」
「ぬぬぬぬぬぬ」
ぬぬぬのぬじゃねえよ。
レインさん、強行突破。
相手にしててもしょうがない。
「……どうも、こうしていても仕方がないようです。
我々も生活が掛かっておりますので、失礼致します」
さっさと迷宮に潜ることにしたが、後々に引きずりそうだなぁ。
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