修理したら伸びた(MAXHP的耐久上限)
おはよう。
今、色々と顔の広そうな、酒場の大将兼大家のオッサンに、魔導人形の工房で評判の良い所を聞いているとこだ。
レインさんがな。
「そうだな、店や家を立ち上げたばかりの連中が、先ず顔を出すってんなら、王都に本拠があって、こちらにも工房を構えている『微笑み工房』か『祝福屋』、『波屋』に『海原堂』なんて所だろうが、大手なだけに、この辺は信用のある人間の紹介でもないとな。
一見の客が立ち入るのは難しいだろうよ」
見た目は渋いオッサンが、横目でレインさんの姿をチラ見しながら、仕込みしている素振りをしているが、同じジョッキばかり拭っているのはバレバレだ。
レインさんは、大柄な体をラフな衣装に包んでいるが、その胸周りや腰周りに漂う色香は、男なら目が離せない魔性の代物。
だからといって、それを態とやっているように見えないのが恐ろしい所で、天然なのか狙っているのか。
本来のナイツの民なんてのは、どんなイベント中も、空気読まないのが仕事みたいな、発言と行動をするNPCだったからなあ。
多分、本気で気にしてないんだろうなぁ。
俺が、そんな事を考えながら、エリザベスさんに枝豆をアーンして貰っている間も、おっさんの話をフムフムと聞きながら、ジョッキを開けているレインさんがいた。
「では、それでは後ろ盾のない、迷宮の探索者などが、人形を手にしようとした場合は? 個人の工房に?」
「そういう連中は、ナマの方がいいってんで、態々人形を買おうって奴は稀だがなぁ。
もし居るとすりゃ、そうなるだろうな。
信用の値段を載せない分、割安だしな。
それに個人の工房でも、よっぽどの影で何かやってる連中でもなきゃ、それなりに付き合えば、下手な物を掴ませにくる事もないだろうよ。
まあ、人を見て選べということだな」
という事で、それなりのベテランの個人工房と、若いが腕が良いと言われてる新進の工房を教えて貰った。
長い事やってるとこは、それなりの紐付きにもなるし、若いぽっと出は、色々と握られてる部分もある。
どちらにしても、その手の関わりから完全にフリーってのは無理だからして、一介の探索者相手に余計な事をするほど、その手の組織も暇じゃねえだろうって考えて、後はもう人を見て合うか合わないか位で決めるしか無いだろうよってことらしい。
いや、微妙になんか怪しい子供って部分で、ちょっかい掛けられるフラグはあるんだけどね。
「判りました、色々とありがとう御座います」
レインさんが礼と一緒に、情報量代わりに多めの飲み代を渡し、オッサンとの話を切り上げて酒場を出た。
街の大通りに出た所で、何気なく常連の仲間入りをしかけている、ボッタクリの店に寄り、店主に酒場の大将の所で聞いた、工房の噂をチョイ聞き。
特に悪い話は聞かなかったので、工房へ向かう。
工房の場所は、ある程度固まっているので、大通りから職人街とも言える場所へ折れて、少し進んだ所で発見できた。
途中で大手の工房も通りがかったが、それぞれに特色らしきものを感じられたものの、今眼の前にあるクラスの工房とは、値段の差がでかくて苦笑するしか無いものでもあった。
今眼の前にある工房は、聞いた話の工房だったが、両者が隣り合ってて、同じ建物の中にあるとは思っていなかったな。
屋号しか聞いてなかったが、もしかしたら縁者なのかね……親子とか?
それにしては趣味の差というか、人形の特色がハッキリしているように見えるな。
なんせ、ベテランの方は黒髪一色で、若手については色物とでも言う程にバリエーション豊かだ。
金髪に赤毛、アニメじみた青・緑・ピンクなんかまで揃っている。
どうしてこうなったのかは知らないが、両者ともに、そこはかとないエロさが漂っているのは、共通しているかもしれない。
いつまでも眺めていても仕方ないので、まずはベテランの方に立ち入ってみる。
工房に入った途端、顔をしかめられた。
「おいおい、姉さんよ。
お前さんが主なのか使いなのかは知らんが、そんな抜き身の剣みたいな、おっかない人形を連れて、どういう用件だ?
うちには、そういう向きの人形は、置いてないんだがな。
まあ、そっちの少々摩耗している娘を処置して欲しいってんなら、二十万C出せば、三割削れている内の二割五分までは何とかしてやれるが、それ以上は一段上のものか、同じ物のフレームに総取っ換えだな」
頑固そうなオヤジだが、メイド二体をチラッと見ただけで其処まで見ぬくとは、なかなかの眼力だ。
しかし、エリザベスさんの件に、ある程度の手当の見当が付いたのは、幸先が良いな。
「うあぅあぅ(やってもらって)」
ポイント返還すれば、二十万cは手が届く。
「では、お願いしたい。 二十万cは、即金で渡せる」
「おいおい……まあ、このご時世、人形にそういう手を掛けられるってのは気に入った。
それほど時間はかからんから、暫く待ってくれ」
オヤジはエリザベスさんを椅子に座らせると、フレームと同じ素材なのか精錬されたインゴットを手に、レベルの高いスキルを起動させている。
俺ではまだまだ届かない高度なスキルだ、
「まあ俺では、ここまでが限界だな。
躯体の入れ替えや、新規で手に入れるってんなら、息子の所にでも顔を出すといい。
趣味は悪いが、腕は良い。 特に戦闘用なんて代物はな」
オヤジは隣の工房を顎で示すと、それだけ言ってよこした。
「ありがとう御座います。 生き返った気分です」
エリザベスさんが、オヤジに一礼しつつ感謝を述べ、何やらオヤジは照れていたりしたが、レインさんが金を渡して、工房を辞した。
それから隣の工房に寄ってみると、隣のオヤジの言う通り、リズリットさんクラスの明らかに常用とは感じの違う人形が二・三体見受けられた。
「おや、いらっしゃい。 確か、お初の方だね」
割と軽い感じの挨拶だが、メイド二人に飛ばす目付きは、隣のオヤジと遜色ない雰囲気を、持っているように感じた。
「此方では戦闘用の人形も、手掛けていると聞きましたが」
「ああ、戦闘用と言われると語弊があるね。
華やかな強さと美しさを兼ね備えてこそ、理想の侍女というものだと、信じているだけさ」
なるほど、いい趣味というべきか、なんというべきか。
「まあ、僕の人形を買い上げてくれる方々にも、その辺に共感して貰える相手がいないのが寂しいところだけどね。
ただまあ、他人の作品でも、この二人のように手をかけて貰っている姿を見ると、嬉しくなるね」
というような、やり取りの後、レインさんに二人のパワーアップについて聞いて貰った。
「ふむ、この二人自体が、随分と力を持っているからね。
これ以上にという事になると、確かにコアにフレームに……金額がと言うよりは、素材の問題になってくるからね。
持ち込みならともかく、お金でというのは余り、お勧めしないね。
例えば一段上のフレームに替えるとして、準備に百万cとしても、それよりは、もう一体現状レベルの人形を手に入れた方が、戦力も自由度も上がるというものだよ」
むう、そういうものか。
「まあ、ちょっとした話なんだけどね。
此処の迷宮の三層・五層にはね、廃棄されて狂った人形……主にオス型の、のっぺらぼうな、花も何もない戦闘やら荷物運び用に、使い捨てられた連中が彷徨っていてね。
戦闘は面倒なんだが、上手くすれば、それなりの素材の当てになるんじゃないかな」
ほう、いいことを聞いた。
ちょっと考えてみよう。
「それでは、また」と、工房を辞して、宿へ帰る。
食事がてら酒場の大将に、捨てられた人形って話を聞いてみる。
一寸驚いた顔をされた。
なんでも、四層・六層の食材目当てのグルメ旅に、貴族が向かう際の置き捨てということで、結構な数が彷徨っているらしい。
硬くて面倒という戦闘力の割に、倒して取れる素材での実入りが少ないのは、地下一層の子鬼連中と同じで、スルーされる対象とのこと、お陰で数が減らないという悪循環らしい。
かと言って、持ち主が契約した連中を回収に、というのもできないらしい。
一旦起き捨てて時間が経つと、迷宮の魔力の加減か、暴走して契約が破棄状態になるらしい。
なので、まあ余程の高価な人形以外は、そのまま放置されてしまうらしいね。
「ふむ、興味が有るなら、ちょっと面白い話があるんだが」
オヤジが何やら話を聞いてるレインさんに、お代り如何と要求してきた。
レインさんが、小金貨で酒を注文すると、お釣り出さずにオヤジがニヤリとし「毎度」と呟くと話しだした。
「実はな、ついこの間、王都の貴族が、お忍びでやってきてな。
何を求めてか四層に向かったんだが、突然変異の鶏に襲われて、逃げ帰って来た。
その時に乳母役の人形が、貴族の坊ちゃんを庇って残り、離ればなれということでな。
それなりの連中に、無事での回収か、出会っても倒さずに放置との依頼が出ている。
その貴族のぼっちゃんが、戦力を集めて戻ってくるまでの話だが、上手くすると謝礼はデカイらしい」
「ほう」
「それとこれは余り大きな声では言えんが、どうやらその貴族、王家の連中らしくてな。
その人形は、かなり貴重なものらしい。
格という意味でもあるが、乳母役ということで、普通の人形とは違った機能があるそうだ……まあ、出るのは魔力を変換した霊薬らしいがな。
それに、それ用の為にか魔力容量の桁が違って、魔術まで使うとか。
この街の貴族やら一部の金持ちが、個人での回収を目論んでるなんて話も、ちらほらだな」
なん……だと……。
なんというロマン人形、貴族の中でも王家という奴は、一際業の深い連中らしい。
なんと、エリザベスさん達ですら、若干引いているような。
「お、知らなかったか?
この国の王家はな、過去に権力争いで血が途絶えかけたからな。
継承権を持つ者が幼いうちの危険を避ける為に、幼児を一時的に、十歳ほど進めた抵抗力のある姿に成長させる霊薬を産みだしてな。
その霊薬を与える役目を、乳母役の人形に与えたんだそうだ。
その人形の作成法は秘密でな、王家の外に出ることはない。
そして一番古く、一番格の高い人形は、代々の継承権一位の人間に、契約を受け継がせているらしい」
ああ、そういう理由で言われれば、何となく判らなくもないけども……。
「一つ聞きたいのですが、その人形を失った王族というのは……」
流石レインさん、聞きにくいトコを押し込むぜ!!
「ああ、継承権としては十七位くらいのボンボンだがな、腐っても王族だ、金は持ってるだろうよ」
いや、聞きたかったのは其処じゃなくて。
「ああ、見た目は14-5の子供だったがな、実質がどうかは判らんな。
ある程度の歳がいっても霊薬を飲み続ける奴もいるし、やめる奴も居るらしいからな」
それって、なんてプレイ。
もしかして、王族のそういう方面の勉強も担っていたりするんだろうか?
「ん、皇太子が乳母役の人形に似た嫁さん探してくるのは、この国の伝統だぞ。
その辺の狂いっぷりにゃ誰もかれも諦めてるし、その辺の懐きっぷりのお陰で、教育係としての機能と善政に繋がっているからな」
駄目だこの国、って善政云々いう割に、酷い気がするような……それか、善政してこれか!?
ほんとに地獄だな。
それはともかく、身体を成長させるとかな霊薬は気になるんだが、これはチャンスなんだろうか?
でもなぁ、せっかく飯を気にせず食えて、地力でトイレ行けるくらいの運動能力のお陰で、赤ちゃんプレイから逃れられているというのに、正気で授乳プレイとかハハハ。
いや、流石に王位継承者の、マザコン絡んだ人形狂いな連中から、人形かっぱらうのも、命知らずか?
いやいや、そんな現場に出くわすかどうかも判らんのだし、気にしててもしょうがないか。
とにかく、地下三階で雄型の戦闘人形狩って、売るなりスキル上げしつつ、食材で金策も進めていくのがいいんだろうな。
まあ、ぼちぼちやっていこう。
ステータスは、所持金が減ったくらいですので割愛。
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