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ブラック領主一族に転生したけど、MBA知識で“人が幸せに働ける領地”を作ります  作者: コハチ


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2/3

名門バルシュタイン家? 先生は褒めるけど現実はだいぶヤバそう?

 俺が今いる国の名前は――

 ディアングラード王国。


 大陸で三番目に大きな領土を持つ強国。

 そしてその西北に位置するのが、俺たち――バルシュタイン家の領地だ。


「西側には、“中東の湾”のような半月型の海と砂漠地帯。

 そこから吹く熱風と乾燥は、この領地の最大の敵です」

 


 家庭教師のオルフェン先生が、教室中央の大地図に棒を当てた。


「北側は山岳。

 鉱物資源は豊富ですが、気候は厳しい。

 そのため人の定住は難しいですが……軍事上は“天然の盾”とも言えます」


(北は山、

 西は砂漠と湾――つまり)


「人が普通に暮らせるのって、東側だけなんですね?」


 先生が驚いたように目を瞬かせた。


「え、ええ……まさにその通りです」

 


 俺は地図を見つめる。

 領都は東側。

 王都方面にも近く、交易もまだ活発で、比較的“人の暮らし”が成立している。


 だが、領地の西と南は違う。


 西――乾燥と砂塵、過酷な気候。

 南――隣国と接する軍事緊張地帯。


 

「ですので、東側は発展しておりますが、西部と南部は“人が住むには厳しい”地帯です。

 それゆえ――」


  先生は少し声を落とした。


「――バルシュタイン家が“軍の要”を担わざるを得ない事情があるのです」


 

 二百年続く武闘貴族。

 戦場の最前線。

 国の盾。


 

 確かに、言葉だけ聞けば格好いい。


  ただ――


 (でも、それって)


 「先生。

 それって、“守らなきゃいけない土地が広すぎる”ってことですよね?」



 棒を置く手が止まる。


「軍備。

 補給。

 兵士の給料。

 武器の維持……

 お金、すごく掛かりません?」


 俺はただ、首を傾げただけ。

 

 責める声でもない。

 皮肉でもない。

 十二歳の、真っ直ぐな疑問。


 けれど――


 先生の口元は、やっぱり少しだけ固くなる。

「レオン坊ちゃま。

 数字は領主様が扱うものです。

 坊ちゃまはまだ……知らなくてもよろしい」




(……やっぱり言わない)


 父への忖度。

 貴族社会の暗黙。

 この家の空気。


 全部、ひしひし伝わる。


(帳簿を見る必要がある)

(数字を見なきゃ、本当のことは分からない)


そう考えたところで、扉がノックされた。


 


「レオン坊ちゃま、夕食のご準備が整いました」


 


◆ ◇ ◆


 


 広い食堂。豪華な晩餐。


 


 でも――温かい団らん、とはちょっと違う。


 


 父、ガルド・バルシュタイン。

 身長一九〇センチ超え、筋肉の塊。

 椅子に座っているだけで周囲の空気を圧で支配する、そんな男。


 兄、ライナルト・バルシュタイン。

 同じく高身長だが体はしなやかで整っている。

 王立学校を優秀な成績で卒業し、文武ともに完璧。

 母に似た端正な顔立ちで、まるで雑誌モデルのように美しい。


 母、ミラージュ・バルトシュタイン。

 まるで学校の教科書でみた中世ヨーロッパの有名王妃みたいな美しさだ。

 

 ――そして、俺。


 背も大きくなく、父ほど強くなく、兄ほど華もない。


 父は基本的に俺を見ない。

 兄は優しいが、深入りしてこない。

 母は兄に夢中で、自分のことは基本放置。


 そんな家族。


 

 肉を切っていた父が、ふいに低い声を出した。

 「宰相からの報が入った」


 俺と兄は自然と聞き入る。


「南の隣国ベルンハルト――軍備増強。

 戦火が“遠くない”可能性がある」


 空気が張り詰めた。


 兄が静かに訊く。

 「……本気で、ですか?」


 


 「まだ確定ではない」

  父は淡々と答える。



 けれど、その目は戦場を思い浮かべる獣の目だ。


「なら――こちらも“締める”必要がある」


 当然のように言う。


「兵の増員。

 訓練の強化。

 兵装の整備。

 鍛冶場の稼働は上げる。

 働ける者には、もっと働いてもらう」


 


(……やっぱりだ)


 これだ。

 この思考。

 この匂い。



 前世で腐るほど見てきた。


 ――ブラック経営者の声。


 兄が静かに言葉を継ぐ。


 

「合理的ではあります。

 南は隣国の緊張線。

 西は砂漠で補給線が難しい。

 戦になるなら、こちらが先に準備を固めるのは必須です」


 正しい。

 理屈としては正しい。


 でも――


 「あの」


 


 俺は、おずおずと手を上げた。


 父の巨体が俺を見る。

 圧が凄い。でも、怯えない。


「……戦になったら、

 どれくらい、お金が必要なんでしょうか」



 短い沈黙。


 


 俺は続ける。


「兵士のお給料とか……

 武器とか……

 怪我した人の治療とか……

 砂漠の方って補給が大変なんですよね?

 だったら、もっと掛かると思うんですけど」


 責める言い方じゃない。

 ただの疑問。


 でも、父は答えられなかった。


「ほう、おまえもそういうことが気になる年になったか

 ……細かい数字までは知らん。

 だが、掛かるのは確かだ」


 

 兄が柔らかく助ける。


「“小さくはない”額だ。

 だがレオン、必要経費だよ」

 


「どれくらいですか?」

 俺がまた首を傾げると、兄は苦笑した。


「レオン。

 数字を見るのは、大人の仕事だ。

 今はまだ気にしなくてもいい」

 


 優しく、でもきっぱりと遮られる。


 それで十分だ。


(やっぱり、誰も“ちゃんと見てない”)


 父は“戦”しか見ていない。

 兄は“合理”しか見ていない。


 でも――



 数字も、現場も、人の暮らしも

 “全部まとめて見る人間”がいない。



「……勉強になりました」



 俺はそう言って、グラスを持った。



 まだ十二歳。

 まだ“ただの子ども”。


 だから、大きな声では言わない。


 でも――心の中でははっきり決めた。


(帳簿を見る)

(街を見る)

(現場を見る)


 

 そして――



(この領地を、壊させない)



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