File4:男子学生連続失踪事件(肆) 202X年7月16日
──Side 富ノ森調査事務所 アルバイト 相川 桜──
202X年7月16日 午後0時12分
富ノ森市・駅前ゲーセン裏
調査開始2日目 昼。アスファルトの照り返し。自販機の排熱が脚にまとわりつく。
ゲーセンの裏口で、灰皿を囲んでいた学生三人に声をかけた。
昨日の夜拾ったアカウントの一人――「sho_ma_」。大河内翔真。そいつの顔写真を見せる。
「この子、最近見てない?」
一番年長に見えるやつが煙草を灰皿に押しつけ、苦笑した。
「ショーマ? ああ……あいつなら、とっくに飛んでるっしょ」
「飛んでる?」
「家出だよ。あんた知らねえの?」
「いつから?」
「……七月頭くらい? 連絡つかねえってみんな言ってる。レンジとカイトなら連絡つくんじゃね? あいつらいっつもグルだし」
煙の匂いが鼻に刺さる。
七月頭。加藤蓮司が消えたのは十日。加藤は、二人目。
◆202X年7月16日 午後2時02分
富ノ森南学園・体育館裏に隣接する公道。
体育館の壁に溜まった熱気。ゴムの匂い。
部活帰りの男子生徒を呼び止める。水筒を握った手が汗で光っている。
「大河内翔真。知ってる?」
「……ああ。二年の時、同じクラスでした」
「最近は?」
少年は視線を逸らし、声を落とした。
「六月末から学校来てません。先生も“退学の手続きがどうの”って……」
「理由は?」
「家庭の事情らしいですよ。でも、先輩たちの間じゃ“行方不明”って」
水筒の金属音が、蝉の声にかき消された。
◆202X年7月16日 午後3時15分
市立図書館・自習席
冷房の効いた静寂。ノートPCの光。
SNSを再度洗う。
翔真の裏垢「sho_ma_」の更新は六月二十九日で止まっている。
最後の投稿は夜のプリクラ。横に蓮司と滝口。ピース。
それ以降、リプライに「死んだ?」と冗談まじりのコメント。返信はゼロ。
レンジの更新停止は七月十日。
――線が引ける。
◆202X年7月16日 午後5時07分
富ノ森調査事務所
机に広げたノートに二つの名前を書き出す。
加藤蓮司――七月十日失踪。
大河内翔真――六月末から消息不明。
グラスのぬるい麦茶に汗が浮き、輪染みが広がる。
俺は鉛筆で二つの名前を線で結んだ。
“第1の失踪者”は大河内。
“第2の失踪者”が加藤。
偶然じゃない。家庭の事情による家出なら、同時期に二人続けて消える確率は低い。
同じ線で繋がっている。そう考えるのが自然だ。
蝉の声が窓から押し寄せる。
汗で湿った紙が指に貼りついた。
――これは連鎖だ。
◆202X年7月16日 午後18時45分
富ノ森市・自室
机の上に散らしたのは、数十枚のプリントアウト。
SNSから拾った画像を、コピーして並べたものだ。
加藤蓮司のアカウント、そのタグに常に名前を連ねていた二人――大河内翔真、滝口海斗。
翔真の痕跡は六月末を境に途切れた。
残るは、滝口。
写真の滝口はどれも派手だ。
染めた茶髪。派手なピアス。肩に回した他人の腕。
夜のネオンの下で、明らかに彼が口にすべきではない飲料缶を掲げて笑っている。
プリクラの落書きは「カイト参上」「不良魂」と馬鹿みたいな文字で埋まっていた。
特徴ははっきりしている。
切れ長の目。片耳のフープピアス。下唇の端に残る小さな傷。
これなら実物を見ればすぐにわかる。
――その時。
隣の空き部屋からドン、と壁を叩く音が響いた。
「うおぉ! この技は反則だろッ!」
風吹の声だ。
おそらくゲーム。コントローラーを叩きつけた音が続く。
俺は眉間を押さえた。
「……うるせぇ」
独り言は空気に溶け、すぐにまた画面に視線を戻す。
だが隣からはさらに喚声。
「桜ーッ! わたしの勝率グラフ見ろよ! 右肩上がりだぞぉ!」
……黙れ。こっちはお前がゲームする電気代を稼ぐのに必死なんだ。
声には出さず、歯の裏で吐き捨てた。
【2025/09/18追記】
ご覧いただきありがとうございます。
まさかの公開から1日と13時間で、日間ランキング ローファンタジー連載中部門65位にランクインすることができました。
これもひとえに、拙作をご覧いただいた皆様のおかげです。心から感謝申し上げます。
この作品は13年ぶりの復帰作で、皆様からの評価や感想が何よりの執筆モチベーションとなります。
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次回の更新もお楽しみに。