プロローグ
_ある異世界の出来事だ。
小雨が降っており、
街は炎に包まれ、人の血や死骸が地べたに散らばっている。
余りに酷い...
『_兄上…!急にどうなさったのですか…!
剣を振り回して、無闇矢鱈に人を無差別に斬り殺して…
あんなに優しかったのに…どうしてなのですか…!?
どうして兄上は今、人を斬り殺すのですか…!?』
『うるさいっ…!!これは全部醜き奴等のせいだ…
醜き者のせいで我は変わってしまったのだ…!!
父上は我が奴等の犠牲になることを拒み、我の目の前で殺され…
母上は父上が殺されたことにより狂い、自ら自殺した…
その状況を作ったのも今の状況を作ったのも全部奴等だ!!!!』
『「奴等」だけが憎いのなら、その者達の悪行を国王に報告すればよかったというのに…』
『国王も奴等と同じだ…
父上と母上を見棄て、
そして…お前まで狙っていた…!!
国王が兵士に殺せと命じたんだ…』
『そ、そんな…』
『いいか?よく聞け。この世界に優しい人間なんて存在しない。どいつもこいつも性根は腐っている。優しく見える人間でも助けてくれる人間でも…いずれ裏切る。実際、国王は信頼出来ると昔は思っていた。だが、我等を裏切り反逆の餌食となった…
そして所詮我とお前も人間だ。裏切ることなど容易いだろう。
今、我はこの戦場で反旗を翻す無差別殺人を引き起こす反逆者となった。お前と一緒に戦う事は出来ない。兄妹共々殺されるがオチだ。だが、せめてお前だけは逃がしてやりたい。俺の命よりお前の命の方が大事だ。
そして、何れこの世界に…来訪者が訪れるだろう。お前の身に危険が及んだ場合、その来訪者を頼れ。
我が長年研究して作り上げたこの薬、身体烈火練術の薬を飲めばそれぞれの特性に合った能力を持つことができ、
その力で敵を追い払うことが出来る。』
『そ、そんなこと言われても…!!!!
兄上を見捨てて逃げることなんて、私にはっ…!!』
『…我のことなど気にする必要は無い。
憎き人間共を鏖殺してお前の元へ戻る。
安心して逃げるが良い。
_逃げる場所は何処でも良い。自由だ。兎に角遠くへ遠くへ逃げろ!』
『…わ、わかりました。』
『_この薬を、使うか。
盾の壁!
これで後ろの通り道は塞げた。
妹が戻って来ることは無いだろう。
そして、目の前に居るのは大量の兵士共とこの国の国王。
_態々貴方様から赴いてくれるなんて、
相当御怒りのようですね?』
『勿論だとも。私の愛する民達を無差別に殺害して、こんな馬鹿騒ぎを始めたんだから。
怒りを覚えるのは必然的だと、君も思ってるであろうな。』
『自分の息子を庇ったような優しき民を処刑した独裁者がよくそんなこと堂々と言えたもんですね。』
『あ〜あの者か。確か君の父親だったな。
条件を呑めば無事で居られたというのに…
どちらにしろ、君を殺すという目的は変わっていない。昔も今も…』
『何故我に執着するのか…
それはさておき、
もうすぐ始まる派手で愉快なショー_
見てみたいですか?』
『ほー、こんな時にショーをするとは…
私達も甘く見られたものだな。』
『勿論、ただのショーじゃありません。
芸術的爆発で我共々楽しむんですよ。』
『前言撤回…爆発のショーか。
どんな面白い演出を見せてもらえるのか楽しみだ。
…兵士共、構えろ。(小声)』
『何をする気です?バレバレですよ。』
『念には念をだ。どうせ楽しすぎて昇天するだろうがな。』
『爆発ショーまであと数十秒。
何か聞きたいことはありますか?』
『…そうだな。
君のその生まれ持った研究技術の才能について知りたい。
_誰から教わった…?』
『ふふっ、そんな事ですか。
_■■ッ■ェ■■■』
『…!!
撃て!!!!』
『ふふふふふっ、アッハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!!!!!!』
-森の中-
少女は一人、ある場所を探していた。
リュックを背負っており、歩く度に瓶と瓶がぶつかり『コツン、コツン』という音と、
液体の『チャポ、チャポ』という音が合わさる。
服はボロボロで酸欠状態。
森の暗い雰囲気にビクビクと怯えてもいた。
『_街は、街はどこ…?』
両手の指先で掴んでいる、涙で濡れている地図を見ながら、
何処かにあるはずの街をフラフラとした足取りで探していた。
少女の住んでいた街は広い森林に囲まれた地帯だった為、
街にたどり着くまでには先の見えない迷路をただひたすら進むしかなかった。
「...この森、やけにジメジメしてて暑い...
あまりこの辺は通ったことがなかったから、
慣れないな...」
一歩一歩踏み出す足には哀愁が漂っていた。
「兄上...本当に、大丈夫かしら...」
そしてまた暫く歩いていると、
見覚えのない広い草原に出た。
「こ、こんな場所...地図に乗ってない...」
困惑している少女。
それでも、街に着かなければいけない為歩いた。
(ヒュー...!!)
少女を阻んでいるのか、唯自然に吹いているだけなのかわからない、
そんな激しい風が起きていた。
「ッ...!!」
抗いながらも前へ進み、ようやく街が見えた。
この街は見覚えがある。趣のある木材でできた家が連なっていて、
他国の雰囲気を踏襲したレストランもある。
住民は優しく、物を盗ったり嘘をついたり裏切ったりしない。
「ここに来れば大丈夫なはず。」
だが、もしかしたらあの無差別殺人が起こった場所から、
生き残った兵士が追いかけてくるかもしれない...
そう思った少女は人気の少ない所で、自分が住めそうな家を探した。
「_この辺りにしては、人が少なすぎない...?
スラム街みたいな感じ...どうしてだろう。」
あまりの人の少なさに疑問を持ちながらも、
人の住んでいない家を探した。
「お、そこのお嬢ちゃん。
どうしたんだい?こんな貧富の差が激しい街に来て...
もしかして引っ越してきたのかい?
やめときな...」
皺だらけの年寄りが少女に話しかけてきた。
「ここ、そんなに治安が悪い所なんですか...?
前来た時はどこもかしこも穏やかだったのに...」
すると年寄りは少女から視線を逸らし、
眉間に皺を寄せて話し始めた。
「森林に囲まれたとある国の兵士がここまで来てね、
一部の民の金をぶんどっていったのさ。
そのせいでここは廃墟と化し、住んでいた奴は餓死し、
骸骨が当たり前のようにあるような場所になったんだ。
お嬢ちゃんの言う昔のこの街は兵士が来る前の話だよ。」
その話を聞いた少女は動揺した。
そんな事が起きていたなんて、兄上が憎んでいたのも納得だ。
「俺ァもうこの街から去る。ここに住むんなら俺の家を貸してやる。
せーぜー生き延びな。」
最初の穏やかな声と口調とは裏腹に、
どこか芯のある声と口調でそう言い、その場を去っていった。
気づいたら足が竦んでいて、嫌な予感もしてきた。
「あまり、頼りたくなかったのだけれど_
...来訪者を、頼ることになるかもしれない...
この手紙の通りに...」
少女はこれから起こることを予感して、草原が広がる場所へと戻った。
「_この手紙によると、こことは違う世界の民が異世界へ行きたいと念じれば、
来訪者は渦と共にやってくる。と書いてある。
でも、いつ現れるのかしら...タイミングというものがあるし、
兵士に襲われている状態で来られたら来訪者を危険な目に遭わせることになる...
どうすれば...」
どうすればいいか考えていると、急に目の前に巨大な渦が現れた。
「う、渦!?」
そして上から人が数人降ってくる。
「うわぁぁぁぁっ!!」
「助けてぇぇえぇ!!」
「_下は草だといえど下から落ちたら死ぬ可能性がある。
助けよう。この薬を使って。」
リュックから薬を取り出し、ちょびっと飲んだ。
「うげっ、不味...」
味は苦くて不味い。
今まで口にしたことのない苦さで、
思わず口に出してしまった。
だが、薬の効果は本物で、
少女の能力は救命ヒーラー。人を救える技を持っている。
「よし、これなら...
この技が出せる...!!」
手紙に書いてあった技の名前を言えば、その技はこの世界に反映される。
「...救命網!!」
そう叫ぶと、地面から穴の細かい縄が出てきて、
それが上から落ちてきた人たちをキャッチしてくれた。
「有難う御座います!!」
「いえいえ、こちらこそ。
この世界に来てくださり、有難う御座います!」
これから自分を守るためにこの人達が犠牲になると考えると、
少し胸が痛くなる。そんな複雑な気持ちを抱えながらも、
紳士に対応して、自分の過去を隠す。
「いやぁ、でも...
本当に異世界に来ちゃったな!」
「意外と私達...運、ツイてるのかもねっ!」
「...ただの偶然では?」
「ぐ、偶然じゃねえよ!
ったく、いちいち反論してくんじゃねー!!」
仲良しな人達だなと思いながら見ていた。
その裏では...
「....................................................................
....?.....ま、だ...体が、動く......?.......ふふっ、そいつァ、好都、合...
なんだか、人間の、体では...なくなっている...みたい、だが.....
.....................................................................
...ふっ、ハッハハハハハハハハハッ!!!
軟弱者が倒れてやがるッ!!無様なこったァ!!
道もこいつが死んだおかげで開けた。
さて、こいつが逃がした女を...
(カタ、ガシャ、ガシャ...)
黄泉から帰ってきた兵士達と共に、
殺しに行くか_
プロローグ終了。
次回は来訪者の元の世界からお届け〜
最後まで見逃せないっ!!