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常念穂高は松本城を爆破する  作者: 楠本恵士
松本市を怪獣が縦断する
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第八話・松本市を怪獣縦断

「安曇野 梓、おまえには松本市を愛する、魂の熱い血は流れていないのか! それでいいのか!」


 松本市の中心から離れた、北アルプスを展望できる、アルプス公園のベンチで穂高は熱く語った。

 今日は平出 巴の親戚のお兄ちゃんの車で、ピクニックでアルプス公園に連れてきてもらっている。

 巴と巴の親戚のお兄ちゃんは、アルプス公園内にある無料の動物園で動物を見て回っている。


 穂高はアルプス公園に来る途中、閉店した松本パルコの二階をすべて、室内マレットゴルフ場にして……人工芝の上でマレットゴルフをしている松本市民の姿を語り、巴の親戚のお兄ちゃんと大いに会話で盛り上がった。


 穂高が少し残念そうな表情で言った。

「県内にある無料動物園で、長野市の城山動物園には入り口入ってすぐに海洋哺乳類のアシカがいるんだぞ……山国の信州にアシカだぞ、ピンク色をしたフラミンゴまでいるのを見た時は、正直驚いた……飯田市の無料動物園には、フンボルトペンギンが泳いでいて……県内の有料動物園にはライオンやゾウやキリンやカンガルーやレッサーパンダがいる動物園もある……正直、松本市民としては、うらやましい」


 穂高がタダをこねる子供のような仕草をする。

「欲しい欲しい、松本のアルプス公園の動物園でも……アシカ欲しい、ライオンやトラやキリンやゾウが欲しい、カンガルーやレッサーパンダや……ジャイアントパンダが欲しい、それなのに、梓お前というヤツは」


 穂高が、梓に言われたコトをぶり返す。

「『元々、長野県がサファリパークの中で、人間が暮らしているようなもんだ』とは、なんだ……そりゃあ、野生動物を頻繁(ひんぱん)に目撃したり、クマが出没しているから注意の放送はあるが」


「だって、本当のコトだろう……長野県民はサファリパークの中で、生活をしているようなもんだろう……さすがに竹林に野生のパンダはいないが」

 少しムッとした顔で何かを考えていた穂高が、また突拍子のないコトを言った。


(ひらめ)いたぞ梓、怪獣に松本市を縦断させて壊滅させる」

「はあぁぁぁぁぁぁ?」


   ◆◆◆◆◆◆


 数日後──穂高たちは、巴の親戚に頼み込んで『信州スカイパーク』に来ていた。


 信州スカイパークとうのは、松本空港周辺に広がる、だだっ広い公園で……ウォーキングする人や、犬の散歩をさせている人の姿も見える。

 滑走路を挟んで公園があるので、見通しがいい広々とした公園を屋根つきの東屋のベンチに座って眺める穂高が言った。

「前々から、この広々とした場所で出現した怪獣から逃げ惑う市民のロケでもしたら、最高だと思っていたんだよな……松本を舞台に登場した特撮モノの怪獣って、どんなのがいるんだろう?」


 巴の親戚の、お兄ちゃんが瞳を輝かせて急に話しかけてきた。

「映画で有名なのは、黒部渓谷に落下した隕石から出現して松本市の上空を通過していった〝キングギドラ〟だな……ロケ参加した松本市民が店のシャッターを閉めて、逃げ惑う光景は大笑いだった……もっとも、キングギドラは松本市を通過しただけで見向きもしないで、松本城の瓦が数枚舞っただけだが……松本ではゴジラと並んで、キングギドラ信仰が根強く残っている」


 その他にも特撮番組のワンシーンで、怪獣のハリボテを乗せた車両が松本市を通過したりしたと……巴の親戚の兄ちゃんは熱く語った。

 どうやら、巴の親戚の兄ちゃんは、この手の特撮話しが大好きらしい。


 梓と巴には一ミリも興味が無い、怪獣話しが続く。

「北アルプスまで範囲を広げると、出現した怪獣は結構いるぞ……ウルトラシリーズだと、雪山で死闘をした三大怪獣のレッドキング、ドラコ、ギガスなんかが有名どころだ……そして松本市で忘れちゃならないのが〝ノコギリ(八つ裂き)怪獣グロンケン〟だ」


 松本市が直接舞台になった怪獣と聞いて、穂高の目の色が変わる。

「どんな怪獣なんですか?」

「全身に回転ノコギリがついた怪獣で、立像の観音像をぶった斬った、バチ当たりな怪獣だ……これが、グロンケンの画像だ、スマートフォンの待ち受けにしている」

 巴の親戚兄ちゃんが見せてくれた、肘と膝にもノコギリ状の武器を持つ、全身凶器怪獣の画像を一目見た穂高が。

「怪獣グロンケン、ロックな怪獣だぜ!」

 そう言って喜んだ。


 巴の親戚の兄ちゃん──諏訪 天龍が退屈そうな巴に言った。

「木曽にはギャオスが現れた」


  ◇◇◇◇◇◇


 しばらくベンチで、ノートに何やら書き込んでいた穂高が言った。

「ここでロケする構想と、場面が頭の中でまとまった」

 隣に座る梓がノートを覗き込むと、穂高はどうやら映画の絵コンテのようなモノを描いていた──穂高は本気で、松本市を舞台にした怪獣映画のコンセプトを、どこかの映画会社に持ち込むつもりらしい。


 穂高が言った。

「それじゃあ、実際に梓を使ってどんなイメージになるのか、スマートフォン撮影してみるか……巴、頼む」

 平出 巴がスマートフォンのレンズを構え、

穂高が梓に指示を出す。

「あの辺りに怪獣がいると想像しろ……こちらを睨んでいる巨大生物だ、梓は驚いてこのセリフを言って指示した方向に逃げる」

 穂高が見せたノートのセリフを読んだ、梓が演技をする。


「わぁ、大変だ、怪獣だ、逃げろう」

 棒読みのセリフを言って、穂高が指差した方角に走り逃げる梓。

 梓の姿が茶柱ほどの距離まで逃げると、穂高は両手で丸を作って梓を呼び戻す。


「はぁはぁ……どうだった?」

 息を切らせて戻ってきた梓に、穂高の容赦ない言葉が浴びせられる。

「下手くそ、それでも役者か」

「役者じゃねえし、文句言うなら穂高がやれよ」

「オレは、将来松本出身の監督になる男だ……誰が、こんな暑い日に走るか倒れるわ……ほれ、塩尻市のご当地キャラがラベルにプリントされた、水飲んで休め」

 梓は、憮然(ぶぜん)としながらも巫女キャラが描かれたペットボトルに、(いや)されて怒りを忘れた。


 その時、低空を着陸態勢で降りてきた旅客機が、松本空港の滑走路に向かって飛んでいった。

 それを見た、穂高が言った。

「あの飛んでいる旅客機を、怪獣が公園に叩き落したら絵になるな……でも、そうなると怪獣の大きさと旅客機の対比が」


 天龍が梓にとって、余計な口を挟む。

「口から粘液の糸を発射して、旅客機を絡め取る怪獣にすればいいんじゃないか? 映像のインパクトがあるように巨大ナメクジの怪獣にしてみたらどうかな……銀色のナメクジ筋を、空港から松本市まで残して移動するとか……移動の途中に、自衛隊の駐屯地もちょうどあるし」

「巴の親戚のお兄ちゃん天才です! ナメクジは人気出なさそうなので、カタツムリ怪獣がいいですね……カタツムリだったら、松本市を通過していくシーンが増えそうです」

「スポンサーの看板がある、建物の破壊だけは避けろよな」


 二人の怪獣話しが盛り上がり──仮面ライダーシリーズ中の、一つの作品では敵怪人集団が、長野市の九郎ヶ岳から復活した設定だという話しを。

 梓と巴は……虚ろな「どうでもいいわい」の目で聞き流していた。


 その後──穂高の口からは【松本市を縦断して、破壊する怪獣映画で松本市を盛り上げる話しは】一度も聞くコトは……無かった。


★ウルトラマンダイナでも、松本市の縄手通りを舞台にした回があります。レイビューク星人と姑獲鳥が登場します。

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