第七話・常念穂高は新しい室内スポーツを模索する
梓に数日間の平穏な日々が流れた──ところが、また市民なタイムスの女性記者が梓の前に現れて言った。
「また、市長に大胆な要望をハガキで郵送したモノですね……確かに閉店した松本パルコの花時計公園側を解体する、話しも出ていましたが今はどうなっているのやら……そのパルコの半分を『さっさと爆破解体しちまぇ!』と言うのは乱暴過ぎます」
花時計公園と言うのは、松本パルコの道路を挟んだ南側にある公園で、たまにフリーマーケットのイベントなども開催されている。
唖然としている梓を無視して、市民なタイムスの女性記者は話し続けた。
「まぁ、過激な要望も裏を返せば松本市を、良くしたいという気持の裏返し……固定観念やぶっ壊して、柔軟な発想を……と、いう要望ですね……そうは言ってもその後に続いた、言葉の真相を教えてください」
「言葉の真相? なんて?」
「ご自分で書いたのに忘れちゃったんですか……あれは、斬新でした。松本パルコの建物を、若者カルチャーやアーバンスポーツの発信源にするという発想……建物の『外壁と内壁に岩登りができるように〝ボルダリング〟用の壁を造ったり──雨天でも練習ができる室内スロープの〝スケートボード 〟練習施設を造ったり〝ブレイキン〟とかも推奨してみたい』って」
「な、室内でスケートボード? ブレイキンってなに?」
梓の脳裏に、窓を突き破って路上に飛び出してくる、スケートボードに乗った若者の姿が浮かぶ。
女性記者の話しは続く。
「今は野外では、ネコのフンとかの衛生問題や、危険だという理由から撤去が多い──『公園の児童遊具を室内に作って、AIの安全カメラで子供を見守りながら砂場遊びとかをさせる』とか──『フランス発祥の競技、街中をパフォーマンスで飛び回る〝パルクール〟を室内でもできるようにしろ』とか……その奇抜な発想はどこから生まれてくるのか教えてください」
◆◆◆◆◆◆
後日──梓は、穂高を松本市の市立図書館内にある、フリースペースに呼び出して問い詰めた。
「なんでまた、松本市長にオレの名前を使って、勝手な要望を送ったんだよ……迷惑だ、なんとか上手く誤魔化したけれど」
穂高は巴の家族が買ってきてくれた、破砕帯の湧き水から作られた大町市の御当地サイダーの〝ハサイダー〟を飲みながら、いつもの口調で言った。
「いいんだぞ、本当の発案者はオレだと、インターネットに書き込んでも……その場合、梓がオレのアイデアをパクったって、思われるかも知れないなぁ」
「穂高……おまえってヤツは」
「オレが変わり者だと、世間に思われるのは困るんだよ……妹の幼稚園児の、胡蝶に迷惑がかかる……幼稚園で胡蝶がいじめられたら、困るからな」
胡蝶というのは、穂高の年齢が離れた妹で、いつも蝶々の白い髪飾りをしている。
穂高は妹の黒髪に映える白い髪飾りを、まるで蝶の雪形のようだと、自慢している。
梓は、穂高の口から妹の名前が出た瞬間、それ以上は何も言えなくなった。
巴が、ここぞとばかりに松本地域を舞台にした、テレビ番組の地方あるある疑問を、穂高にぶつける。
「いつも、思うんですけれど……信州を舞台にした主演者は、瞬間移動とかワープできるんですか? とんでもない距離を瞬時に移動していますけれど」
「それは、ご当地あるあるだ……番組を観ていた観光客は距離がわからないから、ロケ地の聖地巡礼はとんでもないコトになる」
◆◆◆◆◆◆
数日後──穂高と梓と巴は、花時計公園に集まった。
何やら色々なモノを持参してきた穂高が言った。
「松本市を盛り上げて……市を代表するスポーツになりそうな、モノを色々と持ってきた」
どうやら穂高は『松本市は、◯◯スポーツの街』というのを考えているらしい。
穂高が言った。
「最初は松本市の建物の壁に人工石を設置して、壁を人間がクモみたいに登っている〝ボルダリング〟の街と言うのをビックに考えた」
「また、とんでもないコトを」
「でも、市内で壁からの転落事故が増えそうだから断念した」
「そりゃそうだ」
穂高がもう一つの、考えたアイデアを梓に伝える。
「市内を流れる女鳥羽川を利用した〝カヤック〟も考えた……でも水深が足らなくて断念した」
「当たり前だ……それで、室内でもできそうなスポーツを花時計広場で試すワケか……最初に何をやるんだ?」
「〝スラックライン〟をやろうと思ったが」
「スラックラインって大町市が、力を入れているアレか?」
「準備が大変そうなのと、オレには難しそうなので断念した」
「基準は穂高が、できるできないの判断かい!」
〝スラックライン〟──二点間に張り渡した低い専用ラインの上で、綱渡りの要領で跳ねたりしてバランスを競って楽しむスポーツ。
次に穂高は、竹カゴで作ったボールのようなモノを梓に渡して言った。
「このボールみたいなのを、地面に落とさないように蹴ってみろ」
言われた通りに梓が蹴るが、すぐに落としたり変な方向に飛んでしまう。
「う~んダメか、サッカーのオーバーヘッドシュートみたいに、蹴ってみろ」
「できるか!」
「〝セパタクロー〟は松本の市民スポーツとしては少し不向きと」
今度は、穂高は梓に後ろを向いて立つように指示した。
言われた通りに立っていた梓が、殺気を感じて振り返ると木製の球体を持った穂高が、梓の後頭部を狙って投げつけようとしていた。
穂高を睨む梓。
「なにしているんだ……その球体をどうするつもりだ、それ奈良井宿で購入していたよな」
「いゃあ〝ペタンク〟に創意工夫を加えたニュースポーツを作り出そうと思って、梓の後頭部に当てた反応で点数を競う、ニュー・ペタンク」
「それ、殺人未遂」
「じゃあコレなら」
そう言って穂高は、今度は家から持ってきた木製のコケシをバックから取り出した。
「このコケシを〝モルック〟という競技の投げる棒に見立てて、梓の後頭部に向かって投げつける……梓は、モルックのピンでスキットルという名前の道具をやってもらう、モルックを松本市で流行らせる……コレなら花時計公園でも大会の開催が」
「その前に、オレの後頭部に木の棒を投げつけたら、殺人未遂で訴えるからな」
◇◇◇◇◇◇
穂高は、長い洗濯ロープを、ディーバックの中から取り出して言った。
「これが、最後だ……この洗濯ロープで二本ロープの縄跳び〝ダブルダッチ〟を試す……室内でも野外でも縄跳びならできそうだから」
穂高と巴が回し手になって、梓が飛ぶ側になる。
穂高が意地を出して、洗濯ロープを回す。
「さあ、オレと巴が作り出した魂のロープ空間に入ってこい梓二号、入れるものなら!」
梓がなかなか、入るタイミングがつかめないでいると、穂高がまた余計な提案をしてきた。
「閃いた、ダブルダッチを工夫して、新たなスポーツが誕生するぞ……梓、ロープのなかに入る時は〝カバディ〟と連呼しろ」
「なんで、そんなコトを」
「いいから、楽しいと思うぞ……たぶん」
「カバディ、カバディ、カバディ……今だ!」
梓はロープの空間に飛び込んだ……しかし、今度はなかなかロープの外に出られない。
「簡単に出させるか! 出たかったら〝カバディ〟と言え」
「カバディ、カバディ、カバディ!」
数十分後に、ダブルダッチのロープから梓が脱出すると、三人は汗を滴らせて公園で座り込んだ。
「はぁはぁはぁ……全力でロックを演奏したような気分だ……室内でやる新スポーツ〝カバディダブルダッチ〟が完成したな……松本市長に閉店したパルコ店内で〝ダブルダッチ〟ができる場も検討するように要望する」
塩尻市の、ご当地萌え巫女キャラがラベルに描かれた、ペットボトルの水を飲みながら巴が言った。
「あと、三人制バスケットボールのスリー・オン・スリーが室内でできる施設もね……ついでに〝ストリートダンス〟ができる場所もお願い……ストリートダンスは、野外だと追いやられて可哀想だから松本市が救済しないと」
冷えたハサイダーを飲みながら穂高が言った。
「わかった、三人制バスケットボールと、ダブルダッチと、ストリートダンスだな……その三つが、若者を旧パルコ通りに向かわせて街に活気を出す方法としては有効か……また、梓の名前と住所で松本市長に要望出す」
梓が少し困った顔で言った。
「あまり、オレとオレの家族を巻き込まないでくれ!」




