第六話・穂高が松本パルコを爆破解体する
古い宿場町の風情を残す、奈良井宿の町並みを探索していた、穂高がいつものように言った。
「漆器、漆器、漆器、木工製品ばかりじゃねぇか! さすが、イベントでお茶壺道中が行われる宿場町だな……ずいずい、ずっころばしだ」
宿場通りを端まで行って、赤い神社にお参りして近くにあった江戸時代の高札場に残っていた、高札に墨で書かれていた文字を読んで穂高が言った。
「ほぅ、こんな山間の宿場町にも江戸時代に、隠れキリシタンの弾圧があったのは驚きだな……ほーっ」
梓が言った。
「もう、見て回る場所ないな……帰るか」
「はぁ? まだ禅寺の〝龍の天井絵〟見てないだろう……あれ見ないで奈良井宿去ったら、一生の後悔だぞ」
「龍の天井絵? じゃあ、それ見て五平餅たべて帰ろう」
穂高たちは、龍の天井絵が一般公開されている禅寺へ行った。
禅寺の本堂を、覗き込みながら梓が言った。
「龍の天井絵なんて、どこに?」
穂高が頭上を指差す、顔を上げた梓の目と天井に描かれていた大迫力の龍の目が合う。
荘厳な龍の絵に思わず声を漏らす梓二号。
「どわっ?」
「以前は、絵の下で手を叩くと反響して鳴き龍だったみたいだけれどな」
しばらく、龍の天井絵に魅入っていた梓は、寺の天井から吊るされている大名籠に気づく。
「あの吊るされている大名籠なんだ?」
「ふふふっ……そこに気づいたか、あれは道中の途中で、木曽路で亡くなってしまった姫さまが乗っていた籠だ」
「それが、どうしてこの禅寺に?」
「ここは、お茶壺道中の本陣も務めていたからな……その関係で」
スマートフォンで、写真を撮りまくっていた巴が言った。
「早く五平餅食べようよ……もう、お腹ペコペコ」
奈良井宿で五平餅を食べる、食べている最中、スマートフォンで何かを確認していた穂高が、慌てた口調で言った。
「やべぇ、駅に帰りの電車が到着する──その電車逃したら、次に来るのは一時間後だ、五平餅食べながら走れ」
穂高たちが駅に到着すると、ちょうど列車がホームに入ってきたところだった。
慌てて改札口を抜ける三人。
穂高がキップ売り場の駅員に言った。
「キップ代は、車内で整理券取って払います」
三人が電車に乗り込むのと、ドアが閉じるのがほぼ同時だった。
片道キップしか持っていなかった梓が、整理券発行機から、整理券を取ろうとするのを穂高が邪魔する。
「させるかぁ!」
整理券は機械の中に引っ込んだ。
座席に座って不安げに落ち込む梓。
「どうするんだよ……オレ、無賃乗車しちまった」
穂高が、からかい口調で言った。
「どうだ、生まれて初めてのキップなしの無賃乗車をした気分は」
「ふざけるな!」
梓が落ち込んでいると、車掌が車内を歩いて来て穂高が車掌を呼び止める。
「すいません、コイツ……整理券取り損ねたので、運賃徴収してください」
梓はワンマン電車の車掌に、生まれて初めての運賃払いをして安堵した。
安心している梓に穂高が言った。
「さてと、閉店した松本パルコの爆破解体をどうすっかなぁ」