第四話・閉店した松本パルコの半分を勝手に爆破解体する
その日──穂高と梓と、松本ぼんぼんが好きな女子生徒の三人は、松本の縄手〈ナワテ〉通りのブラブラ歩きをしていた。
歩行者天国の縄手通り、西側の交番近くの入り口にある、東京藝大生が制作したハリボテの『ガマ侍像』が目を引く。
多くの観光客がスマートフォンのレンズを向けているのを、ベンチに座って見ていた穂高が、また検索すれば出てくるウンチクを垂れる。
「このガマ侍のハリボテは、元々は東京藝大の学園祭用に製作した〝神輿〟だったんだ……本来なら処分されるところを、縄手通りが引き取ったらしい……今は通りのシンボル的な存在だ」
「ほうっ、そうですか」
梓がスマートフォンで検索した内容と、穂高のウンチクを照らし合わせながら、適当な相槌を打つ。
穂高のどうでもいい、縄手通りのウンチクが続く。
「縄手通りのマスコットはカエル大明神の『メトバ』と『ゴウタ』らしいぞ……まっ、どうでもいいけれど」
浴衣姿の松本ぼんぼん大好き娘──平出 巴が、少し暑さにやられて何かに、とり憑かれたように呟く。
「『生きカエル』『無事カエル』『美しくカエル』縄手の忍びは『くノ一縄手』」
梓が急いでカキ氷を買ってきて、巴に渡した。
「食べて、カエル憑きになっている」
カキ氷を食べて、生き返った巴が一息つく。
「はっ、魂が一瞬……〝かえる祭り〟に飛んでいた」
かえる祭りと言うのは、縄手通りで年に1回──全国のカエル好きなカエラーたちが集まってくる、カエルのカエルだけのカエルのためのお祭りだ。
着ぐるみカエルも多くやってくるケロ。
巴がカキ氷を食べ終わると、立ち上がった穂高が言った。
「せっかく、縄手〈ナワテ〉通りに来たんだから歩行者天国を歩いて楽しむぞ……一本タイ焼き食べて、ピンク色の店で、おやき食べて……移動して某店でロボットが作るソフトクリーム食べる」
「食べてばかりじゃないか」
「途中で四柱神社の、凶暴なハトにエサやりする……あそこの神社のハトを見ると、こいつら絶対ミクロラプトルの子孫じゃねぇ? といつも思う」
観光客だらけの、縄手通りを歩きながら穂高が呟く。
「カエル、カエル、カエル……カエルばかりじゃねぇか」
穂高があるアイスクリーム店内を、ちょい覗いて呟く。
「信州が好きで、海外から移住してきた、あの店主今日は店にいないな……ここのアイスクリーム、格別なんだけれど」
一行は一本タイ焼きを食べて、穂高がオススメのピンク色のおやき屋で、おやきを購入して店前のベンチに座って食べる。
一口食べた穂高が、恍惚とした顔で言った。
「うめぇ皮が甘い、これはおやきの次元を超えた、異世界のスイーツだ! うめぇ」
おやきを食べて、神社に戻って少しハトのエサでハトと、攻防をする穂高。
観光客が与えるエサを狙って、ホバーリンクで迫ってくる恐竜から進化した凶暴なハトたち。
穂高は体にとまらせまいと、必死に腕を動かしてハトを追い払う。
「馴れ馴れしい、オレの肩にとまるんじゃねえ! 肩にフンされてたまるか!」
穂高の顔を記憶している一部のハトは、赤い目で穂高を狙い。
穂高の持っているハトのエサが無くなったと、知るとハトたちは離れていった。
ハトをからかって遊んだ、穂高は近くの〝若返りの水〟で手を洗う。
穂高は、ナワテ通りに来る前に観光案内所と道路を挟んだ側にある湧水をペットボトルに入れてきていて、そのペットボトルの水を飲んで言った。
「ふぅ、松本の湧き水うめぇ……武田信玄が拠点にしようと考えた理由もわかる、観光のコスパが良い松本市……草間彌生の市立術館が、少し離れているのが玉にキズだが……爆破解体して、閉店した松本パルコ辺りにでも移転させるか……あの、美術館入り口の化け物みたいな、食肉植物のオブジェも一緒に町中に移動させて」
松本パルコは、2025年2月28日に惜しまれつつも閉店した。
パルコ限らず松本近辺の大型商業施設が次々と閉店の報道がされる中……パルコは『劇場型商業施設』としての、新たな開店の構想も進んでいる。
ナワテ通りを出て、中町を通って閉店した、パルコ通りに向かっている穂高が言った。
「今、決めたぞ……今度の休みに電車で〝奈良井宿〟に、三人で遊びに行くぞ」
奈良井宿と聞いた、巴が嬉しそうな顔をする。
「奈良井宿……塩尻市の領地です」
梓が咄嗟に突っ込む。
「領地って言い方やめろ……」