第二十話・梓、おまえには松本市出身のプロレスラーになってもらう
常念 穂高が、教室で安曇野 梓に真顔で言った。
「安全第一、台本重視、入場無料、雨天検討」
「なんだそれ?」
「知らないのか……長野県の覆面県議会議員が代表を務める『お笑い社会人プロレスごっこ〝信州プロレス〟』のモットーだ……アップル! アップル!」
梓は南信の親戚が送ってきた、座光寺饅頭を一個、穂高に渡して聞き返す。
「だから、知らないって……今度はどんな、無茶振りを持ってきた」
「よくぞ、聞いてくれた……梓、おまえプロレスラーになれ」
「はぁぁぁ?」
あまりにも突拍子な、穂高の言葉に梓の目は点目になる。
穂高はいつものように、勝手に話しを進める。
「信州プロレスには、いろいろなレスラーが所属しているが……松本的な強いイメージのレスラーがオレが知る限りは、あまり見当たらない…──松本出身のレスラーは数名所属しているが……だから、梓を松本イメージのレスラーに仕立てあげようと」
穂高の言葉を、全面否定する安曇野 梓。
「いや、いや、いや……オレ、プロレスできないし」
「大丈夫だ……安全第一、台本重視だから」
「穂高、おまえプロレス、ナメているだろう! オレを殺す気か!」
穂高と梓が、そんな話しをしていると。平出 巴が、勝手に穂高と梓の教室に入ってきた。
「なに話しているの?」
穂高が梓を松本をイメージした、プロレスラーに仕立て上がると
伝えると、巴は手を叩いて笑った。
「あはははっ、それ最高! リングデビューしたら応援するか、頑張って」
梓が手を横に振って否定する。
「勝手に人の人生を決めるな……オレはやらないよ」
「なんで、面白いのに」
「面白くてもなんでも、やらない」
腕組みをして考えていた穂高が、いつ描いたのかプロレスラーのラフ画を梓に見せる。
「だいたいの、コンセプトはこんな感じで……松本城をモチーフにした、覆面レスラー『松本・ジョー』で……松本城を被って登場」
レスラーパンツ姿のイラストを見て、梓はプルプルと震える。
「こんな恥ずかしい格好ができるか!」
「その発言は、プロレスラーに対する暴言だぞ……大丈夫だ、信号が無い横断歩道でも、この格好で手を挙げれば、長野県なら車は止まってくれる」
「どこだって、こんな格好をしているヤツが、横断歩道にいたら止まるわい!」
「必殺技は〝梓二号往復特急アタック〟が決まっている」
「やらないって、言っているだろう!」
スマホで信州プロレスのレスラーを検索していた、巴がガッツポーズをする。
「へぇ~、東信の小布施にも、キツネ祭りがあるんだ……知らなかった、あたしこの『狐ジロー』って選手の推しになる……キツネの眷属の塩尻市民として親しみを感じる、お稲荷さんコンコン、コーン」
巴は手を影絵のキツネの形にすると「コーン、コーン」と憑かれたように鳴いた。
それを見ていた梓は、帆高に聞こえる声で。
「オレは絶対に、やらないからな」
と、呟いた。




