第十七話・巴のテンションマックス……塩尻ハロウィン
「ハロウィンだぁぁぁ! 塩尻の祭りだぁぁぁ!」
キツネ巫女のコスプレをした平出 巴のテンションは、朝から爆上がりだった。
巴に誘われて塩尻市のメインストリートに来ていた、穂高と梓の目は点目続きだった。
「バットマン……歩いているぞ」
「向こうではスパイダーマン見た……地方都市なのに、塩尻市民のテンション半端ないな」
今日は年に一度の塩尻市民が玄蕃祭りと並ぶ、テンション爆上がりのハロウィンイベントの日だった。
梓が仮装をしている市民の、雑踏を眺めて言った。
「いったいどこから湧いてきた……塩尻市民、普段はどこに隠れている」
巴が梓の頭に手作りの、ゴキブリ触角帽子をかぶせて言った。
「塩尻市民を黒いGみたいに言わないで……ちょっと、こっちに来て」
巴は山賊焼きを買いに行った、穂高を横目に梓の手を引いて建物死角に入る。
梓が少しにやけた。
「なんだ、ハロウィンに愛の告白か」
「そんなんじゃないって……相談したいことがあって、穂高に相談するとロクなアイデア出さないから」
「確かに……で、相談ってなんだ?」
巴は周囲を見回してから、声を潜めて言った。
「景勝地の『寝覚めの床』を塩尻市の領地にするには、どうすればいい?」
「はぁ? おまえまで穂高みたいな突拍子の無いコトを」
目覚めの床は、木曽郡にある奇石の観光スポットだ──塩尻市からはかなり距離がある。
巴が言った。
「木曽路はすべて山の中である……奈良井宿以外にも、塩尻市に観光名所がもう一つくらい欲しいと思って」
「おまえなぁ、奈良井宿がこの左手の指先だとすると……寝覚めの床は」
梓は手を三十センチほどの長さに広げて言った。
「右手の指先くらいの距離があるんだぞ」
「そんなに? もっと近いと思っていた」
「寝覚めの床まで吸収すると、塩尻市がさらに細くなる……諦めろ」
「そっか……残念」
その時、山賊焼きを食べながら、穂高が柱の陰からひょっこり顔を覗かせて言った。
「聞いたぞ、寝覚めの床を塩尻市の領地にしたかったら、オレに考えがある……重機を使って、もっと近いところの岩を削って『寝覚めの床』のバッタモンを作って、新たに発見された景勝地だと噂をばらまけば……」
「やめてぇぇ、そんなコトをしたら塩尻市の悪評が立つ……だから、穂高に相談はしたくなかったんだ」
◇◇◇◇◇◇
ハロウィンイベントも進行して、さらに盛り上がってきた頃──一人の少女が巴に話しかけてきた。
「あっ、先輩も来ていたんですか」
少し年下っぽい雰囲気の少女を、巴は穂高と梓に紹介する。
「この子、先月転校してきた、あたしの部活の後輩の『茶臼 千曲』ちゃん」
「千曲です……よろしく、ちゃきちゃきの塩尻市です」
穂高が鼻をクンクンさせながら、訝る目で千曲を見た。
「本当に塩尻市民か? なんか、恐竜とオリンピックの匂いがするぞ」
「気のせいですよ、あたしから恐竜やオリンピックの匂いがするはずないじゃですか……あはははっ」
穂高が千曲に質問する。
「おやきに入っている具の、ナスの形を言ってみろ」
「そんなの、丸ナスに決まっているじゃないですか……油で揚げてあるのが、おやきですよ……あはははっ」
穂高が千曲を指差して叫ぶ。
「こいつ、篠ノ井市民だ! 篠ノ井市民が紛れ込んでいるぞ! 中信のナスの具は長ナスなんだよ!」
その言葉に周囲にいたコスプレ塩尻市民が、手に鎌やクワを持って千曲を睨む。
慌てる千曲。
「ち、違います! あたし正真正銘の塩尻市民です、信じてください! 同じような宿場町同士ですから見逃してください……はっ⁉」
巴の目に疑惑が満ちる。
「巫女の萌えキャラの名前を言ってみそ」
「そ、それは……なんかやたらと、長い名前で大人びた雰囲気の萌え巫女キャラで……名前は忘れましたけれど」
巴が叫ぶ。
「やっぱり、こいつ篠ノ井市民だ! 長野市の従属犬だ! 語るに落ちたな」
塩尻市と篠ノ井市は、同じ分岐点の宿場町なので、似たような立ち位置にある。
塩尻市は松本市の、篠ノ井市は長野市の従属関係にあった……たぶん。
泣き出す茶臼 千曲。
「すみません、すみません、ハロウィンの雰囲気に呑まれてつい塩尻市市民のフリをしてしまいました……許してください」
千曲の肩をポンポンと軽く叩く、
「もういいよ、あたしも先祖の木曽の巴御前の血が騒いで……つい、言葉が強くなった」
「いいんですか? ハロウィンイベントにいても」
「いいよ、考えてみれば同じ宿場町みたいな関係だから……篠ノ井は北国街道の要所で事実上の宿場町だから、仲良くしよう」
「ありがとうございます……実は、あたし今日のためにコスプレ衣装持ってきていたんです、御当地巫女キャラの〝おしのさん〟のコスプレしてもいいですか先輩?」
「それは、やめて……あたしとキャラが被るから」
巴のテンションマックス……塩尻ハロウィン~おわり~




