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常念穂高は松本城を爆破する  作者: 楠本恵士
学園祭を義民加助で盛り上げる
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第十三話・安曇野 梓……磔〈はりつけ〉にされる

「安曇野 梓……おまえには、刑場で磔〈はりつけ〉になってもらう」

 学食でコーヒー牛乳を飲んでいた、梓は穂高の言葉に口から勢い良く茶色の液体を吹き出した。


「ぶはぁ……はりつけ()?」

「そうだ、はりつけだ……やってくれるか」

 相変わらず唐突で、意味がわからない穂高の言葉に梓は動揺する。

「話しがまるで見えない……なんなんだ、いったい? 順を追って話してくれ」

「そうか……今度、学園祭で演劇部がやる劇の相談を受けてな……何か松本市の個性を前面に押し出す劇のアイデアは無いかと相談され、江戸時代の年号で貞享(じょうきょう)の年に起こった百姓一揆の『加助騒動』を題材にしてみたらどうかと進言してみた」

「また、重い歴史を引っ張り出してきて」


〝貞享騒動〟や加助騒動と呼ばれる江戸時代に松本藩で勃発した、一大百姓一揆の悲惨な処刑の歴史は、安曇野の貞享義民記念館が造られ後世に伝えられている。

 安曇野で常念岳を望む三郷村の庄屋、多田 加助が命をかけた、多すぎる年貢に抗議して、近隣の農民たちが命をかけて立ち上がった百姓一揆だった。


 梓がタオルで、茶色の液体で汚れた、テーブルを拭きながら言った。

「貞享騒動の歴史は学校の授業で習ったから知っている……あの義民加助を演劇でやるのか?」


「現代風のアレンジを加えた劇をな……史実をそのまま劇にしても高校の文化祭では、ウケが悪いからな。多少コミカルな演出を加えようと思う」

「悲劇の百姓一揆にコミカルな演出って……それは、ちょっと」


 梓が何かを言おうとしていた時──甘く煮たキツネ揚げをパンに挟んだ、オリジナルのキツネ揚げパンを食べながら平出 巴が、穂高と梓の近くに座る。

「なに話しているの? あたしにも聞かせてよ……蟻が先」


 穂高が文化祭の劇で、郷土史実の義民加助〈多田 加助(ただ かすけ)〉を題材にした、演劇をやると巴に告げた。

「それはまた、他県の人からしてみたら、一ミリも興味が無い題材を」

「いいんだよ、創作劇を見た生徒が少しでも興味を持って、検索してくれればそれでいい……こんなコトが過去に松本藩であったと知ってもらえれば」


「なるほど、じゃあ……あたしが演劇部の知人に頼み込んで、演劇部じゃない人でも、劇に出られるようにしてあげようか……あたしも、チョイ役でいいからお芝居やってみたいなぁ……あっ、演劇部の美鈴、元気ぃコン」


 梓を蚊帳の外にして、穂高と巴の二人の会話が盛り上がる。

「アレンジ加えてる劇となると……やっぱり、今だったらラノベの異世界系なんていいんじゃない……転生も取り入れて」

 穂高が巴の案をメモする。

「異世界で転生……と、他には?」

「女性ウケするには、恋愛も取り入れないと……史実歪めても」

「恋愛……なるほどな」


 巴の案が段々と暴走をはじめる。

「子供が好きなモノだと、恐竜、乗り物、動物、昆虫かな……あと、怖いものとか、妖怪も子供は意外と好きだね」

「ふむふむ……大道具係と、衣装係にも相談してみよう……時代背景も変えてみるとか」

「それあり、もっともっと面白くさせちゃおう」

「台本は、この常念 穂高に任せろ! 銀河に轟くほどの笑いをとってやる!」


 梓は勝手に進行していく、得体が知れない創作劇に不安を感じていた。

(オレ、一言も劇に出るって言っていないんですけれど……その劇、決定前提ですか?)


 梓が言った。

「頼む、少しだけ考える時間をくれ」

「少しだけだぞ、オレも浮かんだアイデアで芝居の台本書かないといけないんだからな」


 梓が考えている間、穂高は巴に与太話をする。

「この間も、松本の街を歩いていたら、間違った漢字表記している店を発見してな……ちょうど、店の人が表にいたから注意してやった『店名の漢字が間違っているぞ! スナック美沙子の『沙』は氵じゃなくて糹の『紗』だ! 間違えるな!』って言ってやった」

「また、どうでもいいコトを」


  ◆◆◆◆◆◆


 なぜか、演劇部も義民、多田 加助の百姓一揆を題材にした創作劇を承諾して、穂高は創作意欲に悪い意味で燃えた。

 学食で集めてきた郷土資料を見ながら、台本の構想を練る穂高。

 穂高が準備段階の台本を、梓に手渡して言った。

「軽く目を通しておいてくれ、梓が演じる役だから」

 

 穂高は松本市で年に一回開催される、演劇の祭りにも足を運んでいるらしく、台本の舞台演出には特に力を入れている。


 パラパラと、台本を流し読みした梓が言った。

「オレ……最初に死ぬの?」

「異世界転生モノだからな……死んで江戸時代で、多田 加助に生まれ変わる……転生したらなんとかってやつだ」

「もう一つ、聞いてもいいか……オレの役、なんで本名で?」

「その方が知り合いには、ウケるだろう」


 梓が手を横に振る。

「いやいや、オレの名前ウケを狙って、親が付けた名前じゃないから」


 穂高と梓が話しをしていると、クレーンゲームで取った、キツネのヌイグルミをカバンに提げた巴がやって穂高に訊ねる。

「どう、劇の台本進んでいる?」

「今、梓にどんな死に方で転生したいか、要望を聞いているところだ」

「いやいやいや、オレそこまで考えていないし」


 穂高が言った。

「やっぱり、人ひとりを殺すんだから……目立った殺し方をしないと」

「劇中な……それ劇の話しだからな」


 イスに背もたれ前座りをした巴が、穂高に言った。

「何か、あたしが出演できる役はない? チョイ役でもいいんだけれど……松本城に関連した何かで」

「松本城に実在した忍者ならならいるが、劇中のどこでどう使うかとなると」

「松本に忍者が居たの? どんな忍者?」


「松本藩主戸田氏に仕えた忍びで甲賀出身の『芥川(あくたがわ)九郎左衛門』という忍者がいたらしい……その忍者の家系が残した兵糧丸の製法が今も残っている……なんでもキツネに関係した忍術を使っていたとか」


 キツネと聞いて、巴の目の色が変わる、挙手する巴。

「あたし、忍者やる! その九郎くんの忍者やる!」

「九郎くんって……塩尻市民は、どこまでキツネなんだ」


 ここで、また穂高が渋い表情をした。

「忍者を登場させるとして……他にもいろいろと、台本でつじつまを合わせないと……大道具係りに頼んで、肉食恐竜の前部とリニアーモーターの頭を作ってもらったのだが……あの二つをどうするか?」

 穂高は忍者の茶川家が製法を残した、兵糧丸(ひょうろうがん)の飴をナメて考え続けた。


 穂高は飴をナメながら、他にも劇中で使いたい、着ぐるみがあると巴に伝えた。

「ゴリラのマスクと、カモシカのマスク……カブトムシの着ぐるみをレンタルしてきて、劇に登場させたい……妖怪の着ぐるみまでは、手が回らないから紙のお面で代用……問題は、それらを登場させる理由づけが」


 巴が、あっけらかんとした口調で言った。

「そんなの簡単じゃない……忍術で時空に穴が開いたコトにすれば、なんでも登場させられるよ」

 穂高が興奮した声で言った。

「巴は天才だ! その手があったか……オレは今、野辺山のパラボラアンテナから銀河に向けて電波を発信したような、頭の中の謎がスッキリ解けた気分だ! それなら、恐竜もリニアーモーターも、ゴリラやカブトムシも登場させられる」


 穂高が梓を指差して言った。

「今、おまえの殺し方が決まった……トラ転や電転は、その仕事している人の迷惑になるから、避けようと考えていた……梓を殺すのは死神だ!」


 穂高の説明だと、舞台開始直後の暗転場面で、忍者が開けた次元の穴を通って幕末から現れた死神が、暗い舞台上で死神の鎌を振り下ろして。

「天誅! 死んで異世界転生しろ!」

 そう言い残して去っていくらしい。


 穂高が嬉しそうに梓の肩を叩く。

「よかったな……死に方が決まって、しっかり死ねよ」

「舞台な……それって舞台の演出な」

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