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天翳なき瞳 ――禊の旅路を歩む者――  作者: ペケ
第2章 影より届く、命の封
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黒封札のゆくえ

それは運命を告げる封札。

黒き封札は、選ばれし者の未来を閉じ、開く鍵でもある。


義父アーデンとの暫しの別れを胸に、アーロンは歩みを始める。

誰にも、守られず、頼ることのできない険しくも厳しい道のりを…

風が止み、夜の輪郭が鮮明になる。訓練場の静寂を切り裂くことなく、


 トゥリスは懐から一通の封筒を取り出した。


 それは、漆黒の紙に赤い蝋が施された。〈ルフ=アルヴェス〉の中でも、


 選ばれし者だけが受け取る“選定の証”。




「アーロン。これはお前の名で届けられた、正式な任務招集だ」




 言葉とともに、黒封札がアーロンの掌に落ちる。


 まるで金属のような冷たさと重みが、指先から心へと沈んでいく。




 封を解く。蝋が割れる乾いた音が、夜気の中に小さく響いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  任務地:幻夢戦争記録区


  対象:記録札の回収および遺構の調査


  同行者:観測者ミレイユ(六爪)


  備考:血廟魔術の行使を許可する


  評価:六爪ヘクサ・クロー査定任務対象

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ミレイユ?」




 その名を呟いたのはアーデンだった。視線が鋭くなる。




「〈六爪〉のひとり、“灰髪のミレイユ”。彼女が観測者として同行する。お前を評価したいそうだ」




 トゥリスの言葉と同時に、冷たい香の風が吹いた。アーロンが振り向いた先に

 一人の女が立っていた。




 長く滑らかな灰の髪、黒曜のような瞳。そしてどこか現実から半歩引いたような、

 焦点の合わない微笑み。




「あなたの“瞳“が、どこまで曇るのか。私はそれを、見ていたいの」




 その声音には、好奇心だけでなく、かすかな哀しみのようなものが混じっていた。




 アーデンは小さく息を吐くと、何も言わず視線を逸らした。


 この任務がどれだけ危険で、そして彼の息子がいよいよ“外”の評価に晒されるということを

 誰よりも理解していたからだ。




アーデンの拳が静かに握られる。だが怒りではない。ただ、止められない流れへの悔しさがにじんでいた。




「……義父さん」




アーデンの表情がわずかに揺らいだ。だが、




すぐに穏やかな光がその瞳に宿る。




「行くのか」




「……はい」




「俺は、もう何も言えん。お前の決意は、もう言葉じゃ止まらん」




 そしてアーデンは、手を伸ばし、アーロンの肩を軽く叩いた。




「行け。そして、生きて戻れ」




「……はい。必ず」




 ミレイユは何も言わなかった。ただ、アーロンをじっと見つめていた。

 彼の瞳がどこまで耐え得るものか、その芯を確かめるように。




 アーロンは、ゆっくりと背を向ける。


 もはや、誰かの背中に隠れて歩く時ではなかった。




 彼の歩みは、もう誰かの背に守られるものではなかった。


 その瞳が見据える先に、己の運命が刻まれていると、彼は知っていた。




この章では、アーロンは青年としてではなくひとりのギルド員(見習いのような立ち位置ですが…)

として世界に向き合います。

アーデンの所属しているギルド(ルフ=アルヴェス)の最高幹部の一人であり、「澄眼(リリス)派」

のミレイユの登場は、ただの同伴者ではなく、アーロンが歩む道を「見届ける目」としての役割を担っております。


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