94.
「皆さん、闘志に溢れていて困りましたね」
渦中にいながら全く無傷なフェリシテが溜息を吐く。
周囲の方が被害が大きいのは何故なんだ、と頭を抱えたガブリエルが「そうじゃねぇ……!」とエレガンスをかなぐり捨ててぼやく。
「そりゃ、あのぼんやりとして評判の悪いノアゼット家の姉がヒューイット様の相手だとしたら腹が立つのは分かる。しかし噂より本人はもっとタチが悪いんだよ!」
「心外です。結婚したのに、ヒューイット様を狙うご令嬢の多さが想定外なんですよ。穏便に済まそうと言う私の努力をもっと評価して下さいよ」
親切にしようとお手洗いを譲ったら騒動になるなんて、とフェリシテが嘆く。
鈍い男性相手なら嫌がらせしているのを誤魔化せるかもしれないが、ヒューイットやガブリエルが不自然な行動をしている人間を見逃すはずがない。
フェリシテに嫌がらせしている令嬢達は完全に逆効果なわけだが、そこを分かっていないらしい。
「とにかく、この後は男女の席が別れてのランチになる。くれぐれも君からは騒動を起こさないでくれ」
フェリシテには気の毒だが、一人になるランチの時間が山場になる。
ここさえ無事済ませれば、ヒューイットとガブリエルと合流してオークションに参加して終わりだ。
ヒューイットが困惑しつつ言う。
「――正直言うと、ここまで令嬢達が野獣に見えたことは無い。結婚しているのに、身の危険を感じるのは何故なんだ?」
無意識に腕をさするヒューイットに、ガブリエルがさも当然の様に真顔で言う。
「既婚者には包容力や頼れるイメージを抱きやすいそうですよ。まあ、ヒューイット様は元からどちらも兼ね備えていますので、さらにパワーアップしたと言う事です」
「そ、そうか……」
常に全力で全肯定のガブリエルに、がくりとヒューイットが首を垂れる。
「ヒューイット様は、令嬢達にモテるのは嬉しくないんですか?」
フェリシテの妹は男性を侍らしてはご満悦で優越感に浸っていた。
エルヴィラは裏表が激しかったが男性達は全く気付いておらず、聡明なヒューイットさえ裏切られるまで本性を見抜けていなかった。
華やかな妹を好きだったヒューイットも同様に派手な男女関係を好むかと思って質問したが、ヒューイットはむしろうんざりした様子で言った。
「有難迷惑と言うのが正直な感想だ。好意は良いが、既婚者や婚約者がいる相手につきまとう令嬢達の良識を疑う」
「女性にモテると、男性からの嫉妬で様々な場面で足を引っ張られるんだよね。正直、見た目に寄って来る人間にロクな奴はいないし、うっとおしくて面倒なだけだよ」
ガブリエルも肩を竦めて見せる。
そう言えば、社交の場でヒューイットはほぼ無表情を貫いていたなと思い出した。考えてみれば生真面目なヒューイットが女性に囲まれて機嫌を良くするわけが無かった。
「結婚生活が円満で、誰も入る隙が無いと思わせれば良いかもしれませんね」
「……君が言うと不穏にしか聞こえないんだけど⁈」
フェリシテが呟くと、ガブリエルが顔を引き攣らせて聞き咎める。
だが直後にランチの席に案内する従僕がやって来て、3人はそれぞれ別の席に案内されたのであった。
*
――――果たしてどういう巡り会わせなのだろうか?
6人掛けの円形テーブルへ案内されたフェリシテは、つい先程、お手洗いを譲って騒動となったご令嬢方に囲まれると言う珍事に出くわしていた。
気まずさが半端なく漂いつつ、ご令嬢方の嫉妬の視線が刺さって大変に痛い。
幸いな事にテーブルには複数の給仕係がついている為あからさまな嫌がらせは無いのだが、敵意がむき出しの5人はフェリシテをターゲットに定めてチクチクと言葉で攻撃を始めたのだった。
*ご覧いただき、有難うございます。
諸事情で、お話を半分しか上げられませんでしたので、明日もう半分を投稿します!
申し訳ありません (*_ _)ペコリ




