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83.精霊の使者(毛玉)

 洞窟内から階段を昇って元いた岩盤上へ戻った4人は、暫く現実感を取り戻せずボーッとしていた。


 一応、デマンドイトガーネットや雪の華の様なローズカルサイトは採取できたが、さすがのシンクレアも洞窟奥の妖精の女王みたいなカンパニュラには手が出せなかった様だ。


 他の人達より一足早く我に返ったシンクレアだが、サンプルが入手できなかったにも関わらず満足気に口を開いた。


「――いやあ、良い物を見せてもらいました。過去の数々の探検で一番、鳥肌が立った神々しい場所でしたよ」

「……全くです。こういう場所が国内に在るとは――。しかも、デマンドイトガーネットにホーステールと言う針状のインクルージョン(内包物)が認められました。色と言い、透明感と言い、最高品質のデマンドイトガーネットですよ。本当にこんな貴重な物を採取させて頂いて、感謝しています」


 瞳をキラキラさせてヒューイットとフェリシテにお礼を言うイルサンのカバンには、世にも珍しいローズカルサイトに砂金が共生したうえ高品質の大粒デマンドイトガーネットが結晶化した原石のサンプルが納まっていた。

 原石そのままでも、宝石で作った薔薇の置物の様に美しい。


 あまりの洞窟内の神秘的な光景に採取を躊躇ったが、フェリシテが壁の一部が崩れているのを見つけ、4人それぞれが手のひらより大きいデマンドイトガーネットが群生した原石や、落下していた結晶を持ち帰ることが出来たのだ。

 この原石一つをコレクターに売れば、郊外に別荘が建つ位の値段になる。


 普段、サンプル採取の許可を得る際にイルサンは地主と交渉するのだが、あまりに高額な原石だと、譲るのを渋って結局渡さない地主が多く居る。

 だがヒューイットは、あっさり原石を手渡してくれ、拾った結晶も多めに持たせてくれた。


「博士達のお陰で宝が見付けられたのですから、こちらこそお礼を言わなければなりませんよ」


 丁寧に頭を下げて礼を返しながら笑顔で言うヒューイットに、イルサンは胸が暖かくなった。

 

「では、そろそろ下山しないと途中で日が暮れそうですから、帰りましょうか」


 フェリシテが時計を見て帰宅を促す。

 気付かなかったが、洞窟内で1時間程過ごしていたらしい。

 既に時間は午後3時を過ぎ、屋敷に到着する頃には暗くなっているはずだ。

 急いで帰ろうとした一行だったが「あのー」と言うシンクレアののんびりした声に足を止めた。


 「同行者が増えてるんですが…………お持ち帰りしますか?」


  えっ?


 同行者をお持ち帰り?と目が点になったフェリシテ達は、シンクレアが指差す先――ヒューイットの背後にちょこんとお座りする茶色いウサギの子供を見付けて仰天した。


 先程、上空から落石と共に落ちて来た子ウサギだ。

 まだ手のひらに乗るくらいの子供で、ふかふかの淡い茶色の毛とくりっとした大きな黒目が可愛らしい。


 一番後ろを歩いていたヒューイットの3歩後ろをついて来ていたらしいのだが、こちらが立ち止まると短い脚を必死で動かし、とてとてとダッシュして、ヒューイットの足にくっついた。

 踏みそうになって驚いたヒューイットが足を引くと、子ウサギはヒューイットに懐いた様子で再び彼の足にぴたりとくっつき、耳をぴこぴこさせて潤んだ瞳でヒューイットを見上げた。


「もしかして落石で親とはぐれたのか?」


 ヒューイットが首を傾げると、シンクレアが「これはアナウサギの子供ですよ」としゃがんでウサギを観察した。

 

「生後二、三週間くらいですかねえ。野生のウサギは二種類いて、ノウサギとアナウサギとで全く性質が違うんです。アナウサギは脚が短いから、これはアナウサギですね。野ウサギの子なら野山で独立して単独行動するのでこのまま置いて帰って良いんですが、アナウサギは通常、群れを作って穴の中で暮らすんです。恐らく穴の外に出て行動して落石に巻き込まれたんでしょう。巣穴から相当離れてしまったと思われるので、完全に迷子ですね。この山で初めて動物を見ましたけど、狼や狐がいなくても、このままだと鷹などに狙われてしまうと思います」


 野生のウサギは警戒心が強く人間が近付くと逃げてしまうのだが、この子ウサギは怖がる様子が無い。

 だが、シンクレアが触ろうとしたら、ぷすぷすと不満そうに可愛い抗議の声を上げた。

 振られてしまったシンクレアだが子ウサギの可愛さに顔が緩んでおり、フェリシテとイルサンも同様だった。


「……親元に戻すのは難しいか」


 困惑しつつも、ヒューイットはそっと子ウサギに手を伸ばして両手ですくい上げた。

 暴れる事無くヒューイットの手に納まったウサギは、嬉しそうに目を細めて鼻を彼の手にこすりつける。

 少し考えた末にヒューイットが上着のポケット入れると、子ウサギはポケットから顔を出して満足気に落ち着いた。


 前足をちょんとポケットの縁に乗せてヒューイットを見上げて来る愛くるしさに、ヒューイットが思わず頭を撫でると、子ウサギは気持ちよさそうに撫でられるままになっていた。


「先程ヒューイット様に助けられたのを分かっているんでしょうか?賢いですね。そういえば、豊穣の春の精霊、ヴェルジェータの使いはウサギでしたね。ウサギは豊かさのシンボルです。デマンドイトガーネットの洞窟を見つけるのに一役買ってくれたとも言えますし、この子は可愛い精霊の使者なのかもしれませんね」


 そう言ったフェリシテも撫でたかったが、子ウサギはヒューイットにだけ懐いた様だ。他の人間が触ろうとするとぷすぷすと不満を表明するのだが、これがまた可愛い。

 4人は新しい仲間を加え、上機嫌で屋敷に戻った。


 *


  ――その夜。


 時間切れでフェリシテとろくに話せないまま、夕食後にフェアファックスの本邸に帰る事になったヒューイットだったが、お宝(砂金3袋と宝石各種)と子ウサギを持ち帰ったために本邸をパニックに陥れたのは言うまでもない。


 フェリシテと宝探しになった事を告げると、「何故そうなる⁈」とツッコミが殺到したのだが、後日、砂金の採取に本邸駐在の騎士団が駆り出された際には、自分も可愛い子ウサギに懐かれたいとソワソワする騎士が続出したのだった。


 因みに子ウサギは男の子で春の精霊ヴェルジェータにちなんでヴィーちゃんと名付けられ、本邸の庭で飼われることになった。

 庭の地面を掘っては、ヒューイットがやって来るとカナブンやカモミールの花をプレゼントして撫でられるのが日課になり、本邸の人々の癒しになったと言う――


 

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