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78. 賢者の宝探し

  フェリシテの説明に、シンクレアとイルサンの頬が一気に紅潮する。


「本物の宝探しじゃないですか!意味はさっぱり分からないが!」

「所々出て来る単語はどういう意味でしょうね?宝の地図があるってことは、そのレオンと言う人が謎を解き明かして宝を見つけたという事なのかな。フェリシテ嬢、その地図を拝見してよろしいですか?」


 イルサンに請われて手に持った小さな羊皮紙の地図を見せ、フェリシテは首を振った。


「……それがですね、宝物を見つけたのはレオンのお祖父様が子供の頃で、友達と探検していて偶然、見つけたんだそうです。後日、言い伝えの宝物だと気付いたみたいですが、その後は何回か宝物のある渓谷に行こうとしても辿り着けなかったそうで。ただ夢じゃない証拠に、友達5人も同じ証言をしていたと。なので忘れない様、宝の地図を子孫に残した、と言う訳らしいですよ」


「――成る程」

「……これはまた、如何にも子供が描いた地図ですねえ」


 地図を覗き込んだイルサンとシンクレアの目が点になる。


 レオンから貰った地図は、素人が手作りした端っこがボロボロで今にも破れそうな質の劣る山羊皮に、山と川と✖だけがインクで殴り書きされた、実に雑な一品であった。

 しかも、何回か宝探しにチャレンジしたのか、染みや手で擦れた跡が残っている。その伝わって来る必死さが、確かに宝物を見つけたのだと言う信憑性を高めていた。


「地図以外にヒントになるのがレオンが聞いていたお祖父様の話です。どうも別荘から山裾を南に一時間進んだ辺りから、裏山を登ると宝物に行き着くと言っていたそうですよ。あとは言い伝えを解読すれば宝物に行き着けるはずです!」


 行き当たりばったり過ぎるフェリシテに眩暈がしたヒューイットだが、博士二人はむしろテンションが上がった様子で楽し気に話に喰い付いた。


「これは燃えますよ!“イルマリネー”は、称えられるような何かって事だね⁈聞き覚えのない名だが、聖人か神様じゃないですか?」

「そんな気がするね。それと“ロヒカール”と言うのが記憶に引っ掛かるんだが、どこかで聞いた事があるような……」


 ロヒカール、ロヒカールと呟くイルサンの脇で、ヒューイットが難しい顔をしているのにフェリシテが気付いた。

 そう言えば地元の伝承なので、謎の単語についてヒューイットは心当たりがあるかもしれない。


「ヒューイット様は、この伝承を聞いた事がありますか?もしかして、謎の単語の意味が分かったりします?」


 フェリシテが尋ねると、ヒューイットは考え込んだまま「……いや」と答えた。


「そんな伝承がある事すら知らなかった。話によると100年近く前の伝承だろう?だが、裏山に入ると『妖精のかどわかし』があると昔から言われていて、殆どの領民はそちらの言い伝えを守って、山には滅多に入らない。そうこうしているうちに人々はただの噂として伝承を忘れ去ったのだと思う。……だが、レオンの祖父は子孫に伝承を伝え続けた」


「妖精のかどわかし?」


 博士達が聞き返すと、ヒューイットが頷く。


「裏山に入ると妖精に連れ去られ、行方不明になるとか、気が触れるとかいうものだ。領民達はそれを信じている」


 ……何と純粋な領民なんだと思った博士達だったが、続くヒューイットとフェリシテの会話でさらに驚く。


「しかも、宝物とは具体的に何だ?レオンの祖父が見つけた物は何だったんだ?」

「……レオンの話では、どうも黄金らしいと。ただ、レオンのお祖父様は『裏山は領主様の物だから、自分達が採っちゃダメだ!』と何も持ち帰らなかったんだそうです。それで後日、『宝物を領主様に持って行ってあげよう!』と友人達で籠を持って張り切って行ったら、宝の在り処に辿り着けなくて撃沈したらしく。今回ちょうど思い出したので、地図を領主様にお渡ししたいとの事でした」


 黄金を見付けたらネコババする人間の方が多いだろうに、レオンのお祖父様とお友達は何と良い子だったのか。


「――世知辛いこの時代に、こんな良い話が……」

「心洗われる感動をありがとう……!領主様へ捧げたいと言う無邪気な少年の遺志、我々が受け継ごうじゃありませんか……!ははは、謎解きは大得意さ!ヒューイット殿、宝探しは大船に乗ったつもりで、我々にドーンと任せてくれたまえ。必ずや君に半世紀の時を超えて伝説の黄金を捧げよう‼」


 感動の涙を拭う博士達のスイッチが完全にONされてしまったらしい。

 先日はアメジストの巨大鉱床を発見した豪運の持ち主なので、冗談とは思えない。

 今回は黄金かと思うと、ヒューイットの胃痛と動悸が凄い事になっている。


「まあ、取り敢えずどこから裏山に登るか決めないと、何も始まらないけれどね!」


 爽やかにシンクレアが笑うが、すでに若干、遭難気味と言える。

 前途多難な予感がよぎるが、ここでフェリシテが「恐らくですが……」と前置きして口を開いた。


「“イルマリネー“と言うのは、もしかして鍛冶職人の神様か精霊の名前ではないかと思います。言い伝えの謎の単語を調べていたら、言い伝えを聞いた事が無いし、他の単語の意味は分からないが、エインワースでは台所のかまどの精霊が“イル”と言うのだと使用人のジェシカに教えてもらいました」


 「へえ」と興味津々で聞く皆を見回し、フェリシテは続けた。


「そこでさらに話を聞くと、かまどの精霊は感謝はされるけれども称えられる程ではないそうなんです。それでエインワースで称えられる程有名な精霊がいるのか尋ねると、四季の精霊や豊穣の精霊くらいではないかと。それで改めて、レオンに称えられるような精霊の存在に心当たりがないか聞いてみたら、レオンの家は代々鍛冶職人をしていて鍛冶の精霊の名前が“イル”と言い、精霊を称える祭日があると言われたんです」


「……“イル”?鍛冶師の祭日の11月8日の事だろうか」


 ハッとした様子でヒューイットが呟く。


「当たりです。ご存じでしたか」

「ああ。領主として領内の神事や儀式は全て網羅している。もしかして言い伝えの謎の単語は精霊の名前か?……そういえば精霊の名前には力が宿るので、愛称で呼ぶようになったと聞いた事がある。今では精霊の真の名前は、シャーマンしか知らなくなってしまっているのだが」


 謎を解く鍵が得られて、皆が期待に胸を膨らませる。


「だとすると、“アハディア“は現在“アディア”と呼ばれている水の精霊かもしれない。“ハルティヤー”は守護精霊“ルティヤ”、“ロヴィアタール”は恐らく地下世界の支配者“ロタル”。“ティエタヤ”は精霊ではなく、賢者もしくはシャーマンの呼称“ティエタ”だろう」


「……宝探しで思い出した。そうすると、“ロヒカールの息”は恐らく竜の息の事だと思います」


 イルサンが閃いたように言った。


「フィールドワークで現地に行くと、宝を守る竜の伝説があちこちに残っているんですが、黄金の眠る金山には温泉が湧いていたり、何らかのガスが湧いていたりするんです。その毒ガスを昔の人は竜の息と呼んでいた様です」



「――だとすると、言い伝えの意味は――


『鍛冶精霊を称えよ。日の出にセイティアの山が緑に輝き、水の精霊は金と黒に染まる。竜の息を免れた賢者よ、守護精霊に導かれた者よ。地下世界の支配者に歓迎された者だけに門は開かれるであろう』」


 フェリシテが読み上げると、判明した言い伝えの内容に皆が息を呑む。

 セイティアと言う単語だけまだ解けていないが、ここまで解読できれば意味が通じる。

 難しいと思っていた謎が一気に解けて動揺していると、シンクレアが「謎はほとんど解けた!」ときらりと光る眼鏡を押し上げて笑った。


「そう。我々こそが守護精霊に導かれし賢者達と言う訳だ!……さて、賢者諸君。その言い伝えをさらに分析すると、もうひとつ宝へ誘導する鍵が見えてくるのですよ。とある精霊信仰の古代宗教に伝わっていた教義で、一年のそれぞれの時期を司る樹木があるんですが、鍛冶精霊を祭る11月8日を司る樹木は“イチイ”となります。……先程から目についていたのですが、山裾のあそこに一本だけ目印の様にイチイが生えているんですよ。で、さらにその上に一本。また上に一本……と道の様に数メートルおきに生えているんです。他はマツやモミ、カバの木がほとんどでイチイの木はあそこにしか有りません。あのイチイの木、怪しくないですか?」


 ――――どうやら第二の手掛かりがつかめたらしい。


 こうしてフェリシテ達一行は裏山へ入る目印を見付け、宝を求めて一歩踏み出したのだった。




 

 


 

 

 

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